第165話ドラゴンアーマー

165.ドラゴンアーマー





爪牙の迷宮を踏破して2ヶ月が経った頃、屋敷へボーグから連絡が入った。

内容はオレ、エル、アシェラのドラゴンアーマーが出来たとの知らせだ。


夕飯の席でその事を聞いたオレ達は次の日の朝からボーグの店へ取りに向かうと、セーリエに先ぶれを出してもらった。

因みに明日は闇の日で学園は休みだ。ドラゴンアーマーの性能を確かめるのに絶好の日である。


いっそのこと依頼を受けても良いかもしれない。





次の日の朝、朝食を終えオレ、エル、アシェラ、マールの4人で防具屋への道を歩いている。

何故、マールも?と思うかも知れないが、冬休みを終えてマールは以前の宣言通り商業科へ編入した。


途中で編入する生徒は殆どおらず、オレやエルはマールが商業科に馴染めるか正直 心配だった。

しかし、競技会の優勝者の婚約者。さらにリバーシのタブ商会の娘。おまけに氷結の魔女の弟子。マール自身の商業の知識も首席に匹敵するレベルらしく侮られる事は全く無かった。


それに競技会の時にお灸をすえたのが良かったのか、商業科代表の子が率先して”マールにちょっかいを出すな”と触れ回ってくれていたらしい。

彼に冒険者の兄がいたのでジョー達に紹介して貰って、マールの事を頼んだ甲斐があった。


彼らに困った事があれば微力ながらチカラに成りたいと思う。

そうしてマールは問題無く商業科に溶け込んだのだが、やはり魔法の修行も続けたいらしく休みの日の狩りに同行したいと言い出したのだ。


どうも前から同行したかったようなのだが邪魔になるのが申し訳ないのと、やはり戦闘は少し怖いらしく言い出せなかったとの事。

エルと正式に婚約して言い易くなったのとアシェラと一緒に”新しい種族”の母になるのに弱いままでは示しがつかない。と思い立ったらしい。


どうして、そんな思考になるのか理解不能なのだが、マールとエルが納得しているならオレがどうこう言うつもりは無い。

もしかして理由は後付けで、もっと単純に幼馴染の中で自分だけ輪に入れなかった事に、寂しさを感じていただけかもしれない。


こうして最近はオレ、エル、アシェラ、マールの4人で依頼を受ける事が増えた。

勿論、ルイスやネロとも依頼は受けるが、ルイスは冬休み以来 母親に扱かれているようで最近は依頼も母親と行く事が多くなっている。

  

なんでも母親はBランクの女傑らしく、主に個人のチカラを重視する両手剣使いだそうだ。

世代的に知ってるかと母さんに聞いてみると、真っ赤な髪で返り血を浴びる姿から”鮮血”の二つ名で有名だったらしい。


一度、ルイスがその名前で呼んだ事があったらしいがボロボロになるまで扱かれた。と言っていた。

今はサンドラ伯爵夫人として普段はネコをかぶっている。とはオリビアの談だ。


ネロは神父が体を壊してしまったらしく、休みは教会で子供の世話をしたり神父の世話をしている。

幸いな事に神父は貴族の知り合いも多く、お金に困る事はないようだ。


流行り病が長引いているだけとは聞いているが、あまりに長引く様なら一度お見舞いに行こうと思う。

その時は絶対にオレ、エル、ルイスの3人だけで行く!





