第93話冒険者のススメ part2
93.冒険者ノススメ part2
休憩を終え、依頼を再開する。
「そろそろヒヨッコの訓練に戻るぞ。アルド、エルファス、見張りを頼む」
「了解」
オレとエルは空間蹴りで木の上に移動しルイス達を中心に散開する。
ルイスとネロはオレの言った”空間蹴り以外で使える技術は差が無い”と言うセリフに思う所がある様で、いつもの精彩が無い。
ルイスは中途半端な状態でスカーレッドの森の奥へ進んで行く。
自分で言ったティファとガイアス、ルイスとマークのペアの話さえ覚えているのか・・ネロも遊撃と索敵に集中してるとは思えない。
「待て!ヒヨッコ共。こっちに集まれ」
ジョーが皆を集める。これは正しい。こんな状態では訓練の意味など無い。
「ルイス、ネロ、空間蹴りって技術以外はアルドと同じって言われて嬉しいか?それとも悔しいか?・・違うな。自分の教えて貰った技術の有用性と今の自分の実力の無さに戸惑ってるんだ」
「な・・」
「オレには判らねぇが、アイツが言うならそうなんだろう。ただ忘れるな。今の自分がやるべき事を。アルドも今出来る事を精一杯努力したんだろう。お前等も今 出来る事、しなきゃいけない事をやれ」
「・・・はい」×2
そこからはルイスとネロの動きは見違える様だった。ルイスは勿論失敗もある。完璧には程遠いが安全を第一に堅実な指示を出していた。
ネロも遊撃として危なくなる前にフォローに入り、余裕がある時は積極的に攻撃をしている。勿論、獣人族の特技なのか索敵もしっかりこなしパーティの危機を未然に防いでいる。
上からみると良く判るがオレ達との依頼の時も、ルイスとネロはオレ達以上の働きをしていた。
集団戦を習熟させる為に全力を出さなかったオレやエルよりルイスやネロの方がパーティ全体に貢献していたのだ・・勿論、オレ達がいる事で多少の無理は効いたのは確かだが。
オレは改めて思う。まだまだだ・・・戦闘技術だけは5歳から磨いてきたが、それだけだ。
ここからどの能力を磨いて行くのか・・・ルイスの様に指揮能力を・・・ネロの様に索敵能力を・・・この世界に来て最初に思った魔法能力を・・・はたまた身体能力を・・・バランス型だって悪く無い。
一度しっかり考える必要があるかもしれない。それはきっと将来を真剣に考えるのと同義なのだろう。
前にも考えた事がある将来・・・そうなのだ・・・この世界でも将来を考え、悩み、苦悩する。そんな当たり前の事をする必要があるのだ。今オレが思うのは”異世界転生も楽じゃない”どの世界でも『生きる』ってのはそう言う事なんだろう。
少々、逸れた意識を戻してルイス達を伺う。
ジョーは周囲に気を配りルイス達の後をついて行く。後ろから気になる事があれば、その都度 声をかけている。
オレは一度ジョーの横に移動して聞いてみた。
「ジョー、範囲索敵の魔法を使って良いか?相手に魔法使いが居ると逆にこっちの位置がバレるリスクはあるが約1000メード内の敵を全て把握出来る」
「・・・もう驚かねぇぞ」
「そんなつもりは無いんだが・・」
「・・・・」
「すまん」
「・・・判った。もし敵を呼ぶようなら、その対処も見てみたいからな」
「判った」
オレは全力の範囲ソナーを打った。範囲はおよそ1000メード。
特に気になる敵はいない。ワイバーンやオークの巣なんか勿論、無い。
「特に気になる敵は1000メード以内にはいない。大体100メード間隔でオークやゴブリン、キラースパイダーが群れでいるぐらいだ」
「そうか、今日は訓練日和だな」
そう言い、不敵な笑みを浮かべている。
冒険者学校なんて物があるのならジョーは良い先生になるのだろう。学校までも無い。簡単な付き添いを1~2回して貰うだけでも全然違う。一度、ナーガさんに話してみるか・・・
そこからはオレからすると少々、退屈な展開になる。
敵が雑魚しか居ないのだ。しかしルイス、ネロ、ガイアス、ティファ、マークには非常に有意義な訓練になっただろう。
