第252話卒業式 part2

252.卒業式 part2






卒業式の会場へ移動するため人並に流されて行くと、3年生の演習場へと辿り着いた。

演習場の正面には普段は無いお立ち台が置いてあり、今日のために準備が進められてきたのだろう。


入学式と同じ様にそれぞれが好きな場所に立ち、式の最初のプログラムである校長の話が始まるのを待っていると、2人の騎士に護衛された壮年の男が壇上へと上がって来た。

男の見た目はどちらかと言えば文官に近く、少し大雑把そうではあるが出来る男の雰囲気を漂わせている。


「カムル=ロワ=フォスタークだ。諸君には、この国の第2王子と言った方が通りが良いかな?」


いきなり王子様の登場である……どうやら学園側もいきなりの事だったらしく、先生達を含めた全員がこのサプライズにフリーズしていた。


「驚かしてすまない。今日を逃すと次にいつ会えるか分からない者がいてね……」


王族が謝罪の言葉を述べた事にざわめきが起こるが、あまりの異例さに全員がこの場の雰囲気に飲まれていた。


「では、先ずは祝辞を述べさせてもらおう。諸君、卒業おめでとう……………………」


原因である王子の祝辞は5分ほど続き、内容は酷く在り来たりな物であった。


「…………諸君のこれからに期待する」


そう言って王子は壇上から降りていくが、恐らくは次の校長の話を聞いていた者はいないのでは無いだろうか……

校長の次には我らがブルーリングの跡継ぎ、騎士学科代表としてエルが、その次には魔法学科代表としてオリビアが挨拶をしていた。


商業科は主席のマールかとも思ったが、2年からの編入と言う事で代表は取れなかったそうだ。

マールが貴族なら代表が取れたのだろう、と思うのは、オレの心が汚れ過ぎなのだろうか……


何とか卒業式のプログラムもこなしていき、最後にこの国の宰相であり、ガイアスとティファの祖父の挨拶でやっと終了となる。

宰相の挨拶は流石、1国の宰相の挨拶だ、と感動してしまうほどであった……真面目な話を芯に冗談を交えつつ、聴衆を飽きさせない工夫を随所に散りばめた名演説だった。


色々と想定外のアクシデントもあったが、何とか大きな問題も無く?少しの脱力感と共に、オレ達の卒業式は幕を閉じたのだった。






卒業式が終わり、生徒がそれぞれの教室に戻って行く中、来賓としてやってきた母さん達の元へ、エルと一緒にやってくる。


「母様、装備を……」

「何よ、もっと何かあるでしょうに……アルは感動が足りないわよ」


オレは何を期待していたのか分からない母さんから、ドラゴンアーマーと短剣が入っている袋を渡された。


「父様、母様、王子が来たのは想定外です……このまま模擬戦を初めて大丈夫なんでしょうか?」

「アル……殿下の前での帯剣は本当にマズイ。殿下が帰るか、許しがある場合以外は、この計画は中止だよ」


「やっぱり……分かりました、父様」

「しかし、カムル殿下が何故、学園の卒業式なんかに……用も無いのに動くような人では無いんだけれど……」


「会いたい人がいるような事を、言っていませんでしたか?」

「ここまで無理を通してまで会いたい人、か……少しお尻がムズムズしてきたよ」


凄く嫌な予感がする……使徒の件が漏れるとしたら、サンドラ伯爵かエルフしかない。

サンドラ伯爵は信用できる人であるし、エルフはアドを抑えている今、絶対に裏切らないと言える。


皆も一抹の不安は抱えているようだが、こればっかりは考えてもどうしようもない……気持ちを切り替えて父さんと話していると、突然辺りが騒がしくなってきた。

先程からの嫌な予感がどんどん膨らんでくる……そして、人の海が割れて現れたのは……先程からの話題の中心、カムル王子が笑顔でこちらに歩いてきたのだった。


父さん、母さんを先頭に、オレとエルが続く。その後ろにクララ、アシェラ、ライラと並び、ブルーリング家全員で跪いた。


「ヨシュア=フォン=ブルーリング、久しぶりだな。私の結婚式以来だったか?」

「はっ、ご無沙汰しております。何分ブルーリングに引っ込んでいた物で……カムル殿下におきましては、ご健勝のことと思われます」


「世辞は良い。実は卿に頼みがあってな」

「頼み、ですか?」


顔を上げる事を許されていないオレ達に、カムル王子の表情は窺い知れないが、恐らくは笑っていたのだろう。

機嫌の良さそうな声が響き、カムル王子の後ろに控えていた校長へと飛んだ。


「……ここは少しばかり人が多い。校長、すまないが部屋を用意してもらえないか?」

「は、はい!す、直ぐに用意させて頂きます」


校長と数人の取り巻きだろう、走りながらにこの場を離れて行く足音が幾つか……


「直ぐに部屋を用意させる。そちらで少し話をしようじゃないか」

「はい、では私と妻で同道させて頂きます……」


「ふむ、まぁ良いだろう」


そう言うと父さんと母さんは立つ事を許され、カムル王子の後について歩いて行く……距離が離れていく気配にゆっくりと顔を上げると、母さんは後ろ手で冒険者のハンドサインを出していた。

