第96話競技会 part2
96.競技会 part2
そろそろ昼食か?と思う頃に第3試合が始まる様だ。
舞台に上がる時には相変わらず
「さっきの調子だ。殺すなよ」
「アルド、殺すなだぞ!さっきと同じだぞ!」
「コロサナイ アルドサン ステキデス」
だからお前等はオレが殺人鬼とでも思ってるのか。と小一時間、問い詰めたい。
対戦相手は名前を聞いたが怯えているのか教えてくれなかった。顔が魚っぽいからサカナ君でいいか。
舞台に上がってスイト先生を見ると、明らかに嫌な顔をされた。流石にこの扱いには段々腹が立ってくる。
ああ、そうですか。Dクラスがそんなに嫌いなんですか。
この前、舐めプしてワイバーンに殺されかけたばかりだ。サカナ君に集中する。
サカナ君はオリビアと同じ杖にローブ姿をしている。純粋な魔法使いなのだろう。
魔法使いとの戦闘は母さん以外では初めてのはずだ。
少しワクワクしてくる・・・
そうしていると直にスイト先生が宣言をした。
「開始!」
さっきのペタジーニと違いサカナ君は突っ込んでこない。魔法使いなら当然だろう。
少し興味があったオレは距離を取ったままサカナ君の様子を伺っている。
サカナ君はオレに手の平を向けるとウォーターショットを撃って来た・・・何とか躱したが頬のスレスレを通り、当たっていてもおかしくない。
当然だろう。サカナ君は無詠唱で魔法を撃ってきたのだから。
ブルーリングにいる頃は母さんと何回も模擬戦をした。何でもありならオレが全勝だったが、魔法のみの場合は一度も勝てた事は無い。
流石は”氷結の魔女”と二つ名を持つだけはあるのだ。
さっきも自分で”舐めプはダメだ”と言っていたのに、オレはサカナ君と魔法戦をしたくなっていた。
オレがどうしようか迷っているのを”近づけない”と思ったのだろう。サカナ君はウォーターショットを連発して一気にトドメを指す気だ。
どうやら考えている時間は無い。オレはウィンドバレットで応戦する事にする。
選ぶのは非殺傷型を3個、待機状態で自分の周りに待機させた。
サカナ君は待機状態の魔法を驚いた表情で見つめ、オレを睨みつけたかと思うとウォーターショットをさらに連発してくる。
サカナ君の全力の攻撃は平面では躱すのは厳しく、魔力盾はまだ慣れていない・・・それならばっとオレは空間蹴りで上空へと駆け上がった。
周りの観客は眼を見開き、口を開け”アホ顔”でオレを凝視してくる。サカナ君もだ。
もうちょっと戦いたかったが。流石にこの舞台で明らかな舐めプはマズイ。
ウィンドバレットをサカナ君の周りに配置する。
サカナ君は我に帰り魔法の中心にいる事に気が付いた。慌てて逃げ出そうとしているが・・
遅い。逃げるならこの状態になる前に逃げないと・・こうなったら受ける為に魔力を纏うしか無いだろうに・・
ウィンドバレットが3発、一斉にサカナ君へ向かって行く。
なんとか1発は躱したが残りの2発が綺麗に決まりサカナ君は意識を手放した。
外れた1発を戻してオレの周りに待機させる。
さっきと同じでスイト先生を見つめながら勝ち乗りを待つが・・
相変わらず”アホ顔”でオレを見てるだけのスイト先生を無視してサカナ君の元へ移動した。
非殺傷型だが頭に当たっていたので、ちょっと心配だったのだ。
ソナーをかけ首の骨や頭の骨、脳、等を確認して回復魔法をかける。
回復魔法をかけ終わっても呆けているので流石に焦れてきた。
