第158話盗賊
158.盗賊
地上に出て次の日の朝。
エル達と別れて、オレはジョー達3人とボーグの計5人で10階層を目指すべく迷宮へと潜った。
この時点でオレが持ってきた保存食の残りはフランクフルト:2食分、ドライ野菜:少々、ハチミツ漬け:1個、ジャム:全部合計して器半個分、しか残っていない。
これだと今日1日で食べきってしまう。
オレの中の悪魔が囁く……5人で1日分なら自分だけで食べたら5日分じゃね?
オレは頭を振って邪念を振り払う。
ダメだ。ジョー達は信用できる仲間だし、ボーグには色々と助けてもらっている。
オレは自分の欲望と戦いながら迷宮を潜って行く。
結局、オレが料理しているのを横でガン見され、1人で食べる根性も無く……哀れ保存食は1日で食べ尽くされた。
全員から保存食の美味さじゃない。とお褒めの言葉を頂き、出来れば普段の食事でも食べたい。と遠回しにお願いされてしまった。
オレは、これも商売になるかも……と思い、考えておく。と曖昧な返事を返しておいた。
そこからは干し肉、黒パン地獄が始まってしまった。
10階層までの移動に2日、帰りに2日、剥ぎ取りに2日、の計6日の内5日間、ずーーーーーーっと干し肉、黒パンのみかと絶望していたのだが……
ジョー達に隠れてアオ経由でエルに話すと、剥ぎ取りの2日間の間だけは地竜の肉を食べても良いと皆を説得してくれたのだ。
ドラゴンステーキ!マンガ肉に匹敵するファンタジーを代表する肉だ!
オレ達5人は急いで10階層に向かいひたすらに地竜の肉を食べた。
その姿は生者に群がる亡者の如しだったであろう。
皮の剥ぎ取りを終わり肉を穴に放り込んだ後には、地竜の白骨だけが残り、怪しさ100%だったのはご愛敬。
どうやら内臓も薬になるらしく、高値で売れるようだ。
最後の穴経由での血と肉を送り、魔力枯渇になった時、ジョーが話かけてきた。
「アルド、魔力を回復したらお前はボーグと王都に戻ってくれ」
「ジョー達はどうするんだ?」
「冒険者に指示して王都まで素材を運ばせる。お前等の戦利品を盗む度胸のあるヤツはいないと思うが、念の為に見張りもしなきゃならん」
「そうか……オレもいた方が良いんじゃないか?」
「地竜を討伐したドラゴンスレイヤーにそんな事はさせられねぇよ。雑事はオレ達に任せて王都で休んでくれ」
「そうは言ってもな……」
「ドラゴンアーマーの対価だと、これでも全然追いつかねぇ」
オレは肩を竦めてジョーへと話しかける。
「分かった。頼みます」
「おう。任せとけ」
そうしてオレは魔力を回復させてから2日かけてボーグと一緒に地上へと戻った。
「アルド、オレは皮と一緒に帰る。お前は先に行ってくれ」
こちらを見もせずに皮を弄りながらボーグが話しかけてくる。
「分かった。先に帰らせて貰うよ」
ボーグは手を上げて返事をするが、皮を弄って最後までこちらを振り返る事は無かった。
人生で地竜の皮を触るのは2回目だと言っていたが……職人としての血が騒ぐのだろう。
賢狼の森を抜けるのに1時間、そこから王都まで2時間。
ゆっくり帰っても夕方には王都へ着けるだろう。戻ったらまずは風呂に入りたい。
熱めのお湯でゆっくりと入ろう。日本酒とほっけがあれば最高なんだが……
そんな事を考えながら王都までの道のりをのんびりと歩いていく。
途中、爪牙の迷宮と王都を往復している馬車、数台とすれ違った。
今はまだ8階層辺りの素材を運んでいるようだが明日か明後日には地竜の物も運ばれ始めるはずだ。
久しぶりの地上を何気なく歩いていると、嫌な視線を感じた。使徒になってから何となく人の悪意に敏感になった気がする。