ジョーの指導を1日受けて劇的に変わるわけでは無いが、意識を向けるだけでも随分と違うはずだ。
オレも木の上からではあるがジョーの指摘を自分なりに身にするつもりで聞いている。
そうして依頼をこなしていると昼食の時間になった。
「よし、休憩するぞ」
ジョーの言葉にルイス達はなるべく見晴らしの良い場所を捜し、各々が休憩しだす。
男連中はその辺で用を足したがティファが少し困る。しょうがないのでオレが範囲ソナーを使い、敵がいないのを確認してから用を足して貰った。
しょうがないのだが良い方法があれば・・・オムツを一瞬、思いついたが、ここは尊厳を守りたいと思う。
木の上から降りて近くの切り株に座る。流石に休憩の時間はオレやエルも皆の輪に加わりたい。
「オレも休憩だ」
「そうだな。オレも木の上で見張りさせながら昼飯を食わせる程、鬼じゃねぇ」
ジョーはそう言うがオレが降りてくるまで、お前 オレ達の事忘れてただろ。
「ちなみにジョー先生から見てどんな評価だ?」
「評価か・・・今、言ってもいいのか?」
オレは皆を見渡すと全員が頷いている。
「全員、聞きたいみたいだ」
「じゃあ1人ずついくぞ」
空気が少し張り詰める。
「まずルイスだが、今からでもオレとパーティを組んで依頼を受けれるレベルだ。正直、Fランクのレベルじゃねぇ」
ルイスの評価はベタ褒めだ。
「ただし、それは訓練の中での話だ。アルド達がいない状態で今の動きが出来て一人前だな。あとは実際の戦闘では陣形だけでは対処出来ない敵もいる。個の戦闘力も足りねぇな」
(上げて落とすか・・自信を持たせてから釘を刺す。上手いやり方だ。こいつ、本当に先生向いてるんじゃないのか?)
ルイス達だけじゃなくジョーの意外な才能を発見してしまった。
評価を聞いたルイスは自分でも判っていたのだろう、冷静に受け止めている。
「次はネロだ。敵を発見する早さも遊撃の動きも光る物があった。このまま修行すれば1流の斥候になれる可能性はある」
濁した言い方をする。こっからは落とす方だ。
「斥候としてやってくなら斧を予備にした方が良いかもな。あと・・斥候は情報やパーティ資金の管理、依頼の決定、等の頭脳労働が多いんだ。すぐ決める必要は無い、ゆっくりとどうするか決めろ」
「斥候じゃなくてアタッカーとしてはどうなんだ?」
「斥候はパーティで必要な役割上位にくる。アタッカーならお前は十分、優秀だよ。ルイスと同じで個の戦闘力は足りてねぇがな」
ネロは自分の評価に満足なんだろう。笑みが零れている。
「次は、ガイアス、ティファ、マークの3人だが・・・」
3人が緊張の面持ちでジョーを見つめる。
「3人は経験が圧倒的に足りねぇな。まず警戒する方向、自分の立っている位置でどの方向をメインで警戒するか・・・他のヤツと同じ方向を警戒しても意味ねぇだろ?」
ジョーの言う事は尤もだ。基本の動きと言う物がある。オレ達はその辺り氷結さんから叩き込まれている。
「歩き方も音を立て過ぎる。わざわざ音が大きい木の枝なんか踏まなくても歩けるだろ?あとは・・・」
そこからはダメ出しの連続だった。オレ達も母さんから同じ事を言われた。後でフォローを入れておくか・・・
ジョーの評価が終わった後のガイアス、ティファ、マーク、3人のライフは”0”だった。
「ガイアス、ティファ、マーク、オレ達はブルーリング領でオレの母様・・・”氷結の魔女”から基本は叩き込まれてるんだ。すまん、どうやら思った以上に叩き込まれてたらしい」
「お、お、お、」
ジョーがバグっている。なんだこいつ。
「お前等、ラフィーナさんの子供なのか??」
「ん?母様を知ってるのか?」
「そりゃ知ってるだろ!氷結の魔女と言ったら10代でAランクに昇格確定と言われてた冒険者の期待の星だった人じゃねぇか・・・それがどっかの魔法師団に入って、すぐに結婚したって・・・お前等・・・」
オレとエルを見てるが、オレ達に母さんの面影を見てるのか?
