第289話出会い part3

289.出会い part3






森で助けたパーティの中で唯一の男性である、エルフの魔法使いカズイにフォスターク王国への道を聞いてみた。


「それでフォスターク王国への道を教えて欲しいんです」

「うーん……言い伝えの中にある国で、そもそも本当にそんな国が実在したなんて今でも信じられないくらいなんだ。そんな訳で僕には分からないよ」


「そうなんですか……」

「うん。しかしエルフの僕からするとエルフの国ドライアディーネ……ドライアド様がかつて作られた国か……行ってみたいけど、君達の世界では争いが絶えないんだろ?」


「それこそ僕達の中でもお伽話の話です。今はどの国も戦争なんてしていない。エルフの国は多少排他的ではあるけれど、お互いの国に外交官を置いて表面上は上手くやってますよ」

「そうなの?何処の国も戦争をしていないの?」


「はい、たまに言い争いにはなりますが、ガス抜きの意味合いが強いですね。実際に武力同士が衝突したなんて話は何百年も前になる筈です」

「はぁー、そんな平和な世界があるのか……正直、信じられないよ……」


カズイと話していると、獣族の女戦士メロウと魔族の女戦士ラヴィが眼を覚ました。


「くそ、何だあの野郎は、速いなんて物じゃ無かったぞ……」

「アイツ……次は絶対に殺す」


恐ろしい事を呟いているラヴィは名前負けしてると思うの……名前通りもっと愛を振りまいてほしい。


「おはようございます。一応、手加減はしたつもりですが痛い所はありますか?言ってくれれば回復魔法をかけますよ」


2人はぎょっとした顔でオレを見ると、一斉に飛びのいた。


「お前!カズイ、危険だ、下がれ!」

「今度は確実に殺す!」


2人の武器はリースと言う弓遣いの女性が持っている。

当面の危険は無いので、オレは肩を竦めてカズイに話しかけた。


「カズイさん、フォスターク王国までの道をこの2人も知らないんですか?」

「そうだね。僕達は幼馴染なんだけど、きっと知らないと思うよ。勉強は専ら僕の役目だったから」


「そうなんですか……どうした物か……」


オレ達が話していると、リースから武器を奪い取ったメロウとラヴィが再び武器を構えて襲い掛かってくる。


「懲りない人達ですね……」

「うるさい!さっきのはマグレだ!」

「殺してやる」


ここまでの脳筋も珍しい……もうこれは動物と同じで上下を叩き込まないといけないのだろう。

溜息を1つ吐いて、面倒くさそうに言い放った。


「分かりました。仕方が無いから、少しだけ稽古をつけてあげますよ」


オレは武器は抜かずに魔力武器(柔らか仕様)を左手に作り出すと、バーニアを吹かして2人に吶喊した。

バーニアの動きに2人は全く対応出来ていない。ちょっと近づいて横に吹かせば簡単にオレを見失った。


「はい、1回死にました」

「くそ、ちょこまかと!」


そうして30分が過ぎた頃。


「はい、メロウさんは34回死亡。ラヴィさんは41回です」

「ハァ、ハァ、う、うるせぇ、ハァ、ハァ……」

「こ、ころ、ハァ、す、ハァ、ハァ……」


この期に及んで戦意を失わないのは才能だ。普通、これだけ負けると折れるのに……ある意味、とても図太い。


「じゃあ、そろそろちょっとだけ本気を見せますよー、危ないから離れててください」

「ハァ、ハァ、嘘つけ、ハァ……」

「ハァ、ハァ、絶対、ハァ、ハァ、殺す……」


この2人の心を完全に折るために、魔力武器(柔らか仕様)を消して左手で短剣を抜き、近くの大樹へ向かって走っていく。

そのままウィンドバレット(魔物用)を10個纏うと、直ぐに大樹の周りに漂わせるべく撃ち込んでやった……全部が所定の場所に到着したのを確認し、オレは大声で叫ぶ!


「行けーー!」


一斉にウィンドバレット10個が大樹を抉り、一瞬で幹は穴だらけになっている。

ゆっくりと倒れる大樹を見ながら魔力武器(大剣)を発動させ大きく振りかぶった……一閃、一閃、一閃。


大樹の幹はバラバラになって轟音を響かせながら倒れていく。


オレはそのまま振り返り殺気を込めて2人を睨んでやると、メロウとラヴィは眼を見開いて固まっていた……


ゆっくり歩きながら近づいて行き、もう数歩もすれば2人の目の前だ……さっきまで不適な態度を取っていた2人だが、今は眼の端に涙を溜め既に武器など取り落としてしまっている。


