第360話義務
360.義務
ナーガさんと打ち合わせた結果、オクタールとマナスポットに向かうのは3日後と決まった。
その日のうちにエル、ルイス、ネロ、カズイへ事情を話し、4人から参加の意思も確認してある。
問題だったのは、ある意味 予想通りであるアシェラとライラの2人だった。
アシェラはオレと別行動を嫌がり最後まで一緒に行動したがったが、マナスポットの解放が終われば直ぐに合流出来ると言うと、渋々ながら納得してくれた。
しかし、ライラへ引き続き地図の作成を頼みたいとお願いした所、この世の終わりのような顔でシクシクと泣き出してしまったのだ。
「ごめん、ライラ。でも地図はライラじゃないと作れない。お願いだ、地図が無いときっと間に合わない……オレだけじゃなく、将来 生まれてくるオレ達の子供のためにも地図を作ってほしい。頼む」
流石に将来の子供達のためだと言うと、ライラも最終的には折れてくれた……ある対価を条件に。
ライラが出した対価とは……ズバリ、子供である。
妊娠する可能性を上げるようにと、この2日間、子作りする事を約束させられてしまったのだ。
しかし、基本的に夜の生活の順番はオレの意見が通る事は無い。
困ったオレは渋々アシェラとオリビアに相談する事になってしまったのである。
「アシェラ……オリビア……スマン。地図の作成を頼んだら、交換条件としてライラとこの2日間、子作りをする約束をさせられた」
2人は驚きながらもライラを止めに行くような様子は無い。恐らくはライラの気持ちを考えればしょうがないと思ったのだろう。
一応の納得をしてみせた2人ではあったが、次に驚きの言葉が続いたである。
「ボクも子供がほしい……」
「アルド、私には子供を作ってはくれないのですか?」
何と2人も同じように子供がほしいと言い出したのだ。
これは、もしかして4人で……キャー、ハレンチーなどと内心喜んでいたのだが、現実は微妙に違った。
実際はこの2日間、何故か3交代で昼夜を問わず種付けをする事になってしまったのである。
子作り……オレが大好きな行為である。しかし、考えて欲しい。3交代でと言う事は、オレは一体 1日に何回 頑張れば良いのだろうか。
あー、日本で先輩が言ってたなぁ……最後は粉が出るって……しかし、ここは這ってでも、夫としての義務を果たさねば!
こんな事を考えながらも、素晴らしき桃色の2日間を過ごしたのであった。
出発の当日、アシェラと一緒に領主館へと向かうと、開口一番 ルイスから声が響いた。
「アルド……どうした? 大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
「あー、何でもない。ちょっと疲れてるだけだ」
「そんな激しい修行をしたのか? フェンリル様にやられて、そんなにショックだったのかよ」
「うん、まぁ、そんな感じかな。ハハハ……ハァ……」
あまり突っ込まないでくれ、ルイス。隣のアシェラがテカテカしてるのを見て、氷結さんとナーガさん、エルは何があったか察してくれているんだから。
そんなオレをジト目で見ながら、ナーガさんは確認を行っていく。
「皆さん、出発前の確認です。先日解放したマナスポットへ飛んで、当面は全員でエルフの国ドライアディーネへ向かいましょう。先日のマナスポットはフォスタークとドライアディーネの緩衝地帯にありましたが、今回はドライアディーネの中にあります。全員で国境を越えて、1週間ほど進んだ所でパーティを2つに分ける予定です。ここまでは良いですか?」
ナーガさんの言葉に全員が頷いている。
「マナスポット解放組は私、ラフィーナ、エルファス君、アシェラさんの4人。オクタール組はアルド君、ルイス君、ネロ君、カズイ君の4人です。解放組は最速でマナスポットを解放してアルド君達を追う予定です。オクタール組はあくまで雑魚を殲滅して被害を広げない事を優先して下さい。それと可能であるなら主の食料供給を断って、睡眠を取らせないように疲弊させる。但し、主への攻撃が難しい場合は速やかに撤退してください。この判断はアルド君達4人で話し合って判断するのが良いと思います。繰り返しますが、あくまで総力戦への準備である事を忘れないでください」
「分かりました」
「はい、無理はしません。アルドはオレが止めます」
ルイスはこう言うが、学生の頃はオレがお前を止めてたような気がするんだが……あぁ、オクタールの街を見て、オレがまた不安定になるのを心配してるのか。
心の中でルイスに感謝をして、ナーガさんの最終確認は終わったのだった。
それから解放したばかりのマナスポットへ飛び、2週間が過ぎた。
ブルーリングへ帰る旅は、路銀を稼ぎながらの道程であったが、今のオレ達には潤沢な予算がある。
通り過ぎる街の冒険者ギルドでオクタールの情報を仕入れながら、真っ直ぐに向かってきた。
そしてパーティを分ける事になる前日の事。夕飯を宿で取りながら最後の確認を行っていく。
「皆さん、明日の朝からはパーティを分ける事になりますが、正直 オクタールの状況は想定よりもだいぶ酷い事が分かりました。本当にここでパーティを分けて良いのか皆さんの意見を聞かせて下さい」
こう話すのはナーガさんだ。ここまで通ってきた街のギルドで、情報を仕入れた事による言葉である。
ナーガさんの言葉にオレなりの意見で口を開いた。
「正直な所、僕はオクタールの街から逃げ出した時に、ここまでの状況は想定していませんでした……きっと主はオクタールのマナスポットの加護を、繁殖に使ったのだと思います。じゃないと、これだけの被害は考えられないですから」
