第254話卒業式 part4

254.卒業式 part4






全員が卒業証書を貰い終わり、寂しさと空虚感が漂う教室の中で、ゆっくりと立ち上がると、オレはクラス中に響く声で叫んだ。


「皆、正門の広場で面白い物を見せてやるぞ!卒業の記念にドラゴンスレイヤーの実力を見せてやる!因みに第2王子の許可は貰ってるから、怒られる事は無いと思う……たぶん……」


最後は自信が無かったので、小声だったのはご愛敬。

オレはクラスの皆が驚いている中、空間蹴りを使ってクラスの外へ飛び出していく。


ワザとゆっくりと空を駆けていくと、生徒達はオレを指差し驚きの声を上げている。


「何だアレは……人?」「飛んでる……」「……」「人が飛んでるぞおおおおおお!」「何だあれ……何なんだよ、あれは……」「飛行魔法はあったんだ!」「アイツ、Dクラスの落ちこぼれじゃ……」


色々な反応を見せる生徒を、ハーメルンの笛吹のように引き連れて正門へと向かっていく……最後のヤツ、顔は覚えたからな……

直に正門の広場に到着すると、エルは既に大量の騎士学科の生徒を連れて1人校舎の上でオレを待っていた。


これで騎士学科と魔法学科の生徒が正門前の広場に集まった事になる。

一番、生徒数が多い商業科も聡い者が多いからか、続々と噂を聞きつけて集まってきていた。


辺りを見渡すと、校舎の1つに王子の姿が見える。オレの忠告通り2階から護衛を引き連れ観戦するようだ。


「エルー!」

「はいーー!」


「準備は良いかーー?」

「大丈夫ですーー!」


エルの返事を聞くと、オレは王子の方を向き、貴族の礼をしてから大声で叫んだ。


「殿下!よろしければ合図を頂きたいと思います!」


王子は笑いながらお付きの魔法使いへ声をかけている……恐らくは魔法で合図を出すのだろう。


「エル!殿下の魔法が開始の合図だーー!」

「分かりましたーー!」


未だにギャラリーが増え続ける中、魔法使いのファイアーボールが空へ撃ちあがった。


「行く!」

「はい!」


オレは無手から魔力武器(柔らか仕様:短剣)を2本出すと、空間蹴りを使いエルに突っ込んで行く。

エルもオレもお互いの手の内は全て知り尽くしている。先ずは肩慣らしとばかりに8割のチカラで戦っていたのだが、ギャラリーから不穏な言葉が飛んできた……


「アイツ等、兄弟で殺し合いをしてやがる……」「もう止めて!エルファス君が死んじゃう!」「ギルド荒らし同士の殺し合い……」「ヤメロ!兄弟なら話し合えば良いだろう!」


エルを見ても凄くやり難そうだ……どうしよう、これ。


「エルちょっと待ってくれ。ギャラリーに説明してくる……」

「はい……」


オレはエルに断りを入れてから近くの高台に降りていき、ギャラリーに向かって話し出した。


「あー、すみません。オレも弟のエルファスも、模擬戦をしてるだけなので殺し合いをしたりはしていません。ほら、見てください。この短剣、魔力武器(柔らか仕様)って言って柔らかいんですよ……」


オレは魔力武器(柔らか仕様:短剣)を自分の頬っぺたに当ててペタンペタンと振って見せる。


「オレ達は仲良し兄弟なので、心配しないで模擬戦を楽しんで見ていってください」


オレの言葉にギャラリーはどう反応して良いのか分からないらしく、死んだ魚の眼でオレを見つめているのだった。






そこからは、お互い100%のチカラを出しての模擬戦となった。

オレはバーニアを吹かしエルの懐に入ろうとするが、エルはバッシュで牽制してくる……隙が無い。


「やるな、エル!」

「兄さまこそ!」


すかさずウィンドバレットを5発撃ち込むが、魔力盾を肩と背中に展開され全て防がれてしまった。

やはりエルとの模擬戦は楽しい。磨いてきた技を全力で出せると言うのは、とても幸せな事なのだと、実感できる。




30分ほど経って------------




100%で、この戦闘時間はだいぶ息が上がってきた……この楽しい模擬戦も、そろそろ終わらせないといけない。ギャラリーも王子も死んだ魚の眼をして誰も口を開かないのだから……


「エル、楽しいな!」

「はい!凄く楽しいです!」


「でも、そろそろ決着を付かないとな!」

「はい!今日は僕が勝たせてもらいます!」


「言うな、エル!でも勝つのはオレだ!」


そう言うとエルは珍しくウィンドバレットを時間差で5発、撃ってきた。何故、こんな単純な攻撃を……一瞬、そんな事を思ったが、ウィンドバレットの早さもタイミングも5発全てがバラバラだ……

〝躱せない”今までの動きでは無理だと悟ったオレは、以前、風竜がやってみせたバレルロールの挙動で全てのウィンドバレットを躱し、そのままの勢いでエルに突っ込んで行く。