「スイト先生。オレの勝ちでいいんですよね?」
オレからの声にやっと我に帰り、声を絞り出す・・・
「あ、ぁ、ぁ、ああ・・しょ、勝者Dクラス、アルド・・」
会場が割れんばかりの歓声に包まれる。
殆ど歓声に消されて聞こえないのだが、何とか所々聞き取ってみる。
「飛んだ!人が空を飛んだぞ!!」
「何だアイツ!何なんだアイツ!!」
「飛行魔法だ!今のは絶対に飛行魔法だ!!」
歓声の殆どは空間蹴りについてだった。やっぱり空を飛ぶと言うのはインパクトが大きい。
正直な所、ここまでの騒ぎになると居心地が悪い。
どうせこの後は昼食だ。オレはトイレに行く振りをして演習場から逃げだした。
見つかりたく無かったので壁走りを使い、魔法学科の校舎の屋根の上まで駆け抜ける。
「ここまで騒ぎになるとは思わなかった・・どうしよ。後、腹減った」
飛行魔法が無いこの世界で人が自力で空を飛べばこうなるのは判り切っていたはずなのだ・・・しかしアルドには危機感が無かった。何故か?答えはラフィーナである。
ラフィーナはアルドの行動を縛らなかった。そして技術がエルファスへそしてアシェラへと伝播する様にも仕向けた。アルドだけが特別になら無い様にあえて自由にさせたのだ。
そして技術が確立される前から沢山の人の眼に留まる様に演習場で訓練をさせた。最初は演習場の端で空間に1歩踏み出せるだけ・・次は2歩・・3歩・・と技術が磨かれる様子を不特定多数が見れる様に。
いつしかブルーリング領の演習場ではアルドやエルファス、アシェラが空間蹴りで空を駆けるのが当たり前の環境になったのである。
しかしラフィーナも最初から狙っていた訳では無い。
アルドが成長する中でラフィーナは思った。壁走りや空間蹴り、魔力で武器の形状を変える魔力武器、そして極めつけはコンデンスレイ、これ等を1人の人間が考えた事だと知られれば必ず孤立する。と・・
なるべく早くアルドの能力を知っても恐れたり、利用しない人間を見極めたかったのだ・・選ばれた人間はなるべく傍にいる様に手配もした。ガル、ベレット、タメイ等がそれだ。
裏では教会のシスターや孤児達にも厳重な調査が成されている。内内定の話、ヤマトは騎士団の試験に合格する事になっている。
ある意味ラフィーナの庇護を抜け出した今は、”空間蹴り”と言う技術の”正当な評価”を受けているのだ。
そんな事とは思いもせず当の本人は”放っておけば、その内忘れるだろう”と呑気な事を考えている。
何か良いアイデアが出る訳でも無い、しょうがなく学園から外へ空間蹴りで駆けだした。
なるべく学園から近くの屋台へ降りる。
食堂へ行けないなら外で食べるしか無い。確かにその通りなのだが普通は守衛に見つかって怒られる。しかしアルドには空間蹴りがある。この時ばかりは空間蹴り様様だった。
「ぷはー食った食った」
アルドの横には串が3本も落ちている。この世界の串焼きは女子供なら1~2本、成人した男でも2~3本も食べればお腹いっぱいだ。
落ちた串を拾い串焼きの屋台に渡してから路地裏へと移動する。そこからは壁走りと空間蹴りのコンボで学園に戻ってきた。
「一度、アンナ先生の所に行きたいな」
しょうがないので魔法学科が入る程度の範囲ソナーを打つ。
「見つけた」
現代の日本なら最強のストーカーである。屋根の上を移動してアンナ先生の近くまで移動する。アンナ先生が1人になって目立たない場所に行く時を狙う・・・今だ!
