第69話オーク殲滅準備

69.オーク殲滅準備



現在、ブルーリングの街ではオークの巣殲滅作戦の準備が進められていた。


そんなブルーリングの街の一室で不穏な会話が成されている。


「どうやらオークの巣が発見されたようです」

「そうか、騎士団はどの程度出るか分かるか?」


「はい。中隊が1隊と補給に1隊、あと修羅共が出るそうです」

「修羅3人共か?」


「はい」

「それはチャンスだな。修羅を無視してエルフだけを攫えれば…」


「カシューはどうします?」

「事が済んだら責をかぶせて殺せば良い」


「はい」

「引き続き情報を集めろ。オーク討伐に出た所でエルフを攫う」


「分かりました」

「ふぅ。やっとチャンスがやって来たか…」


ブルーリングの街の一室でファリステア誘拐の計画が着々と進められていた。





ブルーリング騎士団内


オレ、エル、アシェラ、母さんの4人で騎士団の詰所にやってきた。


「ラフィ、良く来てくれた。ありがとう」

「兄さん、オークの戦力を報告にきたわ」


「実際にどの程度の戦力なんだ?判る範囲で良い。教えてくれ」

「ちょっと待ってくれ。グラノは顔見知りだろうが、オレはそっちの3人とは初顔合わせだぜ」


「ああ、そうだったね。紹介するよ。騎士団長のミロクだ。顔は怖いが優しい男だよ」

「顔が怖いのは自覚している。ミロクだ。よろしく頼む修羅殿達」

「初めましてアルドです。よろしくお願いします」

「エルファスと申します。よろしくお願いします」

「アシェラです。よろしくお願いします」


ミロク団長との挨拶が終わるとグラノ魔法師団長から作戦の概要を聞く。


「今回は無理を言ってすまない。基本は戦闘に参加する必要はない。ただし発見されている2匹の上位種がオークキングの場合、被害は無視しても良いのでゴブリンキングを倒した魔法を使ってほしい」