暫くなんとも妙な空気が流れたが、ジョーは何かを吹っ切った様に小さな溜息を1つついた。
「ラフィーナさんは元気なのか?」
「ああ、前に話したオレの婚約者と毎日楽しくやってるよ」
「そうか・・・」
そう言って暫くするとジョーは小さな笑みを浮かべていた。
それから休憩も終わり順調に依頼をこなしていく。ジョーが戻るには少し早い時間に話し出す。
「少し早いが戻るぞ」
ナーガさんにも言われた。”無理をする冒険者は長生きできない”少し早めに上がるぐらいがちょうど良いのだろう。
帰りも特に目立った事は何も無かった。ただ全員、どこか緊張感を持っている。
ガイアス、ティファ、マークもパーティ内の自分の位置によって警戒する方向を考えていた。
元々、スカーレッドの森はそんなに遠い場所じゃない。1時間ほどでギルドに帰ってきた。
「さて、ナーガちゃんに完了報告だ」
ジョーがナーガさんに話しかけてルイス達の報酬を計算している。
オレとエルは依頼に対して何もしていなかったが全員一致で報酬の頭割りの数に入っている。これで数に入れて貰えないなら2度と一緒に依頼を受けないだけだ。
ナーガさんに計算をして貰うと金貨4枚、銀貨5枚だった。ジョーは”要らない”と言ったが金貨1枚だけは受け取ってもらう。
残りの金貨3枚、銀貨5枚をオレ、エル、ルイス、ネロ、ガイアス、ティファ、マークで均等に分ける。1人頭、銀貨5枚だ。
まだ夕方まで少し時間がある。オレは皆を我が家の風呂に招待してみた。
「まだ時間がある。ブルーリング邸の風呂に入りに来ないか?」
「風呂?」
ジョーが訝しんでくる。
「ああ、入ったら判るが気持ち良いぞ」
「アルドが言うならそんな気がするな・・暇だし、行くか」
ジョーの言葉で全員が行く気になった。ティファだけはマールとノエルに頼もう。
皆でブルーリング邸への道を歩いているとネロが聞いて来た。
「そろそろワイバーンレザーアーマー出来てないかな?」
「あー、出来たら屋敷に連絡が来る事になってる。あまり急かすのもな・・」
「そうか、そうだな」
やっぱり皆、ワイバーンレザーアーマーが欲しいんだろう・・しかし、急かして雑な仕事をされても困る。何せ命を守る物なのだから。
街の外とは違い気を抜いて歩いていると、すぐにブルーリング邸に到着した。
屋敷に入ると皆を客間へと案内する。皆がくつろいでもらってる内にノエルとマールを呼んで貰う。
後は風呂の順番だ。オレ、ジョー、ルイス、ネロで1回、エル、ガイアス、マークで1回、ティファ、マール、ノエルで1回の計3回に分ける。
ノエルとマールにティファの事を頼むとガイアスとマークが騒いでるのが見えた。
どうやらマールを初めて見た様で気に入った様だ。エルに紹介してくれる様にお願いしている。エルの後ろに黒いオーラが見えた。アカン、コンデンスレイ撃つ気やで・・・
オレが咄嗟にマールをエルの彼女、もうすぐ婚約者だ。と紹介する事でエルのオーラが消え去った。
「じゃあ、1番風呂に出発だ!」
オレのテンションに皆が???を頭に浮かべている。確かにこの世界で風呂に喜んで入るヤツはあまりいないだろう。
裏庭に移動し脱衣所で服を脱ぐ。
「アルド、全部脱ぐのか?」
「そうだ、全部だ」
「お、おう・・」
ルイスは抵抗があるのだろうか?もっと大らかに構えた方が良い。
「脱いだらこっちだぞー」
オレはさっさと浴室へと移動する。
「まずはここで体を洗う。泡立つまで何回でも洗うんだ」
まずはお手本を見せて体の洗い方を教える。
ジョーは4回、ルイスは2回、ネロは3回、洗ってやっと泡立つ様になった。
「次は頭だ!これも泡立つまでだ」
ジョーは5回・・こいつ汚ったねぇな!、ルイス3回、ネロ3回、で泡立つ。
