第389話ブルーリング武闘大会 part1

389.ブルーリング武闘大会 part1






リーザス師匠達がブルーリングに到着した次の日の朝。

ラヴィは朝食を食べ終わるとカズイからオレの家を聞き出し、メロウと一緒に訪ねてきた。


嫌な予感しかしないが、2人は一応 恩人でもある。

一抹の不安を感じつつも、応接間へ通させてもらった。


取り敢えずお茶と、冷蔵庫の中からお茶請けのゼリーを出して話し掛ける。


「ラヴィさん、メロウさん、おはようございます。こんなに早くからどうしたんですか?」

「昨日の話の続きだ。今ならアルドとも言い勝負が出来ると思うんだ。修行をつけてくれ」


朝っぱらから鼻息の荒いラヴィとは対称的に、メロウはゼリーを口に入れた途端 目を見開いて叫びだした。


「うーーまーーいーーぞーーー!! アルド! 何だこれ! 冷たくてプルプルで甘い! 私はこんな美味い物 初めて食べたぞ!!」

「あー、それはゼリーと言って果物を寒天で包んだデザートです。最近 暑くなってきたので丁度良いかと思って出しました」


「こんな美味い物があったなんて……旅でもアルドの作る物は全部 美味かった。一緒にいればもっと美味い物を食べられるはずだ…………決めたぞ! 私はこの家に住む!! それで3食 アルドが作ったご飯を食べるんだ!」


おま……何 勝手な事を言ってるんですかね? ほら、後ろでウチの嫁達が微妙な顔をしているじゃないですか。


「私も住む! 弟子が師匠と寝食を共にするのは当然だ。確かにアルドの作る物は美味いし、いつでも好きな時に修行をつけてもらえる!」


おい……普通は弟子が師匠の食事を用意するんじゃないのか? 何でオレが作る前提になってるんだよ。

そもそも結婚してから3年以上経ってるとはいえ、オレ達は結婚生活 数か月の新婚さんだぞ?


その家に居候しようとか……万が一 嫁達が許してもオレが許すわけ無いだろうが!


「あー、2人共、良く聞いてください。僕達は結婚生活が数か月の新婚なんです。しかも、妻の1人は妊娠中です。申し訳ありませんが、お2人を住まわせる余裕はありません」


キッパリ断ってやると、2人は予想通り文句を言ってきやがった。


「私はアルドのご飯を食べられれば、それで良い! 結婚生活の邪魔はしないから住まわせてくれ!」

「何故だ? 弟子は師匠と生活をするのが当たり前だ! それに私がいれば何かあってもアルドの妻達を守ってやれる!」


「メロウさん、僕は普段 自宅では食事を作りません。ですので ここに住んでも意味は無いかと。デザートを食べたいだけなら、昼間にでも遊びにきてください、歓迎しますよ。そもそも僕の家より領主館の食事の方が、素材は良い物を使っているんです。旬の食材が領民から届けられるので、季節毎の味覚を楽しめるかと」

「むぅぅぅ、そうなのか……旬の素材で季節の味を堪能……でもアルドの作った物の方が……あ、でもアルドは作らないのか……うーん……分かった。私はやっぱり領主館で厄介になるぞ」


ちょろいぜ! 実はブルーリング家は贅沢を嫌うため、高級な食材はあまり食卓に出ないのだ。

ただ嘘は言ってない。普段の食事は領内の旬の物をメインに作られ、季節の味を楽しめるのは本当である。


さて、メロウはこれで良いとして、問題はラヴィだ。コイツが簡単に引き下がるとは思えない。


「ラヴィさん、申し訳ありませんが、僕の妻達はとても強いんです。暴漢程度に後れを取る事はありませんので、護衛は必要ありません」

「でも私よりは弱いはずだ。だったら私がいた方が良いに決まってる!」


「うーん。3人の妻の内、間違いなく2人はラヴィさんより強いですよ?」

「は? そんなわけあるか! 私より強い者がそんなにポンポンいるはずが無い!」


やっぱり先日ルイスが言っていた通り、ラヴィの性格では身をもって体験しないと納得はしなさそうだ。


「ラヴィさん、ここにはラヴィさんが思っているより強い者が沢山いるんです。妻達だけじゃなく、僕の弟や母親、母の友人。他にも僕の親友であるルイスやネロ。カズイさんだって昔では考えられないくらい強くなってるんです」

「アルドの言い方だと、カズイが私より強いみたいじゃないか!」


「はい、そう言ってるつもりです」


ラヴィはその場で立ち上がり、髪の毛が逆立つかと思うほどの怒りを露にする。


「いい加減な事を言うな! 私は旅の間 ずっとリーザス師匠に鍛えられてきたんだぞ! そんな私よりカズイが強いなんてあり得ない! それにアルドの妻って後ろにいる3人の事だろ? そんな細い腕で私より強いなんて事 あるわけ無いだろうが!」


ラヴィの言葉に3人は軽い怒気を発し出す……ちょっ、止めて、本当に止めて下さい。ラヴィさんは一応 恩人でもあるんですから!


