第99話図書館

99.図書館



ローザの足の治療を開始して2月程の時間が経った。

今日で5回目の治療になる。2月で5回の治療。少なすぎると思われるだろうが安全を取った。


実際に修復してすぐに異常が出る物もあれば、時間が経って異常が出る場合もあるからだ。

例えば小さな痛み、かゆみ、痺れ、それ自体は大した事は無いが、それが死ぬまでずっと続くと思うと寒気すらする。


修復を急いで後から違和感が出て結局、最初からやり直しなんて事になったらメンタル的にヤバイ…。

それらを踏まえて2週間のインターバルを設けたのだ。


インターバルを設けて本当に良かったと実感している。

実は2回目と4回目は失敗して修復した個所を切り落とした。


2回目の時は触覚が無かった。ソナーを使うと神経が丸々無かったのでオレのイメージ不足のようだ。切り落とすのに痛みも無かったので問題無く切り落とせた。

4回目の時はちょっとトラウマ物だった。これも神経だと思うのだが”痺れ”が出たのだ。


しかも10日程経った後に発症し、次の日には自然に治ってしまう。

ローザと話し残念ではあるがやり直す事に決めた。しかし今回は切り落とすのに普通に痛みはあるのだ。


足を切り落とす痛みに耐えきった後のローザは、正に精魂尽き果てていた。



今のローザの足は1回目の治療から考えると2回分の修復が終わっている。だいたい膝から足首までの真ん中当たりだ。

殆ど毎日ローザに魔法陣を習っているので聞いてみたが、同じ欠損でも膝の上と下では随分と動き易さが違うのだそうだ。


ローザは、膝立ちすれば大抵の事は出来る。そう言って喜んでいる。


「それじゃあ、いくぞ」

「はい、お願いします」


ソナーを使い自分の足とローザの残っている足を調べて骨、筋肉、じん帯、神経を頭の中でイメージしていく。

かなりの時間が経ったはずだ。イメージが出来たと思った瞬間に唱える。


「ヒール!」


最初の時のように魔力枯渇にならない程度の魔力を使う。


ローザの足は10cm程修復出来ていた。失敗した時も見た目だけなら完璧だったのだ。ローザに具合を聞いてみる。


「どうだ?」

「痛みや、痺れは無い、です…」


「……」

「触った感覚もある…」


「……」

「すぐに判る違和感は無いと思う」


「そうか。ただ後から出て来る事もあるからな。2週間は様子を見て問題無い様なら次に進もう」

「判りました」


後1回、成功すれば、その次は足首だ…手や足…正直な所、自信が無い。1cmずつ修復していければ良いんだろうが、人体はそう都合良くは無い。

例えば関節の真ん中で修復なんて出来ない。爪先は時間がかかるにしても、踵まで修復出来れば歩く事は出来るはずだ。


今は踵までの修復を目標にしている。魔力枯渇で倒れはしないが魔力の残りは2割程度しか無い。今日は風呂に入って早目に寝よう。


「じゃあな、ローザ。違和感があったらすぐに言ってくれ。おやすみ」

「判りました。おやすみなさい」


そういえば最初の修復の時にローザに迫られたがあれ以来、露骨なアプローチは無い。

きっと15歳で貴族の籍を抜けると話したのでオレの妾になるつもりは無くなったんだろう。




さて風呂に入ろう。メイドに着替えと牛乳を用意して貰い風呂場に移動する。

体を洗い湯舟に浸かっていると脱衣所から物音が聞こえてきた。爺さんかエルかと思ったらマールの声がする。


オレは”マズイ”と思い大声で叫んだ。


「おい!オレだ、アルドが風呂に入ってるぞ!!」


何かゴソゴソと聞こえて来たがマールからの返事が聞こえる。


「アルド、ごめんなさい。誰も入って無いと思ったのよ。すぐに出るから…え?ユーリ、ちょっと…」


何か言い様の無い嫌な予感がする…暫く待っていると洗い場に誰かが入ってきた…湯煙でシルエットしか判らないが明らかに女性だ…


「おい、オレが入ってるって。すぐに出るから脱衣所で服を着て待ってろ」


オレの声が聞こえているはずなのに女性は出て行くどころか、こちらに近づいて来る…

ボンヤリとしたシルエットが段々とハッキリ見えてきた。ユーリだ。何を考えているのかユーリは素っ裸に大き目の手拭いを体に巻き付けている。


「おい!冗談じゃすまないぞ。判ってるのか」

「ふ、ふふ…これで私の魅力にメロメロだろ…」


「バカなのかお前は!」

「どーれ。アルドのアルドを見せてみろ…」


「アホか!出ろ。出てけって!」

「あ…」


「あ…」

「い、意外に大人だな…お前…」


流石のオレもキレる時はある。殺気が立ち上り、今にも爆発しそうになっている…


「じょ、冗談だ…実は下着は着てるんだ…これ。見るか?」

「誰がみるかあああぁぁぁぁ!!」


ユーリは脱衣所に脱兎の如く逃げて行った。


「アイツは本当に何を考えてるんだ…」


ブツブツと文句を言いながらもオレのオレは存在を主張している…当分は湯舟から出られそうも無い。


風呂から出て夜風に当たる。もう11月だ、気持ちが良い。

時間が経つのが早く感じるのはオレが幸せだからなのだろうか…


1月と2月は学園が長期連休に入る。オレはブルーリングに里帰りだ。今回はルイス、ネロ、ファリステア、アンナ先生、ユーリ、オリビアはどうするんだろうか。今度、聞いてみないとな。

あと1月半で、アシェラに会える…10月は過ぎたからアイツは15歳になったのか。成人だな…結婚も出来る。


誕生日が6月のオレは、あと1年半で15歳だ。爺さんが言ってた。15歳になったら指輪をもう一度見る事になる。早ければ3年生の夏休みか…あと1年半でやり残した事が無い様にしないとな…


