第255話卒業式 part5

255.卒業式 part5






卒業式の後での模擬戦も終わり、王子からお褒めの言葉を賜った。

「出来ればそのチカラの一端を、民に施して欲しいと思う」こんな言葉を吐けるのは、もしかして本当に民の事を考えて、オレに魔物を討伐して欲しいのか?


王子の強引なやり方に少し反発があったのだが、これは少し考えを改める必要がありそうだ。

オレはそんな事を考えながら、王子に貴族の礼をしてその場を辞退させてもらった。


眼下には学年も学科もバラバラな生徒達が、オレとエルを何とも言えない目で見つめている。

オレは心の中で、少し怖がらせてしまったかも、と謝罪しつつ、ルイスとネロの下へと移動していった。






「お前等なぁ……もう、オレは何を言って良いか分からねぇよ!」

「アルド、エルファス、オレは感動したぞ。バーニアを覚えてからの模擬戦を初めて見たけど、前とは全然違うぞ!凄いぞ、お前等!」


ルイスは呆れたような、ワクワクしたような微妙な顔で……ネロは満面の笑みでオレ達に語り掛けてくる。


「ルイス、ネロは感動したそうだぞ」

「あーもう、オレだって感動したよ!ただな、こんな大観衆の中でやる必要があるのか?あったとしても、もう少し手を抜くとかやりようはあっただろ!見ろ、周りの顔を!怖がって固まってるじゃねぇか!」


