第253話卒業式 part3

253.卒業式 part3






母さんが部屋に入ると直ぐに、騎士から話かけられた。


「すまないが武器の類は渡してくれ。こちらが無理を言ってる事は分かっているんだが……本当は君達ほどの手練れを、この護衛の人数で殿下の前に連れて行きたくは無いんだ」


オレとエルは申し訳なさそうにな騎士に、メイン武器と予備武器の全てを渡していく。

先程の騎士の言葉から、どうもオレ達の事を知っているように聞こえる。


「オレ達の事を知っているんですか?」

「ああ、君達が団長達と模擬戦をするのを見せて貰った事がある。団長から聞いた話では、本気を出されたら団長達では一瞬で終わる、とも聞いているよ。そんな相手と……殿下も……こっちの身に成ってくれ……」


最後は完全に愚痴だったが、騎士の言葉を信じるのなら、今回の事は完全に王子の独断なのだろう。

エルと一緒に苦笑いを浮かべていると、不意に扉が開いて、母さんが顔をだした。


「アル、エル、殿下の了承を貰ったわ。入って頂戴」

「「分かりました」」


母さんの後ろに付いてオレ、エルの順番で部屋に入っていく……決して顔を見ないようにしながら、王子の前まで進んで跪いた。


「アルド=フォン=ブルーリングと申します。この度は謁見の機会を頂き、ありがとう御座います」

「エルファス=フォン=ブルーリングと申します。殿下におきましてはご健勝の事と存じます」


オレ達を値踏みするような視線の中、部屋の中にゆっくりと王子の声が響く。


「学園を卒業したばかりで、随分としっかりした挨拶をする……2人は優秀だな。それにこの場の空気に呑まれない度胸もある……そこは流石、ドラゴンスレイヤーと言ったところか」

「「……」」


「まぁ良い、顔を上げてくれ。いきなりだが、2人は卒業後はどうするのだ?」


王子の言う通り、いきなりの質問にどう答えるのが正解なのか……この流れだと、オレかエルのどちらか一方を取り込みたいのだろうか?


沈黙が流れる中、再度、王子から同じ質問がされる。


「どうした?難しい事など無いだろう。卒業後の身の振り方を聞いているんだ」


見かねた父さんが、話に割って入ってきた。


「殿下、2人は……」


王子は手で父さんの発言を制して、改めてオレ達に問いかけてくる……


「すまんな。私は2人に聞いているのだ。しかし……そうも頑なだと、言えない事でもあるのかと、勘ぐってしまうでは無いか……」


どうやら誤魔化せそうに無い……しかも嘘を吐いても面倒な事になりそうだ。

オレは心の中で、溜息を吐いてから話し出した。


「弟のエルファスはブルーリングを継ぐために、父に付いて政務を勉強する予定です」

「そうか、では卿は何をするのだ?」


「私は冒険者として故郷のブルーリングに尽くそうと思っております」

「ほぅ、冒険者か……貴族のままでか?」


「それは……」


オレが冒険者になるのが王子にとっては都合が良いらしく、王子の声音からは、楽しくてしょうが無い、との思いが滲み出ている。


「そう警戒するな。別に取り込もうなどとは思っていない……勿論、取り込まれたいなら歓迎するが?」

「私などが殿下の傍にいる資格は御座いません」


「ふむ、ドラゴンスレイヤーと言うだけでも十分に資格はあると思うがな」

「……」


「まぁ良い。冒険者になる卿に、実は頼みがあるのだ」

「頼み、ですか?」


「ああ、これからも王家の影を続けて欲しい」

「それは……私の一存では決めかねます」


「何故だ?成人して、学園も卒業する。そして冒険者として自分の身を立てるのだろう?」

「それはそうです……」


「であれば問題無かろう……王家の影が気に入らんのなら、冒険者として王家の依頼を受けてくれても構わん」

「…………申し訳有りませんが、どのような依頼をされるおつもりでしょうか?」


「ふむ、先日ブルーリングでも起こったように、この国には魔物の脅威が未だに続いている。それどころか近年になって増えていると言っても良い。卿の武があったからこそブルーリングもサンドラも助かったのだ。しかも今回はミルドの悲願である翼の迷宮をも踏破してみせた。しかもそれを行ったのが、学園を卒業してすらいない子供だと言う。これでは流石の私も夢を見てしまうではないか……魔物の脅威の一掃と言う夢を……」

「殿下は買いかぶられています。全て私個人のチカラでは無く弟や母、色々な人のチカラを借りて出来た事です」


「それはそうだろう、1人で全てをこなすなど不可能だ。勿論、必要なサポートも出来るだけ行うと約束する……勘違いしないでほしいが、卿を使いつぶそう等とは思っていないのだ。領主からの嘆願を精査し王家として依頼を出す、条件が合えば受けてくれれば良い。無論、どうしても受けて欲しい依頼も出てくるだろうが、そこは話し合いだな。私も無理強いして、関係を悪くしたくは無いが……為政者としてそれほどのチカラを放置する事もできんのだ。若い卿には申し訳なく思うがな……」

「……」


王子はここまで強引な方法を使ってでも、オレ達に魔物を倒して欲しいのか……これを断れば次はどんな方法でくるのだろう……先程の話から言えば、きっと首を縦に振るまでは絶対に引き下がる事は無いと断言できる。

