第74話賊の目的

74.賊の目的




オークの殲滅から2日後


ブルーリングの屋敷に襲撃した賊の内、魔力視の魔眼を持った女だけが死亡していた。

死因はアシェラの魔法を浴びた事による全身骨折。主因は首の骨の複雑骨折と言う話だ。


賊が死ぬのは嬉しい訳では無いがしょうがない事と割り切れる。しかし、実際に賊を始末したのが自分の婚約者となると話は変わってくる。

昨日なんで急に母さんがプリンを作れと言ったのか少しだけ判った気がした。


アシェラの様子は変わり無い様に感じる…弱音を吐いたりするのなら良い。誰かを頼っているからだ。

しかし今のアシェラは本当に割り切って心の中を整理出来てるのか、単純に我慢しているのか判断が出来ない。


もし我慢してるのだとしたら…ここで話をしなければオレは自分が許せなくなりそうだ。

アシェラを捜す。庭の木のテッペンにその姿を見つけた。


オレは空間蹴りで木のテッペンへと移動する。


「アシェラ。隣、良いか?」

「うん」


こちらを見ずに話すアシェラの隣に、くっついて座る。


「……」

「……」


「……」

「何か話があるんじゃなかったの?」


「いや、特に無いな。オレがアシェラの隣にいたかっただけだ」

「そう…」


「そうだ…」

「……」


「……」

「ボクね、初めて人を殺したよ…」


アシェラはポツポツと話し出した。それは肯定も否定も要らない独白だった。


「強い人だった。格闘術だけならボクなんかよりずっと…おまけにボクと同じ魔力視の魔眼まで持ってた」

「うん…」


「一回なんか毒を貰っちゃって、一瞬、意識を持ってかれそうになっちゃった」

「うん…」


「勝てないかもって思ったけど、後ろにマールやオリビア、ファリステアなんかがいっぱいいて……ボクが負けたら皆、殺されちゃうのかなって思ったら死んでも負けられないって…」

「そうか…」


「後、死んじゃったらアルドに会えないなぁって思ったら急に怖くなって…ボクの出来る精一杯で攻撃したんだ」

「……」


「そしたら死んじゃった……違う、本当は麻痺が効いて避けれないのを分かってた。あれは殺そうとして殺したんだ…」

「そうか…」


「アルドはボクが怖くない?必死になったら人を殺せるんだよ。ボク…」

「オレにとってのアシェラはやさしい女の子だよ」


「やさしい。のかな…」

「敵を思って悩む事が出来るんだ。それがやさしくなくて何だって言うんだよ」


「……」

「オレ思うんだよ…」


「うん…」

「この世界には良い人が沢山いる。アシェラが殺した人だって出会い方が違えば……例えば雇われの護衛か何かで出会ってれば友達になれたんだと思うんだ」


「……」

「でも敵として出会った。それなら割り切るしかない。敵か味方か…敵なら倒すしかない。そうじゃないと自分が殺される事になる…」


「……」

「結局、何が言いたいかと言うと、、、アシェラは悪くない。オレが保証する!」


アシェラは一瞬、驚いた顔をしたと思ったら少しだけ笑ってくれた。


「アルド、ありがとう」

「うん」


そこからは一昨日のオーク戦の話やユーリを救出した話。昨日のプリンの話など、やっと普段のアシェラに戻ってくれた。

木のテッペンで2人きり…何時しか会話が途切れ、お互いの眼を見つめ合う。


アシェラと何度目かのキスをする。


「あ、アルド、、、あ、ありがとう」

「い、いや。こっちこそごちそうさまでした」


「違う!キスじゃなくて、話を聞いてくれて!」

「あ、そっちか」


「もう。バカ!」


アシェラが顔を真っ赤にして木のテッペンから落ちて行く。途中で弾かれた様に方向を変え走って行ってしまった。あれを追うのは無理じゃね…心の中で自分に突っ込む。

1人になった木のテッペンで考えに耽った。


(アシェラが人の死にあそこまでダメージを負うとは…もしかしてオレの倫理観が知らない内に影響したのか?今となっては分からんがこれまで以上に周りを気にして見ないといけないな)


