第70話オーク殲滅戦

70.オーク殲滅戦



オーク殲滅の前日の夜


「アル兄様…ハァハァ…」

「クララ、オレが絶対に治してやるからな…」

「あらあら、アルド君はクララちゃんが大好きなのね」


クララが熱を出して寝込んでしまった。急遽アシェラの母親のルーシェさんに診てもらっている所だ。

今、この部屋には母さん、オレ、エル、アシェラ、ルーシェさん、クララの6人がいる。


学友の皆はうつらない様にこの部屋へは立ち入り禁止だ。ちなみに先程までマールもいたがタブ商会の迎えが来て帰っていった。


「ルーシェさん、クララは大丈夫でしょうか?」

「大丈夫よ、ただの風邪ね」


ルーシェさんが来る前にソナーで診たが特別おかしい個所は無かった。考えてみれば日本でも風邪でエコーは使わないしな…炎症があれば使うんだっけか…分からん。


「今は暖かくして寝るのが一番の薬ね。朝までには秘伝の薬を調合するわ」


ルーシェさんの言葉に母さんが感謝の言葉を述べる。


「ありがとう、ルーシェさん」

「いえいえ。勿体ないです」


「今晩は客間を用意してあります。アシェラと一緒に泊まって行ってください」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」


クララに一通りの治療を行ったルーシェさんは客間に移動していく。


「明日のオーク殲滅……私は行けないわね」


母さんが呟くがクララが熱を出しているのだからクララに着いてて欲しい。オーク等オレとエルだけで十分だ。


「アル兄様達、行ってしまうんですか…」

「むうう…」


「クララ、我儘言わないで。アルとエルは大事な役目があるの」

「じゃあアシェラ姉様は?」

「ボク?ボクは居るよ」


「良いのか?アシェラ」

「元々、ボクは行かなくて良かったから。クララが居て欲しいなら居るよ」

「ありがとう…アシェラ姉様」

「ありがとう。アシェラ」


思わぬアクシデントで氷結さんとアシェラが留守番になった。

クララの部屋を出て廊下でエルと話しをする。


「母さんとアシェラが居ないとなると…どっちが撃つのが良いか。魔力は分けるのが良いのか…どう思う?」

「コンデンスレイは兄さまが撃ってください。慣れてる兄さまが撃つ方が良い」


「分かった。魔力はどうするか…」

「撃ってすぐに僕の魔力をギリギリまで渡します。その後、僕は後方で待機してますよ」


「良いのか?」

「僕の騎士剣術より兄さまの短剣術の方が、臨機応変に動けますから。それと単純に兄さまの方が強いので」


「そんな事は無い。相性の問題だよ」

「……」


エルは苦笑いを浮かべるが、オレは本当に相性の問題だと思ってるんだが…


「では明日に備えて寝ます」

「ああ。オレも寝るよ。おやすみ」


「おやすみなさい」


エルと別れて自室のベットで横になる。明日のオーク殲滅を考えていたら、いつの間にか眠っていた。




次の日の朝食----------




朝一番にクララの容体を母さんに聞いてみる。


「クララの具合はどうですか?」

「今はアシェラとルーシェさんに診てもらってるけどまだ熱が引かないわね…」


「そうですか…」

「でも薬がもうすぐ出来上がるから、今日の夜には引いているはずだってルーシェさんが」


「分かりました」


そのまま朝食を食べてオレとエルは出発の準備をする。

自室で鎧と短剣、予備ナイフ、リュックを身に付けフル装備で部屋を出ると、ちょうどエルも部屋から出てくる所だった。


「クララの顔を見てから行くか」

「はい」


2人でクララの部屋に向かう。


「クララ、行ってくる」

「クララ、早く良くなると良いね」

「いってらっしゃい。アル兄様、エル兄様…」


「母様、ルーシェさん、アシェラ、行ってきます」

「母さま、ルーシェさん、アシェラ姉、行ってきます」


「無理はダメよ。危なくなったらすぐ逃げるのよ」

「いってらっしゃい。気を付けて」

「ボクの分まで頑張ってきて」


オレ達は皆の言葉に頷き演習場へ向かった。


「エル、さっきので本当にいいんだな?」

「はい。僕は後方に下がります」


「分かった。無理はするなよ」

「はい」


