第193話水浴び

193.水浴び





母さんが何やら企んで皆と一緒に水浴びに来たのだが……

準備はメイド達に任せて、オレは木陰で水着へと着替え始める。


母さんが買って来た水着を履いてみた……改めて水着を見ても頭がおかしいとしか思えない。

7分丈のズボンは良いのだが、何故ショッキングピンクなのか……


エルを見ても、オレと同じショッキングピンクの水着を履いている。

しかし、意味が分からないのだが、エルは笑っているのだ。


「エル……まさか、お前、その水着を気に入ってるのか?」

「はい、この色、恰好良いですよね!」


オレは劇画調の顔になり、驚いてしまった。

え?オレのセンスがおかしいの?ショッキングピンクだぞ?こんなの日本でも履いてるヤツいねぇよ!


自分のセンスに疑問を持ち始めていると、最初に着替えたであろう母さんがやってきた。

着替えは旅の間のトイレと同じように、メイドが衝立を立てて、その中で着替えている。


女性の着替えはやはり時間がかかるのだろう、順番に着替えていくらしい。


「アル、エル、どう?この水着」


母さんがそう言って水着を見せてくるが、何と言って良いのか……

オレの第一印象としては”海女”だった。


袖はTシャツ程の長さで、裾もオレ達と同じ7分丈。布は透けないようにオレやエルより、だいぶ厚手の物になっている。

色は赤と派手ではあるのだが、現代日本の水着と比べると露出は比べるまでも無い。


「良いんじゃないですかね……」

「何よ。もうちょっとあるでしょ。本当にアルは……」


オレが悪いのか?母親の水着姿をどう評価しろと……そういうのは父さんに聞いてほしい。

母さんとアホな会話をしていると続々と女性陣が出てくる。


女性陣の水着の形は基本、母さんと同じで色が違う程度だ。

アシェラは薄い赤、マールは薄い青、ファリステアとユーリは薄い緑、オリビアとクララは薄い黄色、ライラは薄い紫、アンナ先生は白だった。


オレとしては海女?のイメージで全く何も感じないのだが、エルにはクリティカルだったようだ。

マールとお互いにチラリラと目線を合わせ、顔を赤くしている。


見ているこっちが恥ずかしくなるほどだ。

アシェラやオリビア、何故かライラまでがオレを見て来るので、取り敢えずは褒めておく。


「アシェラも、オリビアも、ライラも似合ってる。可愛いと思うよ」


改めてアシェラのお胸様を見て悲しい気分になったが、オレは後ろを振り返らない男なのだ!

