第68話依頼

68.依頼



冒険者ギルドの扉を開けた。王都のギルドと変わらない光景が飛び込んでくる。

まずは依頼ボードだ。


「何を受けるか…」

「討伐はあるか?」


どうやら討伐の依頼を受けたいようだ…大丈夫か?

ルイスとネロはGとFの依頼を見ている。


オレも後ろから覗くとGは荷物運びと家の大掃除だった。どうやらGは街の中の仕事みたいだ。

Fは王都でもあった薬草採取と街の外壁の外にある畑の手伝いの様だ。

常時依頼にゴブリンの討伐とウィンドウルフの討伐、オークの討伐があった。


(オークが常時依頼ならブルーリングへの移動で、エルが倒したオークの討伐証明取っておけば良かった)


オレは討伐証明の部位だけは覚えておく事にする。証明部位はどこのギルドでも一緒らしい。


「うーん、薬草採取を受けてゴブやオークを狩るか」

「それで良いぞ」


2人は薬草採取の依頼書を剥がし受付に持っていく。

ノエルもディオスも止めないと言う事は妥当と判断したんだろう。


依頼を受け、受付嬢に薬草の生えている場所を聞く。

どうやら歩いて1時間程の場所に生えているらしい。

その場所では最近オークの目撃情報が頻繁にあるので気を付ける様に注意されていた。


心配そうな受付嬢だったが、ノエルとディオスの姿を見ると安心したのか苦笑いを浮かべだす。

どうやら貴族のボンボンが護衛付きで冒険者ごっこをしていると思われたのだろう。

実際、それに近いので訂正もせずにギルドの外へ出た。


とりあえず門に向かっていると後ろから2人程、オレ達の後をつけてくる人影がある。

暫く様子を見ていたがやはりつけられているのは間違いない…道の角を曲がった所で待ち伏せをする。


2人組が角を曲がった瞬間に後ろに回り込んで声をかけた。


「何か用ですか?母様、アシェラ」


尾行していた2人組は母さんとアシェラだった。

ギルドでもチラチラと姿が見えて何をしてるか謎だったが、どうやら一緒に依頼を受けたかったようだ。


「たまたま散歩でこっちに歩いてただけよー」

「うんうん」

「そうですか、じゃあ付いて来ないんですね?」


「たまには冒険者の後輩の指導をしてあげても良いわよ?」

「うんうん」


アシェラは頷きながら冒険者カードを見せて来た。こいつFランクじゃねえか!いつの間に!

オレがアシェラの冒険者カードをガン見してると自慢げに話し出した。


「アルド達が王都に行ってすぐに登録した。今では護衛無しで街の外に出るのを許されてる」


最近はちょっと成長してきた胸を張って得意げに話し出す。

王都から帰ってくるオレ達を迎えに来た時、1人だったからおかしいとは思ってたんだ!


「分かりました。付いてくるのは良いですけどオレと同じ護衛枠ですよ。基本、危なくなるまでは何もしないように…アシェラも良いか?」

「問題ない」

「分かったわ」


こうして母さんとアシェラが護衛枠で参加する事になった。

考えてみると…冒険者ルイス、ネロの2人、護衛ノエル、ディオス、オレ、アシェラ、氷結の魔女の5人だ。オークの集落でも壊滅出来そうだな。

門を越える時にオレ達を見て首を傾げる門番がいたがノエルが一言、言うと敬礼で見送ってくれた。


街道をのんびりと歩く。15歳になったらこうして世界を歩くのも良いなぁ…


(待てよ。15歳で成人って事はオレって学園卒業したらアシェラと結婚するのか?世界を周るとか言ってられねぇ。就職!仕事見つけないと!)


「母様、15歳で出来る仕事って何があるんでしょうか」

「何?急に変な事言い出して…さては15歳でアシェラと結婚するのに収入が無いとマズイって思ったの?」


(こいつ昔から変な所でするどいよな…)


「いけませんか?」

「いけなくは無いわよ。そうねぇアルなら何でも出来るんじゃない?領主を目指すのも、騎士を目指すのも、冒険者も良いわね、変わった所で商人でも良いかもね」


「なるほど。領主や騎士は肩が凝るのでパス。冒険者か商人…」


オレが何が良いか考えてると母さんがぽろっと呟いた。


「きっと世界中を旅するんでしょうね…」


その言葉を呟いた母さんは、とても悲しそうで今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「母様?」

「ん?なあに?」


「何でもないです…」

「変な子ね」


次の瞬間にはいつもの飄々とした母さんに戻っていたのでオレの見間違い?

