第75話ブルーリングの日常

75.ブルーリングの日常



賊の襲撃からもうすぐ1ヶ月が経とうとしていた。

このブルーリング領にいられるのも残り1週間程になる。


オレ、エル、マールは当然としてオリビア、ファリステア、アンナ先生、ルイスやネロもブルーリングを気に入ってくれた様で帰りたくないと文句を言っている。


この1ヶ月だが女性陣が暇を持て余していたので、母さんに魔法を習う事を勧めてみたのだ。

暇だったからなのか、オレ達の師匠から魔法が習えるからなのか、想像していたより前向きで是非お願いしたいと頼まれる事になった。


そこからは大体、昼食後は母さん、アシェラ、オリビア、ファリステア、アンナ先生、マール、ユーリサイスで魔法の練習をしている。

実際は半分は遊びながらの練習の様だがそれで良いのだろう。


ファリステアやユーリサイスのエルフ組は独自の魔法体形があるらしいのだが、そこに拘りは無いらしく母さんの修行を楽しんでいる。

アシェラも随分と慣れた。1ヶ月経った今ではオリビアは呼び捨て、ファリステアはファリスと愛称で呼んで立派な友達同士だ。


会話も以前の様な固さは無くオレ達と話す様な自然体で会話している。

女性陣はこんな感じだ。


我が男性陣はと言うとオレ、エル、ルイス、ネロの4人で冒険者の依頼をこなして回った。

お陰でなんと全員がFランクまで上がる事が出来た。アシェラに見せたら悔しがっていたのは良い思い出だ。




時は遡って賊の襲撃から5日後---------




「エル、父様から誰かと一緒なら護衛無しの外出を許されたぞ」

「本当ですか」


「おう。どうせなら依頼をこなしに行かないか?」

「依頼って冒険者ギルドのですか?」


「おう」

「兄さまは冒険者ギルドに登録してるのですか?」


「王都でな。ルイスとネロもしてるぞ。アシェラなんかFランクだった」

「アシェラ姉も…僕も登録したくなりました」


「持ってて損は無いからな。明日にでも登録に行くか」

「はい」


オレ達は次の日、冒険者ギルドへ行く約束をして眠りについた。



次の日、朝食を摂り終わりエルに話しかける。


「エル、冒険者ギルドへ行くか」

「はい」


「じゃあ完全武装な」

「登録するのに武装が必要なんですか?」


「どうせなら簡単な依頼をこなそうぜ」

「分かりました」

「ちょっと待った!オレも行く」

「勿論、オレも行くぞ」


オレとエルの会話を聞いていたルイスとネロが会話に入ってきた。

オレとエルは護衛無しを許されたが…オレは父さんを見ながら聞いてみる。


「父様、ルイスとネロが一緒の時は護衛は…」

「お客様なんだから勿論、要るよ」


父さんに圧力が乗った笑顔を向けられた。


「しょうがないわね。私が面倒見てあげるわ」

「良いのかい?ラフィ」


「最近、運動不足だからちょうど良いわ」

「じゃあ、悪いけど頼んだよ」


「任せて。さあルイス君、ネロ君行くわよ」

「「は、はい…」」


どうやらルイスとネロは母さんを入れた3人パーティで依頼を受けに行くようだ。オレ達は触らぬ神に祟りなし。とその場をさっさと離れる。


自室に戻って武器や鎧を装備した。食料だけは厨房に寄って補充しないと。

部屋を出るとエルもちょうど出て来た所だった。


「厨房で食料を補充して行こう」

「分かりました」

「分かった」


オレ、エル、謎の声の3人で厨房へ向かう。料理長に2日分の干し肉を3人分貰い準備万端だ。

オレ達は早速、依頼を受けに冒険者ギルドへ向かう。


護衛無しは初めてでは無いが、許されたと言う事実が成長を感じさせ気分を高揚させる。

気が付かないフリもそろそろ限界だ。オレは聞かなければならない。


「アシェラも一緒に行くって事でいいんだよな?」

「うん」


「分かった」


謎の声はアシェラだった。部屋を出てから当然の様にアシェラが一緒に付いてきたのだ。

この3人での行動も久しぶりで、昔を思い出し少しだけワクワクする。


最初はこの3人だった。それからガル、バレット、マール、タメイどんどんオレ達の世界が広がって今では両手で数えきれない人達が周りにいる。

昔を懐かしく思いながらギルドまでの道のりを楽しんで歩いて行く。


直に冒険者ギルドに到着する。まずは登録だがアシェラがギルドに入らない。


「アシェラ、ギルドには入らないのか?」

「うん。騒がしくなるから」


「騒がしく?良く判らんが…依頼はオレとエルが決めていいのか?」

「うん。任せる」


「じゃあ待っててくれ」

「うん」


アシェラはギルドの外で待つようだ。会いたくない相手でもいるのか?


