第157話掃討戦

157.掃討戦




地竜を倒した翌日。本日から掃討戦だ。早めに掃除しないと迷宮から魔物が溢れてしまう。

多少であれば問題無いだろうが、溢れる量によっては近隣に影響が大き過ぎる。


特にここは王都に近い。ヘタに騒ぎを起こして注目を浴びるのはマズイ。


「では掃討戦を始めましょうか。さっき決めた通り、アルド君とラフィーナは先行して8階層から掃討してください」

「分かったわ」

「はい」


「エルファス君とアシェラさんは私と9階層をシラミ潰しで掃除して行きましょう」

「「はい」」


実は今日の朝の打合せでパーティを2つに分ける事を提案してみた。

ミノタウロスにとってアシェラは天敵みたいな物だ。


麻痺も睡眠も効く上に魔法拳の一撃で倒せる。

しかしオレもエルもミノタウロスを相手にするのであれば超振動を使わなければいけないが、ミノタウロスに超振動はオーバーキルなのだ。


結果、9階層の掃討はアシェラに任せて、エルとナーガさんはフォローと荷物運びを頑張ってもらう。

オレと母さんは先に8階層へ向かいティグリス以下の雑魚を殲滅していく。


合流は掃討を終了後に9階層~8階層の階段で集合だ。

実はナーガさんはパーティを割る事に最後まで難色を示していたが、オレとエルが”アオ経由で連絡が出来る”事を伝えるとアッサリと許して貰えた。


オレとエルが別パーティになったのもそれが大きい。





早速、母さんと2人で先行させてもらい、8階層へと向かっていく。


途中に2度、ミノタウロスに遭遇したが時間はかかったが超振動は使わずに眼や耳を狙ったり、リアクティブアーマーで倒していった。

母さんは基本、オレのサポートをしていたが一度だけウィンドバレットをミノタウロスの口の中に撃ち込み即死させていた。


氷結の魔女の恐ろしさを実感しながら8階層へと進んでいく。

迷宮が解放されたからか魔物の数は行きよりもだいぶ少ない。罠も無く敵も少なかったので2時間程で8階層への階段へ辿り着いた。


「さて、アル。どっちが沢山倒すか勝負よ!」

「そんな事しなくても……」


「何よ。負けるのが怖いの?」


カッチーーーン。氷結さんはオレが血濡れの修羅と呼ばれ、使徒であるって事を忘れているようだ……


「分かりました。ただ離れるのは危ないので一緒に行動しましょう」

「分かったわ」


そこからオレが前を歩き母さんが後ろを歩いていく。

たまに局所ソナーを使い敵を見つけて倒していくのだが……オレが走り出すと後ろからウィンドバレットが飛んできて先に倒してしまうのだ。


今の所、オレ:0匹 氷結さん:7匹で非常にマズイ……

オレもウィンドバレットを撃とうとしたのだが単純な魔法戦では氷結さんに勝てない。


どうした物かと悩んで後ろを見るとニチャっと笑っている。

クソッ。きっと地竜戦で戦力外通告したのを根に持ってるんだ……


結局、昼食までの成績はオレ:2匹 氷結さん:18匹だった。


「スミマセンデシタ」


オレの敗北宣言が迷宮に響く。


「今回はたまたま地竜で相性が悪かっただけなんだから。アルはもっと私を敬いなさい」


ドヤ顔でこんな事をのたまいやがる……


「ハイ。モウシワケゴザイマセンデシタ」


悔しさのせいでカタコトの人族語になってしまう。ファリステアでも、もう少しマシな人族語を話すはずだ。

気持ちを切り替えて、朝に作っておいたホットドッグを食べながら昼からの事を相談した。


「母様、2時間もあれば8階層は掃討できそうですが、どうしましょうか?」

「ダメよ。時間が余ったなら集合場所で休めば良いわ」


「そうですか」

「アル。掃討戦よ。無理は要らないの」


「そうでした。分かりました」

「本来、パーティを2つに割る必要も無いのだけど、アルに思い知らせたかったから賛成したのよー」


またニチャ顔を……くぅぅ。殴りたいアナタのその笑顔!





