第100話ナーガ part1

100.ナーガ part1



図書館で迷宮について調べた夜、ジョーがノエル目当てで屋敷に顔を出していた。


「おーい、ジョー」


オレはノエルと嬉しそうに話しているジョーを呼ぶと露骨に嫌な顔をされる・・解せぬ。


「今、ノエルと話してるんだよ・・空気読めよ」


コイツに空気とか・・お前はダッ〇ワイフに空気でも入れてろ。と小一時間、説教したい気分だ。


「少し相談があるんだ」

「だから空気読めよ!何、普通に会話しようとしてるんだよ」


「迷宮についてなんだが」

「…お前、わざとだろう」


「…判るか?」

「……」


「なんでオレがアシェラと離れて1人寂しいのに、ジョーだけノエルと楽しそうなんだよ!」

「知らねぇよ!オレのせいなのか?」


「お前のせいじゃないが、お前なら八つ当たりしても良い気がする!」

「なんでオレなんだよ!エルファスにでも八つ当たりしてろよ!」


「エルは可哀そうだからダメだ」

「オレなら良いのかよ!」


「何、言ってるんだ。ジョーはオレのおもちゃじゃないか」

「お前、そのうち友達いなくなるぞ…」


流石に申し訳なく思えるので弄るのは終わりにする。


「冗談だ、迷宮の事で相談があるから後で話を聞いて欲しい」

「…分かったよ。後でな」


「ああ、すまない。オレは風呂に入ってくるからゆっくりして行ってくれ」

「ああ…」


オレは一人、風呂に入りに行く。ジョーとノエルの仲は進んでるのだろうか。ノエルも嫌がってはいなさそうだが。

風呂は良い。心の中も洗われる様で疲れも悩みも綺麗サッパリだ。


風呂上がりの牛乳を飲んでるとジョーが脱衣所にやってきた。


「話があるんだろ?風呂で聞いてやるよ」


オレは風呂から今、出た所だ。流石にもう1度、入るなら1時間は空けたい。


「牛乳も飲んだからな。外で涼みながら話すよ」

「衝立越しに会話かよ。物語の恋人同士みたいなんだが…」


「ジョーでも本を読むのか?」

「あ?喧嘩売ってるのか?……昔、少しな。」


「そうか、取り敢えず外に回るぞ」

「判ったよ」


服を着替え、浴室の衝立の外に出て来た。


「ジョー、聞こえるか?」

「ああ、大丈夫だ」


「少し聞きたいんだが」

「オレに判る事なら答えてやるよ」


「転移魔法についてなんだが…」

「ちょっと待て!!!」


「どうした?」

「そんなお伽話の魔法、オレが聞いて良いのか?」


「大丈夫じゃないか?」

「…そんな適当でオレは命を狙われたく無いんだが」


「大袈裟な」

「お前の空間蹴り!王様まで話が上がって、箝口令が敷かれたらしいじゃねぇか!」


「…転移魔法について何だが」

「何、サラっと話出してやがる!」


「話が進まんから聞いてから判断してくれ」

「聞いたら遅いんじゃないのか…はぁ、まあいい。話せよ…」


「転移魔法を使いたいんだが、手掛かりが何も無いんだ」

「そりゃ、そうだろ」


「いっそ転移を体験すれば転移魔法について、何か判るんじゃないかと思ってな」

「言いたい事は判るが転移魔法なんて使えるヤツいるのか?」


「使えるヤツは知らないが転移する方法ならあった」

「マジかよ」


「転移罠」

「…ちょっと待て。お前、もしかしてわざと転移罠を踏もうって言うんじゃねぇだろうな」


「……」

「本気か?迷宮の罠の中でも転移罠だけは踏むなって言われてるんだぞ・・」


「敵の強さを把握しておけば、そう危険は無いと思ってる」

「…どこだ?」


「は?」

「その言い方だと、どこの迷宮に入るか当たりを付けてるんじゃねぇのか」


「…爪牙の迷宮の7階から転移罠が出てくるそうだ」

「爪牙の迷宮・・確かにお前なら地龍さえ出合わなければ何とかなりそうではあるが・・」


「7階以降も一緒に。とは言わない。6階までで良いんだ。オレに迷宮の潜り方を教えてくれないか?」

「迷宮ねぇ」


「頼む」

「まあ、パーティ組んで潜るのは構わねぇが…お前Fランクじゃなかったか?」


「ああ。この前、ナーガさんにそろそろ”Eランクに成れそうだ”って言われたが・・関係あるのか?」

「あー、期待させたみたいで悪いが爪牙の迷宮はDランク以上じゃないと入れなかったはずだぞ」


「……」

「……」


「マジ?」

「マジ」


「付き添いにCランクが居てもダメなのか?」

「付き添いかぁ。そこはギルドに聞いてみないと判らんな」


「そうか…」

「すまんな。チカラになれなくて」


「いや、こっちこそ無理を言った」

「もし、行くんなら声をかけてくれ」


「ありがとう」

「おう」


ジョーに話して良かった。明日にでもギルドに行ってナーガさんに聞いてみようと思う。



次の日の放課後--------



自主練習が終わりファリステア、アンナ先生、ノエルに先に帰って貰う様に話す。