演習場に到着しミロク団長とグラノ魔法師団長に話しかける。


「よろしくお願いします。母さんとアシェラは所用で参加出来なくなりました」

「今日はよろしくお願いします」

「連絡は受けています。大変だと思いますが宜しく頼みます」

「無理を言ってるのは判ってるつもりです。申し訳ありません」


昨日エルと決めた段取りをグラノ魔法師団長に話す。


「いえ、大丈夫です。それよりオレ達の配置なんですが」

「魔法師団に配置になります」


「それは良いのですが慣れてると言う事で、コンデンスレイはオレが撃つ事になりました」

「分かりました。撃った後は後方に下がってください」


「それなんですが撃ってエルに殆どの魔力を補給してもらいます。ですのでエルを後方に下げて護衛をお願いしたいと思います」

「兄さま、1人で大丈夫です」


「ダメだ。それが出来ないならオレは作戦に参加しない」

「兄さま…」


「どうでしょうか?」

「分かりました。護衛を1人付けましょう」


「ありがとうございます。エルも良いな?」

「……分かりました」


こうしてオーク殲滅での役割が決まった。

オレ達は魔法師団の助っ人として参加だ。グラノ直属で参加する事になる。


オークの巣までの移動も本来は徒歩なのだが、グラノ直属と言う事でオレとエルの2人に1頭の馬が与えられた。

エルをオレの前に乗せて馬を歩かせる。

1人の魔法使いがオレ達の横に馬を付け話し出した。


「君達の護衛をする事になったデニスだ。よろしく頼むよ」

「アルドだ。オレは良いからエルの護衛を頼む」

「エルファスです。よろしくお願いします」


「アルドにエルファス……まさか御領主様の孫…」

「あー、オレは序列が好きじゃないんだ。最初の調子で頼むぞ」

「僕もあまり好きでは無いので今まで通りで」


「わかり…分かった」

「基本、オレは無視して良い。エルだけ見ててくれ」

「兄さまが魔法を撃ったら僕は下がりますので、そこから護衛をお願いします」


「分かった。アルド様が魔法を撃ったらエルファス様を護衛するんだな」

「そうだが。様はやめろ。アルとエルで良い。それじゃあ狙って下さいって言ってるのと変わらん」


「分かった…アル…」

「OKだ。改めてよろしく頼む」


馬で移動しながらデニスと会話をする。


デニス。20歳。独身。親が文官でデニスの家にはそれなりの収入があったらしい。

10歳の頃、魔法の適正を調べたら魔力が普通の魔法使いと同程度ある事が判った。


親は喜び魔法の英才教育を受けさせ学園に進学する事になる。

学園では特に優秀では無かったが悪いわけでも無かった。結局、卒業後にブルーリングに戻り魔法師団に就職して今に至る。


「オレの経歴はこんな感じだ。良くも無く、悪くも無く至って平均的な魔法使い」

「充分だろ。オレもエルも魔力量はお前と変わらない」


「そうなのか?噂じゃとんでもない極大魔法を撃つとか…」

「撃てるな。ただ1発で魔力枯渇を起こす」


「もっと魔力が欲しいと思わないのか?」

「そりゃ思う。ただ増えないのなら他の方法を考えるな」


「他の方法?」

「例えば効率を上げるとか。効率が2倍になれば魔力量が2倍になったのと同じだろ」


「それはそうだが、それこそ夢物語だろ…」

「そうか?オレはそうは思わないがな」


オレの言葉にデニスは何かを考え込んでしまう。

デニスと話しているとそろそろ目的の場所に近づいて来た。


「デニス、くどい様だがエルにくっ付いていろよ」


それだけ言うとグラノの馬に寄って行く。


「グラノ魔法師団長。どう攻撃しますか?」

「水平射撃を見てみたいのですが森の中だとこちらの被害が気になります…試し打ちの時の様に木の上からお願いできますか?」


「了解です。具体的な場所は?」

「これは相談なんですが本隊は森の外で待機。アルド様達は少数の護衛と共に潜入。機を狙って魔法発射。その後は速やかに森の外まで撤退。でどうでしょうか?」


「それだと殆どオレの勝手にやる事になるんですが…良いんですか?」

「今回の様な作戦はこちらも初めてなんです。手探りなのはしょうがない。ただ被害を減らしたいので一般の魔法使いや騎士は後方で待機して魔法発射後に戦闘開始したいと思います」


