第192話精力増大

192.精力増大





異変はすぐに表れた……

アオに王都の”アオの間”へ飛ばして貰ってすぐの事。


下半身が何やらピーーがピーーーでパオーーンになっている。

オレは中腰になり脂汗が止まらない。


どうしよう……どうしよう……

オレは余りの事に正常な思考が出来ていなかった。


取り敢えず自室へ移動しようと廊下に出ると、間の悪い事にアシェラとライラとオリビアが廊下を歩いてくる。

どうやらオリビアが帰る前にオレへと挨拶にきたようだ。


「アルド、今日はこれでお暇しようと思い…ま……す…」


オリビアは眼を見開いてオレのピーーーをガン見している。

ガン見している事に直ぐに気が付いたようで、頬を染めて手で顔を覆うが、指の間から相変わらずガン見していた。


「あ、アルド……わ、私に何かできる事はありますか?」


アナタ、何言ってるんですかね?この状況でそれはアウトだろ!


「い、いや、大丈夫だ。おやすみ、オリビア!」


顔を手で覆っているオリビア、頬は染めているもののオレのピーーをガン見しているアシェラ、本気で恥ずかしがって眼がグルグルになってるライラ達の横をバーニアを使って自室へと逃げ込んだ。


オレが自室で収まらないリビドーを持て余していると、隣のエルの部屋の扉が勢いよく締り、その後でなにやら声が聞こえて来る。

少し気になり扉をゆっくりと開けると、マールが扉越しにエルへ話しかけていた。


「エルファス、き、気にしないで。わ、私は気にしないと言うか……嬉しかったと言うか……」


エルの部屋の扉がゆっくりと開くが、このまま放っておくとマズイ気がするのだが……

どうしてこうなったのか手に取る様に分かる。


きっとエルのピーーーもホニャララでパオーーンになったのだろう。

しかも丁度マールと一緒にいる時に……オレ、もしかしてエルに殴られたりしないだろうか。


オレは扉から顔だけ出して、今 起こってる事を説明する事にした。


「エル、実は……今日、小さなマナスポットを開放したんだ。それで、ギフトを貰ったんだが……」


エルはいきなりオレが話し出したので、驚いた顔でオレを見てくる。

勿論、お互いに扉から首だけ出しての、間抜けな絵面だ。


「そのギフトが……精力増大だった……」

「え?」


「精力増大だった……」

「精力…増…大……」


エルの眼に本気の殺気が滲み出してくる……こ、怖い。


「お、オレも被害者なんだ!オレもピーーーがパオーーーンで困ってるんだ!」


オレも同じように体を扉の中に隠している事で、状況に納得したのかエルは殺気を抑えてくれた。


「ま、マール、僕の体に兄さんの言った事が起こっているみたいです……悪いけど、少し席を外してもらえると……」

「わ、分かったわ……」


それだけ言うとマールは恥ずかしそうに自室へと戻っていくが、どこか残念そうなのは何故なのだろうか。


改めてエルと扉から頭だけを出して、向かい合う。


「エル……どうしよ……」

「僕に言われても……」


「しょうがない……ちょっと待っててくれ……」




5分後-------------------




オレは穏やかな気持ちで扉を開いた。猛り狂ったパオーーンなど今のオレには関係ない……

賢者のような表情を浮かべてエルに話しかける。


「……エル」

「兄さま……」


「抜け。。。」

「……」


エルは何も言わずそっと扉を閉めた。




5分後-----------------




穏やかな表情で扉を開けてエルが出てくる。


「兄さま……」

「……エル」


「……」

「……5分しかもたなかった」


今のオレのピーーーーはパオーーーンだ。

エルの顔にも絶望の色が浮かんでいる。


「アオを呼ぼう……」

「……はい」


チカラ無く佇みながら、オレは指輪に魔力を込めアオを呼びだした。


