第59話冒険者ギルド
59.冒険者ギルド
ルイスベルが学園に復帰して、最初の闇の日の早朝の事。
今日は休日であると言うのに、何故かオレは学園の前でルイスベルとネロを待っている所である。
何故か? 実はこれには理由があり、ルイスベルが冒険者登録をしたいとワガママを言い出したのだ。
元々、魔法学科にいるのだから魔力操作は出来ていた。
ただし身体強化の練度はまだまだ。魔法も詠唱魔法から無詠唱に変更して…っと。
修行は始まったばかりで、とても冒険者の活動が出来る程ではないのだが、どうしても冒険者カードが欲しいらしいのだ。
暇があればオレの冒険者カードを見せてくれと煩い。
こいつこんなキャラだったか?と思う事もしばしばだが、元々こんな性格だったのだろう。
ちなみにネロは修行になると、いつも一緒に参加する。
きっと修行が好きなんだろう。
そんな訳で校門に集合してこれから冒険者ギルドで登録をするのだ。
「ああ、楽しみだな。アルド、早く行こうぜ」
「ルイスベル待てって、ギルドは逃げないぞ」
実はオレは思ってた事がある。思い切ってルイスベルに聞いてみた。
「ルイスベル。前から思ってた事があるんだ」
「どうした?」
「オマエの名前って長くね?ルイスって呼んで良いか?」
「おま、、まあオリビアもそう呼んでるからな。良いぜ」
当然の如くネロもルイス呼びになるはずだ。
こんな感じでバカな話をしつつオレ達は冒険者ギルドへ辿り着いた。
扉を開けようとするとルイスが前に出る。
「お、オレに開けさせてくれ」
ちょっと鼻息が荒い。
「お、おう。良いぞ…」
ルイスが冒険者ギルドの扉をゆっくりと開けた。
オレからするといつもの風景だったがルイスとネロには違ったようだ。
いつも飄々としたネロまで、ルイスと一緒になりキョロキョロと周りを見ている。
オレはナーガさんに手を振ってみた。
何故かナーガさんが眼をいっぱいに開いて、オレをガン見してくる…怖い。
よく考えたらウィンドウルフ討伐を有耶無耶にして逃げ帰ってそのままだった。
何か急にお腹が痛くなってきた気がする。うん、これはアレだな。今日は日が悪い。ルイスには悪いが別の日という事で…
オレは回れ右をしたら、そこに壁が…いや、ジョグナが立ってやがった。
「おう、アルド。久しぶりだな」
「ジョグナ、、ジョー、、さん、お久しぶりです」
「ジョーでいい。ナーガさんがオマエと、たーーーっぷりお話がしたいそうだぞ~」
ニチャっとした笑みを浮かべてきやがった。
いつまでも逃げられないか…オレはナーガさんの下に向かった。
「お久しぶりです。ナーガさん」
オレの挨拶に何かブツブツ呟いている。何この人…ヤダ、怖い。
やっぱり帰ろうと踵を返そうとした所でやっとナーガさんが話し出す。
「どれだけ探したとおもってるんですか!次の日にはお金を取りに来ると思ってたのに!」
「あー、すみません」
「念の為にアルド君の住まいを教えてください!」
「ごにょごにょ…」
「え?何?」
なんかナーガさん印象随分変わりましたね。
「貴族街のブルーリング邸です」
「ブルーリング?」
ナーガさんが考えてるとジョーが叫んだ。
「オマエ、修羅か!」
「ぶっ。な、何でかい声出してやがる」
「オマエなら噂にも納得だ」
「静かに!静かにだ。それと何で知ってる…」
「酒の肴で聞いた事があるんだよ。ブルーリングには修羅が出るってな」
「お、オマエ。絶対言いふらすなよ…」
「こんな面白い事、黙ってるわけねえだろうが」
オレは本気の殺気を出した。このままコンデンスレイで灰に…
速攻でジョーは白旗を揚げた。
「まあ広めたりはしねえけど、たぶん無理だと思うぞ」
「何でだよ」
「オマエが目立つからだよ」
「……」
「その年で冒険者ってだけでも目立つのに、その腕だろ」
「……」
「そもそも。この前ウィンドウルフ狩ってきたらしいじゃねえか。しばらくその噂で持ちきりだったぞ」
「マジか…」
「ちょっと目端が利くヤツならすぐに修羅とオマエを結びつけるぜ」
「あ、ちょっと眩暈がしてきた」
「ちなみに、オマエはどの修羅だよ?」
「……」
「あ?聞こえねぇぞ」
「血濡れだよ!」
「やっぱりか!血濡れの修羅が一番ヤバイらしいじゃねえか。ガハハハハ…」
ジョーが腹を抱えて笑ってる。もう一回、突きを打ち込んで腹を抱えさせてやってもいいんだぞ…
オレの殺気からかジョーが笑うのを止めて冷や汗を流し出した。
「ハァ、今日はこいつらの冒険者登録をしに来たんです。ナーガさんお願いします」
ナーガさんが真剣な顔でオレを見てくる。
「この前の話は覚えてますか?」
「子供に死んでほしくないってヤツですか?」
「そう。それです」
「こいつらはしばらく修行で登録だけのつもりです」
「そう。じゃあアルド君が許可するまで、この子達の単独の依頼は拒否するけど良いですか?」
「それでお願いします。オレも、ちょっと心配だったんですよ」
「分かりました。アルド君の許可か同伴じゃないと依頼は受けさせないように徹底しておきますね」
「ありがとうございます」
後ろでルイスとネロが微妙な顔で立っている。
「「アルドの許可がいるのかよ」」
「オレを誘ってくれればいいだろ」
「「それはそうだけど…」」
2人はこっそり依頼を受けるつもりだったようだ。危なかった。流石ナーガさんだ。
