第115話迷宮探索 part3
115.迷宮探索 part3
ここからはパーティとしての連携を試す。
配置は最初の通りだ。前衛がオレとジョー、中衛がナーガさんと母さん。シンガリがアシェラ。
オレとジョーが先頭で迷宮の奥へと進んで行く。
暫く進むと前方におかしな場所を見つけた。壁に大きな穴が開いており、どうも通路の様に見える。
警戒しながら近寄るとそれは汚らしいが間違いなく”階段”だった。
「ナーガさん、階段ですがどうしますか?」
「そうね……2階層はウィンドウルフにワイルドボアが混じってくるらしいわ」
ナーガさんが少し悩む素振りを見せると母さんが割って入って来る。
「ダメよ」
「ラフィーナ…理由があるの?」
「今回は1階層だけの予定だったわ。初めての場所で予定を変えると碌な事にならない」
「……そうね。今回は1階層だけにしましょう」
「ありがとう。ナーガ」
ナーガさんが母さんに微笑んで返事を返す。
この2人のやりとりは見ていて安心できる。理論的な物から感覚的な物までお互いに理解しあっている様な……まるでオレとエルだ。
思考を戻して再び迷宮の中を進む。
暫く進むとウィンドウルフ8匹の群れを発見した。
「ウィンドウルフの群れ。数は8。どうしますか?」
オレがナーガさんへと報告すると周りに少しだけ緊張の様子が伺える。
「倒しましょう。さっき言った通り魔法は禁止でね」
やっぱり不満がある様で母さんが文句を言い出した。
「ナーガ。魔法が撃てないなら私は何をするのよ…」
ナーガさんが肩を竦めながら軽く話す。
「後輩の指導かしら?後、周囲の警戒はお願いね。近づいて来る魔物がいたら魔法は使っても良いわ」
母さんが膨れている。少し可愛いと思ったのは秘密だ。
話が纏まった所でパーティはゆっくり前進する。全員がソロで倒せるのだが油断をしては訓練にならない。
こちらから突っ込むのでは無く向く陣形を崩さないでゆっくりと進む。
直にウィンドウルフもこちらに気が付いた様でオレ達を包囲しようと動き出す。
「密集!」
ナーガさんの声が響く。オレ達はナーガさんと母さんを中心に背中合わせになり敵からの攻撃に備える。
実際は2人を3人で囲う事など出来ないが配置的な話だ。
相手がウィンドウルフであれば絶対に後ろに通さない自信はあるが。
ウィンドウルフの方もオレ達を包囲できた様だ。ジリジリと輪を縮める様にゆっくりと向かってくる。
このまま待ってもいいが少し消極的すぎる。魔法を禁止されてしまったし、陣形も崩せない。
残る方法と言えば投擲ぐらいしか思いつかなかった。
オレは短剣を腰に戻して予備のナイフ2本を装備する。
”投擲”
ナイフは2匹のウィンドウルフの眉間にささり絶命した…残り6
ウィンドウルフ達は仲間が殺された事に怒り、残りが一斉に襲い掛かってくる。
オレはナイフ2本を”引力”の魔力で手元に引き戻す。自分から少し遠い、後衛に抜ける可能性のあるウィンドウルフ2匹に目掛けて再び”投擲”。
眉間とはいかなかったが行動不能には出来たはずだ。
腰から短剣2本を抜くと目の前のウィンドウルフ1匹の首を刎ねる。
振り向き回りを見るとアシェラが2匹をジョーが1匹を倒した所だった。
ナーガさんが呆れた顔でオレを見てくる。
「アルド君は”投擲”も禁止ね」
オレの投擲も禁止になってしまった…配置が決まっている為に動き回る事も出来ない。魔法もダメ。
この場で普通に行動しろと言う事なのだろう。
動きの確認なのだから当然と言えば当然だ。次は普通の動きに徹しようと思う。
ウィンドウルフと戦った場所から5分程歩いた場所に怪しい光?膜?の様な物を通路の隅に発見した。