”成長”出来る事が増えて世界が広がって行く。




次の日の放課後-------




「アンナ先生、学園の図書館に転移魔法の文献ってありますか?」

「転移魔法?お伽話の魔法ね」


「流石に無いですかね?」

「どうなのかしら。飛行魔法もお伽話の魔法なのは一緒だけどアルド君、使えるよね?」


「まあ、似た様な事は…」

「転移か…私も興味あるし、今日は獣人語の勉強は止めて図書館を探してみる?」


「良いですねぇ」

「……」


オレがニチャ顔をするとアンナ先生もニチャ顔で返してくれた。早速、3人で図書館へ移動だ。




身体強化の修行中のルイスとネロに一言、告げて図書館へ移動する。

図書館は騎士学科、魔法学科、商業科で共有していた。恐らく本の値段と利用する量を考え共有になったのだろう。


場所は魔法学科の端、商業科よりの場所に建っている。これも利用するのが魔法学科、商業科、騎士学科の順番だからだ。

図書館に入るとカウンターがあり司書が2人座っていた。


まずは聞いてみる。


「すみません。転移魔法が載っている文献はありますか?」

「転移魔法ですか…少々お待ちください」


そう言うと司書の2人は奥から台帳の様な物を出してきた。


「転移…たしか魔法辞典に…」

「魔法辞典は転移魔法がどんな物か載ってただけだよ。それより…」


司書の2人があーでもない、こーでもない、と台帳から転移魔法が載っている文献を捜してくれる。

その様子を暫く見つめていると数冊の本を教えてくれた。


司書の仕事は何処にどんな本があるかを教える事だ。実際に本を持ってくるのは自分の仕事である。

司書の2人が教えてくれたのは3冊”創世の神話””精霊王の願い””迷宮の罠辞典”の3つだった。


”創世の神話”は精霊の使いは自分の領域への転移を自在に扱った。らしい。

”精霊王の願い”では同じ様に転移の記述が散見する。2つの文献を見比べると、どうも使徒と精霊の使いと言うのは同じ存在の様に思える。


最後の”迷宮の罠辞典”はまったく毛色の違う話であった。なんでも迷宮の罠には”転移罠”と言う物がある。

その罠は踏んだり、触ったりする事で発動するのだが、発動する時に触っていた物を全て迷宮内のどこかに飛ばす物らしい。


この3つを総合すると、この世界に転移はあるが簡単な物では無い。具体的なヒントとしては逆に転移罠にかかってみるのが良さそうだ。

何度か、かかれば感覚が掴めて転移の魔法が使えるかもしれない。




----サルでもわかる迷宮----


そもそも迷宮とは何なのか。人の歴史が始まった時には存在していたとされるが、今だに明確に答えられる者はいない。

一説には神が人を育てる為のトレーニング施設だと言う者もいる。


迷宮の特徴として最深部には必ず”迷宮の心臓”たる魔瘴石があり、迷宮主が侵入者から魔瘴石を守っている。

迷宮主が死んでも魔瘴石に影響は無いが、魔瘴石が壊れると迷宮主は死亡すると言われている。


放置された廃坑に迷宮が発生した事例もあるらしく、魔瘴石は何が原因で発生するかは今を持っても不明だ。

通常、迷宮は洞窟や廃坑から判る様に地下へと伸びているがドワーフの国にある”愚者の塔”は登って行く迷宮である。


廃棄された塔がいつの間にか迷宮になっていたのだ。しかし、その塔は元々の高さが3階建てであったのだが迷宮の中は5階まであったのだ。

この事から”迷宮の中は別の世界”と言う説が定説になっている。


実際、迷宮は謎に満ちている。何故、魔物がいるのか。魔物は何を食べているのか。何故、魔物の子供を迷宮内で見ないのか。何故、全滅させた階層の魔物が次の日には復活してるのか。・・・・

