第95話競技会 part1
95.競技会 part1
毎年10月に”競技会”と名付けられた生徒同士のチカラ比べが開催される。要するに運動会だ。
日程は2日間。1日目に騎士学科、魔法学科、商業科、それぞれの科の中でクラス対抗戦を行い、2日目にはそれぞれの科で勝ち抜いた代表が競い合う。最終的には学園1位を選ぶのだ。
昼からは毎年、疲れて勉強にならないので休校となる。
気になるのが競技の内容なのだが・・・競技は全部で7つ。
身体強化:これは身体強化した状態で運動能力を競うのだ。具体的には1.重量挙げ、2.100M走、3.幅跳び等で身体能力を競う。
魔法:魔法の力量を競う。具体的には4.的へ魔法を撃ち威力を競う。5.的に点数が振ってあり精密さを競う。
荷物運び:商業科だけ可哀想との声は毎年あるのだが競技会で計算も無い。6.ある地点からある地点へ荷物を移動させる早さを競う。
ここまでの6種目は余興みたいな物、実際は最後の種目に凝縮されている・・その競技は・・模擬戦だ。
上の6種目で勝つと1点ずつ貰えるが、模擬戦は10倍の10点だ。これを考えたヤツは頭が悪いとしか思えない。他に全勝しても6競技しか無いので合計6点・・・模擬戦が10点・・・他の競技が息してないだろ。
流石にバカしかいない訳も無く、判ってやっている様だ。模擬戦だけでは少々 血生臭すぎるし、参加できるのがクラスで1人になってしまう。
この祭りの趣旨なのだが”交流の無い他の科やクラスとの交流”があるのだが実際の所、商業科は楽しむのがメインで他には良い人材がいないか見定める程度だ。
しかし騎士学科と魔法学科はガチである。2つの学科の共通点は”戦闘”戦う為のチカラ。元々2つの学科は仲が良いとはとても言えない・・・表面的には協力し合っているが騎士学科は”剣”を魔法学科は”魔法”を最強の戦闘力だと吹聴しているのだ。
この日だけは普段の紳士、淑女ぶった仮面を脱ぎ捨て、場末の酒場の様な安い煽り文句で相手を罵倒する。
当然、代表にはSクラスの最優秀者が選ばれるのが通例だ。
ここに、この事実を知り涙目になりながらDクラスにやって来たSクラス最優秀者がいた。
「っと言う事なのです」
Sクラス最優秀者のオリビアが泣き付いてくる。
「で?」
「話を聞いてたんですか?このままだと私がエルファスと戦う事になるんですよ!」
オリビアは夏休み以来エルの後に様を付けるのを止めた。エルもオリビア呼びだ。
「エルも手加減してくれるだろ」
「アルド・・さっきの話を聞いていましたか?騎士学科に負けるのもマズイのに全く相手にならない姿を魔法学科の先生、生徒、OBに見られては私の命が危ないです」
「命???」
「はい、私が死ねば来年は違う者が出場するからと・・・」
「そんな鬼畜イベントなの?これ」
「そうです。負けるにしても健闘しないと・・・」
「・・・・」
「・・・・」
オリビアがこの話を持ってきたのは午後の授業が終わって自主練習を始める時だった。
流石に妹の生死がかかってはルイスも口を出してくる。
「アルド、その話が本当だとするならオリビアを助けてやってほしい」
「今の話でオレに出来る事があるか?」
「Dクラスの代表になってくれないか?」
「それはオレが決める事じゃない。自慢じゃないが入学の成績はビリだぞ。Dクラスの他のヤツが納得しないだろ」
まだ帰宅していなかったDクラスの人間、オリビア、ルイス、ネロ、ファリステア、アンナ先生までが”何いってんだコイツ”って顔を向けてくる・・・解せぬ
「アルド君、私が決めました。アナタがDクラス代表です!」
アンナ先生がゆっくりと立ち上がり、オレに指を差し宣言する。
「オレが代表?」
周りからすれば”何でコイツは自分が代表じゃない”って思ったのか不思議でしょうがなかった。ルイスやネロに身体強化や無詠唱魔法を教えているのに・・・
オレはなぜかDクラスの代表になったが、どうせやるなら真剣に勝ちに行こうと思う。
しかし、オレは競技会の事は全く知らなかった。まずは情報収集からだ!