「アルド、ボクやっぱり武闘大会に出る……聞き分けの無い犬には躾が必要」

「おま、絶対にダメだからな! 子供に何かあったらどうするつもりなんだ!」


「大丈夫。ボクは魔法しか使わない。それで十分」

「ダメだ! それでも万が一があったら、オレもお前も絶対に後悔する。こんな事で危険を冒す必要なんて無いんだ……頼むよ、アシェラ。子供が無事に生まれるまでの間だから……本当にお願いします」


オレの泣き落としのような懇願に、アシェラは渋い顔をしている。アシェラだって子供の事は大切に思っているはずだ。

何とか穏便に宥めないと……必死に頭を働かせる中、新たな来客を知らせるノッカーの音が響いたのである。






緊迫した場の空気を変えるためにも、オレが玄関に向かわせてもらった。


「はいはーい。今開けますよー」


務めて明るく声をかけながら扉を開けると、そこには微妙な顔をしたルイスとリーザス師匠が立っている……ルイス、お前のその顔を見れば、何があったのか手に取るように想像できるんだが……

これ以上の問題はいらないので、出来れば帰ってくれないかな?


何も言わず、そっと扉を閉めようとした所でルイスの声が響く。


「おい! 何 勝手に閉めようとしてやがる!」

「いや、もうこれ以上はお腹一杯と言うか……お前が何を言い出すか手に取るように分かると言うか……」


「だったら言ってやる! お前の考えている通りだ! 前に言ってた件を実行するぞ!」


あー、やっぱりそうなるんですね……まぁ、ラヴィもライラの実力を知れば、無理は言わなくなるか……でもなぁ、ラヴィだからなぁ。

こうして当たって欲しくなかった予想通り、ブルーリング武道大会が開催される事となったのである。






色々な調整の結果、騎士団の演習場を借りるため開催は2日後となった。

実際に根回しをしてくれたローランドには頭が下がる思いだ。いつも無理難題ばかり言っているので、もう直ぐ足を向けて眠れなくなりそうで怖い。


武闘大会の参加者はラヴィ、メロウ、リーザス師匠は当然として、オレ、エル、母さん、ナーガさん、ライラ、ルイス、ネロ、カズイの総勢11名である。

本当はラヴィ達に全員と模擬戦をしてもらい、実力を思い知ってほしいのだが、そこまでやると流石に露骨すぎると言う事で予選リーグと決勝戦と言う形にさせてもらった。


ラヴィ組はラヴィ、カズイ、ナーガさん、ライラの4人でリーグ戦をして一番 勝率が高い者が決勝リーグへ進めると言うわけだ。

他にはメロウ組がメロウ、ネロ、オレ、エルの4人。リーザス組はリーザス師匠、ルイス、母さん、の3人である。


今回は全員が使徒の件を知っているのと、より実戦に近い形と言う事で、空間蹴りの魔道具を使用する事に決まった。

ラヴィとメロウの2人にとって、不利に働くのは間違い無いが、2人共「問題無い!」と言っていたので大丈夫だろう……バカめ、良く考えずに返事をするからだ。クックック、精々、届かない場所から七面鳥撃ちされるが良い。


少々 可哀そうではあるものの、実戦で命を落とす可能性がある以上、涙をのんで攻撃させてもらうつもりだ。

因みにルイスとリーザス師匠が持っていた、特殊仕様の魔道具は既に回収されており、今は普通の3か月縛りの魔道具を貸し出してある。


「では皆さん、これより武道大会を始めますが、くれぐれもやり過ぎないようにして下さい。皆さんは既に類まれなチカラを持っています。熱くなり過ぎず良いのをもらったらちゃんと降参してください。目に余る場合は実力行使させてもらいますよ?」


少し殺気を込めて注意を促すと、全員が真剣な顔で頷いてくれる。


「では、これよりブルーリング武道大会を始めます!」


オレの開始の挨拶に、周りから大歓声が沸き起こっている。これは騎士がギャラリーとして、オレ達を囲うように座り見学しているからだ。


「アルド様ーー。頑張るッスよーーー!」

「アル坊、エル坊以外には手加減してやれよーーー」


タメイとガルからの声援が聞こえてくる……お前ら、随分楽しそうですね? 中隊長がそれで大丈夫なのか、騎士団!

実はローランドが演習場を借りる際、ミロク団長から「是非、騎士達に見学させたい!」とお願いをされてしまったのだ。


どうやらオレ達の模擬戦を見せて、騎士達へ刺激を与えたいのだとか。

まぁ、邪魔さえしなければ好きにしてもらって構わないので、精々楽しんでいってほしい。


こうしてブルーリング最強……いや、人類最強を決める戦いは始まったのである。




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