第76話ボア狩り

76.ボア狩り



予定通りワイルドボアを狩ろうと街道を移動中だ。


「アシェラ、ワイルドボアを狩ったら運ぶのか?」

「肉は高く売れるけど1人じゃ運べない。いつもは討伐証明と魔石だけ取ってた」


「そうか勿体ないけど、しょうがないのか」

「うん」


「簡単に運ぶ方法か…」


この世界にはアイテムボックスは無い。一番最初に母さんに聞いたが”あるわけがない”で一刀両断された。

本当に無いのかは不明だが、無いと言うのならしょうがない。


3人でのんびりと街道を歩く。本来は夏の日差しで歩くだけで体力を消耗するはずなのだが、エアコン魔法のお陰で快適だ。

暫く歩いて行くと目的地に辿り着いた。


「じゃあ範囲ソナーを使うぞ」


範囲ソナーを使う。ワイルドボアの魔力が判らないが怪しい魔力がいくつかある。


「いくつか怪しい反応があった」

「急がないですし順番に回りましょう。兄さま」


「そうだな」


まずは一番近い反応から見て回る。

反応があった場所に近づいて行く。そろそろのはずだが…


草むらから何かが動く音がしてくる。成人男性程の大きさのクモが現れた。


「キラースパイダーってやつか。初めてみた」

「爪と牙に毒がある。後はお尻から糸を吹く」

「僕がやってもいいですか?」


「オレはOKだ」

「ボクもOK」

「では」


エルは瞬時に身体強化をし、キラースパイダーに突っ込んでいく。

爪で攻撃されるが上手く盾で捌いている。


「エルは本当に盾の使い方が上手いな」

「うん。あれは本当に厄介」


2人で戦闘の感想を話している間に、エルは危なげなくキラースパイダーを倒してしまう。


「こいつは常時依頼が無かったから魔石だけか」

「肉も毒があって食べれない」


キラースパイダーにソナーをかけ魔石の位置を捜す。こいつはどうやら腹の中にある様だ。


「魔石は腹の中にあった」

「ボクに任せて!」


アシェラが自身満々にキラースパイダーに近づくと魔石のある当たりを殴りつけた。

キラースパイダーの反対側の腹が爆発して内臓が飛び散る。ウゲェ


アシェラはその中でも魔石が見える様で上手に魔石だけを拾い上げた。


「アシェラ、魔石が見えるのか?」

「うん、ボンヤリと光って見える」


こいつは本当に高性能だ。勇者みたいなヤツだと思ってしまう。まぁ最近は忍者っぽくなってきたが…

ここはハズレだったようだ、気を取り直して次の場所に移動する。


範囲ソナーは魔力消費が大きいので頻繁には使いたくない。


「確か、この辺りだったはずだけど」

「交互に範囲ソナーを使いますか?」


「しょうがないか」


オレ達が諦めて範囲ソナーを使おうとした所で木の上からアシェラが降りてきた。


「見つけた」

「お前の眼は本当に便利だな」


ドヤ顔をしながら胸を張っている。最近、成長してきて目の毒だから止めて貰えると嬉しいんだけど。


アシェラの示す方向に少しだけ移動する。

また草むらで音がして、でかい猪が現れた。これがワイルドボアだろう。


「オレがやっても良いか?」

「どうぞ」

「任せる」


実は丁度良い威力の魔法を考えたので、試射がてら使い勝手を確かめてみたかったのだ。


名前はウィンドバレット、名前の通り風の弾を撃ちだす魔法だ。

今までコンデンスレイを多用してきたが威力が高すぎるのと、魔力消費が大きいのが如何にも使い難かった。


風の弾なら非殺傷用にも簡単に修正出来る。それにアシェラの様に待機状態で保持しておけば、5発くらい同時に撃てそうだ。


「行くぞ」


そう一言、呟くとオレの周りに3つの風の魔法が展開される。


まず1つ目。これは非殺傷用に弾を柔らかくしてある。

発動と同時にワイルドボアの額に当たるが特にダメージを与えた様子は無い。


「アルド?」


アシェラが失敗したのか?と言いたげだ。


「今のは非殺傷型だ。次は殺傷型だが対人用だ」


ワイルドボアもやられるまで見てるだけな訳が無い。オレ目がけて突っ込んでくる。

動きが真っ直ぐなので、非常に読みやすい。余裕を持って右に躱す。


ワイルドボアは向きを変えてオレに突進しようと隙を伺っている。


2つ目。対人用に弾を固くしてあるウィンドバレット(殺傷型)だ。

ワイルドボアの眉間に当たり一瞬フラつく。しかし、それだけだ。まだ威力が足りないらしい。


今の威力は無視できない様でワイルドボアが警戒しながらこちらを伺っている。


3つ目。対魔物用で弾は大きく固い、射出速度もマシマシのウィンドバレット(魔物用)だ。

こちらに突進してきたワイルドボアの眉間目掛けて撃ち込む。


風の弾が着弾と同時にワイルドボアの頭が弾け飛んだ。その勢いのまま胴体が2~3回転してからやっと止まった。

新魔法ウィンドバレットを見てエルが話しかけてくる。


「大体、思った通りの威力だ」

「風の弾ですか」


「非殺傷にも対応するのに風が一番だったからな」