瘴気と関係があるのだろうか……謎だ。
念の為に1000メードの範囲ソナーを打ってみる。
ここから300メード程前方の左側が森になっていて、そこに15人が隠れて街道を窺っていた。
オレは胡散臭い物を感じたが今はまだ何もしていない。
オレに未来予知の能力でもあれば先に倒しても良いんだが、万が一、間違いだった場合にオレが盗賊になってしまう。
使徒から盗賊へジョブチェンジしたら後世で盗賊王と呼ばれて笑い者になる未来しか見えねぇ。
開き直って”盗賊王にオレはなる!”とか言っても良いのだが今は自重したい。
しょうがないので(仮)盗賊が隠れている場所の近くで昼食を摂る事にした。
メニューは干し肉と黒パン。悪魔のメニューである。
しかし賢狼の森の途中でオレンの実と食べられる野草を摘んできたのだ。
オレはリュックの中からカップを取り出し、干し肉と野草のスープを作りだした。
15分程、煮込んでいると良い匂いが漂ってくる。干し肉のスープが出来上がると、黒パンをスープに付けて柔らかくしてから食べ始めた。
なんとか食べられるレベルだと自分の料理を採点していると、ミノタウロスとティグリスの素材を乗せた馬車が王都へと走っていく。
(仮)盗賊に神経を使っていると、どうやら襲うつもりらしく慌ただしく動き始めた。
オレは残りのスープと黒パンを口に放り込んで、カップやら何やらを片付け、いつでも飛び出せる様に身構える。
どうやって馬車を止めるつもりか気になっていたが、土の中にロープを浅く埋め馬が通る寸前に横から引っ張って足を駆ける簡単な罠が仕込まれていた。
馬は見事に転び荷台と一緒に、ひっくり返ってしまう。
その際に護衛と思われる冒険者も1人が荷台に巻き込まれていた。
オレはマズイと思い空間蹴りとバーニアを駆使してに冒険者へと駆けつけ、回復魔法をかけた。念の為に回復薬も飲ませておく。
すぐに森から盗賊が15人、武器を構えて近づいて来る。こちらは怪我をした御者が1人、護衛の冒険者が2人、勝負にならない。
溜息を一つだけ吐く。それから荷馬車と盗賊の間へ歩み出て、これ以上盗賊を近づけない様に立ち塞がった。
「何だお前等は」
オレがそう言うと、ボスらしき男が前に出て来てオレを睨みつけてくる。
「弁当を食ってたガキか……テメェの飯の匂いでこっちは腹が減ってしょうがねぇんだ。こんな所で飯を食ってた自分を恨め。可哀そうだが見られちまったからにはお前にも死んでもらう」
ボスが話している間にも盗賊は用心深く馬車を包囲していく。
オレはウィンドバレット(殺傷型)を8個纏って盗賊に対峙した。流石に殺意を向けてくる相手に(非殺傷)は使わない。
「ガキ。テメェ、魔法使いか……」
盗賊はオレを警戒してくるが、無視してウィンドバレットを撃ち込んでやった。
狙いは足。動けなくしてやれば、こいつら程度どうとでもなる。
おかわり……おかわり……最終的に1人2発。両方の太腿にウィンドバレットを撃ち込んで盗賊を制圧した。
戦闘時間、僅か1分30秒。
まずは冒険者と御者に回復魔法をかけてやり、無事を確認できた所で馬も回復してやった。
それから荷車を起こして荷物を積み直してから盗賊へ声をかける。
「助けて欲しいか?」
殆どの盗賊はかなり血を流し、青い顔をしながら助けを乞うてきた。
「分かった。但し条件がある。オレが助けるのは人を殺してないヤツだけだ」
オレの一言で盗賊の中に沈黙が訪れる。
「さあ、助けて欲しいんだろ?自分が命乞いをするんだ。そいつは当然、命乞いをしてきたヤツを助けてるはずだ。人殺しなんてしてる訳がない」
盗賊を一瞥すると武器を握り締めているヤツが殆どだ。