オレは直ぐに、エル、アシェラ、ライラ、クララを連れて人ごみの中から移動する。


「エル、母様のハンドサインは見えたか?」

「はい。〝警戒”でした」


「直ぐにドラゴンアーマーに着替えよう。アシェラとライラは……」

「馬車の中にドラゴンアーマーがある!」


「何でそんな物を持ってきてるんだよ!?」

「アルドとエルファスの模擬戦に、飛び入り参加するつもりだった」


「お前……まぁ良い。ライラはどうだ?」

「私もアルド君から貰ったワイバーンレザーアーマーが馬車にある」


「持ってる理由は、もう良い。アシェラ、クララを護衛と一緒に馬車まで連れて行ってくれ。それと全員、着替え次第、赤い屋根の建物の上に集合だ。そこで範囲ソナーを使って父様達の位置を調べる。赤い屋根は騎士学科だからな、気付く者もいるだろうが、魔法学科よりは少ないはずだ」

「はい」「「分かった」」


やる事が決まれば全員が直ぐに行動を開始する。

オレとエルは近くのトイレに走りドラゴンアーマーへと着替え、制服は畳んで廊下の隅へ放り投げた。


思い出として残しておきたい気持ちはあるが、今日以降、使う事の無い制服を後生大事に取っておくつもりは無い。

オレとエルは校舎から飛び出すと、人目があるのも気にせず空へ駆け出していく……当然ながらオレ達を指差して下は大パニックだ。


「やっぱりアイツ、空を飛べたんだ!」「空を……飛んでる……」「お伽話の魔法じゃないか……これは夢だ……」「2人も飛んでる……人が……」


空を駆けると騎士学科の校舎には直ぐに到着した。


「エル、アシェラとライラがまだだが、ソナーを使う」

「はい」


何度も使いたくは無いので最大の1000メードで範囲ソナーを1度だけ打った……いた。近くの校舎の1階の部屋に、父さんと母さんの他に5人の反応がある。

恐らくは王子と護衛の騎士が3人、残りはメイドが1人だと思う……まぁ、護衛が4人と考えておいた方が間違いが無いが。


「兄さま、どうですか?」

「あの校舎の1階に父様と母様がいる。たぶん王子と護衛が3、それとメイドが1だ」


「……」

「エル、殺気が出てるぞ」


「!、すみません……」

「いくら王子でも何もしてない貴族の跡継ぎとその伴侶に、危害を加える事は無い筈だ。それに母様なら、あの程度の騎士の3人や4人、1人でどうとでも出来るだろ」


「そうですね……」

「オレはむしろ、母様が何かやらかさないかの方が怖い……」


「……確かに」

「ただ、今の話は使徒の件が漏れてない事が前提だ。王子の乗って来た馬車の傍には、騎士や魔法使いが10人はいた。アシェラ達が来たら騎士達の様子も見張ろう。もし動きがあるようなら……最悪は覚悟を決める……」


「はい……」


そうしてエルと話をしていると、かなりの高度を取って移動してきたアシェラとライラがオレ達の横に降りてきた。


「アルド、お師匠たちは?」


アシェラ達にはオレがソナーを打った事が分かっているので、早速、今ある情報を聞いてくる。


「ああ、さっきソナーを打って、父様と母様はあの校舎の1階の部屋に…………」


オレはエルにした説明と同じ内容をアシェラとライラへ話し、これからの行動を説明していく。


「オレとエルで父様と母様を見張る。アシェラとライラは馬車から騎士や魔法使いの動きを監視してほしい」

「ボクもお師匠が心配……」


「エルは当然として、オレも今はまだ一応は貴族だ。向こうの対応も少しは変わるかもしれない」

「……」


「ごめん。分かってくれ、アシェラ」

「……分かった」


こうしてオレとエルで父さんと母さんを見張り、アシェラとライラは馬車の中からクララと一緒に騎士を見張る事になった。

観察を始めると動きは直ぐにあり、母さんが部屋から騎士を一人連れて出てきたと思ったら、大声でオレとエルの名を呼んだ。


「アル、エル、こっちに来て!」


一瞬、どうしようか迷ったが、母さんには何か考えがあるのだろう。

隣のエルの顔を見ると真剣な表情で頷いている……オレも1度だけ頷き返してから、2人で母さんの下へ移動していく。


空間蹴りで空を駆けながらゆっくりと母さんの前に降りて行くと、騎士は少し離れた場所で緊張しなからオレ達の様子を眺めていた。


「アル、エル、殿下はアナタ達と話をしたいそうよ」

「オレ達と?」


「ええ、王家の影として、普通では出来る筈の無い任務を達成したアナタ達に、興味があるみたい」

「……」


「何度もアナタ達に会わせてほしい、とお父様に頼んでいたそうだけど、色々な理由を付けて会わせてくれなかったらしいわ。このままアナタ達が卒業してブルーリングに帰ると、本当に会う機会が無くなる、と思い、無理を承知で学園にやって来たそうよ」

「そうなんですか……」


どちらにしても、王子がそこまでする以上、只のお話で済む筈が無い……向こうの思惑が分かれば対処のしようもあるのだが……


「アル、エル、アナタ達の判断に任せるわ」


騎士が隣にいるので全ての考えを言えないのだろうが、母さんは最悪の事態も考えているように見える。

ただ、どちらにしても王子の話を聞かないと判断出来ないのも事実だ……ここにいる中で戦えないのは父さんとクララだけ……


いざとなればエル、アシェラがいる今なら王国騎士団とやり合っても負けない自信もある……オレはゆっくりと息を吐いて母さんに答えた。


「殿下に謁見させて下さい」

「そう、エルはどう?」

「……僕も、謁見を希望します」


「分かったわ。そこで待っていて頂戴」


そう言って母さんは父さんと王子がいるであろう部屋へ入っていった。







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