第362話拠点 part2

362.拠点 part2






微睡の中から徐々に覚醒していく……オレは相変わらずルイスの背負子に担がれていた。


「お、起きたみたいだな」

「ルイス……まさか、ずっと担いでてくれたのか?」


「魔力枯渇なんだから気にするな。それと、洞窟はしっかり出来てたぜ。今は熱すぎて近寄れないけどな」

「そうか。そう言えばネロとカズイさんは?」


「あの2人は岩壁の反対側の消火と、洞窟を冷やすために水をかけてるはずだ」


そう言えばコンデンスレイが反対側側まで貫通したんだった。

背負子のロープを解きながら、ルイスにコンデンスレイの影響を聞いてみる。


「大丈夫だったのか?」

「ああ、貫通したって言っても、極大魔法は殆ど終わりかけだったからな。少しだけ森が燃えただけだ。カズイさんが魔法で直ぐに消してくれたから、大事にはなってないぜ」


「良かった。これで山火事でも起こったら洒落にならん」

「まあなぁ。そんな事になったらエルフが悲惨すぎるわな」


「洞窟の方はどうなんだ?」

「そっちも順調ではあるけどな。流石に冷えるまでに1~2日はかかりそうだ。まぁ、岩が溶けたんだから、多少 時間がかかるのはしょうがない」


「そうか。よいしょっと。座り続けて腰が痛い……」

「それもしょうがない。地上はオーガがどこにいるか分からないからな」


「分かってるよ。ありがとう、ルイス」


ルイスにオレが眠っていた間の事を聞いていると、青い顔のネロとカズイが戻ってきた。


「ネロ、カズイさん、お疲れさまです」

「アルド、何なんだぞ、だあの魔法。凄かったんだぞ」


「あれはコンデンスレイってオレの切り札の1つだよ。誰にも言うなよ」

「分かってるんだぞ。あんな魔法見たことないぞ。やっぱりアルドは凄いヤツなんだぞ!」


ネロは青い顔をしながらも、コンデンスレイの威力に興奮気味だ。


「カズイさん、反対側の火を消してくれたそうで。ありがとうごさいます」

「やめてよ。僕はちょっと水をかけただけなんだから。それよりハクさんの時にも見たけど、あの魔法 凄いね。改めて、驚いちゃったよ」


やはりコンデンスレイの破壊力は、他のどんな魔法よりも圧倒的で目を引くのだろう。

実際は欠陥が多数あって、どこでも簡単に使える魔法では無いのだが。


「洞窟の方はどうなりましたか?」

「そっちはまだまだかな。水をかけても全然 冷えないよ。ネロ君の魔力が枯渇しそうになったから戻ってきたんだ」


なるほど。ネロが青い顔をしていたのは魔力枯渇だったのか。どこか体調を崩したのかと思ってしまった。

旅の途中での体調不良は最悪 死に繋がり兼ねない。取り敢えずは問題が無さそうで安心した。


「じゃあ、交代しましょう。ネロとカズイさんは交代で休憩してください」

「分かったよ。じゃあ、ネロ君、先に休んで。僕は見張りをするから」

「ごめん。オレの魔力が少ないから迷惑をかけるんだぞ……」


「そんな事 気にするな。お互いに補い合えば良いんだ。それがパーティだろ?」

「そうだよ。ネロ君の魔力量は、獣人族では凄く多いと思うよ。メロウの倍近いんじゃないかな」


ネロは悔しさと嬉しさで何とも微妙な顔をしている。


「じゃあ、ゆっくり休んでてくれ。ルイス、行こうか」

「おう。じゃあな、ネロ。カズイさんに迷惑かけるなよ」

「オレは迷惑なんかかけないんだぞ!」


「ははは。行ってくるぜ」


ルイスの言葉を合図に、オレ達は空へ駆け上がっていった。






空を駆けているとオーガの群れを何度か見つけたが、その度にオレ達は虱潰しで倒していく。


「しかし、これはキリが無いな」

「主を倒さないと、どうしようも無いんだろうな。明日からはオーガの殲滅に集中しよう。正直 洞窟を冷やすのに、無駄な魔力を使いたく無い。今更 1日や2日 遅くなっても大した影響は無いはずだからな」


「ああ、そうだな。メインはエルフの被害を抑える事だ。どの道 エルファス達が来るまでには時間があるし、ノンビリとやろうぜ」


ルイスと明日からの予定を立てたのだが、どうせなら洞窟でゆっくりと休めた方が良いに決まっている。

その日は陽が落ちるまで交代して、洞窟を冷やしたのだった。






次の日の朝 支度を終え4人で朝食を摂っていると、俄かにオクタールの街の方が騒がしくなってくる。

オレ達は直ぐに意識を切り替え、木の影に隠れる事にした。暫くそのまま待っていると、20匹ほどのオーガの群れがこちらに向かって歩いてくるのが見える。


「多いな。あの規模の群れを見るのは、初めてじゃないか?」

「ああ。それに一番後ろを見てみろ。あの黒いオーガ、たぶん上位種だぜ」


「本当だな。オクタールにはオーガが200匹近くいた。元々なのか、オレ達が雑魚を間引いたからかは分からないが、たぶん食料が無くて幹部まで駆り出されたって所じゃないか?」

「なるほど。アイツ等に計画性があるとは思えないからな。そんな所だろうぜ」


「折角 出てきてくれたんだ。キッチリ奇襲で倒させてもらおう」

「ああ、分かった。で、作戦はどうする?」


「うーん、そうだな……時間はかけたく無いし……運良く上位種は一番後ろにいる……オレが後ろから不意打ちで上位種を倒す。そしたら恐らく雑魚はオレに向かってくるだろうから、3人は群れの背後を付いてくれ」