オレは心の中で、特大の溜息を吐いてから口を開いた。


「分かりました。王家の依頼をお受けします……」

「そうか!!卿は先見の明があるな。悪いようにはしないから安心してくれ。何なら私の娘の1人を嫁に出しても良い……こちらに他意が無い事も分かるしな。自分で言っておいて、中々に妙案だと思うが、どうだ?」


「ありがたいお言葉ですが、私には既に3人の婚約者がおります。王女殿下には私など不釣り合いです。お気持ちだけで……」

「そうか?3人も4人も変わらんと思うがな。まぁ良い、気が変わったら何時でも言ってくれ」


そこからは細かな条件を決めさせてもらった。

先ずは期限。永遠に使いッ走りをさせられるのは流石に嫌だ。話し合いの結果、取り敢えずは3年間と言う事に決まり、延長は双方の了承によって決定する事となった。


双方……これはオレと王家、2者での話し合いとなり、ブルーリング家はこの件に口を出せなくなると言う事だ。

王子はこれを決める時に、してやったりの顔をしていたが、これはワザとである。


3年後に王家の依頼が嫌になっていれば、マナスポット解放の旅にでも出てしまえば良い。

その時には当然ながらブルーリングには何の責任も無い事となる。


勿論、ブルーリングに帰る時はお忍びにはなるが、普段はアシェラ、オリビア、ライラを連れて魔の森に村でも作れば良い。

前から思ってはいたのだがブルーリングに新しい国を作るのなら、どちらにしても魔の森の開発は避けては通れない。


それならいっそ早目に手を付ける事が出来て、都合が良いかもしれない……オリビアを村長にして内政を任せて、アシェラとライラに居て貰えばドラゴンが来ても安心と言うものだ。

そもそも魔の森はオレ達の領域である。一番強いのはせいぜいがオーガかオークジェネラル……アシェラなら眼を瞑っていても倒せるはずだ。


ブルーリングに家を建てたのは失敗だったかもしれない……一瞬、そんな思いが頭を過ったが、頭を振って我に帰る。

オレはこの世界で精一杯生きていくつもりではあるが、日本での生活のように日々仕事に追われ、心が擦り切れるのは勘弁して欲しい。


魔の森に家を構えれば公私関係なく、仕事に振り回されるに決まっている。

やはりブルーリングに自宅を置いて、魔の森にはマナスポットで飛ぶのが良いのだろう。


思考が逸れた……

久しぶりに日本での生活を思い出したのは、王子との交渉のせいなのか、頭を振って再度、話し合いの席に着いた。






王子との交渉で決まった事だが、オレはブルーリングを拠点とする事から、ブルーリングの冒険者ギルド経由で依頼を受ける事になった。

依頼を受けるかどうかは、基本的にはオレの意思次第。


但し、どうしても受けて欲しい依頼が出た場合には、お互いに話し合って決める事となった。


「取り敢えずは、これで良いだろう。卿もあまり細かく決められるのは、嫌だろうしな」

「……」


王子は話が纏まって喜んでいるのか、更に上機嫌で話し出した。


「こちらから話を持ってきて、こんな事を言うのはどうかと思うのだが……ドラゴンスレイヤーとしての武を、見せてはくれないか?騎士からの報告やサンドラ、ミルドでの実績……卿の実力を信用していないわけでは無いが、やはり自分の目で見てみたいのだ」


隣のエルを見ると、小さく頷いている……であれば最初からの計画通り、正門での模擬戦をするのが手っ取り早い。


「実は…………」


王子に元々の計画を話すと、呆れた顔を見せた後に、「やって見せろ」とのお言葉を賜った。


「恐らくは人が集まると思いますので、2階以上で見学されるのが良いと思います」

「卿達は飛べるのだったな。分かった2階以上で見せて貰うとしよう」


「では私達は教室へ移動します」

「分かった。楽しみにしているぞ」


結局、殆どの事が王子の要求通りになり、満足そうに頷いていている姿を尻目に、オレ達はそれぞれの教室へと向かった。






教室に戻ると、オレを含めたブルーリング家全員が王子に連れて行かれた、と噂になっていたらしくとても心配されてしまった。

しかし、王族と貴族の話だからだろう、誰も詳しい内容を聞こうとはせず、何とももどかしい時間が過ぎていく。


因みにオレがドラゴンアーマーを着ているのは王子絡みと思ったようで、全員からマジマジと見られたが、誰からも突っ込まれる事は無かった。


「さあ、アルド君も戻った事だし最後の授業ね。この卒業証書を受け取った瞬間、皆さんは卒業となります。言いたい事は色々ありますが……私のような担任に3年間も付いて来てくれて、本当にありがとう。これからは皆、それぞれの道を歩いて行くけれど、元気でね……」


アンナ先生の眼に光る物が見える……止めろよ、オレこう言うの弱いんだよ……

ウルっとくるのを必死になって耐える中、周りを見ると女子はハンカチを片手に涙を流している。


男連中はと言うと、オレと同じように下唇を噛み必死になって耐えている者ばかりだった。

今となっては入学した時のクラス発表で、Dクラスと聞いてモニョっとしたのは良い思い出だ……3年間、このクラスで過ごせたオレは本当に運が良かったと思う。


Dクラスの皆、3年間ありがとう!




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