第94話盾

94.盾



盾・・・ブルーリングに里帰りする時にエルと話した。今回ワイバーンに殺されかけて再度、実装出来ないかを相談中だ。。

オレの”躱す”と言う戦闘スタイルは攻勢には爆発的な攻撃力を発する。しかし守勢に転じた時には躱す以外の選択が無い為か、言い様がない脆さがある。


盾・・・本来のオレの戦闘スタイルには組み込み様が無い物なのだが、この魔法の世界であれば話は別だ。


「エル、盾作るの難しいな」

「はい、形だけならすぐ作れるのですが」


「だな。形はいいけど強度がなぁ」

「はい。これでは・・」


今日はこの前に話してた、魔力で盾を作っているのだ。

しかし剣を伸ばすのと違い、上手く行かない。


盾だと強度が足りないのだ。剣ほどの硬さが無いので切られたり、割れたりする。

魔力で作った盾は剣と同じで壊れると魔力をかなり消費してしまう。割れたりしたら大変だ、ヘタすると半分近く魔力を消費する事になる。


これは推測だが恐らくは熟練していないのだ。オレが剣を魔力で伸ばし始めたのが10歳・・・3年の差がある。

今の盾でも大抵の攻撃は防げるだろう。この前のワイバーンの魔法なら十分に防げたと思う。


しかし、やはり命を守る物と言うのがネックなのだ。この盾に命を預けられるか?と言うと正直な所、厳しい。

熟練していけば変わって行くのは判っているのだが・・・


「あー頭が煮えてるな。少し気分転換するか」

「そうですね」


オレ達は居間に移動しメイドにお茶を頼む。

頭の熱が上がってる様な気がする。知恵熱・・脳をCPUだとすると考えすぎると熱を発生して知恵熱が出るのだろうか・・無いな。思考が逸れた。


頭を空っぽにして”ぼー”っとする。何か心地いい。

メイドが持って来てくれたお茶を飲む。この世界のお茶は基本、紅茶だ。


砂糖やレモンは入れない。ミルクは人によって入れると聞いた事がある。


「使って熟練するしか無いのは判ってる。ただなぁ・・・」


オレの独り言にエルが反応する。


「そうなんです。何か後1つあれば本物の盾とは違う場面で使えると思うんですが・・・」

「なるほど。本物には無い、魔力の盾にだけある能力か・・・」


「何かありますか?」

「そうだな。例えばウィンドバレットを待機状態にするだろ?」


「はい」

「ウィンドバレットじゃなく魔法の盾を待機状態にする。浮遊する盾だ。」


「それは・・・出来たら無敵なんじゃないですか?」

「出来たらな」


オレとエルは早速、盾を浮遊して使ってみた。


「ダメですね」


エルはそう言って魔法の盾を手でつついた。盾が流れて移動していく・・・

固さがどうこう言うよりも固定できていないのだ。固定すればその場よから動かせない。


それならと瞬間的に盾を出せば・・・無理でした。盾を出すのに5秒の時間がかかった。オレなら5秒あったら2回は殺せる。

試せば試す程、熟練していないのがネックになってくる。


冷静に考えればそうなのだろう。考えてすぐに戦力アップするなら誰も苦労しない。

何か・・盾・・装甲車・・・戦車・・戦車!


たしか戦車で装甲に爆弾を付けておいて弾が当たった瞬間に爆風で弾を跳ね返す機能が・・思い出せ・・リアクティブアーマー!たしかTVの特集で見た。


盾の表面に盾自体は壊さない程度の爆薬・・・魔法を仕込む・・・誰かに攻撃してもらって・・

ちょっと待て!!攻撃したら爆発するって攻撃した人間にダメージいくんじゃないのか?


エルに遠目から魔法を撃って貰おう。


「エル、この盾に魔法で攻撃してくれないか?できるだけ遠くから頼む」

「判りました。遠くからですね」


エルが100メード程離れてから手を振って来る。


「いいぞーーー!!」


オレの声にエルが右手を出す。


(コンデンスレイはやめてくれよ。試す前にオレが蒸発する。)