真上に移動し自由落下・・地上にぶつかる寸前に空間蹴りで速度を落とし無事、地面に着地した。
「アンナ先生、少し話が・・」
建物が無い場所を歩いていたアンナ先生は、上から何か落ちて来る等 考えもしなかっただろう。
眼を見開き、口をパクパクしながらオレに指を差してくる。
「アンナ先生?」
フリーズしていたアンナ先生だが時間と共に復活した。
アンナ先生に登場の仕方を説教された。死ぬほど驚いたらしい。
「ハァ・・アルド君のやる事にいちいち驚いていられ無いか・・」
まるで自分自身に言い聞かせる様に一言だけ呟く。
「で、どうしたの?」
「大騒ぎになったのでどうしようかと」
「・・・・」
「アンナ先生?」
アンナ先生がジト目で大きな溜息をつく。
「はぁ、当たり前でしょ・・そんな事も考えずに、こんな目立つ場所で空間蹴りを見せたの?」
「いや、ブルーリングでは大して騒がれなかったので・・」
「きっと周りが配慮してくれたのね。アルド君の技術は、どれもお伽話の中でしか出て来ないから」
「周りが・・」
「そうね。ラフィーナさんかヨシュアさん当たりが怪しいわ」
「父様、母様が・・」
「それでアルド君はこれからどうするの?」
「これから?」
「うん、チカラは隠して過ごすのか、逆に見せ付けて行くのか・・」
「・・・・」
「ギルドでの事も聞いてるから、今さら隠せるかは判らないけどね」
「ギルド・・」
「思いっきり突き抜けて見せ付けてやるのもいいかも知れないわ」
「見せつける・・」
「そうね。見せ付けてやれば賢い人は絶対にちょっかいを出してこない。それは断言するわ」
「そんなにですか?」
「そんなにです・・アルド君の実力とブルーリング家、これだけでも大した物よ。それこそ、きっと王族でも無ければ手を出せないくらいには」
「そうですか・・」
アンナ先生は苦笑いを浮かべてオレを見ている。
どれぐらい経っただろうかオレが考えている間、じっとアンナ先生は待っていてくれた。
「アルド君。もうすぐ今日、最後の試合が始まるから。そろそろ舞台に移動してね」
「判りました」
アンナ先生と別れて舞台までの道を歩く。他の生徒がオレを興味深そうに見てくる。
オレはまるで動物園のサルの様だ・・・視線の海に溺れそうになりながら先程のアンナ先生の言葉を思い出す。
「結局、それしか無いんだろうな。人の目に怯えて隠れながら生きるなんて絶対にごめんだ。今まで磨いた技術を捨てるのも嫌だ」
独り言を呟きながらオレの腹の中は決まっていた。
舞台に着くまでは本当に動物園のサル状態だ。誰一人として話しかけて来ず、遠目にヒソヒソと話すだけである。
少しだけブルーリングが懐かしい。いっそのことアシェラもいるし本当にブルーリングへ・・
そう思った時に観客席から怒声が響いた。
「アルド!どこ行ってやがった。捜したぞ!!」
「アルド、どっか行く時は言わないとだぞ。お陰で昼食、食べれなかったぞ!!」
「アルド イナクナル ノハ ダメデス」
ルイス、ネロ、ファリステアだ・・ハハッ・・オレにも話しかけてくれるヤツがいるじゃねぇか・・ネロなんかいつもあんなに昼飯に五月蠅いのに・・
「ごめんーあとで屋台に行こう。何か奢るーー」
満面の笑みでそう返したオレの眼の端には光る物があった・・
心の中で”ありがとう”と呟く。
さて、切り替えていこう。
オレの相手はSクラス代表のオリビアだ。既に舞台に上がってオレを待っている。
どうやらオリビアは棄権しないようだ。きっとSクラスの代表として勇敢に戦った。と言う事実が必要なのだろう。
オレもゆっくりと舞台に上がる。
「一応は戦いますけど、絶対に本気は出さないでくださいね」
「ああ、判った」
「・・・・」
「どうした?」
「・・・もし、アルドに一撃入れれたら私の言う事を1つ聞いてくれませんか?」