「了解です」

「無理を言ってる自覚はあるんです…申し訳ありません」


「気にしないでください」

「そう言って貰えると助かります」


オレは一度エルの元まで下がってグラノ魔法師団長の話を伝える。


「という訳だ。実質、オレ達で好きなタイミングで撃てって事だな」

「じゃあコンデンスレイを撃つまでは僕が護衛で、撃った後は兄さまが護衛って事ですね」


「そうだ。この作戦ならオレも後方待機なんだから魔力は半分ずつで良くないか?」

「うーん。やっぱり最初の通りにしましょう。嫌な予感がするんですよね…」


「お前の予感か…妙に当たるからな」

「偶然ですよ」


「……じゃあ、魔力は最初の通りで行くか」

「はい」


森の前で馬を降りる。

取り敢えずはやる事が無い…ぼーっと人の流れを見ていた。

騎士や魔法使いの動きを見ていると森から100メード程離れた場所に騎士団と魔法師団が隊列を組み、森から出て来たオークを攻撃する手筈の様だ。


不意に声を掛けられ、振り向くとミロク団長が立っている。


「今回の作戦は確かに2人が肝ですが、失敗しても問題無い戦力は持って来てあります。気楽にやって下さい」

「はい。ちょっと肩のチカラが抜けました。ありがとうございます」


「ではそろそろ配置に就きましょうか。この4人がお二人の護衛になります。顔見知りばかりだと思いますよ」


オレは護衛の顔を見た。護衛はミロク騎士団長、グラノ魔法師団長、デニス魔法師団員、ハルヴァ騎士団大隊長の4人だった。


「これは…このメンバーだけでオークの巣を殲滅出来そうですね」

「アルド様。よろしくお願いします」


「ハルヴァと一緒に戦うのは初めてだな」

「カシューではどちらかが眠っていましたからね」


オレとハルヴァはお互いの顔を見てクスリと笑い合った。


そこからはミロクとハルヴァが前衛でオレとエルが中衛、グラノとデニスが後衛の配置で進む。

前の時と同じで静かなものだ。魔物どころか動物すら見ない。

きっと血の匂いで寄って来たウィンドウルフは別にして、オークが巣の周りの動物や魔物を狩り尽くしているのだろう。


オレは1度、範囲ソナーを打つ。


……


この前より少し増えて数220 上位種が3 距離400メードだ。

範囲ソナーで分かった情報を総指揮を執ってるミロク騎士団長に報告する。


「少し巣の規模が大きくなっています。数220、上位種3、距離400メードです」

「その程度は誤差の範囲だ。予定通りに作戦を行います」


「分かりました。オレとエルは木の上から狙撃します」

「分かりました。撃ち終わったら素早く降りて来てください。結果はどうあれ森の外に撤退します」


「了解です」


オレとエルは空間蹴りを使い木の上まで移動する。

30メード程登るとオークの集落がハッキリと眼に入ってきた。


220匹程のオークがいるはずなのだが見えるのは30~50匹程度だ。残りは建物の中にいるのだろうか。

オークの巣を見て驚いたのが簡素ではあるが建物があった事だ。棍棒を持ってる者が多いが槍のような物を持ってる個体も確認できる。


「エル。オークって会話で判り合うのは無理なのかな…」

「え?会話ですか?」


「いや、すまん。忘れてくれ。ちょっと思っただけだ」


オレは上位種の位置とオークが密集している位置を探る為にもう一回範囲ソナーを撃つ。


……


「エル、あそこの赤い壁の建物に上位種が2、隣の建物に上位種が1、離れて一番大きな建物に雑魚が大勢だ」

「分かりました。すぐに撃ちますか?」


「ああ、下の4人がヤキモキしてるからな」

「じゃあ兄さま、支えます」


「頼む」


オレはエルに体を支えられた状態で、右手の人差し指を上位種2匹がいる建物に向ける。

活性化された魔力が人差し指の先で光出す。


魔力を注ぐ…魔力を凝縮…注ぐ…凝縮…


30秒程経ち一言呟く。


「撃つ!」


光が真っ直ぐ上位種のいる建物に伸びる。すぐに隣の建物、次に一番大きな建物に移動させた。


着弾地点の地面が蒸発して爆発している。恐らくあの辺りの気温は1000℃を超えるのではないだろうか…オークが自然発火し、眼の水分が瞬時に蒸発するのだろう。眼が破裂している…まさに地獄絵図だ。


オレは本当なら魔力枯渇で気絶する所だが、エルが限界まで魔力を譲ってくれた。満タンに近い。


「エル少し戻す。これじゃあ、お前が動けない」

「大丈夫です。ただ下まで連れてって貰えると助かります」


「分かった。おぶされ」

「はい…」


オレはすぐさま木から飛び降り、下に待っているミロク騎士団長に話しかけた。


「成功だと思います」

「分かりました。エルファス様を代わります」


「いえ。オレが運びます」

「分かりました。撤退します」


そのまま森の外まで走る。

10分程だろうか森の外に出ると騎士団と魔法師団が隊列を組んでこちらを警戒していた。


「作戦は成功だ。オークの残党が出てくるぞ。総員、戦闘準備!」


森の手前にミロク団長の声が響く。




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