「じゃあ、これに記入してください」
「「はい」」
「説明もしっかり聞いておけよ。依頼の受け方なんかも教えてくれるから」
2人は大きく頷いて返事をしている。
暇そうに突っ立ってると、隣の受付嬢に呼ばれてしまった。
「何でしょうか?」
「ナーガ先輩から前回の討伐料と違約金の合計だそうです」
「ああ。そういえば…ありがとう」
オレは皮袋を受け取ると、それなりの重みがある。
一体 幾らあるのか気になり、近くの椅子に座りテーブルに中身をぶちまけてみた。
なんと、金貨3枚、銀貨9枚、銅貨8枚もの金が入っていた。
ウィンドウルフが討伐と魔石合わせて1匹当たり銀貨5枚:5000円か。8匹で金貨4枚だけど違約金が銅貨2枚。合わせて金貨3枚、銀貨9枚、銅貨8枚。
(あの戦闘で4万か。美味いのか? あー、でもソロで狩れればだよな。4人パーティだと1万ちょっと…キツイな)
そういえば魔石を取り出したのはノエルだ。アイツにも分け前がいる。
お金の事を考えているとルイスとネロの説明が終わったようだ。
「終わったか?」
「ああ」
ルイスとネロがオレを期待の籠った眼で見てくる。
「ダメだ。行かないからな」
「まだ朝だろ。ちょっとぐらいならいいじゃねえか」
ネロもルイスに同意してきた。
「身体強化がそれなりになるまではダメだ。逃げるのも進むのも足手まといになる」
“足手まとい”の言葉が効いたのか悔しそうな顔をしている。
「ジョー、修行ってどっかで出来ないか?」
「それならギルドの練習場でできるぞ」
「お、どこにあるんだ?」
「ギルドの裏手だよ。そういえばオマエの本気って見た事ないよな」
「木剣で1戦やるか?」
「いいねぇ」
ジョーは軽い殺気を放ち出し、ルイスとネロは露骨に怖気づいてる。お前ら、その体たらくで良く依頼を受けるなんて言ったな。
ギルドの練習場は本当にすぐ裏にあった。広さは小学校のグランド程もある。教官らしき人もいて若い冒険者がしきりに何かを聞いていた。
「ジョー、得物は何だ?」
「オレは大剣だ。オマエは?」
「オレは短剣だ」
「そうか、何故かオマエの短剣姿を想像したら寒気がするぜ」
練習場の隅にある道具入れから木剣の大剣と短剣を取り出すと、オレ達の雰囲気に見物人が出来始めた。
それを見た教官の1人が、血相を変えてこちらにやって来る。
「ジョー! 子供相手になんだ、その殺気は! どういうつもりだ」
教官がジョーを叱責しだした。ジョーはこちらから視線を切らずに教官へと口を開く。
「教官、あれが子供? バカ言っちゃいけねぇ。オレの方が格下だよ。気を抜くと震えが止まらねぇ」
教官がこちらを向くと、眼を見開いて固まってしまった。
ジョーは教官の背を軽く押して端に追いやって、獰猛な笑みを浮かべている。
「開始の合図はどうするよ?」
「譲ってやるよ。好きなタイミングで良い」
「ありがたいねぇ。格下は嬉しくて涙がでるよっと」
言い終わる前にジョーが大剣を振り上げて突っ込んできた。
ジョーには悪いがこの程度の剣なら、下がっても受けてもどうとでもなる……そんな中、オレはあえて前に出た。
大剣が振り下ろされる前に懐に滑り込み、短剣を喉と胸に押し付けた状態で寸止めだ。
「まずは1本……」
直ぐに離れて、改めて短剣を構えた。
「マジかよ……幾ら何でも、ガキ相手に何もできねぇだと……」
ジョーの独り言が、妙に響いたのであった。
そこからは一方的だった。ブルーリング領のガルに似た動きで、オレからすれば慣れた相手だったのもあったのだろう。
30分程してジョーがとうとう降参した。
「参った……」
ジョーはそう吐き出すと、その場で大の字になって寝転がってしまった。息は切れ滝のように汗を噴き出させている。
オレはそんなジョーに近寄ると、回復魔法をかけていく。木剣ではあるが、殴られれば当然ながら痛みはある。
「すまんな……」
「おう」
そこからは模擬戦は無しで、ルイスとネロの修行である。
2人はオレとジョーの模擬戦を見てから、目に見えて言う事を聞くようになった……現金なモノである。
先ずは冒険者を目指すのなら、逃げるにも戦うにも身体強化だと2人に徹底させて修行を付けていった。
そろそろ夕方という頃に修行を終えた。
2人は修行でフラフラだったが、ギルドの酒場で軽く休憩をして回復してから学園までの道を歩いて行く。
学園に到着すると、ルイスには護衛が待っていた。なんだかんだで大事にされているじゃないか。
ネロは1人で帰るらしく、ここで2人とは解散だ。
迎えに来ていたノエルと一緒にブルーリング邸へと帰る途中、ウィンドウルフの報酬の一部を渡した。
「あんな事で報酬を貰って良いのか?」
「ああ、ノエルが魔石を取ってくれたから貰えた報酬だ」
「そうか。じゃあ遠慮なく貰っておく」
「そうしてくれ。ちなみに何に使うんだ?」
「ん? 実家に仕送りだ」
「そうか、孝行娘だな」
「そうか? 私は長女だからな。普通だ普通」
ノエルは実家に仕送りをしているのか……次からはノエルの分を多くしてやろう。
そんな事を考えながら、ブルーリング邸までの道のりを歩いて行くのだった。
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