「何だい?今日は良く呼ぶね。アルド」

「アオ、今日のギフトの精力増大なんだが……」


「当たりだったね。沢山、子作りが出来るよ」

「いらない……」


「え?何だって?」

「いらない!精力増大なんていらない!」


「……」

「精力増大のギフトを消してくれ」


「無理だね」

「は?」


「ギフトを内容によって選ぶなんて出来る訳ないじゃないか。そもそもギフトは世界からの贈り物だよ?いらないなんて許されると思うのかい?」

「絶対に無理なのか?場合によっては、今日のマナスポットを手放して魔物に譲っても良い」


「マナスポットを手放して魔物に譲るなんて……アルドは使徒の仕事をなんだと思っているんだい!」

「アオが何と言っても今回は引かない……これはエルも同じだ」


オレの後ろでエルが頷いている。


「意味が分からない。子作りが沢山できるんだよ?」

「それは今じゃない!20年後なら欲しいかもしれないが、今は要らないんだ!」


「ん?ちょっと待ってくれ。20年後なら良いのかい?」

「??できるのか?」


「少しだけマナスポットを調整すれば大丈夫のはずだ。で、本当に20年後なら良いんだね?」

「う、うん……20年後なら……たぶん……欲しい…かも……?」


「分かった。ちょっとマナスポットを調整してくるよ」

「マジか!アオ、ありがとう!」


「ハァ……本当にアルドは……明日の朝までには調整しておくよ」

「頼む!」


オレとエルはパオーーーンになりながらアオに頭を下げた。


アオが消え、オレとエルだけが残された訳だが……2人共パオーーン……とても気まずい。

オレとエルはお互いに何も言わず自室へ戻り、その日は決して部屋から出ようとはしなかった。


夕食は気分が悪いと嘘を吐き、メイドに運んでもらう。

そして、この日がオレにとって理由も無く風呂に入らなかった初めての日になってしまった。





次の日の朝、起きて暫く経つとパオーーーーンが鎮まって行く……

オレは心の底から安堵し、長い溜息を1つ吐いた。


朝食に向かうとエルと目が合い、お互いに苦笑いを浮かべるが、瞳の奥には確かな安堵が見える。

エルは良い、同じ困難を乗り越えた仲間だ。


問題はマール、アシェラ、ライラ、それとこの場にいないオリビアだ。

マールはエルをチラチラと見つめ、アシェラは頬を染めながらもオレをガン見してくる。


ライラに至っては、見てるこちらが恥ずかしくなるほど真っ赤になり、アワアワと意味の分からない言葉を呟いているのだ。

気まずい……非常にきまずい……


「アナタ達どうしたの?」


何も知らない母さんが問い掛け、ファリステア、ユーリ、アンナ先生も怪訝そうにオレ達を見てくる。


「どうもしません。僕はいつも通りですが」

「アルに聞いて無いわ。マール、アシェラ、ライラ、どうかした?さっきからアルとエルを見つめて……」


3人は恥ずかしそうに「何でも無い」と返していたが、絶対に後で氷結さんの追求があるはずだ。

オレとエルは食事を終えると同時に、そそくさとその場を後にした。





その日の夕食の時に氷結さんが爆弾を落す。


「明日は川へ水浴びに行きましょう」


オレとエルが驚いて母さんを見ると、ニチャとした笑みを顔に張り付かせオレ達を見てくる。

まさかと思い女性陣を見渡すとアシェラやマール、ライラだけで無く、ファリステアやアンナ先生、まで恥ずかしそうにこちらを見ていた。


どうやらオレとエルのパオーーーーンの件は全員に知れ渡ったようだ……

氷結さんの事だ、オレ達のパオーーーンを見るために、水着で悩殺とか言ったんだろう。


どうやら昼間に全員で馬車に乗って出かけたのは、水着を買いに行ったらしい。


「母様、水浴びは良いのですが、僕とエルの水着がありません」


母さんはまたもや悪い顔を浮かべて笑い、横に置いてあった袋から水着を2着取り出した。