「これから浴槽に入る」
ジョー、ルイス、ネロは慎重に入ろうとしている。
「ああぁぁぁ」
「ぁぁぁぁぁ」
「ああぁぁぁ」
「ぁぁぁぁ」
4人で入ると流石に狭いが風呂は十分に気持ち良い。サービスでエアコン魔法で冬の気温にする。
「アルドの言ってた事が判る」
「ああ・・判るぞ」
「だろ?」
「スマンな・・オレの体がでかいから・・狭くて」
「気にするな。裸の付き合いだ」
「裸の付き合い・・面白い事を言う・・」
男4人、しょうもない話で盛り上がり、のぼせる寸前まで風呂に浸かっていた。
風呂から出て牛乳を4杯、魔法でキンキンに冷やしそれぞれに渡す。
一気に飲み干した。
「ぷはーーー旨い!」×4
風呂を出るとエルチームと交代だ。客室でリバーシを楽しんでいるとメイドに食事をどうするか聞かれた。
「夕飯、食ってくか?」
「当主も一緒だよな?」
「そりゃそうだ」
「オレは辞退する。貴族のテーブルマナーなんて判らねぇ。このまま気持ち良く馴染みの酒場で酒でも飲むよ」
ジョーはそう言い手をヒラヒラと振る。
「オレも屋敷に用意してあるはずだ。辞退させて貰うよ」
「オレも爺ちゃんに悪い。今日は帰るぞ」
「そうか。判った」
メイドに3人は必要無いと伝えるとティファの方に聞きに言った。しかし、急な話の上、流石に夕食までは・・とティファも丁重に断っていた。
暫くするとエルチームが戻って来た。頭から湯気を立たせ気持ち良さそうに歩いてくる。
最後はティファ達だ。急に女騎士の警備が厳しくなった。普段、マールやファリステア、ユーリが彼女達の風呂を入れているからだろう。最近オレより扱いが上の気がしてくる。
「どうだった。風呂は?」
「気持ち良い・・アルド、たまにで良い。入りに来ても良いか?」
ガイアスの言葉にルイス、ネロ、ジョーが、その手があったか!!と言う様な劇画調の顔になる。
「あ、アルド、オレも良いか?オリビアもたまに入りに来てるらしいし・・」
「アルド、オレも入りたいぞ」
「アルド・・あー、たまになら冒険者のイロハを教えてやるぞ・・」
オレは苦笑いをしながら言葉を発せる。
「来る時は言ってくれ。調整する」
「やったーーー」×5
ちゃっかりマークも一緒に喜んでいる。エルの友達だ、風呂ぐらい入らせてやらねば。
そんな話をしているとマール達が出てきた。
風呂上がりの女の子はどうしてこんなに色っぽいのか・・男共は口を開け女性陣に見とれてる。ジョーがノエルに見とれてたのは見逃さない・・ニヤリ。
エルの傍にマールが寄りエルが挙動不審になってる。具体的には前屈みに・・
その姿をルイス、ネロ、ガイアス、マークが呪い殺さんばかりに睨みつけていた。
さらに、その男共を見たティファが俯き、ブツブツと何か言っていたのが印象的だ・・怖い。
全員が夕食は必要無い。と言ったので馬車を出して貰った。
風呂上がりの散歩も良い物だが今日は依頼での疲れもある。たまには馬車も良いだろう。
「「「「「じゃあな」」」」」」
そう声をかけあって馬車達が走り出した。
門を出て全ての馬車が見えなくなった所でエルに聞いてみる。
「エル、マールと結婚するのか?」
何気ない感じで聞いてみた。
「はい」
横目で見たエルの顔は何を当たり前な?とでも言いたそうな顔をしている。
「そうか、どっかで婚約発表しないとな」
「そうですね。マールを不安にさせてしまいますしね」
心の中でマールが義理の妹か。と不思議な感覚を楽しむ。
耳を澄ませば虫が鳴き、もう秋の風が吹いている。改めて幸せな時間が過ぎているのを感謝するのだった。
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