道中を話しながら1時間程。ちょっとした森の端に着く。


「この辺りかな?」

「そうだな…これか?」


「それだ!早いな。ネロ」

「これなら匂いで判る。あそことあそこ。ちょっと離れたあそこにも」


ネロがかつて無い程の優秀さを発揮し、薬草をみるみるうちに集めて行く。

オレが今だに達成していない薬草採取を…


「これだけあれば良いかな」


1時間程の採取で、5個1セットの薬草を6セットも取った。


「な、中々やるな」

「アルド、悔しそう」

「アル、今まで何回、依頼受けたの?」


「1回…」

「そうなの?じゃあ1回しか依頼達成して無いなら、あの子達に並ばれちゃったわね」


「……」

「え?聞こえないんだけど」


「その1回も失敗だったよ!」

「え?アンタ1回も依頼成功した事ないの?」


「……」

「ぶひゃひゃひゃ…うひひひ…あ、アンタ…偉そうにしてて1回で抜かれてんじゃないの…うひゃひゃあ…お、おなかいたい……ひひひ……」


オレは今日、親殺しの十字架を背負うかもしれない。


「わ、悪かったわ。その殺気をしまいなさい…ぷっ」

「あ、アルドは出来る子…ぷっ」


あ、アシェラまで…オレは座り込んで、そこらに落ちている木の棒で地面に”の”の字を書きだした。


「あー久しぶりに本気で笑ったわ…悪かったわ。もう笑わないから。ごめんねアル」

「……」


「あー、これは重症だわ。アシェラ、ちょっと…」


オレは本気で拗ねていた。もう何があっても”の”の字を書き続けてやる。

しゃがんでいたオレの後ろから不意に抱き着かれた。


「アルド、ごめん。許して?」


アシェラが後ろから抱き着いていた…これは反則だろ。


「分かった。許す…」


護衛のノエルとディオスが砂糖を吐きそうな顔をして、ルイスとネロは羨ましそうにオレを見ていた。


そろそろ昼食の時間になる。どうしろと指示は出さない。オレ達はルイスとネロの後を干し肉を齧りながら付いて行く。

魔法を使えないノエルとディオスの水筒に水をいっぱいまで注いでやる。冷やしてあるのはサービスだ。


「薬草も9セット揃ったけどゴブリンもオークもいないなぁ」

「もうちょっと奥に行くか?」


「そうだな」


ルイスとネロが森の奥に進んで行く。

オレ達は止めようかと相談しだした所、母さんが”これも経験”と止めるのに反対する。

痛い目に合わなければ覚えないとの事、むしろ危険は護衛がいる時にこそ経験しないと。と強硬に反対した。


結果、オレ達はルイスとネロを止めない事になった。

念の為に、オレとアシェラは空間蹴りで木に登り上空から見張る。

残りの護衛チームも少し近づき、すぐに援護に入れる様に警戒しだした。


そんな護衛に気が付きもせず、ルイスとネロはどんどん森の奥に入って行く。

オレの視界にオークが入った。数は3。3匹共棍棒を持って歩いている。


オーク…一般に2メード程の身長で非常にチカラが強い。半面、足が遅く全力で走れば逃げられる。繁殖には他の種族の雌を使い、捕まった雌は死ぬまで苗床としてオークを生まされる事になる。ある程度の群れになると上位種が発生し、群れが強化されていくと言われている。


上空からみていると後5分程でルイス達と接敵する。オレは空間蹴りで音を立てない様に一度、護衛に合流した。


「5分程でオーク3匹と接敵する。どうする?」

「2人に知らせましょう」

「ダメよ。救援の要請があるまで手出ししないわ」

「危険です。何かあったら!」


「アナタ達は今、自分の護衛してる間だけ守れれば良いの?これから冒険者になる新人を育てるには救援要請があるまで手は出さない。これは決定事項よ」

「分かりました…アルド達が強い理由が分かった気がします…幸せかどうかは別ですが」


母さんは肩を竦めて見せる。

オレはアシェラを待たせている木の上に戻り、母さんの決定を話す。


「流石、お師匠。即死しなければ回復魔法がある」

「お前の考えが怖いよ…」


「護衛がいる事を利用して、今は危険のラインを体で覚えるべき」

「そうだな…分かった。そろそろ接敵するはずだ。散開して万が一に備えるぞ」


「了解」


オレはアシェラと別れ、すぐに助けに入れる場所に移動する。ちなみに短剣は昨日のうちに騎士団の倉庫から2本拝借してきた。

あと1分もしない内に接敵する。短剣を抜き戦闘に備える。ルイス達だけじゃなく自分の周りの気配も確認するのは忘れない。護衛が襲われるとか笑えない。


見てるとネロがオークに気が付いたようだ。しかしもう10メード程の距離だ。逃げるか戦うかギブアップして護衛を呼ぶのか判断しなければ。

ルイスとネロは戦う事に決めた様だ。それぞれ得物を抜いて戦闘の準備に入る。


(オレなら気付かれていないなら回り込んで奇襲するけどな)