「い、いや、殺さないで……」

「や、やめろ、やめてくれ……」


2人の懇願に、何も答えずに目の前まで近づいた瞬間……「わっ!!」と大きな声で脅かしてやった。

殺されると思ったのだろう。2人は泡を吹いて気絶してしまったが、きっと良いクスリになった筈である。






何故か分からないがオレは今、魚に串を打ち5人分の朝食を作っている。その横でメロウが鼻の孔を大きくしながら、焼き魚の匂いを嗅いでいた。


「涎を付けないで下さいよ」

「わ、分かってる……」


恥ずかしそうに頬を染め、また鼻の孔を大きくしているのは、猫の獣人だからなのだろうか。

ネロはそこまで魚に執着していなかった気がするが……


「よーし、そろそろ最初に火にかけたヤツは食べれますよ。はい、カズイさん。はい、リースさん。はい、ラヴィさん……これは一番大きいヤツですよ。はい、メロウさん」

「やったー。ありがとう、アルド!」


こいつはチョロイぜ。ラヴィはオレを怖がっているが、メロウは昨晩の事は既に忘れているっぽい。

ネロもそうだが獣人族は種族的に、あまり根に持ったりはしないような気がする。


「美味い!」「美味しい……魚を焼いただけなのに……」「美味しいですね」「……」


これは最初がメロウ、次がリース、その次がカズイ、最後がラヴィの言葉だ。

ラヴィは模擬戦?の後からオレをチラチラ見て、目が合うと下を向いてしまう。


どうやら最後のウィンドバレットと魔力武器の攻撃はラヴィを怖がらせるのに充分だったらしく、話しかけても無言のまま俯いてしまうのだ。


「そう言えば4人はこんな所で何をしていたんだんですか?」

「僕らは冒険者なんだ。今回は依頼でコボルトの調査に来てたんだよ」


「コボルトの調査ですか?」

「ああ、コボルトは数が増えると上位種が生まれるからね。群れの規模の調査をしてたんだけど、風向きが急に変わって見つかっちゃったんだよ」


「なるほど。コボルトは鼻が利きますからね」

「そうそう。アルドが助けてくれなかったら、僕達ではあの数は厳しかったと思う。助かったよ、本当にありがとう」


「いえ、僕も人を探してましたから。カズイさん達に会えて本当に良かったです」

「そう言えば、アルドが転移事故に巻き込まれたのは聞いたけど、どれぐらいこの”コボルトの森”で彷徨ってたの?」


「うーん、たぶん20日ぐらいだと思います」

「20日?!」「嘘だろ?」「凄い……」「……」


「最初は荒野に飛ばされたんですが、遠くに森が見えてこっちに移動してきたんです」

「荒野……もしかしてスライムの丘かな?」


「スライムの丘?」

「これも昔話なんだけど、ずっと昔にスライムが何キロメードにも大きくなって森を包み込んだらしいんだよ。世界の終わりだと言って皆で逃げだしたんだけど、いつまで経ってもスライムはやってこない。不審に思ってスライムを見に行ったら影も形も無くなった代わりに、森が荒野に変わってたそうだよ」


「スライム……主か……」(もしかしてオレは過去にスライムが壊したマナスポットに飛ばされたのか?あのクソ蝶、オレがスライムの主を倒したから、過去にスライムの被害があった場所に飛ばしたってのか……なんて意地の悪さだ!)

「何?虫?」


「いえ、何でも無いです。そこは一面の荒野で狼の魔物やコボルト、サソリの魔物なんかがいました」

「サソリの魔物がいたならスライムの丘で間違い無いよ。良く無事だったね。いくらアルドが強くてもあそこは休む場所が限られているから、道を知ってる者と一緒じゃないと越えられないって言われてるのに……」


「そうなんですか、きっと運が良かったんですね」(空間蹴りで一気に抜けて正解だったみたいだ)

「うん、そうだね」


「因みにカズイさん達はこれで依頼は終わったんですか?」

「そうだね。コボルトの調査も終わったし、ついでにアルドが間引きもしてくれたから、今回の依頼は凄く儲かるはずだよ」


こいつ……オレが気絶してる間にちゃっかりコボルトの討伐証明を採取してたのか。本当にしっかりしてる……

オレが呆れた顔でカズイを見ると知らん顔で視線を逸らされてしまった。


「大丈夫ですよ、僕は何も言いません。その代わりカズイさん達の住んでいる街まで連れて行ってくれませか?」

「それは構わないけど……」


「どうかしました?問題があるんですか?」

「うーん、僕達の住むベージェの街は、アルジャナの中でも一番ファーレーンに近いんだ。当然アルジャナの中でも人族とのいざこざが一番多い。僕はそうでもないけどメロウの件を見て貰っても分かる通り、人族はあまり歓迎されないんだよ」


オレがメロウを見るとヘタな口笛を吹いて誤魔化している。どうしようか考えているとラヴィが口を開いた。


「な、ならウチにくれば良い……ウチの母は人族だから多少は風当りが弱いと思う……」


え?昨晩は口を開けば”殺す”って言ってたのに……何なの?もしかして家に連れ込んでから殺すつもりなの?


「あ、そうか。ラヴィの母さんは人族だったね。それなら酷い事はされないと思うよ」


カズイまで賛成するとか……オレはクモの巣に自分からかかりに行く、バカな蝶の気持ちを思いながら頷いたのだった。






オレは今、朝食を摂り終えた後、カズイ達と一緒にベージェの街へ向かって歩いている所だ。


「でも昨日のアルドの魔法凄かったね。僕も無詠唱派なんだけど、あんな魔法はとても無理だよ」

「あれはウィンドバレットって言うんです。風の魔法なので威力の調節が簡単で使い易いんですよ」


「なるほど……風か。当然ながら目を凝らさないと見えないし凄く実戦向きな魔法だね」

「はい、僕の一番得意な魔法ですよ」


「ねぇねぇ、良かったら僕にもその風魔法を、教えてくれないかな?」

「カズイさんにウィンドバレットを?」


「うん。あの魔法を使えれば、僕も一段上の魔法使いに成れると思うんだ」

「まぁ、ベージェまでの道中に教えるぐらいなら……」


「やったー。ありがとう、アルド」


こうしてベージェの街へ向かって2泊3日の旅が始まったのだった。






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