第98話王

98.王



競技会から暫くして爺さんから話がある。と執務室によばれた。

オレは悪い予感しか無く、逃げ出したかったが現実はそうもいかない・・


「アルドです。お呼びにより参上しました」

「入れ」


非常に重い気持ちで執務室に入る。


「来たか」

「はい」


「先日、王と話しをして来た」

「・・・・」


「王はお前かエルファスの能力を直に見たいとおっしゃっている」

「はい」


「次の火曜日に王宮へ行く。用意をしておいてくれ」

「判りました」


「・・・・」

「・・・・」


爺さんがオレを何とも言えない顔で見て来る・・何だ?


「・・・・」

「お爺様、何かありますか?」


「騎士団長だ・・」

「は?」


「王国騎士団 団長シレアが横から口を出して来た」

「騎士団長ですか」


「ブルーリング領等の諸領の騎士団では無い。正に王国の精鋭の中の精鋭が口を出して来たと言う事だ」

「僕は何かされるんですか?」


「謁見には武装の許可があった。恐らく王国騎士団長シレアとの模擬戦は覚悟しなくてはならん」

「おー、騎士団長との模擬戦ですか」


爺さんは露骨に溜息をついた。


「ハァ・・王国騎士団長シレアは武力で右に並ぶ者無しと言われる武の者だ。しかし素行の悪さもまた有名だ」

「騎士団長で素行不良ですか」


「そうだ、素行の悪さを数えれば両の手でも足りん!アヤツは自分の欲望のままに突き進む」

「・・・・」


「なまじ能力があるから、たちが悪いのだ」

「そんなにですか・・」


オレは少し楽しくなっていた。恐らくはうっすらと殺気も出ていただろう。


「アルド?」

「え?いや、楽しみになんてしてません。いやー困ったなー」


爺さんはコメカミを揉みながら吐き捨てる様に話す。


「次の火曜日だ。判ったな?」

「はい」


そのままコメカミを揉みながら疲れた声で呟いた。


「もういい・・下がれ」

「判りました」


オレは爺さんの部屋を後にするが、まるでオレがバトルジャンキーの様な扱いだ。

氷結さんと違いオレは平和主義者である。まったく心外だ。




そんなオレの憤りを知らず、火曜日はやってくる。

火曜日の朝食で爺さんから話しかけられた。


「アルド。今日だが判っているな?」

「はい」


「エルファス、マール、今日はアルドは学園を休む。教員に伝えておいてくれ」

「判りました」

「了解いたしました。バルザ様」


エルとマールが爺さんに答えるがここに”アンナ先生”と言う学園の教員がいる事を完全に忘れていますよね?

ほら・・アンナ先生が涙目になってる・・ああ、本当に泣いてるじゃないですか。




そうしてオレは爺さんと一緒に王宮へ向かう事になった。


王宮に入るにはいくつものチェックを受ける。爺さんは兎も角、オレは新参者と言う事で爺さんより余計にチェックを受けた。その際に武器は全て預ける様に言われ、短剣2本と予備武器のナイフ2本を渡す。