「そうですね。アルド君達がオクタールを離れて5ヶ月弱……その間に領軍と国軍が敗退したとは言え、オーガの数はその都度だいぶ減ったはずです。それでもこれだけの被害があるのは、アルド君の言う通りなんでしょう……」
「先ずは早急に雑魚の殲滅が必要です。じゃないと被害が広がり続けてしまいます……」
「こうなると、いっそ全員でオクタールに向かって、マナスポットは全部片付いてからでも良いような気がします。そこはどう思いますか?」
「僕には分かりません……ただこの状況で、他のマナスポットからも違う魔物が溢れるような事があったら……僕はそれがどうしようも無く怖い」
「それは……悪夢としか言いようが無いですね。エルフの伝承でも使徒様が現れる際には、徐々に魔物の被害が増えたとありますから、きっと世界の半分のマナスポットが汚染された影響なんでしょう。であれば確実にマナスポットを解放しておきたい所ではありますね」
「ナーガ、オーガは強い魔物ではあるけれど、私達には空と言う安全地帯があるわ。オクタール組は逃げるだけであれば、そんなに難しい事は無いはずよ。であれば、私は確実に後方の安全を確保するべきだと思うの」
これは何が正解と言う事は無い。どこに重点を置くのか……自分達の安全を優先するのであれば、母さんの言うように後方の安全確保は大事な事だ。
勿論 エルフの被害を第一に考えるのであれば、オクタールに全員で向かうべきなのであろうが。
暫くそれぞれの思う事を話し合い、最終的にはリーダーであるナーガさんが決める事になった。
「どちらも一長一短であれば、私は予定通りパーティを分けようと思います。アルド君達の安全を第一に考えるなら、全員でマナスポットの解放に向かうべきなんでしょうが、流石にそれはアルド君が嫌がるでしょうから」
「すみません……やっぱり僕にはオクタールから逃げた負い目があります……雑魚の掃除だけでも直ぐに向かいたいんです」
「分かりました。私もドライアディーネの被害は押さえたいですからね。予定通りの行動をしましょう。誰か異論はありますか?」
ナーガさんの意見に真っ向から反対する者はいなかった。
最後までアシェラはオレの心配を、カズイは自信が無さそうに話していたが、何が正解なのか分からないこの状況ではしょうがない事なのだろう。
次の日の朝、予定通りパーティを2つに分けてそれぞれが荷物の最終確認を行っていく。
「アルド、絶対に無理をしないで」
「分かってるよ。オレだって命は惜しいんだ。無理はしない」
そう返してもアシェラの顔は晴れない。
「大丈夫だって。危なくなったら空へ逃げれば問題無いんだから。それよりアシェラこそケガしないでくれよ。オレからするとそっちの方が心配だよ」
「大丈夫。主はボクが倒す!」
アシェラは両手の拳を軽く合わせ、気を漲らせて返してくる……うーん、心配だ。
「エル、母様、ナーガさん。アシェラを頼みます。無茶させないでやってください」
「分かりました、兄さま」
「分かってるわよ。アルは過保護なんだから」
「アルド君、私の心配はしてくれないんですか?」
「え、あ、はい、そうですね……ナーガさんもお気をつけて……」
「はい、気を付けて行ってきます」
この流れで何故ナーガさんが前に出てくるのか……謎だ。
「じゃあ、行ってくる。アシェラ、絶対にケガなんかしないでくれよ」
「うん。アルドも危なくなったら直ぐに逃げる」
こうして周りから呆れた顔をされながら、オレ達はオクタールの街を目指したのだった。
アシェラ達と別れてからオクタールに向かうまでの間、徐々にオーガの姿を見る事が増えていく。
オクタールに向かう途中にあるサイヤの街では、オーガの被害で物流が殆ど止まってしまっており、街の中も火が消えたように静まり返っていた。
「これは酷いな」
「ああ。ここはオクタールと同じグリドル領だからな。領軍がやられて、領都であるグリドルの街を守るために、戦力はそっちに回されたんだろうな」
「ルイス、ネロ、カズイさん、ここからは出来るだけオーガを倒していきましょう。どっちにしてもエルやアシェラが来るまでには時間がかかる。先ずはグリドル領の治安回復を」
「そうだな。主に消耗戦を仕掛けるにもエルファス達が来てからでも良いんだし。分かった、オーガ狩りと行こうぜ」
「分かったぞ!オーガなんてオレがやっつけてやるぞ」
「ルイス君やネロ君なら問題無さそうだけど、僕でオーガを倒せるのかな……ちょっと心配だよ」
「大丈夫ですよ、カズイさん。ドライアディーネは木が多いですから、木の上から攻撃すれば問題ありません。それに出来ればカズイさんには、ルイスとネロのサポートをお願いしたいんです。囲まれそうな時の補助や回復、余裕があればオーガの足を潰して貰えると助かります」
「それぐらいなら、僕にも出来るかな。頑張るよ」
「カズイさんなら問題無いですよ。落ち着いていきましょう」
「カズイの魔法は凄いんだぞ。オレが保証するぞ」
「だそうですよ。オレもカズイさんなら問題無いと思います。ウィンドバレットの扱いもルイスやネロより上手いですし」
「おいおい。オレは前衛だぜ。純粋な魔法使いのカズイさんと比べるのはおかしく無いか?」
「それぐらい上手いって事だよ。な? ネロ」
「そうだぞ。カズイはアルドの次に上手い。自信を持つんだぞ!」
「うん、分かったよ。じゃあ、ルイス君とネロ君のサポートは任せてよ」
大まかなフォーメーションを決めたが、ルイスとネロが遊撃でサポートがカズイだ。散っているオーガを倒すには恐らくそれが一番 効率が良い。
そしてオレは今回 単独で動かさせてもらう。
冒険者ギルドで情報を得て休憩も適当に済ませ、オレ達はオクタールへと向かったのだった。
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