「は?・・まあ、良いけど」
「!! やる気が出てきました。約束忘れないでくださいね」
「・・判った」
何かオレだけ一方的に損してる感じがするが・・
オレとオリビアの準備が完了したのでスイト先生が開始の宣言をする。
「開始!」
オリビアは魔法を1つ待機状態にして自分の周りに漂わせている。迂闊に近寄れば発動させるはずだ。
まあ、アシェラの10個の魔法に比べれば1個ぐらいどうという事は無いが・・
ただ問題がある。前の2人との試合と違って流石に淑女を攻撃はしたくない。
この衆人環視の中で13歳の女の子をぶん殴るとか・・ないわ・・
しかし、そうなると寸止めになるのだが激しい動きの中で一瞬、寸止めしても気付かれない可能性がある。
まずは”詰んだ”状態を作り出すのが先の様だ。
オレは3個のウィンドバレット(非殺傷型)を待機状態にして自分の周りに漂わせる。
「行くぞ」
「お手柔らかにお願いします」
ウィンドバレットを纏いながらオリビアに向かって走りだす。
見てるだけな訳も無く、オリビアは待機状態の魔法をオレに向けて発動してくる。
オレは3つあるウィンドバレットの1つをオリビアの魔法にぶつけて相殺した。
もうオリビアまでの距離は5mも無い。
オリビアの腕では魔法を発動するよりオレが到着する方が早い。
それはオリビアも判っているのだろう。魔法は諦めて杖を構える。
オレに接近された時点で勝ち目は無いのは判るだろうに・・
オリビアが杖をオレに向けて振り下ろそうとしてくる。それを左に躱し首筋に短剣を当てて終わるつもりだった。
しかし、オリビアは杖を振り下ろす途中で杖を手放し、腰の回転だけでオレの顔面に右ストレートを打ち込んでくる。
余りにも意外な動き・・・頬に拳が掠った・・・一度、距離を取る。
「惜しかったですね・・」
オリビアが悔しそうな顔で一言呟いた。
「狙ってたのか?」
「ええ、ブルーリングでアシェラに教えて貰ったので」
「・・・・」
「こうなると、もう一撃は無理ですね。棄権します」
オリビアは両手を上げて棄権の意思を示した。
その様子を見たスイト先生は苦い顔をしながらオレの勝ち乗りをする。
「勝者Dクラス アルド」
先程の試合と違い歓声は上がらなかったがDクラスが優勝と言う事でガヤガヤと騒がしくなる。
オレはオリビアに聞きたい事があった。
「オリビア、オレに何を頼みたかったんだ?風呂か?」
サンドラ邸にも風呂を作ってほしいのだろうか。ローザの魔道具が出来たら考えても良い。
オリビアは少し寂しそうな顔をして答えた。
「お風呂は魅力的ですが、今回は違います」
「そうか・・オレで出来る事なら手伝うぞ」
「・・・アシェラと同じ立場に成りたい。と言ったら?」
「・・・・」
「今回は負けてしまいましたから次回に賭けてみます」
「・・・・」
そう言ってオリビアは舞台から降りて行く。
正直な話、オレは前世でそんなモテた訳では無い。こう真正面から好意を寄せられるとどう振る舞ったら良いのか判らない。
気持ちは勿論、嬉しいがオレにはアシェラがいる以上、不誠実な事は出来ない。
かと言って距離を取るのも、それが良いとは思えないのだ。一度、誰かに相談しようと思う。
今日の試合はこれで全て終了した。明日は騎士学科、魔法学科、商業科の科対抗戦だ。
科対抗戦はクラス対抗とは違い総当たりになる。
第1試合が騎士学科 対 商業科 第2試合が魔法学科 対 商業科 第3試合が騎士学科 対 魔法学科となっていた。
午前中に第2試合まで終わり午後1番に第3試合だ。
※近況ノートにライラさんのイラストを張ってみました。見て貰えると嬉すぃです。(*´Д`*)うっひょー
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