第388話待ち人

388.待ち人






エルフの王子達一行が去ってから2週間が経った頃。

そろそろ本格的にマナスポットのネットワークについて動き出そうと考えていた所で、サンドラから早馬がやってきたと知らせが届いた。


サンドラからの報……オレがブルーリングに帰る事が出来て約4ヶ月。このタイミングでの「知らせ」は1つしか思いつかない。

オレは伝えてくれた騎士に礼を言い、そのまま領主館へと走り出した。


領主館の扉を乱暴に扉を開けると、廊下には驚いた様子のローランドが見える。


「ローランド!」

「アルドぼっちゃま、そんなに急がれて……」


「ああ、すまない。それよりサンドラからは何て?」

「その件で皆様 執務室に集まっています。ルイs……」


「分かった、執務室だな。ありがとう」


ローランドの言葉を遮って、オレは最速で執務室へと向かっていった。

もどかしい気持ちを抑えながらもノックすると、部屋の中から父さんの声が聞こえてくる。


「アルかい? どうぞ」

「はい、失礼します。サンドラからの早馬が届いたと聞きました」


入室を許されて、いきなりの言葉に父さんは呆れた顔を見せている。

これは当然の反応だろう。オレは挨拶すらまともにしていないのだから。


「アル、少し落ち着いて。今からそれを話す所だから」


父さんの言葉を聞き改めて周りを見ると、部屋の中には父さん、母さん、エル、ルイス、カズイさんの5人が苦笑いを浮かべながらオレを見つめていた。


「あ、す、すみません……挨拶もせず……おはようございます」

「おはよう。じゃあ、これで揃った事だしサンドラからの手紙の内容を話すよ。良いかな?」


全員が頷く中、父さんの声が更に続く。


「サンドラからの知らせでは、リーザス夫人と従者の2人は無事にサンドラの街に到着したようだね。名前は書かれていないけれど、2人の従者は魔族と獣人族の女性と書いてあった。以前の報告から考えて、カズイ君と同じアルジャナからの来訪者だろう」


父さんの言葉に、ルイスとカズイさんは目に見えて安堵した顔を見せていた。


「それと3人は周りが止めるのも聞かず、直ぐに旅発とうとしていたみたいだね。知らせを届けてくれた騎士からの話では、恐らく2~3日でブルーリングに到着するんじゃないかと言っていたよ」


2人は一転、安堵した顔から苦笑いを浮かべている。確かにあの3人なら……まるで、その光景が目に浮かぶようだ。


「まぁ、経緯は置いておくとして、ルイス君、カズイ君、3人は無事にブルーリングを目指しているそうだ。安心してほしい」

「はい、ありがとうございます、ヨシュア殿」「ぼ、僕なんかに真っ先に知らせてくれて、ありがとうございます」


父さんはルイスとカズイを見つめて1つ頷いた後、次にオレへと話しかけてくる。


「アルも良かったね。3人が無事で」

「はい。あの3人は僕のために回り道をしてくれたんです。万が一が無くて良かった……」


あの3人が無事で本当に良かった。不測の事態でも起こっていたなら……それはきっとオレのせいなのだから。


「報告は以上だ。皆 下がって良いよ」


エルと母さんはまだ話があるらしく、オレとルイス、カズイさんだけで部屋を後にした。






改めて3人で話すため、領主館の中にあるルイスの部屋へと移動した。


「さてと、あの3人がやってくるわけだけど……アルド、オレ達がお前を手伝ってる件、どうするよ?」

「え? あ、そうか……お前とカズイさんが、使徒の仕事を手伝ってるって知ったら、あの3人は間違いなく付いてくるって言い出すな……」

「そうだね、少なくともラヴィは間違い無く言うよね」


「色々と思う所はあるが……本音の話をするぞ? オレは反対だ。正直、今のオレ、ネロ、カズイさんでも役に立ってるか微妙な所なんだ。そんな中で戦闘力が一段劣る3人には荷が重いと思う。最悪は死なせかねない」

