第191話夏休み

191.夏休み





エルフの郷とサンドラの件が終わり、やっと普通の夏休みが過ごせる事になった。

まあ、オレ達の普通の夏休みは迷宮探索なのではあるが……


紫の少女ライラはブルーリングに家があるはずなのだが、何故か母さんの弟子扱いになりアシェラの妹弟子としてオレ達と行動を共にすることになった。

最近では母さん、アシェラ、ライラ、オリビア、マールの5人でお茶をしている姿を良く見かける。


迷宮探索なのだがナーガさんに相談した所、魔瘴石が無い事で焦るのは分かるが、その焦りは事故に繋がる。と諭されてしまった。

今回の夏休みはマナスポットも1つだが解放したし、母さん達のようにのんびりするのも良いような気がしてきている。


それとも今回のように、小さいマナスポットを開放しておくというのも……

あまり考えた事が無かったが普段はマナスポットは、どうなっているのだろうか。


オレはアオを呼んで聞いてみる事にした。


「アオ、少し聞きたいんだが良いか?」

「ん?何だい?」


「使徒の仕事ってのは魔物に汚染されたマナスポットを開放する事なんだよな?」

「ああ、その通りだ」


「じゃあ、魔物に汚染されてないマナスポットはどうするんだ?」

「そこはどっちでも良い。アルドの好きにしてくれ」


「どっちでも良い?」

「ああ、移動のために欲しければ主を倒しても良いし、反対に放置しても良い。本当にアルドの好きにして良いんだ」


「なるほど……」

「まあ、大抵は土地の守り神に祀られてるから恨まれるかもしれないけどね」


「おま、そういう大事な事は先に行ってくれ」

「今言ったから良いだろ。それに自分の無知を僕の責任にしないでくれるかな?」


「……オレのせいなのか?」

「そりゃそうだろ。アルドが何を知っていて、何を知らないかなんて、僕に分かるわけが無いじゃないか」


「そう言われれば……確かに……」

「そうだよ。本当にアルドは……」


何かアオに言いくるめられてる気がしてならないが……


「アオ、試しに聞くんだが、この辺りに簡単に倒せそうな主はいないのか?」

「ん?簡単って事は、小さなマナスポットで汚染されてる所だよね?」


「ああ。そんな感じの場所はあるか?」

「うーん。無い事は無いけど……」


「お、あるのか。教えてくれ」

「一人で行くつもりなのかい?無理はしないでくれよ」


「ああ、まずは1人で偵察にいってみる。無理そうなら逃げてくるよ」


この時に戻れるならオレは全力でこの時のオレを、ぶん殴ってでも止めていたはずだ……まさか、あんな事になるとは……





アオが教えてくれたマナスポットは、王都から2時間ほどの場所にある沼らしい。

オレとしては、まずは自分1人で偵察をしてみるつもりだ。準備をしていると偶然にタメイが通りがかった。


「アルド様、何してるッスか?」

「ん?タメイか。これからちょっと沼まで行こうと思ってな」


「……沼ッスか……何かあるんスか?」

「ああ、大きな声では言えないがマナスポットがあるらしい」


「……なるほど。使徒様の仕事ッスね」

「ああ、アオによると小さなマナスポットらしいから、オレ一人で偵察してこようかと思ってる」


「そうッスか、無理はしないでくださいね」


タメイはサンドラに行った時に話したように、オレと一緒に王都へ移動して王都勤務へと変更になったのだ。


王都に来てからアンナ先生とは何度か顔を合わせしたのだが、お互いに世間話をしただけで恋愛感情は無さそうに見える。

強制するつもりも無いし、オレとしては放っておくつもりだ。


アンナ先生が気に入らなければ、次はローザに合わせてみるのも良いかもしれない。