「ギルドへ行ってくる。先に帰ってくれ」

「ギルドか…判った。暗くなる前には帰ってこいよ」


「判った。じゃあ護衛、頼むぞ。ノエル」

「ああ」


遅くならないように空間蹴りを使って真っ直ぐにギルドへ向かった。

すぐにギルドに到着し扉を開けると、それまでの喧騒が嘘の様に静まり返る。


相変わらずの空気に苦笑いを浮かべ、目的のナーガさんを探す。カウンターに受付嬢としてナーガさんを見つけるが、顔はオレと同じ苦笑いを浮かべていた。


「こんにちは。ナーガさん」

「こんにちは、アルド君。私の用事を先に言っても良いかしら?」


「用事?はい、何でしょうか」

「先日、ワイバーンの最後の素材が売れたの。頼まれてた冒険者への報酬を引いたお金をいつでも払えるわ」


「やっと売れましたか。半分忘れてましたよ」

「こんな大金を忘れるとか…」


「で、幾らになりましたか?」

「皮を抜いた金額だとこれだけね」


金額が大きいので口頭では無く、手元の紙に書いて教えてくれた。


「神銀貨6枚!!」

「声が大きい!」


「あ、すみません。ちょっと思ってたより多くて…」

「普通は魔法や剣でボロボロになるのと、大きくて全部の素材を持ち帰れないの」


「あー、やっぱり高い部分だけ持って帰っての相場(神銀貨2~3枚)ですか」

「そうよ。今回は全部の素材を回収できたから魔石と皮が無くてもこの金額なのよ」


「判りました。倒したのはエルなのでエルに渡しておきます」

「じゃあ、金額が大きいから受け取りのサインを貰えるかしら」


「はい」


サインをして神銀貨6枚を受け取る。流石にお尻がムズムズする金額だ。

ナーガさんの用事は終わったので、今度はオレの用件を聞いて貰う。


「ナーガさん、実は……」


オレはジョーに話した内容をそっくりそのままナーガさんに伝えた。


「っと言う訳で爪牙の迷宮に入りたいんです」

「はぁ。アルド君のやる事に驚かないようにしてるんですが…はぁ」


「……」

「まず、ジョグナさんが言った様にDクラス以上しか爪牙の迷宮には入れません」


「ジョーに付き添いを頼んでも無理ですか?」

「ジョグナさんはCランクです。爪牙の迷宮に入るのであれば本来であればAランク以上、最低でもBランクの付き添いが無ければ許可できません」


「Bランク…」

「誰か頼めそうな方は見えますか?」


行かせたく無いのだろうか、ナーガさんが不安そうな顔で覗き込んでくる。


「心当たりは1人だけ…」

「差支え無ければ、その方の名前をお聞きしても良いですか?」


「まあ、”氷結の魔女”です」

「……」


「ナーガさん?」

「……」


ナーガさんが俯いてプルプル震えだしている…怖い。


「な、ナーガ…さん?大丈夫ですか?」

「ぶつぶつ……」


ナーガさんが俯きながらブツブツと何かを呟いている…これ呪いやで…呪いの言葉なんやでぇ。

ゆっくりと顔を上げる…普段とは違い眼が完全に座っている。


「ラフィーナ…」

「え?何ですか?」


「ラフィーナがどこにいるか知ってるんですか?」


座った眼でそう問い掛けられ。・言っても良いんだろうか…隠しても絶対にバレるよな…

オレは諦めて正直に答える事にした。


「はい…知ってます」


オレの一言にナーガさんが立ち上がり、前のめりになって聞いくる。


「あのバカはどこにいるんですか!!」

「家にいます…」


「家?ブルーリング邸に?」

「あ、ブルーリング領の領主の屋敷に…」


「ラフィーナはそこで何を?」

「あー、オレの婚約者と食っちゃねして、魔法の修行してるんじゃないですかね」


「ブルーリングで魔法の先生をしているのですか…」


ナーガさんが変な勘違いをしそうになってる。特に恨みがある様子も無く、むしろ心配してる様子すらある。正直に話しても大丈夫そうだ。


「ナーガさん。魔法の先生では無いです」

「先生じゃない…では何を?」


「氷結の魔女の今の正式な名前は ラフィーナ=フォン=ブルーリング です」

「フォン、、、ブルーリング…」


「はい。オレの正式な名前は アルド=フォン=ブルーリング。ラフィーナはオレの母様です」

「母……」


ナーガさんは眼をいっぱいに開けて、口に手を当てている。肩は小刻みに震え、薄っすらと目元に涙が溜まり始めていた。


「か、母様がナーガさんに何かしたんでしょうか…」

「……」


心配そうな顔をしていたのだろう。ナーガさんは首を振って否定の意思を示す。周りを見て問題ない事を確認して、それからゆっくりと話しだした。


「もう何年前になるんでしょうか。私がまだサブギルドマスターになる前のただの受付嬢だった時です」


ナーガさんと母さんの物語を聞く…




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