「ナーガさん、変な物があります…」
「変な物?」
オレの言葉に反応してナーガさんが隣まで歩いてくる。
「あ、宝箱じゃない。アルド君お手柄ね」
宝箱。図書館で読んだ本に”膜で覆われている”と書いてあったが実際に見ると想像とはだいぶ違う。
ゴミ袋の様な物を想像していたが実際は薄っすらと光る”光の玉”だ。色は殆ど白だが若干赤い様な気がする。
この色なのだが中身が魔力を帯びる程、色が濃くなって行くらしい。今回の中身は殆ど魔力を帯びていない様だ。
しかし、初宝箱。ワクワクしない訳も無く、宝箱に近づこうとするとナーガさんに止められた。
「アルド君、罠がある可能性が高いわ」
忘れてた。本にも罠がある可能性が高いって書いてあったはずだ。
「すみません。軽率でした」
「初めての迷宮なんだししょうがないわ」
ナーガさんがアシェラに向き直り話し出した。
「アシェラさん。宝箱に別の魔力がくっついてたりする?」
「うん…膜に黒い魔力がくっついてる…」
「そう。その魔力だけを魔法で攻撃できる?」
「いけると思う」
ナーガさんはアシェラとの会話を終え、全員を見て指示を出す。
「じゃあ全員、もう少し下がって」
さっきの場所から5メード程下がる。
「じゃあアシェラさん。お願い」
「分かった」
アシェラがウィンドバレット(殺傷型)を宝箱に撃ち込む。
ウィンドバレットは宝箱の上を通過する時に何かを打ち抜く。一瞬だけガラスの破片の様な物が見えた。
「終わった」
「ありがとう。アシェラさん」
後は宝箱を開けるのだが、ナーガさんは回復役だ。罠が残っていた時の為に危険な事はさせられない。
オレは周りを見渡す…母さん、アシェラ、ジョー、ただ1人を覗いて全員女子供だ。
オレがジョーを見ると全員がジョーを見る。
ジョーは肩を竦めてから諦めた様に両手を上げた。
「分かった。オレが適任だな」
ジョーが宝箱に向かって歩いて行く。格好付けて歩いてても微かに足が震えている。
「ジョー。待て。オレが行く」
毒や麻痺ならナーガさんが治してくれるはずだ。
怖いのは爆発の罠だが、オレなら魔力盾とリアクティブアーマーで耐えられるはず。
宝箱の中身は壊してしまうかもだが仲間の危険とは天秤にかけられない。
オレはジョーを追い越し宝箱の脇に立つ。
「おい、アルド。大丈夫なのか?」
「ああ、オレにはコレがある」
左腕に魔力盾を展開するとジョーは納得して後ろに下がって行った。
ナーガさんも母さんも何も言わないのはオレが適任だからだろう。
盾にリアクティブアーマーを仕込み、右手の短剣をゆっくりと宝箱に突き入れて行く。
刃が5センド程、入った所で宝箱の光が弾けた。
宝箱が消えた後には使い込まれているだろう杖が1本、転がっている。
短剣で杖をつついてみる…特に何も無さそうだが魔物の擬態の可能性も0.1%ぐらいはあるかもしれない。
何度かつついたが杖で間違い無さそうだ。
この世界、呪いの装備はあるのだろうか…この小汚い杖を四六時中 握らされるなんて絶対にごめん被る。
オレは振り返ってナーガさんに指示を仰ぐ。
「ナーガさん、杖が出ましたがどうしましょうか?」
「貸してみて」
オレは心の中で”触りたくない”と思ったがそれを言うのも恥ずかしい。
しょうがなく杖を取り最速でナーガさんに渡した。
「あ、ありがとう…」
ナーガさんが”何事?”と言う眼で見るがオレは素知らぬ風を装う。
ナーガさんが杖を調べていると母さんが横から杖を奪っていった。
母さんが何やら触っていると杖が薄っすらと光出す。
全員が身構えて杖を見るが直に光は止んでいく…