サラという娘もいるが、タメイなら気にしないように思う。





王都を出て街道を東に進み、今は川を上流に向かって歩いている所だ。

このまま川沿いを1時間も歩くと、アオに教えてもらったマナスポットに到着する。


夏の日差しが痛いほど照り付けるが、川沿いの風が幾分か暑さを和らげているようだ。

オレはエアコン魔法を使っているので全く関係ないのだが。


そうして歩いて行くと、周りの空気が何とも言えない雰囲気へと変わる。

恐らくは領域に入ったのだろう。


小さなマナスポットだとアオは言っていたが、少なくとも敵の魔力の制限は無くなるはずだ。

気を引き締めていかないと、思わぬ事故を起こしかねない。


情報を集めるために一度、アオを呼びだしてみる。


「アオ、マナスポットの位置は分かるか?」

「お、本当に1人で来たのか。アルド、気を付けてくれよ」


「大丈夫。偵察だけだよ。危なくなったらすぐに逃げるから」

「頼むよ。信じるからね……」


「ああ、それとマナスポットの位置を」

「それならこのまま川沿いに進めばあるはずだよ。たぶん10分もかからないと思う」


「そうか、ありがとう。アオ」


アオはオレを、心配そうに見つめながら消えていく。


オレは川の上流に向けて1000メードの局所ソナーを打ってみた。

目を閉じて魔力を探って行く……いた。たぶん、こいつだ。


恐らく主と思われる魔物はソナーに気が付いたのだろう。すごい速さでこちらに向かって来る。

しかし、何かおかしい……この速さなら、もう見えてもいいはずだ。


オレが武器を構え訝しんでいると、川の中からウォーターカッターの魔法が飛び出してくる。

その数5。すぐに魔力盾を展開し、ウォーターカッターをやり過ごす。


もしかして……嫌な予感のまま20メードの範囲ソナーを打つと……やはり川の中から反応が……水棲の魔物なのか?。

オレは距離を取る為に空間蹴りで木の上に移動して、川の中を覗く……見えた……魚だ、魚の魔物だ。


確かギルドの資料で見た事があるが、キラーフィッシュと呼ばれる魚の魔物だと思われる。

ギルドの資料よりは、だいぶ大きいが……


主は魔力が減らない事を良いことに、ウォーターカッターを連発してくる。

しかし、遅い。遅すぎる。魔力盾を使うまでもなく空間蹴りで全てを躱していく。


問題はこちらからの攻撃オプションが無いという事だ。

水の中の敵……あー、ガ〇ダムでも水中の雑魚に手こずってたなぁ。


日本で昔見たアニメの事を、ウォーターカッターを躱しながら思い出していた。

動きも大した事は無いのでコンデンスレイなら瞬殺だろうが、オレも意識がなくなってしまう。


正直、千日手になってしまった気がする……

10分ほどウォーターカッターを躱し続けていると、主も流石に面倒くさくなったのかオレを無視してマナスポットの方へ帰ってしまった。


どうしたものか……エルとアシェラと一緒に出直しても良いのだが、攻撃さえ届けば雑魚な気がする。

このまま帰るのも何か悔しいので、取り敢えずマナスポットまで空間蹴りで移動する事にした。


空間蹴りで移動して5分もすると、川と川が交わる場所が見えてきて、その畔に小さな沼ができている。

すぐに、その沼の中心にある黒い岩が、マナスポットだと何となく理解できた。


近くに木の上からマナスポットを見ていると、主がウォーターカッターを撃ってくる。

流石に自分のテリトリーに近づけば、攻撃してくるようだ。


さきほどと同じで余裕を持ってウォーターカッターを躱していくが、主は攻撃を止める気配は無い。

魔力切れも無く、ウォーターカッター程度で魔力酔いを誘発するのも難しそうだ。


(埒が明かないな……一度、攻めてみて無理なら出直そう)


