第361話拠点 part1
361.拠点 part1
「ネロ、左から来るぞ!」
「分かってるんだぞっと」
ネロがカズイに足を潰されたオーガの胸に、片手剣を突き入れてトドメを刺した。
直ぐに新しいオーガがルイスに向かってやって来るが、木の上からカズイのウィンドバレットが飛んできて顔面に炸裂する。
「次が来るよ。気を付けて!」
「ありがとうございます、カズイさん。ナイスフォローです」
顔面を押さえながら のたうち回っているオーガへ、ルイスの大剣が振るわれる。
首が宙を舞い 物言わぬ躯になるが、既に後ろには新しいオーガが無数に控えていた。
「数が多すぎるよ。一旦 空へ引いて!」
「大丈夫です。もうアイツが来てますから」
オーガの群れが2つあったため、片方を倒し終わってルイス達の下へ戻ってくると、追加が来たのか当初よりオーガの数が増えていた。
オレは空を駆けながら、ルイス達が戦ってるオーガの残りを数えていく……1,4,7匹……行く!
両腕に魔力盾を出すとリアクティブアーマーを起動し、群れの中心へバーニアを吹かして真っ直ぐに突っ込んだ。
先ずは右腕のリアクティブアーマーが炸裂、更にバーニアを吹かして次は左!
7匹いたオーガの内 1匹はリアクティブアーマーが直撃し、バラバラになって破片が散らばるのみである。残りの6匹も1匹を除いて満身創痍だ。
驚きで棒立ちのオーガに狙いを定め、瞬時に魔力武器(大剣)を横薙ぎに一閃した。
1匹だけ健在だったオーガの首に赤い線が現れ、ゆっくりと首がズレていく。オーガは何か言おうと口を動かしていたが、頭は重力に引かれ、ゴトリと音を立てて転がっていった。
その音を合図に残り5匹のオーガの頭目掛け、ウィンドバレット(魔物用)を同時に撃ち込むと、グチャッと酷く有機的な音が辺りに響き渡る。
全ての音が消え去った時には、生きたオーガの姿は1つも無く、静寂が辺りを支配していた。
今は森の中でも開けた場所を見つけ、少し早い昼食を摂っている所だ。
「さっきのアルド凄かったね。オーガの群れを一瞬で倒しちゃうなんて。前からあんなに強かったっけ?」
「ブルーリングに帰って使徒に戻ったのと、エルと魔力共鳴したからですね。以前だともう少しかかったと思います」
「使徒に戻ったのは見てたけど、魔力共鳴って何? 聞いた事無いんだけど」
「あー、僕達は双子なので、弟のエルファスと魔力が同じみたいなんですよ。なので魔力を交換し合うと、お互いの修行の成果を分け合えるんです。これも秘密にしてくださいね」
「……」
カズイはオレが使徒だと明かした時と同じぐらいに驚いている。フリーズして固まっているので暫く放っておく事にしよう……NOWLODING
「カズイさんじゃないけど、お前 本当に強くなったな。いきなりパワーアップとか英雄譚じゃあるまいし……いや、英雄て使徒だったか。普段のお前を見てるとな。つい忘れちまうぜ」
「やめてくれ、英雄とか……エルもオレも必死なだけだよ。それに、今回は世界の広さを知ったからな。これじゃあ全然 足りない。もっともっと早く強くならないと……」
「アルド、お前……」
少し余計な事を言ってしまった。沈んでしまった空気を変えるのはいつもネロの役目である。
「大丈夫、オレもルイスもカズイだっているんだぞ。皆でやれば世界なんて簡単に救えるんだぞ!」
あまりに当たり前に言うネロを驚きながら見つめると、ルイスも同じような顔で呆けている。
そうだった……父さんや母さんからも、全部1人で抱え込むなと言われたんだった。
改めてネロの言葉を思い出し、言い様があまりにも軽すぎて、オレの口からは思わず笑いが漏れだした。
「クク……ハハハ。そうだな。そうだよな。オレとエルだけじゃない、皆でやれば良いんだよな」
「そうだぞ。アルドが全部やる必要なんて無いんだぞ!」
「オレもネロも昔よりだいぶ強くなったんだ。露払いぐらいはオレ達に任せろ。使徒様よ」
「ああ、チカラを貸してくれ。頼むよ」
「任せるんだぞ! やったぞー、初めてアルドに頼られたんだぞ!」
「おう、お前の道はオレ達が切り開いてみせるぜ!」
言うほど簡単な事では無いのは全員が分かっている。でも今は2人の気持ちが素直に嬉しかった。
オレ達は束の間の休息を取って、改めてオクタールへと向かって行くのだった。
エル達と別れてから1週間が経ち、オレ達の目の前にはやっと辿り着いたオクタールの街の城壁が見えている。
「戻ってきたな、ここに」
「ああ、やっとな。あの時は逃げるしか出来なかったけど、今度は絶対に倒してみせる。マナスポットを壊してでも……絶対にだ」
「気負い過ぎるなよ。先ずは雑魚の掃除と主への嫌がらせだぜ。忘れるな」
「分かってる。エルやアシェラが来るまで、徹底的に疲弊させてやる」
「そうだ。じゃあ、先ずは情報収集といこうぜ。探索魔法を頼む」
オレは一度だけ頷いて空へ駆け上がっていく。先ずは以前には打てなかった範囲ソナーを使って情報を集めたい。
街の上空まで移動して1000メードの範囲ソナーを打った……これは……何て数だ……100……200匹はいる。
そして雑魚のオーガの中に飛び切りの魔力を持った個体が1つ。それに主には遠く及ばないないが、雑魚のオーガとは比べ物にならない魔力を持った個体が4つある。
恐らくは、ここオクタールを巣にして上位種が生まれてしまったのだろう。