「じゃあ。エル、行くか」

「はい」


冒険者ギルドの扉を開けて中に入る。

受付嬢に向かって歩いていると1人の冒険者が足を出してきた。これでは通れない。


しょうがなく他の道に行こうとすると、そちらも違う冒険者が足を出してくる…


「どう言うつもりなんだ?」


正直な話、非常に面倒臭い。


「お前、この前、護衛を連れて依頼をこなしてやがっただろ」

「冒険者は護衛するのが仕事なんだよ。護衛されるガキは家でママのオッパイでもしゃぶってな」


「なるほど。護衛がいる前では怖くて言えなかったから護衛のいない今を狙って吠えてるって訳か」

「おい、ガキ。調子に乗るなよ…」


4人がオレの周りを囲む。


「受付嬢さん。これって良いんですか?」

「ギルド内で武器を抜くのは禁止されてま~す。ケンカは自己責任でお願いしま~す」


面倒臭そうに言われてしまった…オレが助けを求めていると勘違いしたらしい。


「自己責任らしいぞ。お前ら」

「ガキ。本当に痛い目に合わないと判らないらしいな…」

「もう良い。ちょっと可愛がってやれ。それで終いだ」

「ちょっとこっちに来い…」


「オレも暇じゃないんだ。来るならさっさと来い。面倒だから全員でな」

「このガキが調子に乗るな」

「クソガキが」


男4人から同時に攻撃されたが、一瞬で身体強化をし男達の鳩尾を順番に撫でる。


「1人…」


「2人…」


「3人…」


「4人っと」


男達は前のめりに倒れて白目を向いている。しょうがないので4人に回復魔法をかけて隅に寝かした。

改めてエルと一緒に受付嬢の前に移動する。


「冒険者登録をしたいので宜しくお願いします」


エルの言葉を聞くまでフリーズしていた受付嬢が動き出した。


「は、はい。ぼ、冒険者登録ですね、、お、お二人共ですか?」

「僕だけです」


「は、はい!すみませんでした。す、すぐ書類を用意します」


さっきのふざけた態度にオレ達が怒っていると思っているのか、受付嬢は涙目になりながら仕事を頑張っている


「あー、そんなに緊張しなくて良い」

「い、いえ!だ、大丈夫です」


見てると可哀想になってくる程の怯えっぷりだ。


「エル、オレも外で待ってるわ…」

「分かりました…」


エルが苦笑いを浮かべている。

とぼとぼとギルドの外へと移動していく。オレが悪いのか?


ギルドの外では隅にある石にアシェラが座っていた。


「どうしたの?」

「絡まれたから返り討ちにしたんだ」


「うん」

「そしたら受付嬢に泣かれそうになったから逃げてきた」


「あー。なるほど」

「……」


「……」

「なんかさ…弱いヤツ程、絡んでくるよな…」


「それ、分かる」

「謎だ…」


「謎だね…」


そんな微妙な空気だったが扉が開きエルが顔を出してきた。


「兄さま、アシェラ姉、冒険者カード、貰えました」


嬉しそうにGランクのカードをオレ達に見せてくる。


「おめでとう、エル」

「おめでとう、エルファス」

「ありがとう、兄さま、アシェラ姉」


「じゃあ依頼を受けるか!」

「「うん」」


今度はアシェラもギルドの中に入ってくるようだ。

ギルドに入ると急に辺り騒がしくなる。


「何だ?」

「気にしない。依頼を見る。パーティを組めばEランクの依頼まで受けられる」

「良いですね」


Gランクはやはり街のお手伝いだった。Fランクはオレにとっての鬼門、薬草採取だ!Eランクにはワイルドボアと言うでかいイノシシの討伐があった。


「このワイルドボアって何処にいるんだ?」

「場所なら分かる。アルド達を迎えに行った場所に良くいる」


「お、お前、もしかして迎えに来てたんじゃなくてボア狙ってたらたまたまオレ達が帰ってきたんじゃ…」


アシェラはばつが悪そうにオレから視線を逸らす。


「ほ、本当にそうなのか?オレすっげーー感動したんだぞ!」

「ムカエ ニ イッタ」


「何だそれ!ファリステアでももっと上手に人族語話せるわ!」


オレ達はやいのやいの言いながらワイルドボア討伐の依頼を受けた。



この3人のトリオは久しぶりだ、昔はいつもこの3人だったのに…少しの感傷と一緒に目的地まで移動する。





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