第288話出会い part2

288.出会い part2






魔法使いの男が叫んだ内容によれば弓使いの意識が戻らないらしい……あの出血量、恐らくは血が足りないのだ。


「僕は回復魔法が使えます。診させてください」


オレの言葉に全員の答えはバラバラだった。


「ふざけるな!お前みたいな怪しいヤツにリースを触らせるわけが無いだろうが!」

「お前、本当に何とか出来るのか?嘘だったら殺すぞ……」

「ほ、本当に治せるのか?た、頼む、リースを診てやってくれ!」


オレが前に出ようとすると獣族の女性が立ちはだかり、絶対に通さない意思を感じさせる。


「だからリースに近寄るなって言ってるだろうが!お前、何を企んでやがる!」

「あの女性を診るだけです!早くしないと間に合わなくなる!」


「お前がリースに何もしないって保証があるのか?人族はいつも卑怯な手を使う。リースを任せたらお前も何かする気だろ!」

「僕は本当に道に迷っただけなんです!お願いだから信じてください!」


「うるさい!黙れ!私はh…………」

「いい加減にしろ、メロウ!リースが死んじゃうじゃないか……そこの人族の子供、本当に助けられるんだな?」


オレはゆっくりとだが、しっかりと頷いて見せた。


「お願いだ、リースを診てくれ。頼む……」

「はい、分かりました」


メロウと呼ばれた女戦士の隣を通り抜けるが、女性は悔しそうな顔を背けるだけで何もしてはこなかった。






リースと呼ばれたエルフの女性に触れソナーをかける……マズイ、血が足りなくて体中の細胞に酸素が足りてない!

オレは急いで輸血の魔法をかけた……1滴……1滴……1滴……


いつもの何倍もの早さで血を補充していく……そうして10分ほどが経つと、リースと呼ばれたエルフの女性の頬に赤みが差し、呼吸も穏やかな物へと変わっている。

念のためソナーをもう一度打ち、もう大丈夫、と安心した所で首に大きな衝撃を受けてしまった。


あまりの痛みに意識が薄れていく……最後に見えたのは、魔族の女性が鞘付きの大剣を振り抜いている姿だった。






ズキン……首の重い鈍痛で覚醒していく……最悪の目覚めだ。どうやらオレは後ろ手に肘と足首を縛られた格好で土の上に寝かされているらしい。


顔を上げると既に辺りは暗くなっており、どうやら今は夜のようだ。


「気が付いたか?」


いきなりの声に驚きながら芋虫のように転ってみると、先ほどオレを気絶させたと思われる魔族の女性が座ってこちらを見ていた。


どうやら先程の4人はここで野営をして、この女性以外は眠っているようだ。

その証拠に焚き火の向こうにはマントを毛布代わりにして、眠っている数人の姿が見える。


「この縄を解いて欲しいのですが……」

「それは無理だ。お前が敵でない証拠が無い」


「コボルトから助けて、仲間も回復してあげたでしょ? これ以上どうすれば信じてもらえるって言うんですか!」

「それは感謝している。だがお前は怪しすぎる。その年であの戦闘力。しかもあの時、腕に盾らしき物を確かに持っていた。荷物には盾など無いのに……更にあの爆発。私達はあれが魔法なのか、何かの魔道具なのかすら分からない」


魔力盾とリアクティブアーマーを見られただけでこの扱いだ。

もし空間蹴りや魔力武器、ウィンドバレットを見せていたら既に殺されていたかもしれない。


このまま球状に魔力盾を出して、ウィンドカッターで拘束を解いても良いのだが、それをやれば更に警戒される未来しか見えない。

かと言ってこの扱いを受け続けて、信頼を勝ち取れるのかと言うと……


悩み抜いた結果、20日間も探し続けてやっと見つけた人である。その人達と関係を悪くさせる可能性がある以上、拘束を自力で解く勇気はオレには無かった。

しかし、拘束されていても当然ながら腹は減るし、喉も渇くわけで……更に先ほどから小さいほうだが、だいぶ催している。


「すみません……逃げたりしないので拘束を解いてもらっても良いですか? さっきからお花を摘みに行きたくて……」

「ああ、トイレか。男のくせに変に取り繕うな」


「ありがとうございます。直ぐ済ませますので……」

「うん? 拘束は解かないぞ」


「じゃあ、どうすれば良いんですか?」

「漏らすしかないんじゃないか?」


コイツは何てことを言うんだ! そんな事をしたら、オレの中の尊厳が死んでしまうじゃないか!