自分との対応の差を考えながらルイス達を見守る。


オークもルイス達に気づいた。風下だったからここまで気付かれなかったのだろう。

棍棒を振り回し雄たけびを上げながらルイス達へと向かっている。


傍から見る分には落ち着いてる様に見えるが…


2対3


ネロが2匹のオークの気を引いている。本気で切り結ばず自分の方に向かう様に誘導しているのだ。

その隙にルイスが1対1でオークと戦う。

オークはゴブリンと比べ物にならない程、膂力が強い。しかしルイスも身体強化を使っている為、負けていない。


徐々にオークが押され始める。

何度目かの打ち合いでルイスの剣が綺麗に入った。オークの右手が宙を舞う。

血を流しながら叫び声をあげるオークに振り下ろしでトドメをさした。


これで2対2。


ルイスはネロを攻撃しているオークの後ろに素早く回り、背中から袈裟懸けに斬撃を振るう。


これで2対1


もう大丈夫だろうと緊張を解く。

危なげなく攻撃し最後はネロがオークの首に片手斧を当てて倒していた。


嬉しいのだろう。ルイスとネロが2人で喜びあっている。気持ちは判るが…

血の匂いに引かれたのだろう。ウィンドウルフが集まりつつあった。


喜ぶ2人を7匹程のウィンドウルフが囲みつつある。

これはマズイとオレは一声上げた。


「ウィンドウルフ。数7。囲みつつある。オレ達が倒す。行くぞアシェラ!」

「分かった」


その声を合図にオレとアシェラはウィンドウルフに向かって行く。

アシェラがウィンドウルフの胴体を殴ったと思ったら反対側が爆発して内臓が吹き出している……何あれ……オレあのパンチ受けてたの?……北〇神拳とかじゃないよね?