おいいいぃぃぃぃ!何だその水着は!7分丈のズボンなのは良いが何でショッキングピンクなんだ?意味が分からない。


そんな水着、現代日本でも着てるヤツいねぇよ!しかも2着とも同じとか。


「ケンカしないように2人共、同じにしたわ」


氷結さんの言葉にガックリと項垂れて、オレは「はい」と返すのがやっとだった。





次の日、朝早くからサンドラ伯爵の馬車が止まり中からオリビアが降りてくる。


「おはようございます」


オレの母さんや爺さんに挨拶をすると、そのまま こちらの方にやってきた。


「アルド、おはよう」

「おはよう、オリビア」


前に別れた時がパオーーーン状態だったので少し心配していたのだが、オリビアの態度は至って普通に見える。

オリビアと世間話をしていると、どうやらこのまま出発するようでメイド達が荷物を馬車に積み込み始めた。


周りを見るとノエルを隊長に、護衛として騎士が4人同行するようだ。

今回は殆ど女性ばかりの水浴びという事で、騎士も年配の男性が1人、残りは女性騎士とその辺りも配慮されている。


そのため実際に何かあった場合は、戦闘力に少しだけ不安があるかもしれない。

オレは念の為にいつもの予備武器を、右脛と左腿に装備しておく事にした。


きっと母さんと爺さんで相談したのだろう。

戦闘力だけ見るならオレ、エル、アシェラ、ライラ、マール、母さんがいる時点で、王国騎士団とも互角以上に戦えるはずだ。


この護衛は貴族の見栄だったり、慣例だったりの話なのだろう。

オレは小さな声で「貴族は大変だ……」と呟いて馬車の中へと乗り込んでいった。





水浴びの場所は王都から出て、街道を進んだ先にある川を徒歩で下った場所だそうだ。

本当に偶然なのだがオレは昨日、この道を歩いてマナスポットの解放に向かい、あの悪夢を体験した……


いや……もう、悪夢は終わったんだ……忘れよう。

気を取り直して、この水浴びの場所は貴族も来る事が多いらしく、定期的に王都から騎士団が見回りに来るらしい。


暫くすると橋を越えた場所で馬車が止まる。

ここからは歩いての移動のようだ。上流に向かうとマナスポットに……オレは頭を振って考えを振り払う。


「母様、ここからどれぐらい歩くんですか?」

「そんなの私が知ってる訳ないじゃない。川を下ればそのうち見えてくるでしょ」


相変わらずの適当さだ……オレは周りを見渡すが全員から眼を逸らされる。最終的には同伴しているメイドや騎士も道が分からないらしい。


「ハァ……エル、川下に最大の局所ソナーを打ってみる」

「分かりました。流石、兄さまです」


何が流石なのかは分からないが、ソナーでも大まかな地形はわかるはずだ。

局所ソナーを川下に打つと、500メードほど下流に川幅が広くなって水浴びに丁度良さそうな場所がある。


「500メードほど川下に川幅が広くなった場所があるので、そこじゃないですかね」

「分かったわ。じゃあ皆、行きましょう」


そう言って氷結さんは先頭で歩いていくが、お前は手ぶらで行くつもりなのかと……


「母様、荷物はどうするんですか?」

「ん?そうだったわ……しょうがないわね……持てるだけ持って移動しましょうか」


そう言って女性陣は持てる荷物を持って行くが、このメンバーは女性と言っても全員が身体強化を使えるのだ。


それなりの荷物があったはずなのだが、全員で荷物を持つと、全ての荷物を1度で運ぶ事ができた。

そこから10分も歩くと開けた場所に到着し、恐らくここが水浴びの場所なのだろう。


改めて考えると泳ぐのは、この世界に来てから初めてかもしれない。


氷結さんの陰謀は置いといて、徐々にワクワクするのを抑えきれなくなっていた。




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