オーガだけあって範囲ソナーに反応した個体はおらず、オレはルイス達が待つ木の上へと戻っていった。
「悪い知らせだ。主の他に上位種が4匹いた。少し遅すぎたみたいだ」
「主の他にオーガの上位種が4匹もか……思ったより厳しいな」
「ああ、出来ればエル達が来る前に、上位種だけでも倒したいが、難しいか……」
「どうかな。そこは、やってみないと分から無ぇ。先ずは一度 休憩しよう。それから安全なキャンプ地を確保して、攻めるのはその後だ」
そう言ってルイスは近くに見える岩場へと向かって、空を駆けていくのであった。
岩場の近くで休憩を取っていると、眼下にはオクタールの街が一望出来る。
出来ればこの辺りでオーガが登って来れない場所に、拠点を作りたい所ではあるが……
「この辺りに拠点になる場所があると助かるんだけどな」
「まあな。でもパッと見には洞窟らしい物は見当たらないぜ。どうする?」
「ワイバーンの巣でもあれば良いんだけどな。そう上手くはいかないか」
「いっそ洞窟を作るって手もあるな。お前の極大魔法ならいけるんじゃないか?」
「コンデンスレイか……確かにアレなら岩も蒸発して大穴を開けれるだろうけど。ただ、アレは1発で魔力枯渇になるんだよな」
「は? サンドラではピンピンしてたじゃねぇか」
「そう言えば話して無かった。秘密にしてたんだけど、今更だな。実は…………」
オレは魔瘴石と領域、使徒の能力である魔力の回復について、3人へ説明をする事にした。
マナスポットの解放を一緒に行うのであれば、使徒の能力もある程度は知っておいてもらわないと困ると判断したからである。
「マジか……あの青い石にそんなチカラが……」
「オレはルイスとアルドが何を話しているのか、全く分からないぞ……」
ルイスは全て合点がいったと驚き、ネロは眉根を下げて会話の内容を計り兼ねていた。
カズイはハクさんとオーガの主を倒した時に、コンデンスレイを見てるので微妙な顔をしている。
「実際に見て貰った方が早いかな。良さそうな場所を探してコンデンスレイを撃つよ。ただ魔力枯渇になるから、その間の護衛は任せても良いか?」
「ああ、オレの命に代えても守って見せるぜ」
「アルドには絶対に敵を寄せ付けないぞ」
「相手がオーガなら空へ逃げられるから。大丈夫、任せてよ」
三者三様の言葉をもらい、休憩が終わり次第 拠点に良さそうな場所を探していく。
全員で散らばり1時間ほどが経った頃、これはオーガでも登って来れないだろうと思われる、断崖絶壁を見つける事が出来た。
「ここなら最悪の場合はオクタールの街もコンデンスレイで狙撃できそうだな」
「ああ。距離もオクタールから1キロ無いぐらいだからな。攻めるにも逃げ込むにも最適だぜ」
「ただ、問題はどこから撃つかだが……」
そう、最高の場所を見つけたのは良いが、空間蹴りを使いながらコンデンスレイを撃つ事は出来ない。
使徒に戻ってエルと魔力共鳴をした今のオレですら、コンデンスレイを撃つには立ち止まって集中するしか無いのだ。
そして色々と相談した結果 考え出したのは、木で簡単な背負子(しょいこ)を作り、ルイスに背負ってもらいながら撃つ事である。
今は木を拾ってきて、ロープで背負子を作っている最中だ。
「くどいようけど、絶対に真っ直ぐに駆けてくれよ。コンデンスレイは途中で止める事は出来ないんだからな」
「分かってるって。オレもあの極大魔法の威力は知ってる。あれの狙いがズレるとか……洒落にならん」
こうして簡単な背負子にルイスと反対を向いて座り、ロープでぐるぐる巻きにされたオレが爆誕したのである。
「これは……何と言うか……」
「そう思ってるのは、お前だけじゃ無ぇよ。これじゃあ、年寄りを山に捨てに行くみたいだぜ……」
オレとルイスの会話を、ネロとカズイは顔を背け必死に笑いを押し殺している。
お前等、覚えておけよ。同じ事があったら指を刺して笑ってやるからな!
「ハァ、しょうがない。やるか」
「だな。タイミングはお前に任せるぜ。撃つ5秒前になったら教えてくれ」
「分かった」
右手で狙いを定めてから、その指先に魔力を集めて凝縮していく。
魔力を注ぐ……凝縮。注ぐ、凝縮。そろそろ臨界が近い。
「ルイス、頼む」
「分かったぜ。ネロ、カズイさんは絶対に近づくなよ!」
「大丈夫だぞ」
「しっかり離れてるよ」
ルイスが目標地点から真っ直ぐにオクタールを目指して駆けていく。
揺れないように細心の配慮がされている。これはなら狙いは絶対に外さない。
「行く!」
その瞬間、オレの指先から断崖絶壁の岩肌へ向かって、1本の光が真っ直ぐにに伸びていく。
岩肌は真っ赤になったと同時に気化していき、大穴を空けながら岩壁を穿き続けている。
その様は岩壁からマグマと気化したガスが爆発的に湧きだしており、地獄のような光景であった。
そんな恐ろしい光景も照射から2秒が経ち、光の線が徐々に細くなって消えていく。
全てが想定通りと思えたが、最後の最後に光の線が岩壁を貫通してしまった。
「マズイ……貫通した……反対側は何も確認して無い……」
2秒の照射時間が過ぎ、そのセリフを最後にオレの意識は闇の中へ落ちていったのである。
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