第226話家、リターンズ

226.家、リターンズ






サンドラ伯爵に話をした次の日。

オレとエル達は朝食を摂り終わるとアオに頼んでブルーリングへ飛ばしてもらっていた。


飛んだメンバーはオレ、エル、アシェラ、ライラ、オリビア、マールの6人である。

例によって氷結さんは“面倒臭い”とバッサリ斬りやがった……あの人のやる気スイッチは何処にあるのだろうか……きっと錆び付いて押せなくなってるに違いない。


オリビアやマールが一緒なのは、ドライアドに壊された家の改築状況を見たい、と言われてしまったからだ。

マールは結婚するとブルーリングの領主館に住む事が決まっているが、それとは別にマイホームには憧れがあるらしくオレ達の家を見たいと言い出した。


隠す理由も無いので、今日はエルとマールを改築中の我が家へご招待、と言うわけだ。

メインはナーガさんとの打ち合わせなのだが、そちらは長くなりそうなので先に我が家の見学に向かっている所である。


「まだ改築中だからな。そんな期待するような状態じゃないぞ」


マールは珍しくテンションMAXになっているので釘を刺しておく。


「分かってる。でもマイホーム……やっぱり憧れちゃうわ」

「マール。直ぐには無理ですが、遠い将来 全ての事が終わったら、小さな家を建ててゆっくりと2人で住みましょう」


「ええ、ありがとう。エルファス」


2人は最近、ラブラブオーラを出す事に躊躇いが無くなってきた……婚約してからマールも腹を括ったと言う事なのだろう。


「そんな2人の参考になるかは分からないが、あれが我が家だ」


指差す場所には、色々な職人が出入りしている作りかけの建物がある。


「ちょっと親方に中を見せて貰えるか聞いてくる。待っててくれ」


オレは声を張り上げ職人に指示をしている、棟梁のギーグに話しかけた。


「ギーグ、少し良いか?」

「ああ?今忙しいんだよ!見て分かんねぇのか、テメェは………………え??あれ?も、も、もしかして……あ、アルド様?」


ギーグは怒鳴り声のまま振り向いたかと思うと、オレの顔を見てどんどん顔色が青くなっていく……


「スマン、邪魔をするつもりは無かったんだ。見学は次の機会にするよ」


作業の邪魔になると思い、踵を返すとバーニアを使ったと錯覚する速さで、ギーグがオレの前に回り込んだ。


「いえ、違うんです、全然忙しくなんてありません!暇です!暇すぎてどうしようかと思ってた所です!」

「そ、そうなのか?」


「はい!それで、ど、どういった御用でしょうか?」

「いや、無理なら良いんだが、婚約者と弟達に新居を見せたいと思って……」


「丁度良いです!実はタブ商会長に各部屋の内装のイメージを聞いたんですが、流石に好みは本人達に聞かないと分からない、と言われてまして……」

「そうか、それなら丁度 本人達がいるから聞いてみよう」


「はい、アルド様の婚約者って事は、撲殺少女ですかぁ。お人形のようだと聞いています」

「あ、実は婚約者は2人いる……もう1人はサンドラ伯爵家の長女オリビアだ」


「おお、その年で2人も娶るのですか……流石ですなぁ」


何が流石なのだろうか……突っ込むとろくな答えが返って来ない気がするのでスルーしておく。


早速、皆の元へ移動してギーグを紹介した。


「こちらはギーグだ。今回の工事の総監督をしてもらっている。自分の部屋のイメージや要望をギーグに教えてやってほしい」

「紹介に預かりましたギーグです。奥様方の要望を教えて頂けると助かります」


アシェラは奥様と呼ばれた事で恥ずかしそうにしているが、オリビアは満面の笑顔で嬉しそうにしている。

ライラさん……何でアナタはモジモジしてるんですかね……


丁度、これから10:00の休憩時間に入るようで、この隙にオレ達はギーグに家の中を案内してもらう事になった。


「先ずは玄関です。階段は全部作り直しました。あまり派手なのは好きじゃない、と聞いていましたのでシンプルに仕上げてあります」


次は1階の居間と応接間だ。


「居間と応接間は広く取ってありますが、ブルーリングの英雄には手狭だったかもしれません……」


これで狭いとか無いから……オレはそんなに人を呼ぶつもりも無いし、寧ろこの応接間は無駄になりそうな予感しかしない。


「ここが厨房ですがアルド様から中の物は、ご自分で用意されると聞いていますので、調理台と戸棚しか置いてありません」


厨房には大き目の排水溝が横切っており、調理台以外は何も置いてない。

コンロ、冷蔵庫、シンクは魔道具で自作する予定だ。迷宮探索が終わったら本格的に作り始めないと間に合わなくなりそうである。


「後は風呂?とトイレ?ですがここはタブ商会長にお任せしてあります……正直な所、何をやっているのか見ていても良く分かりません……これで良いのか、アルド様に確認して頂けると助かります」


ギーグの言葉にオレはトイレと風呂を確認するが、タブはオレの希望を良く理解しており仕事は完璧だった。


「完璧だ。これで進めてほしい」

「……分かりました」


ギーグの何か聞きたそうな顔を無視しながら次の場所へと向かう。


「では、2階の私室です。アルド様の部屋の両隣が奥様の部屋と聞いてますので、そちらの内装の希望を教えて頂きたいと思います」


ギーグの言葉にアシェラとオリビアが前に出て、2人でどちらを自分の部屋にするかから決めている。

ライラはその姿を寂しそうに見ていただけだった……ぐっ、ここで我慢しないとなし崩しになるぞ!