チェックが終わると爺さんと一緒に地味な執務室へと通される。


執務室には護衛の騎士が2人、恐らく王様と思われる初老の紳士が1人、お付きの者だろうか同じく初老の紳士が1人、の計4人がオレ達を待っていた。

爺さんが王様と思われる紳士に、すぐさま跪き頭を垂れる。オレもそれに習い同じ様に跪く。


「バルザ、頭を上げてくれ」


爺さんにそんな口をきけるのは王様しかいないのだろう。


「ハッ」


そうして顔を上げた爺さんは王様と話しだした。


「これが孫のアルドでございます」


爺さんの紹介があったが許しを貰っていないので、オレは頭を垂れたままで話す。


「アルド=フォン=ブルーリングです。謁見の機会を頂けた事、誠にありがとうございます」


オレを見ているのだろう。視線を感じる。暫くすると王様が口を開く。


「ワシがこの国の王メンデル=ロワ=フォスタークだ。頭を上げて楽にしてくれ」


王様から許しが出たのでゆっくりと頭を上げる。

執務室に入った時にはチラリとしか見えなかったが今は部屋の様子がハッキリと判った。


執務室の椅子に座っているのが王様、その横で立っている紳士はお付きだろうか。

2人の護衛は王様の後ろに1人、オレ達の後ろに1人が立っている。


「アルド、お前の噂はバルザとキール(サンドラ伯爵)から聞いている。かなりの手練れだとか。しかも空を飛べると聞いたが本当か?」


いきなり空間蹴りの質問だ。どう答えるのが正解なのか悩んでいると爺さんが小声で”正直にありのままを話せ”と囁いてきた。


「はい。正確には空を歩けます」


オレの言葉に部屋の中には動揺した空気が流れる。


「この場で出来るか?」

「天井がありますので横に移動するのがメインになってしまいますが出来ます」


「見せてくれ」

「畏まりました」


オレは立ち上がり扉に移動する。空間蹴りを使い部屋を縦横無尽に駆け回った。

部屋の中の人は爺さんを抜いて全員が口を開け呆然とした表情だ。


”そろそろ良いか”と判断して爺さんの隣に着地し、ゆっくりと跪く。

そのままの体勢で待っていると王様では無くオレの後ろに立つ騎士が言葉を発した。


「その歩法は何と言う?」


いきなり後ろから声をかけられ驚いてしまったが質問には答えねば。


「”空間蹴り”と呼んでいます」

「空間蹴りは誰にでも使えるのか?」


「どうでしょうか。弟と婚約者は使える様になりましたが、ブルーリング領の騎士は使えませんでした」

「そうか・・単純に才能の差か・・それとも年齢か・・」


「・・・・」

「私にも教えて貰う事は出来るか?」


オレは爺さんと王様の顔を見回す。すると王様が口を出してきた。


「シレア、少し待て」

「はっ。申し訳ありません」


王様は改めてこちらを見てくる。


「アルド。素晴らしい物を見せて貰った」

「恐れ多いです」


「なるほど。その空間蹴りでワイバーンを倒したのだな?」

「私は途中で魔法を受けて意識が無かったのです。ワイバーンは弟が1人で倒しました」


部屋の中で騒めきが起こる。


「弟とアルドはどちらが強いのだ?」

「強さ自体は同じぐらいだと思います。模擬戦ではいつも私が勝ちますが」


「そうか・・」


ここでシレアと呼ばれた騎士が口を挟んできた。シレア・・たしか爺さんが騎士団長と言っていたな。


「王よ。空間蹴りの有用性もあります。是非、模擬戦の許可を」


王様がオレを見て渋い顔をする。


「シレア、そうは言うが実際に会ってみれば、まだ子供だぞ・・」

「お言葉ですがワイバーンを倒す猛者です。見かけに騙されません様に」


「・・・・」

「・・・・」


「・・・・」

「お願いします」


王様は溜息をついてオレに向かって話だした。


「アルド、お前はどうだ?このシレアと模擬戦をしたいか?」

「許されるなら是非」


王様はオレとシレアと交互に見て特大の弾息をつく。


「判った。模擬戦を許す」

「「ありがとうございます」」


「ただし、2人共やり過ぎない様に。間違っても殺したり、重大な怪我などない様に戦う事」

「「はい・・」」


こうしてオレはシレア騎士団長と模擬戦をする事になった。

演習場に移動する時に爺さんに聞いてみる。


「お爺様。どこまで見せても良いですか?」

「今回はお前の実力を見せる事が目的だ。極大魔法以外は全て使え」


「判りました」


(よし、リアクティブアーマーの初使用だな。魔物で試したかったけど騎士団長なら死なないだろ)