そうして順調に全ての魔物を倒して迷宮から出たのは2日後の夜だった。


「お疲れ様でした」


迷宮を出ると30人程の冒険者がおり、代表でジョーがオレ達に挨拶をする。


「「「「「ありがとう」」」」」


掃討戦で倒した魔物は迷宮に食われる事は無い。これから倒してある魔物の素材を回収するのだ。

そうは言ってもウィンドウルフやボアなどは魔石を取るだけで残りは放置なのだが。


逆にミノタウロスなどは皮が良い防具になるので皮、角、爪と回収する物が多い。

地竜など全て持って行きたいのだが肉は日持ちが効かないので泣く泣く捨てているのだ。


オレ達が出てきた事で掃討が終わった事になる。撃ち洩らしがいるかもしれないが僅かのはずだ。回収役で雇った冒険者が迷宮へ入っていく。

人の流れを見ていると後ろから軽くケツを叩かれた。


すぐに振り返ると防具屋のボーグが呆れ顔で立っている。


「アルド……オレは地竜は危ないから止めろって言ったよな?」

「ボーグ!何でここに?」


「あ?お前の間抜け面を見にきてやったんだよ」


オレとボーグの会話にジョーが口を挟んできた。


「4日前、迷宮に魔物が吸収されなくなって、解放されたのが分かってな。すぐに王都へ人の手配に戻って回収班を編成してたんだ。そしたら地竜討伐の噂を聞きつけてボーグのオッサンが自分も連れてけって言い出して……ダメだって言っても聞かなくてな……」


ボーグが恥ずかしそうにしてるがオッサンのデレとか誰得なんだよ!