「なるほど」


「魔力共鳴しておくか?」

「お願いします」


オレ達は魔力共鳴でお互いの魔法技術を分かち合った。


「じゃあ討伐証明と魔石を取るか。それと持てるだけ肉も持って帰ろう」


ワイルドボアの討伐証明はウィンドウルフと同じ尻尾らしい。魔石はソナーで調べると胸にある様だ。

尻尾と魔石を取る。次は肉だ。短剣を魔力武器で大剣にしてブツ切りにする。


「剥ぎ取りってこれで良いのか?」

「どうなんでしょう」

「ボクに聞かないで」


「適当に持ってくか」

「そうですね」

「分かった」


取り敢えず近くの川で洗って後ろ足を2本持って帰る事にする。

まだ昼前の時間なのだが依頼は達成してしまった。戻って報告するしかない。


「何か時間が勿体ないなぁ」

「そうですね」


「アシェラ、いつもこんな感じなのか?」

「いつもはもう少し時間がかかる」


「そうか。ワイルドボアの魔力は覚えたから次からはもっと正確に狙えるぞ」

「アルドのくせに生意気」


理不尽な事を言われながらブルーリングの街に帰る。

門で通行料を払わされそうになったがアシェラが冒険者カードを見せたら免除になった。


街の雑踏の中を冒険者ギルドへと歩く。

ギルドに到着し中へ入ると周りからの視線が痛い程に刺さる。


チラリと横を見ると朝に寝かしておいた4人はいなくなっている。きっと元気に依頼を受けているだろう。

そのまま受付まで進み討伐証明の尻尾と魔石とギルドカードを渡した。


「い、依頼達成ですね。少々おまちください」

「あ、それと」


「は、はい!」

「このワイルドボアの肉も売りたいんですが」


「は、はい。この肉は血抜きが不十分で処理も適当です。かなり安くなるかと…」

「そうなんですか…」


「エル、アシェラ、大した値段にならないなら教会に差し入れでもするか?」

「良いですね」

「うん」


「じゃあ肉は持って帰るので良いです」

「分かりました」


受付嬢に討伐の報酬と魔石の売り上げを貰った。3人で割ると銀貨7枚になる。7000円微妙だ。

ギルドから出る時に周りがオレよりアシェラを怖がってる様に見えたのは謎だ。


「じゃあ教会に移動するぞ」

「はい」

「うん」


移動しながら思う。アイテムボックスも冷蔵庫も無しか…食材のかなりの部分が無駄になってる気がする。

この世界ではどうやって食材を保存するんだろう。


そんな事を考えながら教会に移動する。


「おーい、誰かいないか?」


扉を開けて人を呼ぶと奥から子供達が出て来た。


「あ、アルドだ!」「帰ってきたの?」「その肉でかいな!」「エルファスとアシェラもいるぞ」


ワラワラと子供がやってきて揉みくちゃにされる。


「ガキ共!ヤマトかシスターはいるか?」

「ここにいるぞ」


「久しぶりだな。ヤマト」

「おう、いつ帰ったんだ?」


「1週間ぐらい前かな。これは土産だ」

「相変わらずだな…オマエは」


ヤマトに呆れた顔で見られる…何故だ


「ガキ共、この肉をシスターに渡してきてくれー」

「「「「「はーい」」」」」


「アルド、時間があるなら久しぶりに稽古を付けてくれよ」

「お前も相変わらずだな…良いぞ」



エルとアシェラは子供達と一緒にシスターの所へ行ってしまった。

オレはヤマトと模擬戦だ。


身体強化をかけてヤマトが突っ込んでくる。

ヤマトの装備は片手剣と盾。標準的な騎士剣術だ。


3か月前より体の動きが鋭くなっている。

片手剣も容赦なく振るってくるが、エル程では無い。


盾も随分と上手く使う様になった。バッシュ(盾で殴る動き)も要所で使ってくる。

身体強化もスムーズだ。


こいつ、そこら辺の騎士より強いんじゃないか…そう思わせる動きだ。


結局、夕方になるまでアシェラ、エル、オレ、ヤマトの4人で交代しながら模擬戦だった。


「そろそろ帰るか」

「そうですね」

「うん」


「肉ありがとな。また来いよ」

「ああ。しかし強くなったな。ヤマト」


嬉しそうな悔しそうな顔をしてヤマトが答える。


「次は、その余裕持った顔を出来無くさせてやるからな!今日はありがとな」


オレは片手を上げて帰路につく。


「エル、アシェラを家に送って行こうと思うんだけど良いか?」

「あ、それなら先に帰ってます」


「そうか、分かった」

「アシェラ姉。また明日」

「エルファス。またね」


挨拶を交わすとエルが壁走りで屋根の上に出て、真っ直ぐ屋敷を目指す。


「エルに気を使わせたかな」

「うん」


そこからはゆっくりアシェラの家に歩いて送って行く。

護衛がいないので建物の影でこっそりキスをしたのは秘密だ。


ゆっくりと夕暮れのブルーリングの街を歩く。こんな日が続けば良いな。と何となく思っていた。






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