エルはウィンドバレットの非殺傷型を撃って来た。盾に命中した瞬間に爆発が起こるが、それだけだ。


「エルーーー次は殺傷型で頼むーーーー」

「判りましたーーーー」


エルは殺傷型でウィンドバレットを撃って来た。同じく命中した瞬間に爆発が起こる。さっきと衝撃は変わらない。爆風だけでウィンドバレットを相殺してるのだろうか・・・


「エルーーー次は殺傷型の魔物用だーーー」

「判りましたーーーー」


今度は殺傷型でも魔物用だ。直撃したら即死しかねない。しかし、さっきと同じ爆発・・・少し重いか??正直、誤差のレベルだ。

これは思ったより有効だ。防御と同時に攻撃にも使える。攻撃した瞬間に爆発とか、なんて凶悪なんだ。悪魔の所業だな・・


次は近接攻撃でも試したいが、これはエルにはさせられない。

今度、依頼に行く時にでも試すしか無い。魔物相手なら遠慮はいらないだろう。


「後は盾の場所だな」

「場所ですか?」


「今は武器を持ってないから良いが、普段は短剣を持ってるからな」

「そうでした」


「なので籠手に仕込むのが良いと思うんだが・・」

「だが?」


「手の甲か前腕のどっちにしようか迷ってる」

「うーん・・取り回し易いとは思いますが、短剣を持った状態で手の甲に盾ですか・・」


「やっぱりそう思うよな。前腕だな。ビームシールドも同じ位置だしな」

「びーむしーるど?」


「なんでもない。ちょっとやってみるか」


前腕の部分から盾を出そうとするが凄く出しにくい。手や足から出すのとは全然違う。恐らくイメージの差なんだろう・・


「小型のバックラーを前腕に付けて、それを起点にするか・・」

「なるほど。イメージを、し易くするんですね」


「そうだ。ちょっと防具屋に行ってくる」

「僕も付いて行って良いですか?」


「ああ、勿論だ」

「僕も実際の盾とは別に魔力の盾も使える様にしたいです。兄さまがさっき使った爆発する盾もおもしろい」


「爆発・・ああ、リアクティブアーマーか」

「りあくてぃぶあーまー?と言うんですか」


「ああ、爆風で攻撃を相殺するんだ。近接攻撃だと反撃もセットだな」

「実際の盾でも使えそうですね」


エルの盾がリアクティブアーマーか・・・オレ勝てなくなるかも知れない。お兄ちゃんの威厳がヤバイ

防具屋へ向かう前に武装だけはして行かないと、爺さんが五月蠅いのだ。


それぞれ自室に戻って武器と防具を装備する。


オレ達2人だけなら屋根の上を移動するのが圧倒的に早い。ブルーリング邸から防具屋までを真っ直ぐに走り抜けた。

防具屋の扉を開けると珍しくオッサンが店番をしている。


「久しぶり、オッサン」

「あ?ワイバーンの小僧か」


「相談があるんだけど良いか?」

「ちょっと待て。ちょうどブルーリング邸に人をやる所だったんだ」


「出来たのか?」

「おう、残り3人分のワイバーンレザーアーマーだ」


オッサンは店の棚からワイバーンレザーアーマーを3つ取り出して机の上に並べた。


「僕のはこれですね。着ても良いですか?」」


エルが早速、自分専用に作られたワイバーンレザーアーマーに興味津々だ。


「おう、良いぜ。残りの2人分はどうする?」

「うーん、預かってもいいけど学園にレザーアーマーを持ってくのは流石にはマズイか・・・」


「どうするんだ?」

「やっぱり明日にでもアイツ等と一緒に取りに来るよ」


「そうか、判った」

「それと今日は相談があるんだ」


「ああ?徹夜でワイバーンレザーアーマーを仕上げたんだ・・・寝かせてくれると助かるんだがな」

「オッサンにしか頼めないんだ」


「・・・・」

「頼む、オッサン」


「ハァ・・話してみろ」

「ありがとう。オッサン」


オレはさっきエルと試していた魔力の盾を出して説明をした。

オッサンは意外な事に乗り気である。眠いんじゃ無かったのか?