そうするとまた光出す…止んでいく…光出す…
どうやら母さんが何かすると杖が光る様だ。
「ラフィーナ。そろそろ教えてちょうだい」
「この杖は光るわ」
「……」
「……」
「で?」
「それだけ」
「どういうこと?」
「杖に魔力を注ぐと薄っすらと光るの」
「で?」
「それだけよ。ただ光るだけ。それ以外には何も無さそうね」
全員が何とも微妙な顔を浮かべる。
そんな空気の中、ナーガさんが呟いた。
「微妙な性能でも魔法具には代わり無いわ。持って帰りましょう」
道具に魔法陣を刻み魔石を燃料に色々な効果を発動させる物が魔道具と言われる物だ。
それに対して魔法具とは長い時間を迷宮の中で過ごし道具自身が魔法のチカラを帯びた物である。
今回の光る杖は同じ効果の魔道具を作る事が出来るが魔法具の中には唯一無二の能力を持った物がいくつかあるのだ。
有名な物では”雷の杖”この杖は1年に1回ではあるが雲一つ無い天気でも本物の雷を落すことが出来ると言う。
他には”搾取の指輪”。対になる”生贄の指輪”をしている物に全てのダメージを肩代わりさせる事ができる。
こういった魔法具は貴族や王族の家宝として重宝されていた。
ローザに一度、魔法具を見てみたいと言われていたのを思い出す。
「ナーガさん。家に居る魔道具職人に見せたいのですが貸して貰う事はできますか?」
「パーティで手に入れた物はパーティの財産として扱います」
「そうですか…無理を言ってすみませんでした」
「ですのでパーティメンバーの了承があれば問題ありません。因みに私はかまいませんよ」
オレが辺りを見回すとジョー、母さん、アシェラが頷いている。
「皆、ありがとう!」
「では、この杖はアルド君が持っててください。壊しちゃダメですよ」
ナーガさんから杖を預かった。丁寧に背中のリュックへ入れておく。
そこから何度かウィンドウルフとの戦闘を行った。全員が想定通りに動けたと思う。
母さんとアシェラは終始、暇そうにしていたが…
「これぐらいで良いでしょう。少し早いですが戻りましょうか」
ナーガさんが迷宮探索の終了を告げる。
各々、思う所があるのだろう。王都に帰ったら反省会と言う名のミーティングだな。
帰りは特に何の問題も無く、馬の護衛も無事だった。
行きと同じ様に王都へ馬を走らせる。
門も問題無く通り冒険者ギルドへと到着した所でブルーリング家の執事セーリエが立っているのに気が付く。
馬から降りてセーリエの元に近づくと小声で”ブルーリング領にて乱あり。至急、屋敷へお戻りください”と伝えられた。
”乱”謀反?魔物の襲来?頭の中をグルグルと取り留めのない考えが巡る。
そんなオレの背中を思いっきり叩かれた。
「アルド!しゃんとしなさい」
振り向くと母さんが不適な笑みを浮かべて仁王立ちしている。
「誰か知らないけど…ブルーリングに手を出した以上…キッチリ落とし前を付けて貰わないと!」
ハハッ…流石は氷結の魔女だ。こんなに頼もしい人はいない!
「アル、アシェラ、すぐに屋敷へ戻るわよ」
「はい。母様」
「はい。お師匠」
「アル、私を抱いて飛べる?」
「大丈夫だと思います」
「じゃあお願い。最速でね」
「分かりました」
オレ達は慌ただしくナーガさんとジョーへ挨拶すると王都の空へと駆けだした。
ブルーリングで乱…アシェラの家族はオレの家族と一緒に王都にいる。でもタブやヤマト、孤児院の皆、ガル、ベレット、タメイ…オレの大事な人がブルーリングには沢山いるんだ。
オレは焦燥感を膨らませて屋敷へと駆け抜ける。
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