エルは思わぬオレの動きに驚きながらも、何とか盾を使い捌いて見せた。

攻撃を受ける瞬間、盾をワザと引いてオレの攻撃を受け流したのだ……しかし、オレの攻撃が想定よりも重かったのだろう、盾がエルの手からゆっくりと滑り落ちていく……


「……参りました」


盾が地面に落ちる音と同時に、満足そうな顔のエルの降参する声が響いたのだった……




カムル第2王子視点-------------------------------




噂は以前から届いていた……ブルーリングに恐ろしく強い子供がいると……

騎士からの報告によればブルーリングとサンドラの両方で、魔物の進行を食い止めた英雄だとか。


私はだいぶ話が大袈裟に伝わっているとは思ったが、“火のない所に煙は立たない”とも言う……恐らくは10年に1人の逸材ではあるのだろう。


何処かで知己を得られれば……そう思っていた矢先、ミルドにある翼の迷宮攻略に向かった際に、ミルドの領主館を襲撃したとの知らせが入った。

領主館を襲撃するなど……どれだけ強かろうとバカでは意味が無い……私の中で興味が急速に薄れていくのを感じた。


ミルドとの仲裁も半ば適当に処理して、王家の利益を最大限に考えての差配だったのだが、1ヶ月に満たない内に翼の迷宮を踏破し、ミルドでの魔物討伐でレッサードラゴンまで倒したと聞いた時には、今までの人物像が酷くチグハグな印象を受けたのを覚えている。


不審に思い、改めてミルドの件を詳細に調べてみると、そもそもの話どうやら仲間が攫われて、救出のために領主館を襲撃した事が分かった。

しかもその際にはSランクパーティーを無傷で倒し、1人の死者も出さずに事を治めたらしい……報告書から分かる事は圧倒的な実力差があり、尚且つ人死にを出さない思慮深さを持っていると言う事だ。


私は年甲斐も無く子供の頃に読んだ”英雄譚“を思い出さずにはいられなかった。

そこからはブルーリング卿に何度も頼み込んで、何とか会う手筈をつけようとしたが、何かと理由を付けてはぐらかされ続けてしまった。


王である父上に話して、王命として出廷させようとも画策したが、父上からは「大き過ぎるチカラは身を滅ぼす。御せぬなら距離を取って、適度に使うのが一番だ」と父上らしくない言葉を口にするだけで、決して王命を出そうとはしなかった。


そして……今日に至る……

少々、強引ではあったが、やっとブルーリングの少年に会う事が出来た。


武の者である故に、もっと粗暴かとも思っていたのだが、文官としてでも通用しそうな礼儀を見せ、話してみても迂闊な事を言う気配も無く、非常に理知的で私好みの少年であった。

今更ではあるが、私はこの時点で何としても取り込みたい、と思ってしまったのだ……せめて猛獣の本性を見てから接触すれば良かった、と今は悔やまれて仕方がない……


そこからは多少の譲歩はあったものの、大筋では私の思い描いた絵に収まっていった。

この時に細かな要望を出して絡めとろうとしなかった事を、今は心の底から良かった思う……グッジョブ、私!



そして、猛獣の本性の一端を垣間見る事になる……



空を飛び、夥しい見物人を引き連れて現れた時には、まだ私も心の底から楽しんでいた……お伽話にしか出てこない飛行魔法はやはり格別で、私の中の少年の心をいたく刺激していたのを、今でも覚えている。


私に”始め“の合図を要求してきた時も、私を楽しませる為だと、好意的に受け取っていたのだ。

それがまさか……あんな人外の殺し合いを見せ付けられるとは……


ドラゴンスレイヤー……竜を屠りし者に与えられる称号だ。

思い返してみれば、竜とは天災と同義と恐れられる、魔物の王と言える存在である。


では、その竜を屠る者とは、一体、何者なのだろうか……

しかも聞き及んでいる話では、地竜と風竜の2匹の竜を屠ったとか……


地竜は竜種の中で一番の防御を持ち、風竜は一番の速さを誇ると言う。

であれば全ての竜種を倒せる攻撃を持ち、全ての竜種の速さに対応出来ると言う事だと気が付いたのは、交渉が終わった後である。


今さら分かっても手遅れではあるが、父上の言う事が心の底から理解できてしまった……あれを御するだと?出来る者もいるかも知れないが、私には無理だ。

あの戦いを見た後で、普通に接する事が出来る者などいるはずが無い。


ヤツは戦いが終わった今は、近くの屋根の上から弟と一緒にこちらを見つめている。

私に言葉を求めているのだろうが、何か言って怒らせたりしないだろうか……正直な所、怖くて仕方が無い……誰か助けて!


かと言って放っておいて怒らせるのも怖い……私は勇気を振り絞り、横柄にならず卑屈にならないよう細心の注意を払いながら、言葉を発した。


「す、素晴らしい戦いであった、さ、流石はドラゴンを屠る者だ。ドラゴンスレイヤーの実力、この眼で〝嫌”と言うほど見せてもらったぞ。出来ればそのチカラの一端を、民に施して欲しいと思う」


未だに呆然としている生徒達に諭すように語り掛ければ、我に返った生徒達は波が広がって行くようにドラゴンスレイヤーである2人の戦いを褒め称えていく。


「すげぇ!すげぇぞ!」「人はここまで強くなれるのか……」「ドラゴンスレイヤーってこんなに凄いのかよ……」「オレを弟子にしてくれ!」「エルファスくーーーん、結婚してーーー」


大歓声の中、私がゆっくりと下がると、猛獣の2匹は優雅に礼をして下がって行く……その礼に騙された!せめて粗暴であれば距離を取っただろうに……そして恐る恐る様子を覗くと、信じがたいことに友人らしき学生と、楽しそうに会話を交わしているではないか……しかも、その友人は何事かを話したかと思うと、ヤツの背中を叩いている!?


ヤメロ!そいつが本気になれば、ここにいる者は全員ミンチになるんだぞ……お願いだから、止めて下さい。やりたいなら、せめて私がいない所でやってくれ!

そもそも、あの戦いを見た後で、何、普通に会話してるんだって話しだ。お前等、怖くないのか?


そいつは人の形をとってはいるが、中身は私達とは別の生き物だぞ……

私は声を大にして言いたかったが、そんな勇気があるはずも無かったのであった……




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