「いないのか?」
オレがそう声を上げると一斉に足を引きずりながらも武器を持って襲い掛かってきた。
バーニアを軽く吹かして一瞬で5メード程、距離を空ける。
バーニアを使ったオレの動きは盗賊程度には瞬間移動したように見えたはずだ。
オレは有無を言わずにウィンドバレット(魔物用)を盗賊全員の足に撃ち込んでやった。
(魔物用)の威力は凄まじく足は弾け飛び、そのショックで即死する者、例え生き延びても出血で直ぐに息絶えて行く。
戦闘の後では15人全員が等しく両足を失い躯を晒していた。
「さて、冒険者さん」
「ひゃい!」
2人いる冒険者の内、年配の方は怯えてしまって話が出来る様子では無い。
さき程、回復魔法をかけた20歳ぐらいの女性の冒険者に声をかけた。
「盗賊を始末した場合はどうすれば良いのでしょうか?」
「そ、それは門番に報告して衛兵に現場を確認して貰う必要があります……」
「そうですか」
「はい……」
「申し訳ないのですが門番に話をして衛兵を呼んできてもらえませんか?」
「は、はい。分かりました」
「ありがとうございます」
オレから逃げるかの様に御者と2人の冒険者は王都へと走り去っていく。
怖がらせてしまったようだ……もう少し血が出ない殺し方もあったのだが、手に感触が残るは流石に嫌だ……
しょうがない。と思い再び休憩を取っていると王都の方から2騎の騎兵がやってきた。
「お前か。盗賊を倒したと言うのは……まだ子供じゃないか……」
「あ、お前はマリク副団長にやられた修羅か?」
「知い合いか?」
「騎士団に殴り込みをかけてきたブルーリングの修羅の1人だよ」
「シレア団長がやられたってヤツか?」
「そうそう。何とかマリク副団長が辛勝したってヤツ」
「嘘だろ……まだ子供だぞ?」
「マリク副団長の話では手加減されての模擬戦だったらしいぞ」
「……」
「まあ、それは良い。君。名前は何だったか?」
騎士の1人がオレを知っていたみたいだ。
「アルドです」
「アルド君、状況を教えてくれるかな?」
「はい。分かりました」
オレは盗賊を待ち伏せしてた事は言わず、昼食を食べていたら偶然、現場に居合わせたと伝えた。
「そうか、通報に来た冒険者の証言とも一致するな……」
「そうですか。じゃあ僕はこれで自由ですか?」
「まあ、そうなるが……装備は持って行かないのか?」
「装備?」
「盗賊の持ち物は倒した者が権利を持つんだ」
「そうなんですか……」
オレは盗賊を見るが下半身の装備はオレのウィンドバレットでボロボロだ。
武器も見る限り大した物は持ってない。
一流の武器や防具を持っているなら盗賊に身をやつす事など無いだろう。
「僕はいりません。よければお譲りします」
「要らないのか?剣や武器だけでも金貨の1枚や2枚にはなるだろうに……」
「騎士団の皆さんの懇親会にでも充てて下さい」
「そうか?何か悪いな」
そう言いながら騎士は盗賊達の財布と金になりそうな装備を物色し始める。
「では僕はこれで失礼します」
「ああ、気をつけてな」
オレが離れると後ろで”おい、マズイだろ””良いんだよ。アイツは貴族だ。金貨程度いらないんだとよ”と声が聞こえた。
要らない訳では無いが、盗賊とは言え殺してから剥ぎ取るのはちょっと……
どっちにしても盗賊は処分しなければ次は地竜の素材を狙ったはずだ。
きっとアイツ等はオレが許しても同じ事を続けただろう。そうでなくとも既に犠牲者がいるのだ。許して良い物でも無い。
オレは若干の憂鬱な気分を抱えて王都への道のりを進んだ。
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