「そ、そうか。心配させたみたいで悪い」

「けっ。無事なら良いんだよ……」


オレは先日、話してた事を思い出した。


「そう言えば前にワイバーンで頼んだみたいに地竜の皮とウロコで全員の防具を作って貰う事は出来るか?」

「ん。そりゃ出来るがワイバーンと違って地竜はだいぶデカイからなぁ、皮もウロコもかなり余る」


「ああ。全員ってのはオレ達5人分とジョー達3人を入れて8人分だ。出来ればアシェラの手甲も入れてくれると嬉しい」

「8人分と手甲1つか。バーニアだかと盾の改造も含むのか?」


「ああ、それはオレ、エル、アシェラに付けて欲しい」

「それなら牙も少し貰っていいか?」


「大丈夫だ」

「それと自分で解体したい。地竜までの道案内と運搬、食事はそっち持ちだ」


「分かった」

「今日は出てきたばっかりだからな。明日の朝から潜るので良いか?」


「分かった」


それだけ話すとボーグは自分の道具を準備しだした。

道具を持って来るとか……最初からそのつもりだっただろ……


オレは呆れた顔をボーグに向けると頬を赤くして顔を背けてしまう。

だからオッサンのデレは誰得なんだと……


微妙な空気の中ジョー達3人が話しかけてきた。


「お、おい。オレ達の分の鎧って……」

「お?要らなかったか?」


「い、いや。そりゃドラゴンアーマーだろ?欲しいに決まってるが……」

「なら良いじゃないか」


「良いじゃないかって……お前……」


ジョー達3人が呆れた顔をしているとナーガさんが話しかけていく。


「ジョグナさん。迷宮の中で話し合って決めたんです。アルド君、エルファス君、アシェラさんの3人が全員の分をって……」


ジョー達までボーグみたいに恥ずかしそうに照れてやがる……

だからオッサンのでれ…………


もう良い。今日はオッサンの日だ。オッサンデレ日で良い。


「オレとエルとアシェラは大体の希望を話してあるので各自、ボーグに希望を伝えて置いて下さい。希望に合わない物が出来てもオレは責任持てませんよー」


早速、ジョー達がボーグへ希望を伝えている。眼をキラキラさせて子供のようだ。

周りのギャラリーはジョー達がドラゴンアーマを作って貰える事に驚きと少しの妬みを見せていた。


そんな中、母さんは珍しく悩んでいるようだ。


「アル。アンタこの前、空間蹴りの魔道具を作ったって言って無かった?」

「ああ。試作品は作りましたよ」


オレの言葉にナーガさん、ジョー達3人がこれ以上無い程に食いついてきた。


「空間蹴りの魔道具があるのか?」

「まだ試作段階で魔力消費がでかすぎて、使い物にならないけどな」


4人はあからさまに気落ちしている。


「アル、改良したのを作って私のドラゴンアーマーに付けて頂戴」

「それは良いですが……ドラゴンアーマー?ローブじゃ無くて?」


「ええ。空間蹴りが使えるならレザーアーマーの方が良いじゃない」

「それはそうですが……すぐには無理ですよ?ローザには給湯器の改良を頼んでますから」


「じゃあアルが改良すれば良いじゃない」

「僕ですか?」


「ええ。出来るでしょ?」

「うーん。魔法陣はだいたい習いましたけど……」


「じゃあ、お願いね」

「……分かりました」


何か無茶ぶりされた感がすごいが……少し興味があるのも本当だ。

確かにそろそろ自分で魔道具を触ってみたかったんだよな。


ジョーやナーガさんから謎の圧がすごい。


「母様の改造に成功したら皆さんの分もやりますから……」


やっとこれで少し落ち着ける。しかし明日からトンボ返りで10階層だ。オレはどうせなら試してみたい事があった。


「エル。明日の朝、王都へ帰ってくれないか?」

「それは良いですが……ボーグの皮剥ぎの護衛はどうするんですか?」


「掃討も終わったからオレだけでも良いんじゃないか?」

「それは、そうかもしれませんが……」


「実は試したい事があるんだ」

「試したい事?」


「ああ、地竜の肉はかなりの高級食材だろ?」

「はい。でも1週間も持たないので僕達も持てる分しか持って来てないですよね?」


「エル、オレ達には”穴”がある」

「あ!運べるんだ!」


「バカ、声が大きい」

「す、すいません……」


「一応、肉は持って来てるし最低限の良い訳は出来る。明日の朝一番で潜れば地竜にオレ達が一番乗りだ」

「ちょっと待って下さい」


「どうした?」

「兄さま、MAXまで穴に入れる気ですか?」


「まあ、儲かるのが分かってるんだから入れれるだけ入れたいとは思う」

「そうなると兄さまの護衛が必要です……」


「そうか、魔力枯渇か……誰か頼めますか?」


オレは母さんとアシェラの顔を見たが眼を逸らされてしまった。

まあ、母さんやアシェラじゃなくても、また10階層まで潜って地竜の剥ぎ取りは流石に嫌だろう。


「しょうがありませんね。私が………」

「ボクがやる」


ナーガさんが手を上げようとするとアシェラが被せてきた。


「アシェラ、良いのか?さっきまで潜りたくなさそうだったが……」

「良い。アルドの”婚約者”のボクが護衛する」


「……なんで”婚約者”を強調するんだ…お前……まさかナーガさんにヤキモ…グホッ……」


いきなり麻痺付きの拳を腹に撃ち込まれた。

顔を赤くして見た目はラブコメだが、やってる事はどこかの世紀末覇者だ。


これ以上、言うとオレの命がヤバイ。ここは”沈黙は金”で行かないと……





オレ達がワイワイやってるとジョー達3人がオレの護衛を申し出てきた。


「ドラゴンアーマーを作って貰うんだ。オレ達が護衛でも何でもするぜ」


ジョーとゴド、確かジール……3人なら護衛を任せても大丈夫だと思うのだが。

オレは母さんとナーガさんに判断を仰ぐ。


「どうしましょうか?」


ナーガさんは判断を迷っているが母さんは迷い無く話し出した。


「アルはどうなの?アナタ達の話なんだからアナタ達が信じられるかどうかよ」


オレは少し甘えていたかもしれない。護衛を頼めば”穴”は見られる。ジョー達を信じられるかどうかはオレ達、自身の判断だ。


「エル、アシェラ。オレはジョー達を信じたい。どうだろう?」


エルもアシェラも少し呆れながらも笑顔で頷いてくれる。


「ジョー、ゴド、ジール、頼めるか?」

「任せろ」

「おお」

「掃討後の護衛ぐらいなら何とかしてやるよ」


オレは3人に”穴”の事だけ話し、護衛をお願いする事にした。


「………って事で”穴”を利用して地竜の肉を運びたい」

「マジかよ……お前等、本当に人か?オレは創生神話に出て来る”精霊の使い”が実はお前でしたって言われても信じるぜ……」


ジョーが変な所で正解を引きやがった。表情に出ない様に気を付けながら軽口を返す。


「”精霊の使い”なら崇めてくれるのか?」

「へっ。お前が本当の精霊の使いでも崇める訳ねぇだろ。オレはソイツの中身でしか態度は変えねぇ」


こいつは……ジョーはいつもオレの欲しい答えをくれる。


「じゃあ10階層での護衛は頼む。アシェラ、そう言う事でジョーと行ってくるよ。ありがとな」

「うん。分かった」


「……ジョーなら良いのか…さっきのは、やっぱりやきm……」


アシェラの後ろにウィンドバレット(非殺傷)が10個浮いている。


「何でも無い!待ってくれ、アシェラ。オレが愛してるのはお前だけだ!」


周りに人がいる中でのこれは非常に恥ずかしい。しかしオレは今、生死の境にいる……ここはなりふり構っていられない。

アシェラは顔を赤くして母さんの後ろに隠れてしまった。態度と見た目は乙女なのにウィンドバレットだけは待機中になってるの止めてくれませんかね?


周りもオレが本気でビビっているのが分かる様で……


「アイツの婚約者が最強ってマジだったのかよ……」

「婚約者も修羅だっけ?」

「確か素手でマッドベアを殴り殺したって聞いたぞ……」

「オレは魔法も近接もいける、ブルーリングの秘密兵器って聞いたが……」


皆さん、全部本当です。只、これ以上刺激するとオレが本当に死んでしまいます。




そこからは、惚れた弱みなのか……ひたすらアシェラの機嫌を取らされた。

最終的にはハチミツ漬け1個を捧げる事で機嫌を取る事に成功する。何故かアシェラ、母さん、ナーガさんの3人で食べていたが……



こうしてバタバタしたが素材狩りで10階層に向かう準備が完了した。

もう危険は無いと思うが非戦闘員のボーグもいる事だ。気を引き締めて行こうと思う。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る