オレは短剣を持ちバーニアを使って、川の中ほどにいる主へと突っ込んでいく。

川の水深はそれなりにあるがマナスポットは畔にある。畔の水深は1メードも無いだろう。


オレが水面に着水すると水が弾け飛ぶ。しかし、主にはまだ届かない。

更に手を伸ばすと僅かに主に触った感触がある。


オレがすかさずソナーを打ち込むと、驚いた主は水底へと逃げていく。

運が良かったのか、一度のソナーで主の”尾びれ”からおかしな魔力を感じる事ができた。


「尾びれがお前の証か。場所が分かれば、やりようはあるはずだ」


独り言を呟き空間蹴りで、上空から主の姿を探す。

やはり空間蹴りで制空権を抑えられるのは、攻撃力だけでなく情報収集にも圧倒的に有利だ。


暫く主を探しているとウォーターカッターが飛んでくる。

どうやら主は川底からウォーターカッターで攻撃する事に決めたようで、姿を見せるつもりは無いらしい。


「水には電撃が定番なんだが……そんな魔法持ってないしな……」


独り言を言いながらひたすらウォーターカッターを躱していく。


「他に水中への攻撃だと……音とかどうだろ?水の中は空気より音が伝わるはずだ。爆音なら前に超振動を開発した時に失敗して出した事がある。魔力の1/3を持って行かれたが屋敷が揺れるレベルだったはずだ」


オレはこれが失敗したら、流石に出直すつもりで魔力武器(大剣)を出した。

空間蹴りで水面スレスレを駆けながら魔力武器(大剣)を水の中に突っ込んだ。


「どうだ!」


オレの言葉と同時に水面が弾ける!

主からの攻撃に備えて、直ぐに空へ避難するが、それからはウォータカッターが飛んでくることは無かった。


空中から水面を見ていると、魚が無数に浮いてくる。

どうやら爆音のせいで気絶しているようだ。


更に待っていると、浮いてくる魚と一緒に、主までもが気絶した状態で水面に浮いてきた。

オレは直ぐに魔力武器(大剣)を出し、主の元へと突っ込んで行く。


魔力武器(大剣)を振りかぶり、勢いそのままで主の尾びれに魔力武器(大剣)を振り下ろした。

水の中に突っ込みながら、切り落とした尾びれはしっかり回収させてもらう。


ゴブリンキングの時は意識が無くて分からなかったが、証を奪われた主はみるみる体が小さくなり、最終的には30センドほどの魚の魔物、キラーフィッシュに変わってしまった。

キラーフィッシュは尾びれが切れた場所から血を流し1~2分もすると、腹を見せて動かなくなった……


あれだけ鬱陶しかった主だが、失血で死んでいくのを見ると、少しだけ哀れに思えてしまう。

ふと、空を見ると陽がだいぶ傾いてきている。オレは気持ちを切り替えて、急いで周りの雑魚を殲滅していった。


雑魚の掃除が終わると、100メードの範囲ソナーを一度打だけ打ってみる。

ソナーには反応は無い……どうやら隠れている敵はいないらしい。


全ての準備を終え、慣れた手付きで証である”背びれ”をマナスポットに押し付けると、短剣に魔力を込め、ゆっくりと突き刺していく。


証は短剣が刺さった場所から灰になり、黒かった石が徐々に普通の石へと変わっていった。

オレはすぐに右手ての指輪をマナスポットに触れさせる。


マナスポットが青く輝き出すのと同時に、指輪からアオが飛び出してマナスポットの上で丸くなった。


「ふぅ、終わった。これでアオに飛ばしてもらえば王都だな」


30分ほどするとアオが起き上がりだす。


「アルド、マナスポットの解放をする時は先に呼んでくれないかな。僕にだって準備って物がある」

「悪かった。1人だったから色々と忙しかったんだ」


「今までの使徒は皆、1人でやってたんだよ。そんな言い訳認められないね」

「それはそうだな。悪かった。次からはちゃんと呼ぶようにするよ」


「まぁ、気を付けてくれれば良いよ。それと今回のギフトは精力増大だった。これで子作りが捗るね」

「……は?マジ?15歳の若さで……精力増大って……」


「じゃあ、王都に送るよ」


そう言ってアオはオレを王都に飛ばすのだった…………





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る