第160話日常 その弐

160.日常 その弐





オリビアが服屋へ入って1時間ほどして、やっと2人が出てきた。

入った時は貴族の服を着ていたが、何故か今は町娘の恰好をして楽しそうに笑うオリビアがいる。


「アルド、お待たせ」

「アルド。アシェラが一緒に王都を見て回ろう。と誘ってくれたのですが、ご一緒しても良いですか?」

「ああ、オリビアさえ良ければ一緒に行こう。まぁ、どこに行くかは決めていないけどな」


「そうですか、では是非に。ありがとう、アシェラ、アルド」


オリビアが嬉しそうにお礼を言い、そのまま昼食を食べる事になった。


「オリビアは屋台でも大丈夫か?」

「屋台!一度、行ってみたかったんです」


「そ、そうか……アシェラも屋台で良いか?」

「うん。肉が良い」


「分かった。肉だな。オリビアは何が良いんだ?」

「何があるんでしょう?」


「肉に魚、果物なんかもあるなぁ。時間はあるんだ。一度、回って決めようか」

「はい。楽しみです」


3人でギルドの近くにある屋台が並ぶ通りへと向かった。

途中、オリビアとアシェラは先程の服屋での事だろう。フリルが可愛かった。だの、色が良かっただの話しているが恐らく下着の事だと思われる。


オレがこの話題に口を挟んでも良い方向に転がる気が全くしない。

素知らぬ風を装いながら聞き耳を立て、頭の中でアシェラとオリビアの下着姿を想像して楽しむ事にする。


顔に出ていたのだろうか。アシェラとオリビアにジト目で見られてしまう。


「アルド、顔がエッチ」

「そんなに見たいのですか?」


2人の態度は対照的だった。アシェラは頬を赤くして上目遣いで言い放ち、オリビアは流し目でどこか誘うような言い様をする。


「スミマセンデシタ」


オレは2人に白旗を揚げ全面降伏した。

屋台に着くとオリビアが大はしゃぎで、食べきれない量の料理を買ってしまい3人でシェアして食べる事になった。


「ごめんなさい。つい……」

「大丈夫。3人で食べればちょうど」

「そうだな。オレは昨日まで迷宮だったから、何でも美味く感じる」


「迷宮?アルドは迷宮に入っていたのですか?」


オレはアシェラと顔を見合わせてから話し出した。


「ああ、エルやアシェラ、母さん達と一緒に王都の近くにある爪牙の迷宮を踏破したんだ」

「迷宮を踏破……」


オリビアは驚き、持っていた串を落としている。食べ終わった後だからセーフ!