「なるほど。前腕の部分に小さな盾を組み込みたいのか・・・」

「ああ、何か起点になる物がある方が盾を出しやすいんだ」


「魔力も通し易い方がいいのか?」

「そりゃそうだけど無理だろ?」


「うーん、両方の籠手、1日預けられるか?」

「1日ぐらいは問題無いけど・・・直してくれるのか?」


「乗り掛かった舟だ。明日の夕方までに何とかしておいてやる」

「マジか!ありがとう。オッサン」


「盾の大きさだが、どれぐらいがいいんだ?後、重さも」


防具屋のオッサンと籠手の改造について話をしているとエルがワイバーンレザーアーマーを着てオレ達に見せてくる。


「兄さま、どうでしょうか?」


こげ茶色の鎧を着こんだエルが立っていた。エルは騎士剣術と言う事で他より少し重装備だ。着心地と動きの邪魔になる個所が無いか体を動かして確認している。


「いいなぁ。渋い!」

「おう。坊主にも判るか、ワイバーンの皮の良さが!」

「僕は見た目が、そんなに良いとは・・・」


エルが何か言っているがオッサンとは意気投合だ。ワイバーンの皮談義から再び籠手の改造を話し合う。


「希望はそんな所だ」

「判った、任せろ」


「いくらだ?」

「この程度なら鎧の調整代扱いにしてやる」


「本当に?タダって事?」

「ああ」


「オッサン、ありがとう。実はワイバーンがまだ売れて無くてそんなにお金無かったんだよ」

「ハッ。そんな事だと思ったぜ・・・ただ、代わりと言っちゃ何だが、少し頼みがある」


オッサンが真面目な顔で話をしてくるので、オレも真剣に話を聞く。


「何だ?」

「お前、修羅だろ?」


「!!誰から聞いた?ジョーか?!やっぱり燃やしておくべきだった・・・」

「そんな事はどうでも良い・・少しだけで良い。これから珍しい素材が取れたらオレに売って貰えないか?」


「・・・・」

「オレは自分で言うのも何だがこの王都で一番腕が良いと自負している。必要な装備も出来る範囲で用意する・・・頼めないか?」


「いや、そんな事で良いなら問題無いぞ」

「本当か!すまん。無理を言ってるのは判ってるんだが・・」


「ただ、オレがそんな大した素材を獲って来るかは判らんぞ」

「お前はAクラス・・もしかしたらSクラスの器だよ。無理しない程度で良い。何か獲れたら持って来てくれ」


「判った」


籠手を渡してオレとエルは屋敷へ向かう。エルはやはり嬉しいのか体を動かしてワイバーンレザーアーマーの感触を楽しんでる

ちなみにブリガンダインだが、次はエルの籠手を治す予定なので下取りとして置いてきた。


エルと2人でも移動は本当に早い。もう屋敷に着いてしまった。

籠手も渡してしまって今日は出来る事が無い。ローザに魔法陣を習いに行くか。


「エル、じゃあな。オレはローザに魔法陣を習ってくる」

「判りました」




次の日の学園---------




次の日にルイスとネロにワイバーンレザーアーマーが完成した事を伝えた。案の定、すぐにでも受け取りに行きたい。と授業中もずっとその話題だ。

少々鬱陶しかったが気持ちは十分に判る、今日は自主練習は休みにして防具屋へと向かおう。


「オッサン、連れてきた」


防具屋に入りオッサンに話しかけると、昨日より明らかに具合が悪そうな顔でこちらに手をあげる。


「オッサン、体調、悪そうだけど大丈夫か?」

「ああ、ちょっと徹夜しただけだ。気にするな」


そう言って2つワイバーンレザーアーマーを出してきた。ルイスとネロは嬉しそうに制服を脱ぎ、鎧を装備しだす。


「オッサン、昨日も徹夜したって言ってなかったか?」

「あ?2徹だ、2徹・・」


「マジかよ。もしかしてオレの籠手のせいか?」

「やり出したら乗って来ただけだ。お前のせいじゃねぇよ」


「・・・・」

「そんな顔するな。約束の籠手だ」


オッサンは棚からオレの籠手を出してきて机の上に置いた。

籠手には約束通り前腕の部分に、直系10cm程の丸い盾が付いている。人が見たらこんな小さな盾をどうするのか。不思議がるだろう。


しかし、オレには非常に価値がある。ルイスやネロに負けじとオレも早速、籠手を装備する。

籠手だけなので制服を脱いで籠手を着けるだけだ。


籠手は想像以上だった。想像以上に軽く、想像以上に盾が邪魔にならない、そして想像以上に盾への魔力の通りが良かったのだ。


「オッサン・・何だこれ・・何でこんなに魔力の通りが良いんだ?」


オッサンは良くぞ聞いてくれたと言わんばかりの顔で上機嫌に話し出した。


「それはな、ミスリルを使ったんだ」

「ミスリルって神銀貨のミスリル?」


「そのミスリルだ」

「オレ、そんなに金持ってねぇよ・・」


「ただで良いって言っただろ。今さら払えなんて恰好悪くて言えるか」

「・・・オッサン。商売ヘタだな」


「おま、そこは”ありがとう”だろうが!」


オレは居住まいを正し貴族の礼で感謝を表す。


「本当にありがとうございました」


オッサンは少し照れたような顔を横に向けた。


「けっ、調子が狂うぜ・・」

「早速、試してみても良いか?」


「おう、オレにも見せてみろ」


オレは前腕の盾に魔力を流し魔力盾を作ってみる・・早い・・エルと一緒に試してみた時の半分の時間で魔力盾を作る事が出来た。

次は形だ。丸、三角、四角、大きな盾、小さな盾、大きさも形もかなり簡単に変える事ができる。


「オッサン、ありがとう。これなら十分、実戦で使える」

「その代わり、約束忘れんなよ」


「ああ、任せてくれ」


こうしてオレの盾が完成した。鎧に盾を仕込まなくても魔力盾は作れるが普段使いは前腕の盾になるだろう。

他にも盾を付けたい場所が出来たらオッサンに頼むつもりだ。次はちゃんとお金を払って。


ルイスとネロもワイバーンレザーアーマーを気に入った様だ。2人共、制服を手に持って鎧姿で帰るらしい。

オレも制服は手に持って籠手を装備して帰る。


オレ達3人は全員が笑顔でそれぞれの家路に着くのだった。





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