アシェラは強い子だ。これで立ち直るだろう。無理ならオレや周りが何度でも手を貸せばいいだけだ。


賊の目的がファリステアだったのは分かった。ただしファリステアを攫って何がしたかったのか…そこが今だに分からない。

その理由によっては再度の襲撃もあり得るはずだ。






父さんの執務室の前に移動しノックをする。


「父様、アルドです。お話をさせて頂きたいと思い伺いました」

「…入ってくれ」


執務室の中には父さんとローランドがいた。


「アル、昨日のプリンとても美味しかったよ」

「私も頂きましたが、とても美味しかったです。誠にありがとうございました」

「そこまで喜んで貰えるなら、また今度作りますね」


プリンの話で空気は和んだが、その空気を読まず賊について聞いてみる。


「父様。なぜファリステアが狙われたのか分かりましたか?」

「アル。いきなりだね」


「はい。その理由によって第2、第3の襲撃があるかもしれませんので」

「まあ、そうだね。彼等は闇ギルドの人間の様だ」


「闇ギルド?」

「表のギルドが受けない様な依頼を高額の依頼料で受けるんだ」


「その闇ギルドが、何故ファリステアを?」

「そこまでは知らないみたいだ。闇ギルドとしてはファリステアをカシューの街まで運んで終了だったらしい」


「カシューの街…」

「ノーグ=フォン=カシュー 現カシュー家当主の次男。この男の指示で動いていたようだね」


「そこまで分かっているなら!」

「……恐らくブルーリングと確執があるカシューを隠れ蓑にされたんだろう。念の為に父さんに手紙は出してある。王命でカシュー家は調べられる事になるはずだ」


「黒幕は?」

「1つの貴族家を駒の様に使う相手だ。尻尾は掴ませないだろうね。ただしカシューとの因縁を清算できるのは助かるよ」


「屋敷を襲撃されて因縁の清算だけですか…」

「カシューも1枚岩じゃないみたいでね、ノーグ=フォン=カシューは当主と次期当主を監禁して独断で事に当たった様だ」


「……カシュー家からすると、するつもりも無い喧嘩に負けて賠償だけ請求される」

「そうなるね。ノーグはどちらにしろ死罪だろうしね」


「誰も損しかしてない気がするのですが」

「損か得かの話ならブルーリングは得しかしてないね」


「得ですか?」

「途中は色々あったが被害らしい被害は無い。タダでカシューとの因縁も清算できる。王国とエルフの国にファリステアを放置してたら攫われてましたよ。ブルーリングにいたから安全だったんですよ。とさらなる貸しになった」


「それは…確かにそうです」

「被害が無く、全て上手く行ったから言える言葉ではあるんだけどね」


「……」

「アルには感謝するよ。ありがとう」


「止めてください。オレだけじゃ何も出来なかった。エルに魔力を貰って何とかなっただけです。きっとアシェラが倒した女の賊もオレは勝てなかったと思います」

「アルでも勝てない?」


「オレは模擬戦でアシェラに勝てません。相性が悪いんだと思います。その女の賊も戦闘スタイルがアシェラと同じだったそうです。しかもアシェラより格闘術の腕前が上。恐らく勝てません」

「それなら今回は足りない所をお互いが埋め合った形になるのかな?」


オレは父さんの顔を見た。

確かにそうだ、オレはオレの得意なフィールドで結果を出した。アシェラやエルもそうだ。マールだって戦って賊を1人倒したらしい。


「そうかもしれません…」

「……」


「……」

「そうなると問題はこれからの事なんだ。結局、ファリステアさんを誘拐する動機が不明なままだ」


「そうですね」

「アルはどうすれば良いと思う?」


「その闇ギルドにツテはあるのですか?」

「ローランド、どうなんだろう?」

「闇ギルドと繋がってる貴族は沢山あると記憶しておりますが、ブルーリングとして関係は過去にはありません」


「そうですか。それだと警備を強化するぐらいしか出来る事は無いかと」

「やっぱりそうだよね。アルなら何とかしてくれるかと期待しちゃったよ」


「そんな事できませんよ」


冗談を言い合いながらも、父さんには何故か安堵の感情が見え隠れしていた。


「取り敢えずは警備を強化して様子見ですかね」

「そうだね。そう言う事になるかな」


「実はルイスやネロがまた依頼を受けたいらしく…」

「ルイス君やネロ君は元気だね」


「オレも行きたいかなって」


先日の母さんに依頼を1回も成功した事が無い件で笑われた話をする。

父さんが笑みを浮かべながら話し出した。


「分かったよ。オークの巣でも無理を言ったんだ。今さら護衛も無いか…アシェラやエル誰かと一緒なら護衛無しの外出も認めよう」

「本当ですか!ありがとうございます。父様」


「程々に頼むよ…」


こうしてオレは条件付きではあるが護衛無しでの外出を認められた。




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