オレはライラに優しい言葉をかけるのを我慢して、エルやマールと一緒に自室になるだろう部屋へ入っていく。


「兄さま、広いですねぇ」


エルが言うように、この部屋はブルーリング邸の自室より倍ほどの大きさがある。


「そうだな。こんな大きさは要らない気がする……」


ふと部屋の一部を見ると排水溝が見える……調べてみると、どうやら小さなシャワー室とトイレのようだ。

そう言えば半分冗談で自室にシャワーとトイレがほしい、とタブに言った覚えが……あれ本気にしたのか……


どうやらエルやマールも気が付いたようで驚いた顔で話しかけてきた。


「兄さま……自室に風呂とトイレを付けるのですか?」

「あー、そうみたいだ。このトイレなら自室に合っても匂いなんかは気にならないからな」


「そうですね……確かにこのトイレなら……」


エルが自室にトイレを付ける事にカルチャーショックを受けていると、次はマールが聞いてくる。


「これはお風呂?」

「あー、これはシャワーだな。上からお湯が出て、汗を流すだけの簡易的な風呂だ」


「汗を流す……」


マールがオレの部屋にある、アシェラとオリビアの部屋への直通扉を見ながら呟いた。

直ぐにナニかに思い至ったようで、真っ赤になりながら俯いてしまう……


「えーと、あー、うん、アシェラとオリビアを見てくる……」


恥ずかしそうなマールはエルに任せて、そそくさとオレはアシェラ達の元へと移動していく……

アシェラとオリビアはギーグに内装を、こと細かく説明している所だった。


アシェラは少し少女趣味で、全体的に淡い色で可愛らしくしたいらしい。

反対にオリビアは大人っぽく、落ち着いた部屋にしたいようだ。


2人が話す姿を眺めていると、そう言えばもう1人いた筈だ、と気が付いた。

ライラがいない……部屋を用意しない事にショックを受けて、どこかに行ってしまったのだろうか……


流石に気になって100メードの範囲ソナーを打ってみる……いた。

ライラは何故か屋根裏に1人でいる……拗ねてしまったのかもしれない……


ギーグとの打ち合わせが終わった所で、アシェラとオリビアにライラが屋根裏にいる事を話してみた。


「…………って事だ。ライラのフォローを任せて良いか?」

「うん」「はい」


2人は返事をしたかと思うと、まだ何も無い窓から空間蹴りで外へ飛び出していく。

因みに空間蹴りの魔道具を着けている時は2人共、ズボン姿で下着が見えないように気を配っている。


一度、スコートやスパッツを提案したのだが、見せても良いパンツと言う物を理解して貰えなかった。

確かにパンツはパンツである……見せパン……普通のパンツでも、見せても良いと言い張れば見せパンになるのだろうか……謎だ。


暫くするとアシェラが1人で戻ってきた。


「アシェラ、ライラはどうだった?」

「問題無い。それよりギーグにちょっと見て貰いたい所がある」


「ギーグに?それは良いが……何処だ?オレも一緒に……」

「アルドはいい。ここで待ってて」


「え?オレは見ちゃいけないのか?」

「これはサプライズ……アルドは楽しみに待ってて」


アシェラは頬を染めて上目使いで首を傾げながら、そんな事をのたまってくる。

アシェラさん、それ、分かっててやってますよね?あざとすぎる!でもカワイイから許しちゃう……ビクンビクン。


それだけ言ってアシェラは、怖がるギーグの腰のベルトを掴んで空を駆けていった。

宙吊りになったギーグの叫び声が響いていたのは、しょうがない事なのだろう……


30分ほどして流石に遅いと思いだした頃、アシェラ、オリビア、ライラがやっと戻ってきた。

ギーグも一緒かと思ったのだが余程怖かったらしく、部下のケルトに梯子をかけてもらって自分で降りてくるようだ


「もう良いのか?」

「うん!」


アシェラが嬉しそうに返事をするのを見て、オレは小さな溜息を1つ吐いてギーグに向き直った。


「ギーグ、色々とすまなかった。それと、ありがとう。思い通りの家になりそうで、ギーグに頼んで良かったよ」


疲れた顔をしていたギーグはオレの言葉を受けると、嬉しそうに目を細めて首を振る。


「そんな言葉を、勿体ない……ブルーリングの英雄の家に関われるのは大工冥利に尽きます。必ず満足いく物を作りますので、もう少しだけお待ちを」

「ああ、急がせるつもりは無いんだ。学園を卒業しても暫くなら、実家に住まわせてもらっても良い。無理せず良い物を作ってくれ」


「……ありがとうございます」


後はギーグに任せておけば間違い無いはずだ。

オレの方は厨房機器と各部屋用にエアコンの魔道具を開発しなければいけない。



後はオレの部屋のシャワーか……シャワーだけは、引越までには絶対に完成させなくては……





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