「……そうだな」

「……」


「ただ、問題は素直に言う事を聞くわけが無いって所がな……」

「……だな」

「メロウなら食べ物で釣れるかもしれないけど、ラヴィは絶対に引かないだろうしね」


「そこはウチの母さんもですよ……そこでだ、言っても聞かないなら身の程を叩き込むしか無いと思うんだが、どうだ?」

「身の程って……お前、何をする気なんだ?」


「ずっと昔、学園に入学したばかりの頃、オレとネロが冒険者登録をした時の事を覚えてるか? お前とジョーさんの模擬戦を見せられて、オレは素直に言う事を聞く気になったんだ。それと同じ事をする」

「そこまで言うんだ。何か考えがあるんだろ?」


ルイスは不適な笑みを浮かべながら、考えを口にする。


「要は実力差を分からせれば良い。お前の事は流石に特別だと思っているだろうが、恐らくアイツ等なら他の者を軽く見るだろう。だったら自分がどれほどの者かを、思い知らせてやれば手っ取り早い」

「……分かったよ。要は昔やった武道大会の真似事をして、自分の実力を嫌と言うほど思い知らせてやるって言いたいんだろ?」


「ああ、その通りだ」

「ただラヴィさんやメロウさんはそれで良いとしても、リーザス師匠の実力はそんなに低く無いだろう。そこはどうするんだ?」


ルイスは少し悲しそうな顔をした後、意を決したように話し出した。


「旅の途中はいつも男性組と女性組に分かれてたからな。お前は気付かなかっただろうが……正直な所、お前と会った頃には もうオレの方が強かった。勿論 母さんは否定するだろうけどな」

「そうなのか?」


「ああ、ラフィーナさんと違って母さんは前衛だ。40を越えている以上、体が衰えていくのはどうしようも無い。エルフの秘薬、『若返りの霊薬』でも使えば違うのかもしれないがな」

「……」


年齢……オレもルイスも19歳、カズイさんは21歳。しょうが無い事ではあるが、一定の年齢を過ぎれば体力は衰えていく。理解は出来ても、尊敬する先達が老いていくのは、どうしようもない寂しさを感じてしまう。


「母さんには この機会に、冒険者を引退してほしいと思ってる。お前を探す旅には無理を言って付き合わせたからな。もうそろそろ安全な世界でゆっくりと過ごしてほしいんだ」

「そうか……そうだな。ジョーやゴド達も、そう遠くない先に冒険者を引退するって言ってた。いつまでも先達に甘えてられないか……」


「ああ、あの人達には、それだけのチカラを付けてもらった。これからはオレ達が先頭に立つ番なんだろうな」


こうして、今の話ををエル、ネロ、母さん、ナーガさん、ライラに説明して、リーザス師匠達が到着次第、第2回ブルーリング武道大会が開催される事が決まったのである。

因みに、アシェラは最後まで参加しようとしていたが、ライラの「アシェラの分まで頑張る!」の言葉に何とか参加を断念してくれた。


この調子では、いつか無茶をするのでは無いかと、心配でしょうがない。

これはオレがしっかりと目を光らせておかねば!