ファリステア、ユーリ、アンナ先生は少し呆れたような顔を浮かべていた。


オレとしてはアシェラ、オリビアは分かるのだが、ライラが入ってるのは何故なんだ……解せぬ。

何とも言えない微妙な気持ちを持ちながらも、折角なので水浴びを楽しもうと思う。





水浴び……オレは年頃の男女がキャッキャウフフしながら水を掛け合ったりして、戯れる物だとばかり思っていた。

しかし目の前の光景は、浅瀬の部分に網のような物で囲い、そこで川に浸かって涼を取っている、というものだ。


囲う範囲は網の大きさがあるからだろう、5メード×5メード。まるで大浴場で水風呂に入っているかのようなシュールな絵面である。


「母様。水浴びってこんな狭いんですか?」

「しょうがないじゃない。魔物がいたらマズイでしょ」


言われてみると確かにそうだ。ほんの1時間とちょっと、上流へ上った場所に主がいたのだった。

キラーフィッシュが主だったという事は、この川には普通にキラーフィッシュがいるのだろう。


オレは昨日の主を倒した時を思い出して、皆に川から出てもらう事にした。


「すみません。一度、川から出てくださいー」

「アル、何かするの?」


母さんが聞いて来るが説明が面倒だ。


「見てれば分かるので、ちょっとだけ出てください」

「……分かったわ」


全員が川から出ると、網を上流と下流の川幅が狭くなっている場所にかけて、魔物が通れないようにする。


「アル、何をしたいかは分かるけど、仕切った中に魔物がいるかもしれないじゃない」

「だから、こうするんです」


母さんに言われると同時に右の脛からナイフを取り出し、魔力武器(大剣)を出しながら川の上へと駆けだしていく。

昨日の主を倒した時のように魔力武器(大剣)を川に突き入れて刀身から爆音を響かせた。


水面が大きく爆ぜたが、水の中から外へは音はそこまで大きくは響かない。

すぐに魚やキラーフィッシュが、腹を見せて浮いて来る。


オレはキラーフィッシュには短剣でトドメを差し、アユやマスっぽい食べられる魚は15匹ほど掬って昼食の材料に確保した。

そのまま川岸まで空間蹴りで移動する。


「これで網と網の間なら泳いでも大丈夫ですよ」


皆はオレの一連の動きを呆然と見ていたのだが、やっとオレの行動の意味が分かったらしく、笑顔を浮かべて川の中へと走っていく。

大丈夫だろうが念の為に100メードの範囲ソナーを一度だけ打ってみる……


やはり水の中にも周りにも魔物の反応は無い。ただし、少し気になる反応を見つけた。

爆音の魔法は魔力消費が大きく全魔力の1/3を使う。今のオレの魔力の残りは3/5ほどまで減っている。


この魔力量で問題は無いと思うが、念の為に少し回復しておきたい。


「エル、少しだけ魔力をくれないか?」

「分かりました」


「すまない」


エルに魔力を回復して貰い、今の魔力は4/5ほどになった。

これなら余程の事があっても問題は無い。


オレは先程の範囲ソナーで感じた反応に気が付かれないように、バーニアと空間蹴りを使い後ろへと周り込む。

背後から音を立てないように空間蹴りで近づいて行く。


見えた!