「「分かりました」」


「さっきの続きだ。オーク共の情報を判る範囲で教えて欲しい」

「アル。教えてあげて」

「はい。オークの数は約200匹。その中に上位種が2匹。上位種の種類は2匹共違うと思います。場所はブルーリングの街から徒歩で1時間の森の中です」

「ちょっと待ってくれ。何故そんなに詳しく判るんだ?嘘を言ってるとは思わないが理由を教えて欲しい」


「はい、ミロク騎士団長。オレは範囲ソナーと言う索敵魔法が使えます。その魔法で数、大まかな種類、魔力の大きさ、位置が分かります」

「ちょっと待ってくれ…索敵魔法だと?ラフィ、どう言う事だ?」

「私に聞かないでよ。王都から帰ったら使える様になってたんだもの。私が聞きたいくらいよ」


「アルド様、説明してくれると助かるのですが…」

「はい。オレは体の中をソナーと言う魔法で調べる事ができます」


「体の中を…」


グラノ魔法師団長が母さんをジト目で見てるが知らん顔をしている。


「それは誰の体の中もですか?」

「試しにやってみましょうか?」


「是非、お願いします」


グラノ魔法師団長の鼻息が荒い…なんか怖い。


「あー、悪いが魔法談義は別でやって貰えると助かる」

「あ、すまない…」


「その範囲ソナーですか?それで探索したのですか?」

「そうです」


「その魔法の信頼性はどの程度でしょうか?」

「ほぼ間違いないかと」


オレは範囲ソナーを一回打ってみる。


「何だ、今の探られるよな魔力は」

「今のが範囲ソナーです。魔法使いには気が付かれてしまいます」

「オレは何も感じ無かったのは魔法使いじゃないからか」


「今の範囲ソナーで探索した結果、今この詰所には40人程の人がいます」

「確かに今は職員が5人に騎士が30人、後はオレ達で40…」


「ちなみにオークで範囲ソナーに気が付いた個体はいませんでした。魔法使いはいないと思われます」

「ありがたい情報です。なるほど、これで作戦が立て易くなります」


「後は一度、ゴブリンキングを倒した魔法を見せて貰いたいのですが」

「兄さん、やめた方が良いわよ…」


「ラフィ、何を言うんだ。どの程度の威力かによって作戦が変わってくる」

「私は忠告したわよ…」

「僕が撃っても良いですか?」


会話の途中にエルが割って入ってきた。


「正直な話、一回撃ってみたかったんです」

「実はオレも撃った後の光景が見たかったんだ。すぐ魔力枯渇で気絶するからな」


母さんとアシェラが遠い目をしている…


「じゃあ、演習場で撃って貰いましょうか」

「絶対ダメ!街の外に出て馬で最低1時間は離れないと!」


「冗談で言ってるんじゃ無いんだな?」

「本気よ!ヨシュアの妻としてその条件以外は認められないわ」


「分かった。しかし魔力枯渇で気絶するなら馬じゃなく馬車にしよう」

「分かったわ」


こうして箱馬車1台、馬3騎での移動になった。

1時間程移動して周りに何も無い平原に辿り着いた。


「的があった方がやり易いでしょ?作ってくるわ」


そう言って500メード先に、土で2メードの的を10個作って帰ってくる。


「母様、水平射撃はやめた方がいいです。あそこの木の上から撃ちましょう」

「そうね」


オレ、エル、アシェラの3人で木の上に移動する。


「エル、狙えるか?」

「大丈夫だと思います」


「アドバイスだ。光の魔法だから反動は殆どない」

「はい」


「でも絶対に的以外には撃つなよ。爆風なんかで体勢が崩れるかもしれんが根性で2秒だけ耐えろ」

「分かりました…」


「じゃあ準備するぞ」


撃った後は気絶するのだから最初から抱きかかえる。

弟とは言えアシェラにはさせたく無い役だな。


「オレは準備OKだ」


オレは今回、試してみたい事がある。エルがコンデンスレイを撃ったら密かに試してみるつもりだ。

エルが目標を指差し発射の体勢を取る。


「魔力の凝縮に入ります!」


指先に活性化された魔力の光が小さく強く灯る…徐々に光が強くなっていく…

30秒程してからエルが叫んだ。


「撃ちます!」


その瞬間、光が的に真っ直ぐ伸びる。照射時間の2秒でエルが他の的に狙いを移動した。


光が当たった場所の温度は4000℃にもなる……数瞬後には地面の土が蒸発し、水蒸気爆発を起こしながら光を追う。

まるで巨〇兵の口ビームのようだ……〇神兵とか…古いな。


撃った後は地獄絵図だった。

草原の草は燃え尽き、光の当たった場所はマグマ状になり地面がぐつぐつと煮えたぎっている。

オレはマズイと思いエアコン魔法を周囲にかけた。


(ちょっとキツイな…魔力枯渇になりそうだ…)


オレは魔力がかなり減っている。


「兄さま、下に降りましょう」

「分かった」

「……」


オレ達3人は木の上から飛び降り、空間蹴りで着地する。


「アシェラ、風向きによっては熱風で火傷するかもしれない…エアコン魔法を頼む」

「分かった」

「エル、抑えて撃ったの?」

「いえ、全力で撃ちました」


「なんで魔力枯渇で気絶しないのよ?」

「兄さまが魔力を半分、分けてくれました」


「ちょっと待ってくれ…な、なんだこの威力は…それに魔力を分けた?どう言う事だ…答えて貰うぞ、ラフィ」

「兄さん、ごめんなさい。答えられないわ。あくまでも威力を見せるだけ。それ以上は何も言えない」


「……そうだった。すまない、無理を言った」

「いえ、ごめんなさい…」


重い空気の中でミロク団長の声が響いた。


「これはすごい!今の魔法をアルド様とエルファス様で1発ずつ。計2発撃てるとは…」

「魔力枯渇で倒れますけどね」


「この威力なら問題はありません。この魔法で戦術、いや戦略が変わる」

「そんな大袈裟な…」


オレの言葉に大人3人はニコリともせずに真剣な顔をしている。


「そこまで?」

「そうね。この魔法を自軍に撃たれて撤退しない将がいたなら、その軍は負けるでしょうね」

「しかも、もし攻められても2射目があれば絶対に勝てます」

「この魔法の一番恐ろしい所は点の攻撃じゃなく線の攻撃な所だ。照射時間が2秒と言っていましたね。2秒間、好きな所を蹂躙できる……団長が戦略が変わると言う意味が判るよ」


コンデンスレイはオレが思っていたよりずっと危険な魔法のようだった。


「ちなみに水平射撃をした場合、射程はどの程度なんですか?」

「み、見える範囲…?」


「ちょっと待ってください…敵の軍と睨みあったとして、この魔法を水平射撃した場合どの程度の損害を与えられると思いますか?」

「み、見える範囲は全部…?」


「……」


ミロク騎士団長とグラノ魔法師団長はオレ達から離れてひそひそと話をしだす。

暫くして2人が戻ってきた。


「オレはこのブルーリング領に生まれた事を感謝するぜ」

「ああ、まったくだ。これで魔物の氾濫も大丈夫だ」


2人は嬉しそうに笑いあっていた。軍のトップ2人がこれでいいのか…

そう言い合い一向はブルーリング領に戻っていく。




再びブルーリング領 騎士団詰所


「考えたんだが範囲ソナーを使い位置を特定し極大魔法を使って貰えれば上位種の脅威は排除できるるんじゃないか?」

「なるほど、上位種がいなければ他のオークなど数がいても脅威では無いか…」


「欲を言えば魔法を上位種と密集地に撃って貰えれば完璧だ」


ミロク団長とグラノ師団長の話に割って入る。


「2つの地点が近ければ可能だと思います」


オレが答えると母さんが2人に釘を刺す。


「ちょっと待って。先に魔法を撃つのを了承した訳では無いわ」

「ラフィ、気持ちは判るが、参加して貰えるなら最大の効果を上げる方法でお願いしたいんだ」


「……」

「頼む」

「私からもお願いします」


「ハァ、こうなると思ったのよ…アル、どうするの?」

「そうですね。僕は良いですよ。エルはどうだ?」

「僕も大丈夫です」

「ボクも一緒に行く」


「アシェラはやる事が無いと思うぞ?」

「アルドとエルファスの護衛。どうせ魔力を渡して2人共、普段の戦いが出来ないはず」

「そうね。どちらかが魔法を撃って、どちらかが魔力を渡す…2人共半分以下の魔力でしょうね」


「では決定と言う事でよろしいでしょうか?」

「3人共、本当に良いのね?」

「大丈夫です。母様」

「問題ありません。母さま」

「大丈夫。お師匠」


オレ達にミロク団長とグラノ師団長が騎士の礼をしてくる。


「本当に無理を言って申し訳ありません。ありがとうございます」

「これで助かる命が必ずあります。心から感謝します」


「ただし、味を占めてこの子達を便利に使おうと思っているのなら、私は敵になるわよ」

「ラフィ、そ、そんな事は考えていない」

「も、勿論です」


「私は本気よ。この子達の敵は絶対に許さない」


母さんから一瞬ではあったが本気の殺気が出た。本気の氷結の魔女は怒らせたらアカンヤツやで…


こうしてオークの巣の討伐は決まった。後は日程だけだ。そんなに先では無いだろう。





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