そうして4人で話していると直に防具屋へ到着した。


「ボーグ。来たぞー」

「おー、そこに置いてある。箱に名前が書いてあるから間違えるなよ」


オレは早速、着替えようとするがアシェラが箱を持ったまま立ち尽くしている。


「ボーグ、アシェラが着替えれる場所は無いか?」

「あ、スマン。こっちに来てくれ」


奥に女性用の個室があるようでアシェラとマールはそこに入って行った。

オレはドラゴンアーマーを着て軽くバーニアを吹かしてみる。


「おお、ワイバーンレザーアーマーより反応が良い」

「そりゃ、そうだ。ドラゴンの皮は魔力の伝達が良いんだ。敵の魔法も多少なら散らしてくれるぜ」


「なるほど。物理防御はどうなんだ?」

「エルファス。片手剣を貸してくれ。アルド、行くぞ」


ボーグはエルから片手剣を借りると、オレの腕に軽く斬り付けてくる。


「痛くない……」

「だろ?ワイバーンじゃあ、こうはいかねぇ。もう少し強くいくぞ」


こうしてボーグに何度か斬りつけられて性能を確認した。最終的には嫌がるボーグに頼み込んで本気の斬撃を入れて貰う。

流石に鎧の表面の鱗に少し傷は入ったが、体は全くノーダメージだ。


「凄いな……」

「製作者に新品の防具を傷つけさせるな……全く……敵わんな」


オレとエルが驚いていると、個室からドラゴンアーマーを着たアシェラとドラゴンローブを着たマールが出てきた。


アシェラは手甲から魔力盾を出したり、軽くバーニアを吹かして調子を確かめている。


「どうだ?嬢ちゃん」

「凄く良い!」


「それは良かった。それと言われた通りにしたが、そんなに胸の空きは要らなかったんじゃないか?動き難いだろ?」

「良い。直ぐに大きくなる」


ボーグは肩を竦め呆れた顔だ。

アシェラはボーグを気にも止めず頬を赤く染め、直ぐにでも試したそうにしている。もう少しだけ待って欲しい。


「マール、どうですか?」

「ぴったり。でも本当に私が貰っても良いの?アシェラがラフィーナ様と依頼で貯めたお金で買ったローブでしょ?」

「良い。マールに使って欲しい。左の袖だけワイバーンの皮だけど……」


「ありがとう。アシェラ」

「うん」


アシェラはドラゴンアーマーに装備を変えるに当たってドラゴンローブをマールへと譲った。

ここ最近、一緒に依頼へ行く時にマールのローブが気になってたらしい。


”後衛も防具は良い物にするべき”とはアシェラの談だ。


「ボーグ、悪いけど着替えた荷物をブルーリング邸に送ってくれないか?」

「分かったぜ」


ボーグに荷物を任せて、次は冒険者ギルドへと向かう。

最近ではギルドへ入っても静まり返る事も無く、稀にではあるが話しかけられる事すらある。


大抵はパーテの勧誘だ……地竜討伐の功績は表向き母さんやナーガさんの物となっているが、どうもオレやエル、アシェラが倒したんじゃないか?と疑っている層が若干いるのだ。

将来は抑止として公表する予定なので、曖昧に否定しておく程度にとどめている。


ギルドでナーガさんの前に並ぶ。地竜討伐の功績でナーガさんはAランクに昇格した。

しかしオレ達以外とパーティを組むつもりは無いようで、普段は受付嬢としてギルドの業務を行っている。


ナーガさんとしては受付嬢と冒険者の2足の草鞋を履くことになり、どうしてもギルドの要請を断る事が出来ないらしい。

最近は失敗続きの依頼の尻ぬぐいをさせられているらしく、相変わらず苦労性な人だ。


「「「「ナーガさん、おはようございます」」」」

「おはよう。皆さん」


挨拶を交わして何か依頼が無いかを聞こうとすると、ナーガさんが先に話し出す。


「良かったら塩漬けの依頼を、手伝ってもらえないかしら?」


オレ達はお互いの顔を見合わせナーガさんに返した。


「今日はマールもいますけど、大丈夫な内容ですか?」

「ええ。アルド君、エルファス君、アシェラさんの3人がいれば私もマールさんも、いらないぐらいです」


「どんな内容なんですか?」

「はい。実は………」


ナーガさんに聞いた内容はこうだ。

ここから1時間ほど歩いた街道沿いの森にオーガが群れを作って住み着いたらしい。


最初にBランク3人のパーティで討伐に向かったが想像よりも群れの規模が大きく撤退。

この時点で群れの数は20匹と判明した。


次にAランク1人とBランク4人のパーティで、1匹ずつおびき寄せ倒していたのだが、半分の10匹まで減らした時点で群れに見つかり敗走。

流石に3度目は失敗出来ないとナーガさんにお鉢が回って来たそうだ。


オーガ。種族は鬼に分類され、身長は2~2.5メードほどで非常にチカラが強い。

性格は獰猛で残虐。必要が無くても遊びで弱者をいたぶって殺す姿を良く見かける。特に人の反応が楽しいらしく討伐に失敗した冒険者などは、いたぶられて殺されるくらいなら……と自害する者も少なくない。