「上位種を一撃で倒せるのか? 時間がかかれば雑魚も襲って来る。そしたら流石にお前でも厳しいだろ?」


「雷撃の魔法を使おうと思う。この魔法は発動したら最後、絶対に躱せないからな。最悪でも瀕死には出来るはずだ」

「何だ、雷撃って……また新しい魔法かよ……」


「そんな所だよ。それと、この魔法は自動追尾で敵味方を識別できないんだ。だから絶対に飛び出すのは雷撃の後にしてくれ。これは確実に守ってほしい」

「自動追尾で躱せないのに、敵味方を識別できないのか……恐ろしい魔法だな」


「ああ。使いどころは難しいが、ハマれば戦力差をひっくり返す事が出来る魔法だ。因みにカズイさんはベージェで見た事がある魔法ですよ」

「あ! あの雷の魔法? ファングウルフの主を一撃で倒した?」


「そうです。あれです」

「主を一撃で倒すとか……お前どこまで強くなるつもりなんだよ……」


「たぶん上位種にはオーバーキルになるだろうけど、ここは安全を取らせてもらう。それに少し試したい事もあるしな」

「分かったよ。もぅ、好きにしてくれ……雷の魔法が合図だな?」


「ああ。じゃあ、行ってくる」


それだけ言うと、オーガに見つからないように、普段よりかなり高度を上げて空を駆けていく。

改めて空から群れを見ると、オーガの数は思ったよりも多そうだ。恐らく30匹近いのでは……


取り敢えずやってみるか。先ずは雷撃を起動してっと……

オレは右手の人差し指に魔力を貯めて雷撃を起動すると、次に左手で水の大玉を3個作り上空で弾けさせた。


水は土砂降りの雨のように降り注ぎ、オーガ達はいきなりの事に狼狽えている。

その隙にオーガ達の後ろに回って地上へ降り、自爆しないように地上から5センドほどを空間蹴りで駆けて行った。


未だに雷撃は起動したままだ。聡い個体がオレに気が付いたが、もう遅い! オレはバーニアを吹かして最速で突っ込んでいく。

上位種との距離が50メードを切った所で、紫電の光の1つが上位種に、2つがオーガの群れを走り抜けていった。


上位種は白目を向き、体中から煙を上げて倒れていく。雑魚も群れの半分は即死したのだろう、主と同じように煙を上げてピクリとも動かない。

残りの半分はまともに動けない個体と、何が起こったのか驚きながら辺りを見回している個体に分かれた。


どうやら電気の魔法なだけあって、遠くのオーガへは雷撃が届かずに、地上へ大半が流れてしまったようだ。

雷撃が着弾した場所からの距離によって、受けたダメージが全く違うのが見て取れる。


そう、オレが試してみたかったのは、水を撒いてから雷撃を撃つ事だった。

雷撃はオレの攻撃の中でも上位の威力を持つが、当然ながら魔力の消費も各段に多い。


そんな雷撃を多少 威力が落ちてでも、範囲攻撃に変えられないか、試してみたかったのだ。

改めて辺りを見回すと、また微妙な結果なのが良く分かる。


距離に寄ってダメージが違い過ぎる……一番遠い個体など、何のダメージも負っていない。


「これは面白い結果になったな」


考察は尽きないが、動ける個体がいる以上 いつまでも考えているわけにもいかない。

オレは直ぐに短剣を二刀抜き、ダメージが少ないオーガに向かって突貫した。


バーニアを吹かして、未だに驚いているオーガの首をすれ違い様に刎ねていく。

結局、ルイス達が到着した時には、まともに動けるオーガの姿は既に無くなっていた。


「お前……何なんだよ、これは……」

「アルド……これは凄すぎだぞ……」

「アルド、ちょっとやり過ぎじゃない? もうちょっと自重を覚えた方が良いと思うよ」

「試してみた事が思った以上……いや、以下? うーん、それは後で話しましょうか。取り敢えず生きている個体にとどめを刺して、話はそれからで」


3人は呆れた顔をしながらも、手分けして動けないオーガにとどめを刺していく。

そして上位種だが、やはり雷撃の直撃を受けて既に死んでいた。






今はオーガの群れを殲滅して、近くの木の上で休憩中だ。


「アルド、さっきの魔法は何だ? あれは雷なのか?」


休憩 早々にルイスからの詰問である。

残りの2人も興味深そうに見つめる中、オレは電気をどう説明しようか悩んでいた。


「ああ、さっきのは雷の魔法だ。本来は指先から魔法が3回出るだけなんだけどな。地面を水で濡らして範囲攻撃に代えたんだよ」

「雷って事は光の魔法だろ? 何で光の魔法が水に関係するんだよ。おかしいだろ」


やはり、この世界では雷は光と認識されているのか。

どうやって説明すれば良いのだろうか……うーん……


「あー、そうだなぁ。うーん……光か……えーっと……」


オレが説明に悩んでいると、ルイスが呆れた顔で口を開いた。


「ハァ……もう良い。お前には雷の原理が分かって、オレ達には分からない。そう言う事なんだろ?」


「ああ。隠してるわけじゃないんだ。ただ雷をどうやって説明すれば良いのか分からん」

「それが『使徒の英知』ってやつか……コンデンスレイもそうなんだろしな」


「スマン……」

「謝るな。お前が使徒で特別なのは知ってる。世界を救う使命と一緒に、その知識も得たんだろう?」


これまた返事が非常に難い。実は異世界人で転生しました、なんて言えるわけも無く、結局 曖昧に頷くことしか出来なかった。

こうして、何とも歯切れが悪い事ではあるが、運良くオーガの上位種を、1匹ではあるが倒す事に成功したのである。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る