オレはバーニアを吹かして突っ込んでいき……


「何をしているんですか?シレア団長」


シレア団長の肩を叩いた。


「うわぁぁ!」


いきなりオレに肩を叩かれて、シレア団長は大声で叫び地面を転がっている。

ちょっと脅かし過ぎたかな、と思ったが水浴びを覗いているコイツが悪い。


理由次第では短剣の錆びにするつもりで、もう一度聞いてみた。


「こんな所で何をしているんですか?シレア団長」

「違うんだ!」


いきなり”違う”と言われても何が”違う”んだろう……


「落ち着いてください。何もしてなければ、僕も何もしませんよ」

「そ、それなら……」


「それなら?」

「その短剣をしまってはくれないか?」


「……それは理由を聞いてからです」

「……」


そこからは観念したようにシレア隊長は話し始めた。


シレア隊長の言い分としてはこうだ。

1時間ほど前から貴族の子息が水浴びに訪れるこの場所に、騎士団として定期的な見回りに来ていたらしい。


この辺りは魔物が少ない地域らしく、いたとしても精々がゴブリン程度だ、と半ば適当に探索をしていた。

しかし、見回りを始めると直ぐにそんな空気が吹き飛ぶ事態に遭遇する。


なんと驚く事に、ここから1000メードほど下流にAワンクの魔物であるワイバーンが発見されたのだ。

ここに見回りに来ていた騎士は全部で5名。


とてもワイバーンを相手できる数では無い。

シレア団長は直ぐに騎士団に応援を寄越すように手配し、自分と残りの騎士でワイバーンを見張る事にした。


しかし間の悪い事に、どこかの貴族が水浴びに訪れてしまう。

貴族に知らせると恐らくはパニックになり、大騒ぎをしてワイバーンを引き寄せてしまう可能性が高い。


そこで知らせるタイミングを計っていると、オレが後ろから声を掛けて来た、という事のようだ。


「…………という事だ。まさかブルーリング男爵の一行だとは……」


シレア団長が女性陣を横目で一度だけ見た。


「なるほど……話は分かりました」

「分かってくれたかい。じゃあその短剣を収めてほしい」


「……証拠は?」

「は?証拠?」


「今の話が本当だと言う証拠はありますか?ノゾキ野郎じゃないと言う証拠が!」

「わ、私は騎士団長だ!ふ、婦女子をノゾくなど……」


オレはシレア団長をジト目で見つめる……


「ほ、本当だ!信じてくれ!」


これ以上フザケると面倒臭くなりそうなので、そろそろ止めておかねば。


「冗談です。分かりました。母様達に知らせます」

「へ?冗談?」


「久しぶりにシレア団長に合えたので、揶揄うのはお約束かと思って」

「お…約束……」


「直ぐに母様に知らせてきます」

「あ、ああ、頼むよ……」


ワイバーン程度ならどうとでもなるが、念のため母さんに伝えておかないと……

皆の元に戻ると、川辺にハンモックを吊るし、母さんとアシェラが気持ち良さそうに揺れていた。


「母様、ちょっと良いですか?」

「ん?なぁに?」


「実は…………」


先程シレア団長から聞いた話を母さんに伝える。

母さんと話しているとアシェラがハンモックから起き出し、メイドと何やら話しだした。


「母様、どうしましょうか」

「……面倒だし倒す?」


「倒すのは良いんですが……」

「どうしたの?」


「……ワイバーンって結構良い値で売れるんですよね」

「……アンタ」


「……」

「……」


「……どうしましょうか?」

「倒すのは確定として、どうやって王都の近くで倒すかよね……」


「範囲ソナーを打って、王都の方におびき寄せましょうか?」

「それが一番良いんでしょうけど、あんまり露骨にやると王都に魔物をわざと近寄らせたって事で、処罰されかねないのよね」


「なるほど……」


母さんと話をしていると何故かドラゴンアーマー姿のアシェラがやってきた。


「アシェラ……お前、ドラゴンアーマーを持って来てたのか……」

「うん、念のため。ぶい!」


オレと母さんが呆れていると、アシェラはVサインで返してくる。


「アルド、ワイバーンはボクが背中に乗って王都に向かわせる」

「背中ってお前……降り落とされたら……」


「危なくなったらすぐに倒す。たぶん大丈夫」

「……どうしましょう、母様」

「どっちにしても倒すんだから、鎧を着てるアシェラが適任よ。ワイバーンは魔法も使って来るし、防具無しは流石にね」


こうしてオレがギリギリの距離からソナーを打ってワイバーンをおびき寄せ、そこからはアシェラが背中に乗って王都の近くまで運ぶ。

そして王都から、ある程度の距離になったらアシェラがトドメを差す、事で作戦は決まった。


まずはシレア団長に話しを通さないと……すぐにシレア団長にワイバーンを討伐する事を説明した。

勿論、意識的に王都へワイバーンを近づける事は秘密にしてだが。


シレア団長は王様から聞いていたのだろう、オレ達がドラゴンスレイヤーだと知っていた。

シレア団長の話では騎士団でワイバーンを倒す事は可能だが、少なくない被害が出るそうだ。


シレ団長は”オレ達が倒してくれるならとても助かる”と、”後の処理は全てシレア隊長が行ってくれる”とまで言ってくれた。

こうして準備が全て整ってからオレとアシェラはコッソリと水辺から抜け出し、ワイバーン退治へと向かう。


ワイバーンの目撃場所から王都へ1000メードほど離れた場所でアシェラに声をかけた。


「アシェラ、本当に大丈夫か?」

「うん」


アシェラはこう言うがチンチクリンになってから、まだドラゴンアーマーのサイズを直していない。

恐らくバーニアを使うと、想定よりズレて発動するはずなのだ。


「危ないと思ったらすぐに倒して良いんだからな」

「分かった」


アシェラの性格から言って絶対に引かないだろう……オレは諦めてワイバーンに向かって局所ソナーを打った。


「アシェラ、ソナーを打った。結構なスピードでこっちに向かっている」


アシェラは両拳をぶつけ荒い鼻息を一つ吐く。

時間にして1分ほどでワイバーンはすぐに見えてきた。


以前に倒したワイバーンより一回り大きいかもしれない。


「アシェラ、気をつけろ!」


オレの言葉に一度だけこちらをチラ見してから、空間蹴りとバーニアを使って空を駆け上がっていく。

最初こそ心配したが、ワイバーンは見ているコチラが可哀想になるほどだった……


アシェラは宣言通りワイバーンの首に跨ると、王都に方に首を向けるために”殴った”

そして、ワイバーンが王都の方向以外に首を向けると殴って修正するのだ……


「そんな大人、修正してやる」と、どこかから声が聞こえてきそうなほど殴る……

結局、ワイバーンは王都から1000メードほどの距離で力尽きた。


オレはずっと地上を走って付いて行ったのだが、最後はフラフラになりながら逃げる事もできず、崩れるように地上へと落ちていく。

そして地上に落ちたワイバーンは、ピクリとも動かなかった……




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