オレはルイスに言われたように辺りを見渡すと、ルイスの言うように半分の生徒はオレから眼を逸らし明らかに怯えている。

しかし、もう半分の生徒は眼を輝かせていた。


恐らくは”空間蹴り””壁走り””バーニア””魔力武器””魔力盾””リアクティブアーマー”あとは”ウィンドバレット”か……オレ達の使う技術に興味があるのだろう。

それから生徒達をボンヤリと見ていると、言い過ぎたと思ったのかルイスが背中を強めに叩いてきた。


「分かった、言い過ぎたよ!お前とエルファスの模擬戦は、戦う者の心には強く響いた筈だ。戦わない者には恐怖しかないだろうがな」

「そうか、怖がらせてしまったか……」


「しょうが無い。お前だって“使わない“とわかっていても、辺り一帯を焼き尽くす魔道具を目の前に出されたら、恐怖を覚えるだろ?」

「それは……確かに」


ルイスと話していると、騎士学科からガイアス、マーク、ティファがやってきた。


「エルファス、お前ここまで強かったのかよ!」


ガイアスは子供のように目をキラキラと輝かせながら話しかけてくるが、マークは困惑気味にティファなど明らかに怯えている。


「久し振りに全力で兄さまに挑んでみたけと、やっぱり及ぱなかったよ」

「あの程度は誤差だ。次にやったらエルファスが勝つ!」


ガイアスとエルが盾がどうの魔法がこうの、と楽しそうに話しているのを尻目に、オレはティファ達に話しかけてみた。


「マーク、ティファ、オレ達が怖いか?」

「ぼ、僕は……そ、そんな事……」


マークが言い淀んでいる中、ティファの声が響く。


「ええ、怖いわ……だって、あんな動き……この間のハーピーの時以上じゃない……」

「……そうか、怖がらせて悪かった」


ティファやマークには、オレ達が辺り一帯を焼き尽くす魔道具に見えるようだ。

少しだけ寂しさを感じていると、ティファが溜息を吐いて口を開いた。


「……ハァ、でも、アルドやエルファスなら、無闇矢鱈にチカラを振るったりしないのは、分かってるわ。今は……そう、少しだけ驚いたのよ」

「そうか……」


「ええ、そうよ」

「……ありがとう、ティファ」


ティファは呆れた顔で肩を竦めて見せた。


「ほら、マーク。アンタもいつまで呆けてるのよ。アルドを利用して成り上がろう、ぐらいの気概は無いの?」

「ぼ、僕は…………ぼ、僕はアルド君の友人です。り、利用なんてしない!」


マークはティファに噛みつくかのように、言い返している。


「ティファ、マーク、ありがとう。いつかバーク領に行った時には酒でも飲もう」

「あら、それは口説きの言葉と思って良いのかしら?」


「え?あ、いや、違うんだ。あー、いや、そうじゃ無くて……」


ティファは徐々に怒りのボルテージを上げて行く……


「何よ!冗談で言ったんだから冗談で返しなさいよ!私が振られたみたいになってるじゃないの!」

「スマン!」


オレとティファのやり取りを見て、エルとガイアスだけじゃなくマークやルイス、ネロ、周りの生徒も一緒に笑い声をあげていた。






ガイアスやルイス達と別れてから、オレ、エル、マールの3人で学園の正門へ向かうと、ブルーリングの家紋が入った馬車を見つけた。

向こうもオレ達の姿を見つけたらしく、馬車からクララが飛び出してくる。


嬉しそうに走って来るクララを受け止め、そのまま抱き上げてクルクルと回って見せると、クララは興奮した様子で話し始めた。


「アル兄様、エル兄様、模擬戦、凄く恰好良かったです!私にも空間蹴りを教えてください!」

「そうか、恰好良かったか。ありがとな、クララ」

「空間蹴りは兄さまに習った方が良いかな。実は僕も原理が良く分かっていないから、上手く教えられないんだ」


「アル兄様、教えてください!」

「ああ、分かった。ブルーリングに帰ったらな」


「はい!」


周りの者はほぼ全員がオレ達を見つめているが、遠目にオレ達を窺うだけで話しかけてくる者はいない。

やはりこの雰囲気は居心地が悪い……この空気を察知してか、馬車から母さんが顔を出してオレ達に声をかけてくる。


「アル、エル、マール、クララ、行くわよ。早く馬車に乗りなさい」

「「「「はい」」」」


オレ達3人が馬車に乗り込むと、直ぐに馬車が動き出す。

逃げるように動き出した馬車の窓から外を眺めていると、アンナ先生とDクラスの皆が大きく手を振って見送ってくれている姿が見えた。


「アルドくーーん、恰好良かったーー!」「アルドーー!またなーーー!」「ありがとうーー!」「楽しかったよーーー!」「またどこかでーーー!」


オレは思わず馬車の窓を開けて、同じように大きく手を振り返す。


「こっちこそ、ありがとうーーー!ブルーリングに来たらオレを訪ねてくれーー!3年間ありがとうーーー!」


馬車が進むにつれて徐々に人影が小さくなっていき、ものの数分で皆の姿は見えなくなってしまった。


「良い友達だったみたいね」


未だに窓から体を出して、見えなくなった皆を眺めていたオレに、母さんの声が響く。

振り返り母さんの顔を見ると、いつものようなフザケタ感じは無く、純粋に息子の事を考えているように見えた。


「はい。僕は3年間Dクラスで過ごせて、本当に良かったです」

「そう、私は学校には行った事が無いから分からないけれど……アルを見てると、アシェラも学校に通わせてあげれば良かった、って後悔しちゃうわ」

「お師匠、ボクは今のままで充分に幸せ」


「ありがとう、アシェラ」


それだけ言うと、母さんは暗くなった空気を吹き飛ばすように、手を叩いて話題を変えた。


「じゃあ、これからの予定について話しましょ。数日後には私達はブルーリングへ帰る訳だけど、今回は全員、馬車で帰省する事にするわよ。アオに飛ばして貰えば直ぐなんだけど、道中に私達の痕跡が全く無いのは少しマズイわ」

「第2王子ですか?」


「ええ、恐らくは王子の命で諜報部隊が動くはずよ。もっぱらアルの素行調査でしょうけどね」

「僕のですか?」


「そりゃ、そうでしょう。自分が動かすコマの能力は誰でも気になるはずよ。戦闘能力ほさっきの模擬戦で充分として、後は頭の出来や普段の素行を知りたがると思うわ」

「僕はコマですか……」


「今はそうね。将来は自分が何をコマにしようとしたのか、身を持って思い知るでしょうけどね」

「……」


「それじゃあ、数日後には出発よ。挨拶したい人には早目に顔を出しておきなさい。良いわね?」

「「はい」」


母さんの言葉にオレとエルが返した。




その日の夕飯の席--------------------




いつものメンバーに父さんとクララを含めて夕飯を食べている中、母さんが口を開いた。


「さっき、お父様から言われたんだけど、ブルーリングへはリーザスとルイスベル君も同道する事になったわ」

「ルイス達ですか?」


「ええ、どうせブルーリングに行くのだしアルやエルも一緒の方が楽しいでしょ?」

「それはそうです」「はい」


「後はナーガからの返事待ちなんだけど……タイミングが合えばナーガとジョー君達も同道するかもしれないわ」

「それだと、ほぼほぼ最初の時にミルドへ向かったメンバーですね……」


「そうね。今回はブルーリングへ向かうんだから、襲撃を受ける事は無い筈よ」


そう言って笑っている母さんを見ながら、以前の馬車での移動を思い出していた。


「ブルーリングへ街道を使って馬車で移動ですか……」

「何?問題でもあるの?」


「いえ、1年の夏休み以来だな、と思いまして……僕は結局、街道を馬車で移動したのは王都に来た時と1年の夏休みの往復の3回だけなので」

「……そう言われればそうね。頻繁にブルーリングと行き来してるけど、街道を使った移動は殆どしてないわね」


オレと母さんの会話を聞いていた爺さんが、話に入ってくる。


「少し安易に考えていたかもしれんな。精霊様の好意に甘え過ぎていたようだ。これからは使徒としての用事以外はなるべく自粛するのが良いのかもしれん」

「使徒の用事なら良いのですか?」


「その為にチカラだ。使徒の用事であれば思う存分使えば良い。万が一、それで秘密が漏れても、それはしょうがないだろう」

「分かりました」


こうしてアオに飛ばしてもらう事を、少し控える事に決まったのだが……オレは見てしまった。母さんが爺さんの話を聞きながら、欠伸を嚙み殺しているのを!

ヤツは絶対にアオに飛ばして貰う事を止めないだろう、と思ったのはオレだけじゃない筈だ。





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