「そこを何とか!お願いします!!」

「ダメだ」


「オレの中の尊厳さんが死んでしまいます!」

「うるさいヤツだな。私には関係無い。自分で何とかしろ」


「自分で何とかすれば、何もしないでくれますか?」

「ああ、分かった、分かった。何もしない」


「分かりました!」


これはしょうがない。一応、確認もしたので大丈夫の筈だ。オレはウィンドカッターを発動して肘と足のロープを切ると、最速で草むらに走り用を足した。

かなり貯まっていたので5分ほどの後、野営地に戻ると全員が戦闘態勢をとってオレを睨み付けている……


張り詰めた空気の中、元の場所まで移動して先ほどウィンドカッターで切ったロープを使って再び自分の足を縛ろうとするのだが、どうにも短すぎる。


「あ、すいません。拘束を切ってしまったので、新しい物を貰えると助かります」


オレの言葉に4人の反応は様々だった。


「ふざけてるのか!お前は!」

「コイツは危険だ……もう、殺すぞ」

「……」

「何時でも逃げられたのか……何が目的なんだ?」


くそっ、やっぱり無理だったか……ワンチャンあると思ったんだが……


「すみません。本当に道に迷っただけなんです。敵対するつもりはありません。話し合いましょう」


オレの言葉に最初に反応したのは魔族の女戦士だった。何の言葉も無く大剣を振るってくる。


「待って下さい。話し合えば分かり合えますから!」

「問答無用!」


魔族の女戦士の大剣を躱し続けていると、獣族の女戦士もオレに片手剣を振ってきた。


「コイツの武器は取り上げてある!今のうちに倒すぞ」


そう、オレの武器は気絶している間に全て取り上げられている。今のオレは丸腰なのだ。

2人の女戦士の後ろで、弓使いと魔法使いはどうして良いか悩んでおり、傍観の構えである。


「いい加減にして下さい。これ以上やるなら僕も反撃しますよ?」

「やってみろ」

「武器も無いくせに、どうやって反撃するつもりだ!」


後ろの2人は別にして、この女戦士達はオレの中で脳筋に認定した。

オレの経験上、この手合いは人を強いか弱いかでしか判断出来ない人種だ。


オレは小さく溜息を吐くと、大きな声で2人へ宣言する。


「分かりました。手加減はしますが、だいぶ痛いですからね!」


舐められたと思ったのだろう。2人は一掃苛烈に剣を振るってくる……

嫌々ながら自分の中のギヤを入れて戦闘態勢に入ると、オレから殺気が出たのか2人は驚いた顔で距離を取った。


「遅い!」


先ずは距離が近い獣族の女戦士から。

バーニアを吹かし懐に潜り込み、そのままの勢いでお腹を軽く撫でてやった。


ドゴッと音が響き、体をくの字に折って崩れ落ちていく……そのまま倒れると万が一があるので、倒れる寸前で抱き抱えて寝かしてやる。

勿論、回復魔法もかけておくのは忘れない。


ゆっくり立ち上がって今度は魔族の女戦士へ向き直った。


「もう止めませんか?僕の実力は分かったでしょう? これ以上は弱い者虐めになる」

「黙れ!」


目の奥に怯えを滲ませながらも、女戦士は大剣を振りかぶった。

遅すぎる……これでは学園に入ったばかりのルイスに毛が生えた程度だ。


コボルトの群れごときに苦戦するパーティーと考えれば、妥当な強さなのではあろうが。


オレは先ほどと同じようにバーニアを吹かして懐に入り込むと、お腹を軽く撫でてやった。そのまま意識を失い倒れる女戦士を抱きとめ、回復魔法をかけてやる。


2人を焚き火の近くに寝かしてから、弓使いと魔法使いに向き直り口を開く。


「アナタ達はどうしますか?」


2人は青い顔をして、持っている武器を手放したのだった。






弓使いと魔法使いの2人から、先ずはオレの盗られた荷物を返してもらった。それから話してみて分かった事は、ここがアルジャナと言う多種族国家だと言う事だ。

女戦士達が何故オレをあれ程までに敵視したのかと言うと、ファーレーンと言う人族純血主義の国と軽い緊張関係にあるかららしい。


改めてオレは道に迷っただけであり、ファーレーンと言う国とは関係ないと説明させてもらった。

じゃあ一体、何処から来たのかと言う話になったのだが、迷宮の転移罠を踏んだらこの森に飛ばされたと、この1点だけは嘘を吐かせてもらった。


将来、迷宮の転移罠が迷宮の外にまで働くようになったとしたら、きっとそれはオレのせいである。

改めて人族の国フォスターク王国、エルフの国ドライアディーネ、ドワーフの国ゲヘナフレア、獣人族の国グレートフェンリル、魔族の国ティリシアをどれでも良いので知っているか?と訪ねたらお伽話で聞いた事があると返されてしまった。


なんでもこのアルジャナとファーレーンは、遠い昔に種族間での争いに疲れた者達が集まって国を作ったのが始まりなのだとか。

始まりが争いに嫌気が差して出来上がった国であり非常に温厚な国だったのだが、1つだけ大きな問題があった。


それは5種族の中で人族だけは、どの種族とも子を成す事が出来たと言う事である。

どの種族とも婚姻して子を設ける事が出来る人族は、全ての種族から受け入れられた。特に魔族同士では子が出来難い事から、魔族からは特に人気があったと言う。


そして子を成して幸せに暮らしたのは良いのだが、当然の如く徐々に人族の人口は減ってしまったのだ。それはそうだろう、人族と他種族の間に子は出来るが、その子供は必ず他種族の子供になってしまうのだから。

この事に悩んだ人族と他種族が話し合い人族と言う種を絶やさない事を目的に、人族純血主義の国ファーレーンを作ったのだそうだ。


そして時が経ち、お互いの国の成り立ちからファーレーンはアルジャナとの関係を断って、今に至ると言うのがこの地での伝承なのだとか。


「関わらなければ良いんじゃないですか?」

「それはそうなんだけど、どうしても隣にいるとね。小競り合いが絶えないんだよ」


「そうなんですか……」

「ああ、元々アルジャナもファーレンが作られる時には協力している関係で、大きな争いには発展していないけど、人族は僕らに吸収される事を恐れ、僕らはかつて庇護されていた恩を忘れた卑しい国として忌み嫌っている」


「話し合えば解決出来る気がするのですが……」

「そうだね。まるで僕達と君のようだ」


「そうですね……」

「さっきのメロウ……獣族の女戦士だけど彼女は人族との小競り合いで兄を失くしていてね……こうして憎しみだけが徐々に積み重なっていくようで僕は恐ろしくなるんだよ」


「……」

「飛ばされて来た君には関係の無い話だったね」


オレは曖昧な笑みを浮かべるしか出来なかった。





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