「オーガは爪牙の迷宮出てきた、マッドベアと同じぐらいの強さなの。アルド君達なら1人でも倒しちゃいそうだけど念の為にね。マールさんは私と後ろで待機になると思うわ。どうかしら?」


オレ達は4人で相談するが満場一致で依頼を受ける事になった。

驚いた事にマールは戦闘に参加しなくても良いが、戦っている姿を見てみたいと言い出した。


どう言う心境の変化なのかは分からないが、マールの真剣な顔を見ると興味本位で言っている訳では無さそうだ。

エルが木の上の安全な場所に運んで、そこから戦闘を開始する事に決まった。


「ごめんんさい。役立たずなのに無理まで言って……」

「そんな事は無いよ。気にしないで、マール」


「ありがとう。エルファス」


甘い空気を出す2人を見てナーガさんの額に青筋が浮かんでいる。


「な、ナーガさん、すぐに行きましょう。今日中に終わらせないと……明日は学園があります」

「はい……着替えてきます」


漫画ならナーガさんの背中”にゴゴゴゴゴッ”って字が浮かんでそうだ。





30分ほどでナーガさんが戻って来ると、しっかりとローブを着こみリュックを背負っている。


「準備完了よ」

「「「「はい」」」」


「じゃあ、向かいましょうか」


街道を歩いて1時間と言っていたが、実際はギルド所有の荷馬車を出して貰えた。

御者はギルドで良くみかける顔だったので、ナーガさんの部下?なのだろう。





馬車に揺られる事40分ほど。目的地に到着した。

街道の右側には森が続き、左側には長閑な村がある。


馬車の音が聞こえたのか、数人の男がこちらにやってきた。


「冒険者の方ですか?」


一番、年配の男が声を掛けて来た。

ナーガさんが代表して返事をしようとすると、後ろの若い男が怒鳴りながらナーガさんへ詰め寄りだす。


「何回、失敗するつもりなんだ!今回は女と子供だと……フザケルのもいい加減にしろ!」

「ザクニ!誰か連れていけ!」


「お前らが失敗したから!グフアが!オレの息子が……」


ザクニと言われた男が他の男達に連れて行かれる。


「すみません……2回目の失敗の後、興奮したオーガに村が襲われまして……その……アイツの子供が命を落としたのです。目の前で子供を食われる姿を見てしまい……」

「お察ししますが、こちらも命がけなのです。失敗の場合は報酬も頂いてはおりません。何卒、ご理解下さい」


「はい……しかし、これ以上の被害が出るようだと村が立ち行かなくなります……どうか。どうか……」

「……分かりました。ベストを尽くします」


「どうか……お願いします」


ナーガさんは年配の男からオーガの巣の詳しい場所を聞くと、案内を断りオレ達だけで行く事を決めた。

今は村を出て5人で森を進んでいる所だ。


陣形は前衛:左がエル、右がオレ 中衛:左がマール、右がナーガさん シンガリ:アシェラの5人で進んでいる。

エルの後ろにマールなのは最近の定番だ。


エルは絶対にマールにまで敵を通さない。それ故なのかマールも焦る事無く落ち着いて魔法を使っている。

マールも流石は”氷結の魔女”の弟子だけあり、そこらの魔法使いよりはかなり強い。


それに念の為に1000メード進むごとに、オレとエルが交代で局所ソナーを前方に使い奇襲を防いでいる。

ナーガさんなど乾いた笑いを浮かべ「冒険って何……」とブツブツ呟いているが、担当の右側方の警戒はしっかりやって欲しい。




先程の村人の話は、聞いてるオレもキツかった。オレは使徒ではあるが、生きる全ての人を救えるほど万能でも無いし、そんな事をするつもりも無い。

ただ冒険者として受けた仕事の分はキッチリ働きたいと思う。


オーガは間違いなく全滅させる。誓っても良い……ついでにはなるが子供の仇は必ず取ってやる。








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