「ああ、冬休みは殆ど迷宮の中だった」

「うん。食事が最悪だった」

「アシェラも一緒だったんですよね?」


「うん。ボクも地竜と戦った」

「地竜……竜種と……」


オリビアはアシェラを上から下まで舐める様に見て呟いた。


「アルドは何度か見た事がありますが、本当にアシェラが戦えるのですか……この細い腕で……」


そう言いながらアシェラの腕を揉んだり撫でたりしている。


「じゃあ、見せる。そこにギルドもあるし練習場なら迷惑にならない」

「良いのですか?」


オレはアシェラが言い出したら聞かないのを知っているので、苦笑いを浮かべながら頷いた。



昼食を摂って一服し、今はギルドの練習場へとやってきた所だ。

最近は以前のように露骨には怖がられなくなってきている。


但しオレがギルドの中に入った時に一瞬、静まり返るのをオリビアは不思議そうに首を傾げていた。


「アルド、準備は良い?」

「ああ、但し装備も無いから軽くだぞ」


「分かってる」


オレとアシェラは向かいあって構えをとっている。

オレは練習場に常設してある木剣の短剣を二刀。アシェラは素手だ。


二人共、平民の服を着て傍から見ると遊びに来たと間違えられそうな恰好である。

しかし、オレ達の周りには”こんなにも人がいたのか?”と思うほどの人がオレ達を囲んでいた。


周りからは「修羅同士の戦いか……」や「アイツの婚約者が強いって本当か?」、「あんな少女が……」など興味津々のようだ。

中には個人的に賭けをしている者もいた。


「じゃあ、行く!」

「おう」


アシェラの声にオレが答え、模擬戦が始まった。

爺さんの言いつけで空間蹴りは3歩まで、周りへの影響を考えて魔力盾と魔法も無しだ。


本来の実力の半分以下しか出せないが、周りからは驚きの声が上がる。

徐々にオレがアシェラを追い詰めていくと、いきなり麻痺を撃ち込まれ一気に形勢逆転。


すぐに回復魔法をかけるが良い拳をまともに食らってしまった。

食らう瞬間、魔力を纏ったので殆どダメージは無いのだがオレ達の間では”良い攻撃”を貰ったら降参するのがルールだ。


オレは右手を上げて降参の意思を示す。


「参った。降参だ……」


オレが降参を宣言した瞬間、ギャラリーが沸いた。

曰く「アイツの負け顔が見れただけで飯がウマイ」「オレはあの娘のファンになるぞ!」「尻に敷かれてやがる」「ザマァ!」などの暖かい声援を頂いた……顔は覚えたからな。


オリビアに2人で近づいて行くと興奮した様子でアシェラに話しかけてくる。


「アシェラ、本当に強かったのね。スゴイ。あのアルドに勝っちゃうなんて!」

「ぶい!」


アシェラはVサインでオリビアとギャラリーに答えていた。

この日、オレは噛ませ犬の気持ちを知ったのだが、アシェラとオリビアの楽しそうな顔で全て吹っ飛んだ。


「次はどこに行くか……」


オレがそう言うとオリビアがアシェラに耳打ちをしている。


「アルド。屋敷へ帰る」

「まだ夕方まで時間があるぞ?」


「屋敷が良い」

「そうか、オリビアも良いのか?」

「はい」


こうして3人でブルーリング邸へと帰路についた。



ブルーリング邸に到着するとオリビアはそそくさとアシェラの部屋へと行ってしまう。

オレは手持無沙汰になり、ローザの元へ魔道具の勉強に行くと、クララとサラが仲良さげに遊んでいた。


「サラちゃん、…………」

「うん、クララちゃん」


2人は年が近い事もあり楽しそうに遊んでいる。


「すみません。サラにはクララ様と呼ぶ様に言ってるんですが……」

「大丈夫だ。クララもオレの妹って事だな。序列を気にしない」


ローザが苦笑いを浮かべて返してきた。

そこからはクララとサラの遊び声をBGMにして、母さんに言われていた空間蹴りの魔道具の改造に取り掛かっている。


ローザは既にブラックボックスと給湯器を完成させていて、今は効率化と簡素化を進めていた。

改めて思うがローザは魔道具職人として1流だ。


売れ残っていたのは片足なのは勿論、本人が魔道具職人はやらないと言っていたのが大きいのだろう。

こう言う言い方は好きでは無いが、正にお買い得だった。


足が治って、商売も軌道に乗り、生活力が出来たらどこかのタイミングで奴隷から解放しようと思っている。

同情では無く、組織の一部署のトップが奴隷では対外的に色々とマズイ。


魔道具の生産も王都では地価や秘密保持の観点から難しい、

どこかのタイミングで拠点をブルーリングに移さざるを得ないのだろう。


代わりに王都での販売はタブに頑張って貰うつもりだ。

マールとエルも婚約し、元々タブを怪しんでいた父さんとも上手くやっている。


給湯器が上手くいけば次はトイレに手を付けたい。と考えていると部屋にノックの音が響く。

サラとクララが扉を開けるとアシェラとオリビアが部屋に入ってきた。


アシェラとオリビアは風呂に入ってきたようで、濡れた髪が何とも言えない健康的なエロさを醸し出している


「じゃあ、オレはアシェラとオリビアと行くよ」


流石にこの部屋に6人は狭い。オレ達はローザの部屋を後にした。


風呂上がりの2人は先程とは違う服を着ている。オリビアなど普段の貴族服から町娘に早変わりだ。


「2人共、着替えたのか?」

「うん。さっきの服屋で気に入った服を配達しておいて貰った」

「この服どうでしょうか?」


「うん、2人共可愛らしい。似合ってるよ」


アシェラもオリビアも嬉しそうに笑っていた。


「実は下着もさっきの店で聞いた、アルド好みの物に替えた」

「え?」


「アルドはこんな下着が好きなんですね……」

「あー……」


2人はまたも上目遣いと流し目をオレに送ってくる……

オレは少し前かがみになりながら、どこかに椅子は無いかと真剣に探す羽目になった。





夕方になりオリビアをブルーリング家の馬車が送っていく頃合い。


「アルド。今日は楽しかったです。ありがとう」

「こっちこそ楽しかった。また学園で会おう」


「はい。学園で……」


オリビアは次にアシェラに向かって話し出す。


「アシェラ、今日は本当にありがとう」

「ううん。良い」


「アナタは本当に素敵な淑女ね」

「オリビアも可愛らしかった」


「また遊びに来て良いかしら?」

「うん。今度は、あの下着を買いに行こう」


「!!あの下着を??」

「うん」


何か不穏な会話なんだが……どんな下着なんだ。気になる……

こうして1つの大変気になる謎を残し、オリビアはサンドラ伯爵邸へと帰って行った。


オリビアを乗せた馬車をアシェラと一緒に見送りながら、さり気なく聞いてみる。


「どんな下着なんだ?」


アシェラは上目遣いで笑いながら答えた。


「確かめてみる?」


オレは肩を竦めて降参の意思を示すしか出来ない。


今日はアシェラとオリビアの3人で遊び回り楽しかったが、少し触っただけだが魔道具の改造も面白そうだ。

明日は魔道具の改造に注力しても良いかもしれない。


「アシェラ、明日は魔道具を改造しようと思うけど良いか?」

「うん。じゃあボクはクララ達と遊んでる」


「そうか。ありがとな」

「ううん」


オリビアを送り終わって誰もいなくなった玄関の横で、アシェラと久しぶりのキスをした。






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