噂の話になるが、魔力が集まって魔物が生まれた。壁から魔物が湧き出した。面白い物では人が魔物になった。と言う物まである。


迷宮の大きな特徴として死体が残らない。いや、死体だけでは無い、動かない全ての物は迷宮に食われる。そこに魔物も人も物も区別は無い。

一部の研究者が浅い迷宮の中で動物の死体、鎧、剣、生きた動物、をそれぞれ1メード離して放置した。


10時間程経過すると”生きた動物”以外の物は全て迷宮の床に沈んでいったのだ。

それだけでは無い。鎧や剣に特徴のある印を入れてあったのだが、3年程経ったある日、迷宮の宝箱からその印が入った剣が出た。


誰がどうやってやったのか判らないが迷宮で出る装備品は、どうやら誰かの遺品と言う事なのだろう。

ちなみに迷宮の宝箱と言うのは一般的な宝箱とは違う。地面や壁に黒や青、赤等の色の付いた膜状の袋があったら、それが宝箱だ。


割ると高確率でアイテムが入っている。極稀に魔物が出て来る事もあるらしいが筆者は見た事は無い。

ただし宝箱には高確率で罠も仕掛けられている。


一般的な矢だとか槍だとかでは無く、迷宮の罠は毒ガスを噴出したり、落とし穴が開いていたりと機械的な物は無い。ただしとびっきり理不尽な罠が1つある。それが転移の罠だ。

この転移罠は発動した瞬間に触っていた物を、迷宮内ならランダムでどこにでも飛ばす。


実際に1階にそんな罠は無いが、例えると1階にいたはずなのに最深部の迷宮主の前に飛ばされる。何て事もある。

転移罠は魔法陣で発動するため必ずパーティに斥候を入れるのと、邪魔だとしても仲間同士を紐で結ぶのが常識だ。


この本を読んでる読者には転移罠がある迷宮に入るなんてマヌケはいない事を願う。


------筆者 A級冒険者ゴンザレス------




オレはこの筆者からすると”マヌケ”に当たるらしい…少し転移罠を舐めていたかもしれない。

”マヌケ”にならない様に転移の罠があってなるべく安全な迷宮の情報を調べてみる。


再び司書にフォスタークにはどんな迷宮があるのか調べたい。と聞いてみると”フォスタークの迷宮”とずばりの本を教えて貰えた。

早速、本を読んでみると意外な事に王都の近くにある”爪牙の迷宮”がオレの条件に近い。


絶えずランダムで転移されるので個の戦闘力が重視され、発見されている最強の個体はワイバーンクラスと言うのも魅力的だ。

”爪牙の迷宮”の詳細な情報を集めてみる。


迷宮の深さは10階層。タイプは洞窟型。洞窟型と言っても道中の通路は一番狭い所で5メード、大体10メード程の広さがある。オレの目的の転移の罠は7階層から出てくるらしい。

敵は基本、爪や牙のある獣系の敵しか出てこない。一番弱い敵でウィンドウルフ、迷宮主以外で一番強い敵がミノタウロスだ。


転移以外の罠は毒、麻痺、睡眠、落とし穴、の4つ。

地図も冒険者ギルドに行けば有料ではあるが手に入れる事が出来る。


ここまで攻略されて何故、今だに迷宮が残っているのか…それは迷宮主が地龍であるのが原因だ。

オレ達が倒した”なんちゃって竜種のワイバーン”と違い地龍は本物の竜種である。


そのブレスは伝え聞く伝承によるとオレのコンデンスレイに匹敵するだろう。

オレは自分が使うからこそ、あんなチート攻撃を持ってる相手とは絶対に戦いたく無い!絶対にだ!!


まずは7階層まで行かなければ転移罠を踏む事も無い。一度、6階層までで良いので潜ってみたい。今度、ジョーに聞いてみようと思う。





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