「アンナ先生、競技会っていつやるんですか?」
「1週間後ね。夏休みが終わってすぐに連絡事項で話したでしょ」
「・・・聞いてませんでした」
「ハァ・・あそこにも張ってあるでしょ」
アンナ先生はクラスの連絡事項を知らせる掲示板を指さした。
「・・・見てませんでした」
「ハァァ・・・・今日の連絡事項でも話したわよ」
「・・・き、聞いてませんでした・・」
「ギリッ・・・」
アンナ先生の歯ぎしりが聞こえる・・・やだ・・・怖い。
「ちゃ、ちゃんと代表として頑張ります・・」
「・・エルファス君とも本気で戦う?」
「は、はい!本気で戦います!」
アンナ先生はニチャっとした顔をしたかと思うと俯いてブツブツと何かを呟き出した。
何だろう?と聞き耳を立てると、とても淑女が言って良い訳ない単語を羅列している・・Sクラスの担任と校長の名前が入っているのでターゲットは2人の様だ。
この魔法がある世界だと不安に思えてくる。もしかして”呪い”って本当にあるかも・・っと。
自主練が終わり、後は屋敷に帰るだけの時に事件は起こった。
全員で廊下を歩いていると反対側から教師らしき男が歩いてきたのだ。
「アンナ先生、もうお帰りですか?」
こう話した男は確かSクラスの担任だ。入学試験の時と同じヤツで間違い無いと思う。
「・・スイト先生、、、そうですね今日は失礼します」
こう返したアンナ先生の拳は握りしめられ血が滲むんじゃないかと心配する程だった。
「Dクラスは楽で良いですな。Sクラスは、もうすぐ競技会で選抜に忙しくて」
アンナ先生の眼が妖しく光る。
「今年はDクラスも負けてませんよ」
「は?Dクラスは冗談も3流ですな。全く笑えない」
「・・・・」
「毎日、自主練習をやっていると聞いていますが本当は何をやっているのか・・・」
オレ達を見回して明らかに見下した視線を向けてくる。
「この子達は真剣に自主練習をしています。クラス対抗戦では必ず結果を出してくれるはずです」
「精々、無駄な努力をしてください。Sクラスはクラス対抗戦など眼中にありませんからな」
「ぐぎぎ・・こ、今年の騎士学科の首席はかなりの戦闘能力があるそうですが・・・」
「Dクラスでも他学科の相手は知っているのですなぁ」
ナチュラルに嫌味の応酬だ・・・オレは将来、こんな職場は絶対に嫌だ!ハゲるわ!!
心の声が漏れる前にアンナ先生に語り掛けた。
「アンナ先生、そろそろ行かないと・・・」
オレの言葉に合わせてくれたのだろう。アンナ先生は最後っ屁の様に話す。
「そうね。首席に逃げられて困ってる人は置いて、帰りましょうか」
「なっ、にげr・・・・」
何か言ってるが聞きたく無い。その場を振り向かず足早に立ち去った。
競技会当日---------
「アルド君、くれぐれも手加減してね。殺しちゃダメだからね」
いきなりアンナ先生に恐ろしい事を言われた。オレを何だと思っているんだ。
「はい、気を付けます」
クラス中の視線を浴びる中、オレと他の出場選手は演習場に向かう。
演習場はオレ達が入学試験を受けた会場だった。イメージとしては体育館のコートを土にして大きくした感じだ。演習場の周りを客席がぐるりと覆っている。
全生徒がここに集まる訳では無い。学科毎に専用の演習場をいくつか持っているので、今日1日を使ってそれぞれの学科の代表を選抜しているのだ。1年生はこの演習場で競いあう。
演習場には真ん中に模擬戦の舞台が設置されている。その周りの空きスペースを使って重量上げ、100メード走、幅跳び、貫通、射撃、荷物運び、の競技場が設置してあった。
ちなみに模擬戦以外の選手は持ち回りでやる様だ。勝敗に関係無いので、そちらは体育祭の様な雰囲気で皆が楽しそうにしている。
しかし、模擬戦の舞台袖では出場選手が、お互いを牽制し合い殺伐とした空気が漂う。
そんな空気の中、Sクラス担任のスイト先生が演習場の正面のお立ち台に上った。
「これよりクラス対抗の競技会を始める。選手の諸君は正々堂々と競い合うように。怪我にも気を付けて競技してほしい。では開始!!」
歓声が響き渡る中、まずはくじ引きで対戦を決めるようだ。
くじを引くのは模擬戦の選手だ。Sクラスから順番に箱に手を入れ、中に入っている番号札を取り出していく。
Sクラス代表は勿論オリビアだ。先日、泣き付いて来た時とは違い背筋を伸ばして真っ直ぐに立っている。
風呂の効果もあるのだろうか、周りの淑女と比べて5割増しで綺麗に見える。
直に順番が回ってくるが最後のオレが引く必要があるのだろうか・・・残りは3だけなのに。
オレは取り出した3の番号札を係の人に渡す。
1:Sー-
|ーーーーー-
2:Cー- |
|
3:Dー- |ー
|ーー |
4:Bー- |ーーー
|
5:Aーーーーー
競技会はトーナメント方式で進むようだ。どうやらDクラスとBクラスだけ1戦多い様だが、くじの結果だ。しょうがない。
順番が決まった事で模擬戦以外の場所でも競技が開始された。
最初の試合はSクラス 対 Cクラスだ。改めてオレはオリビアが戦う所を見た事が無い。ここはオリビアの戦闘を見せて貰おう。