元々、アシェラは魔力視の魔眼でウィンドウルフが近づいている事は気が付いていたはずだ。

敵の場所が判っていたのだろう。サクサクと倒し終わりルイスとネロの元に近づいた。


「最後が惜しかったな。戦闘後は血の匂いで他の魔物が寄ってくる事が多いんだ」

「そうか…オークに勝って油断しちまった」

「ウィンドウルフは何匹いたんだ?」

「9匹。7匹は倒して2匹は逃げた」


やべ。7匹かと思ったら9匹だったか。7匹って叫んじゃったよ…恥ずかしい。


「オークもウィンドウルフも常時依頼が出てたはずだから証明部位と魔石を取ろう」


ウィンドウルフは尻尾でオークは右耳らしい。魔石の位置はソナーで調べる。胸にあるようだ。

ルイスとネロはオーク、オレとアシェラはウィンドウルフの剥ぎ取りをする。ノエルがうずうずしていた。


「ノエル、オレが警戒をするから剥ぎ取りを手伝ってくれ」

「了解だ」


ノエルが嬉しそうに剥ぎ取りをしだした。

オレは念の為に範囲ソナーを1回打つ。


「げ、すぐ近くにオークの巣があるじゃねえか…上位種も2匹いる」


オレの言葉に全員がオレに注目する。


「剥ぎ取りが終わったらすぐに撤収だ。出直して騎士団で巣を叩く。冒険者では被害が大きすぎる」

「「「「「分かった」」」」」


そこからは皆で急いで剥ぎ取りを終わらせた。オレと氷結さんとディオスは辺りの警戒だ。

こちらが見つかる可能性があるので範囲ソナーの連発は出来ない。

まあ、魔力消費もバカに出来ないからやらないけどな。


撤収する最後にもう一度範囲ソナーを打つ…さっきと変わらない。

どうやらオークの巣に魔法使いはいない様だ。


「じゃあ撤収しよう」

「「「「「おー」」」」」


そこからは速やかに撤収した。

母さんがブルーリングの街に戻るまでに範囲ソナーの事を聞いてくる。


「アル、さっきの範囲ソナー?だっけ索敵が出来る魔法なの?」

「そうです。ソナーを広範囲に撃ち込んで反射した魔力を検知します。ただし魔法使いには気づかれてしまうので使い所が難しいですね」


「オークは気付いてた?」

「気付いてませんでした。たぶん魔法使いはいません」


「範囲ソナーで判った事を教えて」

「敵はオーク、数は200匹前後、上位種が2匹、さっきの場所から400メード程先に巣がありました」


「400メード?走ったら3~4分で着く距離じゃないの!」

「そうです。だからびっくりしたんですよ・・・」


「そう、ブルーリングに戻ったらすぐにヨシュアに報告ね」

「はい。街に戻ったらギルドと屋敷に分かれましょう。ついでにアシェラを送っていきます」


「分かったわ」


そこからは特に話も無く黙々と歩いた。

街に到着するとオレ、アシェラ、ルイス、ネロ、ディオスがギルドだ。母さん、ノエルが屋敷に戻る。


「アシェラを送ってアル1人になるんだから真っ直ぐに帰ってきなさいよ」

「分かりました」


2手に分かれて、オレ達はギルドを目指す。

ギルドではルイス、ネロが薬草とオークの報酬を。ウィンドウルフの報酬をオレとアシェラと今はいないノエルで分ける。しかしディオスが悲しそうだったのでオレの分から銀貨2枚だけボーナスを出しておいた。


全ての用事を終えてギルドで分かれるが、ルイスが少し心配そうに聞いて来た。


「じゃあ、アシェラを送ってくる」

「1人で大丈夫か?」


「オレの育った街だぞ。眼を閉じてたって帰れるよ」

「そうか、分かった」


オレはアシェラを家まで送って行く。

アシェラの家に着く頃には辺りは少し薄暗くなっていた。


「じゃあ、また明日な」

「うん…」


「どうした?」

「うん、今日は護衛がいないから…」


ピーンと来た。女の子に恥をかかせちゃいけない!

オレはアシェラを少し暗がりに連れて行き、前より少しだけ長くキスをした。


「じゃ、じゃあ行く…」

「う、うん…」


少しぼーっとしたアシェラに背を向け屋敷に走りだした。壁走りで建物の屋根に出て空間蹴りで屋根の上を駆け抜ける。

久しぶりのキスで嬉しくて羽が生えたみたいだ!いつもより多く魔力を込めてオレは空を駆け抜けた。


屋敷にはいつもの半分の時間で着いてしまう。

途中でルイス達を追い抜いたみたいでルイスがオレの姿を見て驚いていた。


もうすぐ夕飯だが父さんの執務室に向かう。ノックをして声をかけた。


「アルドです」


扉の向こうから母さんの声が聞こえる


「入って」


扉を開けて中に入ると父さん、母さん、ローランドの3人が難しい顔をしていた。


「どうしたんですか?」


全員が渋い顔をして言葉を発しない…しばらく待つと父さんが話し出す。


「オークの巣を見つけてくれたそうだね」

「はい。ルイスとネロのキャンプ地のすぐ近くにあったので偶然です」


「大きくなる前に見つけられて助かるよ。ありがとう」

「いえ。大した事はしていません」


何か奥歯に何か挟まった様な話し方をする。


「父様。何か言いたい事があるんですか?」

「どうしてそう思うんだい?」


「何か隠して話しているような気がしました」

「そうか…ハァ…」


父さんが居住まいを正して、オレを見つめる。


「アル。エルとアシェラにも頼むつもりだがオークの巣討伐に参加してもらえないだろうか?」

「分かりました」


「嫌なのはわk・・・え?」

「分かりました。行きます」


「本当に良いのかい?危ない話だよ」

「あ、オレ1人だと流石にキツイのでエルとアシェラの3人でなら…」


「違う!騎士団の作戦に参加してほしいんだ」

「あ、そんな事なら全然問題ありません」


「ちなみに3人でもオークの巣を殲滅できるのかい?」

「被害を考えなければ出来ると思います」


「ちなみに聞いても良いかな?」

「はい、オレとエルでコンデンスレイを撃ち込んでアシェラに回収してもらいます。それを2日も続ければ殲滅できるかと」


「そ、そうか、でも今回は普通に殲滅してくれると助かるよ」

「分かりました」

「ほら、私の言った通りでアルは絶対に引き受けるって」


「そうだね…」

「話がそれだけなら夕食に行こうかと思うのですが」

「そうね。行きましょう」


アルドとラフィーナが夕食に移動して行く。


「ローランド…私はコンデンスレイと言うのは森を燃やしかねない極大魔法と聞いているんだが…」

「私もその様に聞いております」


「それをアルとエルで撃ち込む…2日も…地形が変わるんじゃないのか?」

「私もそう思います…」


ヨシュアとローランド、2人の嘆きはいつまでも続いた。





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