そしてサンドラからの報が入って2日後の事、3人はブルーリングへ到着したのである。

その日はアルジャナの技術を使って、自宅のエアコンを改造しようと部屋で魔法陣の試案を作っていた、そこに来客を知らせるノッカーの音が響いたのである。


どうやらオリビアが出てくれたらしく、微かに話し声が聞こえてくる。

暫くするとオリビアが部屋にやってきて、メイドからの伝言を教えてくれた。


「アルド、リーザスさんが領主館に着いたそうです」

「リーザス師匠が? 分かった、直ぐに行く!」


「待ってください。私にとっても義理とは言え母親ですから。一緒に向かいます」

「え? あ、そうか、そうだな。一緒に行こう」


そのままリビングにいたアシェラとライラに話して領主館へ向かおうとした所、2人は頷き合って何やらアイコンタクトを交わしている。

結局、良く分からないが、2人も付いて来るようだ……


「オリビアの義理の母親なら、ボクの義理の義理の母親。迎えるのは当たり前」

「私もお迎えに行きたい」

「良く分からない理由だけど、分かったよ。じゃあ、全員で行こう」


こうして我が家総出で領主館へと向かったのである。






領主館の前には2頭の馬が繋がれ、美味そうに飼い葉を食べていた。

久しぶりだな、キキ、クク。お前等も元気そうでなによりだ。


懐かしさから撫でようと近づいた途端、何故だか鬱陶しそうに手を払いのけられてしまった。

お前等……もしかしてオレの事を忘れたのか? いや、お前等は以前からオレやカズイさん、ルイスの事を下に見ていたんだったか……


「アルド、急ぎましょう」

「あ、ああ。ごめん、オリビア」


くそっ、何だか微妙な気持ちになっちゃったじゃないか! 

モニョる気持ちを抱えながらも、3人と一緒に領主館へ入っていくのだった。


扉を開けるとローランドが立っており、客間へ案内してくれる。どうやらオレを待っていてくれたようだ。


「失礼します。アルドぼっちゃまがお見えになりました」


ローランドに促されるまま客間へ入ると、少し疲れた顔のリーザス師匠、ラヴィさん、メロウさんの姿があった。


「リーザス師匠、ラヴィさん、メロウさん……3人共 無事で本当に良かった……本当にありがとうございました!」


深々と頭を下げるオレに、いつもより優し気なリーザス師匠の声が響いた。


「アルド、以前の顔に戻ったな。その顔をするお前に、私から言う事は何も無い」


相変わらず言葉は簡素で味気ないが、その飾らない言葉が胸にしみこんでいく。


「ありがとうございます。リーザス師匠のお陰で僕は僕のまま帰って来る事ができました。今思えば、僕の心は限界に近かったんだと思います……あの時、リーザス師匠がパーティをわk…………」

「言ったはずだ、私からは何も言う事は無いと。そう思うのなら、お前はお前の大切な者を死ぬ気で守れ」


「……分かりました」


リーザス師匠は相変わらずだ。であればオレは言葉の通り、自分の大切な者を必死になって守ろう。きっとそれが師匠からの教えなのだから。

少し落ち着いた中、改めて周りを見ると、父さん、母さん、エル、マール、ルイス、カズイさんが座っており、全員が苦笑いを浮かべている。


そんな弛緩した空気で、次に言葉を発したのはラヴィだった。


「アルド、私は旅の間もずっとリーザス師匠に修行をつけてもらってきた。どれぐらい強くなったか見て欲しい。今ならアルドとも良い勝負ができそうなんだ!」


ラヴィさん……相変わらず空気の読めない娘ですね……今このタイミングで言うか? 普通。


「あー、ラヴィさん、お久しぶりです。修行は今度にしましょうか。取り敢えずは、皆さんの旅の疲れを取ってもらってからと言う事で……」


不服そうな顔のラヴィと周りをキョロキョロと眺めているメロウへ、何故かアシェラとライラが近づいていき声をかけた。


「2人共、この石を見て」


アシェラはブレスレットの『石』の覆いを外し、青い光を見せている。


「うっ……な、何だこの光は……」

「な、何この光……怖いぞ! 近づけるな」


アシェラは2人の反応を見て、直ぐに覆いを戻し謝罪を口にする。


「急にごめんなさい。2人がこれを見てどんな反応をするかを見たかった。2人とは仲良くなれそう」


おい……今のって『石』で浮気判定しただろ……オレ、どこまで信用されてないんだよ……

そんなオレの心を知ってか知らずか、アシェラとライラは満面の笑みで浮かべていたのだった。





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