審判はスイト先生が行うらしい。Cクラスの代表は大柄の男でレザーアーマーに片手剣と盾を持っている。構えも騎士剣術の物だ。
代わってオリビアはと言うと、杖にローブ姿で典型的な魔法使いの装備だった。
2人が舞台の両端に立つと、スイト先生が双方の選手に準備の完了を聞いている。双方から”完了”の返事を貰うと大声で”開始”を叫んだ。
Cクラスの代表はサバーナと言う平民のようだ。サバーナは開始の合図を聞くと身体強化をし、オリビアへ真っ直ぐ走って行く。
魔法学科だからと言って遠距離から魔法を撃ちあうだけでは無い。人によっては何故、騎士学科に行かなかったか不思議なレベルの剣の使い手もいる。
サバーナがどのレベルから判らないが剣を構えて前に出る程度には自信があるのだろう。
オリビアは詠唱魔法の使い手だったが、ブルーリングで氷結の魔女に無詠唱魔法を習っていた。
オリビアの周りに待機状態になった風の魔法が1つ、オリビアを守るかの様に漂っている。
サバーナがオリビアに近づき、牽制用の盾によるバッシュを入れようとした。技が決まると思われた瞬間オリビアは杖を振りバッシュごと盾を弾き飛ばす。
とても女性の膂力では無い。オリビアはサバーナ以上の身体強化を使い膂力で相手の技を正面から叩き潰したのだ。
盾を弾かれたサバーナは一瞬、無防備な姿を晒す。そこに待機状態だった風の魔法をサバーナに叩き込む。
サバーナは5メード程、吹き飛んでピクリとも動かない。
「勝者オリビア!」
この瞬間、スイト先生がオリビアの勝利を宣言し、回復魔法使いがサバーナの治療を開始しだした。
試合の一連を思い返してみてもオリビアの戦闘は危なげなく圧勝と言っても良い。
しかし思うのは無詠唱魔法に身体強化・・・何かブルーリングにだいぶ影響されている。
勝ったオリビアがこちらに歩いてきた。
「おめでとう、オリビア」
オレが声をかけると何とも微妙な顔をされた。
「無詠唱魔法と身体強化のおかげよ」
「そうか」
「ブルーリングに行く前だったらこんなに簡単には勝てなかったと思う」
「努力したのはオリビアだろ。実力だよ」
「そうかしら・・」
「そうだよ」
「次は決勝戦まで試合は無いけど・・・きっとアルドと戦うのよね」
「ああ、そうだな。怪我させない様に気を付ける」
「あら、責任を取ってくれれば傷の1つや2つ付けてもらっても構わないわのよ」
「・・・・」
オリビアが流し目でそんな事を言ってくる・・・勘違いするので止めてもらえませんかね?
オリビア戦からしばらく待っていると、どうやら次の試合の準備が出来たようだ。
次はDクラス 対 Bクラス。
Bクラスの代表はペタジーニ。騎士剣術を使うのだろう片手剣と盾を装備していた。
オレとBクラスの代表は舞台に上がって行く。ペタジーニは同じクラスの連中に盛大な応援を受けている。
しかしオレには・・・
「アルド、本気だすなよ!」
「アルド、殺すなだぞ!」
「アルド、コロサナイデ クダサイ」
この他にも聞いてるのが辛くなってくる声援?を沢山かけられる・・・泣きそうだ。
オレって周りから殺人鬼にでも見られてるの?
「ハァ・・・もう何なの・・」
独り言を呟いたと同時にスイト先生が宣言する。
「開始!」
ペタジーニが走って向かってくる。顔には嫌らしい笑みを浮かべて・・・
明らかに舐められていた。久しぶりの感覚に笑みすら浮かべてしまいそうだ。しかし負ける訳にはいかない。すまぬ、ペタジーニ君。
ペタジーニが片手剣を振り上げた瞬間に、身体強化をかけ懐に入り込む。鳩尾をそっと撫でてから5メード程の距離を取った。
この間の時間は5秒程か・・・殆どの人がオレの動きを正確に追えてはいないと思う。
舞台には、前のめりになったペタジーニ君が白目を向いて倒れている。
Dクラス代表、入学試験で最下位がオレと言うのは貴族なのもあり有名な話だ。
今回の大会はオレが代表になった事で、Dクラスは最初から勝負を捨てている。と影で噂になっていた。
それでこそのペタジーニ君の”嫌らしい笑み”だったのだろうが・・・
オレは万が一を考えペタジーニ君に回復魔法をかけ、次に、自分の勝利宣言を聞く為にスイト先生を見つめた。しかしスイト先生はオレを呆けた顔で見続けている・・・
おい、早く勝ち乗りを上げろよ。っとスイト先生を見つめ続けるが、今だに呆けた顔をしているだけだ。
流石に待つのにも疲れてきたタイミングで他の先生がスイト先生に耳打ちをする。
やっとスイト先生が勝ち乗りを上げた。
「しょ、勝者・・Dクラス・・な、名前は・・・・・・」
長い沈黙に、また他の先生が耳打ちをしている。
「しょ、勝者Dクラス アルド」
Dクラスだから負けると思ってたのだろう。オレの名前は憶えられていなかった様だ。
次はAクラスと対戦する。特に情報を集める必要は無さそうだ。何故か?舞台の脇でスイト先生と同じ様に口を開けて呆けているから。
次の対戦までのんびりとさせて貰おう。
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