オレは簡単に考えていた。あんな結果になるとは・・


演習場に到着する。演習場は広場を観客席が囲む様な形をしていた。今は観客席には王様とお付き、騎士が1人、爺さんの4人がいるだけだ。

騎士団長が片手剣と盾を持って、オレが短剣を二刀持って、お互いに対峙している。


「アルド君、君が短剣を構えていると何か恐ろしく感じるよ・・」

「そうですか?僕の方こそ恐ろしくて震えてしまいます」


「遠慮はいらない。思いっきりかかってきてくれ」

「判りました。全力でいきます」


シレア騎士団長は爺さんが言うより気さくで話しやすい人だった。暫くシレア騎士団長と話していると、お付きの人が大声で”始め”と模擬戦の開始を宣言をした。


「準備は良いかな?」

「はい、いつでも良いです」


「行くぞ」



シレアが盾を構えて走り込んでくる。まずはシールドバッシュで様子を見て来るつもりか。

オレは今回、初めて使うリアクティブアーマーで受け止めるつもりだ。


素早く魔力盾を出し、リアクティブアーマーを起動する。すぐにシレアの盾がこちらに向かって来た。

”ドンッ”と盾と盾がぶつかった瞬間に大きな爆発音が聞こえる。シレアを見ると5メード程吹っ飛んでいく所だった。


シレアは2度程バウンドするとピクリとも動かない・・オレは”マズイ”と思いすかさずシレアの所まで走りソナーを使う。

骨折2か所、火傷少々、打ち身・捻挫・打撲は全身に・・取り敢えず命に別条は無さそうだ。すぐに回復魔法を使い傷を治療する。



王様達は口を開け何が起こったのか理解するのに必死だった。

模擬戦が始まり、シレアがバッシュで様子見するのに対して、アルドもどこからか出した盾でバッシュを受ける。


そう思った瞬間にアルドの盾が爆発してシレアが5メ-ド程吹っ飛んだ・・

意味が判らない・・どこから盾が現れたのか・・なんで盾が爆発するのか・・今までの常識がガラガラと音を立てて壊れて行くのを感じる。



アルドが回復魔法をかけ始めて5分程するとシレアが眼を覚ます。アルドと自分の状態と記憶を思い出して考える。


「わ、私は負けたのか?」


自分の手を見つめて呆然としながら聞いて来た。


「すみません。今回、初めて使った魔法なんで威力の調整に失敗しました」

「魔法?盾が爆発した様に感じたが」


「はい。攻撃されると爆発するんです。その爆風で敵の攻撃を相殺して、ついでに相手へ攻撃も出来る優れ物の魔法です」

「・・・やられる方からすると悪魔の様な魔法だな」


「どうしましょうか。まだ出来ますか?」

「ああ、回復してくれたんだろ?大丈夫。まだ出来る」


「リアクティブアーマーは禁止にしましょうか?」

「そうだな・・今日は使わないで貰えると助かる」


「判りました。盾だけにしますね」

「すまない」


シレアと改めて対峙する。リアクティブアーマーを使わないならいつもの戦闘で良い。オレはウィンドバレット(非殺傷型)を5個、自分の周りに漂わせる。

今度はこちらから攻めよう。短剣を二刀構えてシレアに吶喊する。盾を前に出して防御をしてくる様だ。


こちらは空間蹴りを駆使して立体で攻撃していく。短剣だけじゃない、足技も混ぜてシレアを翻弄する。

短剣に意識が向いた所で、シレアの周りにウィンドバレット5個を配置した。


「いけーー!」


オレの掛け声を合図に一斉にウィンドバレットがシレアを襲う。5個の内2個は盾と片手剣で処理したが3個をまともに受けてしまった。

シレアは3メード程、吹き飛んでピクリともしない・・オレはすぐにシレアの所まで走り、先程と同じくソナーを使う。


骨折3か所、打ち身・捻挫・打撲は同じく全身に・・命に別条は無いのだが、また回復魔法を使った。

10分程してシレアが目覚める。


「ま、また私は負けたのか・・」


先程と同じ様に自分の手を見ながらワナワナと震えて呟いた。


「すみません」

「い、いや。アルド君が悪い事は何も無い。私自身の問題だ・・」


「・・・・」

「・・・・」


「どうしますか?まだやりますか?」

「・・・回復してくれた様だし、もう少しだけやろうか」


「ウィンドバレットは禁止にしましょうか?」

「・・・そうして貰えると助かる」


「判りました」


シレアとまた、改めて対峙する。次は魔力武器をメインで行こうと思う。

盾を構えて攻めてくる様子が無いので、オレから攻めて行く!立体の動きをしながら魔力武器で大剣二刀に変える。


ジョーは最近、ノエルと風呂を目当てにちょくちょく屋敷にやってくる。その時、風呂の代金の代わりに大剣を教わっているのだ。

今までは大剣と短剣だったが、最近やっと大剣二刀での修行が出来る様になってきた。


シレアは魔力で武器を変えた事に驚きの表情を見せる。またダウンすると流石にマズイので一度、離れてシレアの準備が出来るのを待つ。

冷静さを取り戻したシレアが片手剣で攻撃してきた。こちらが大剣二刀なので少し大振りだ。


すかさず短剣に戻しシレアの懐に潜り込む。”腋の鎧の隙間”と”首筋”にそれぞれ短剣を当てて有効打である事を示した。


「参った・・」


シレアは消え入りそうな声で1言だけ呟く…

王様達が演習場に降りて来る。全員が呆れた顔をオレに向け、可哀そうな物を見る様にシレアを見た。


爺さんには小さな声で”やり過ぎだ”とお叱りの言葉を頂いてしまう。


これ以上はどうしようも無いと言う事で、オレだけ家に帰される事になった。

爺さんは王様達とお話があるそうだ。憂鬱そうな顔をしていたのであまり良い話では無さそうである。



こうして王様への謁見は何とか終了した。




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