第114話迷宮探索 part2
114.迷宮探索 part2
次はジョーの番だ。パーティの配置は最初に戻した。
ジョーの5メード程後ろにオレ。その後ろにナーガさんと母さん。そしてシンガリがアシェラだ。
また5分程歩くとウィンドウルフが現れる…1匹だ。
ジョーの背中を見るとプルプルと震えている。
「ジョーまさか……怖いのか?」
「違うわ。ボケ!」
「じゃあなんで震えてるんだ」
「1匹とか余裕過ぎてカッコつかねぇだろうが!」
オレに向かってギャーギャー言ってるジョーにウィンドウルフが襲い掛かる……あっ
流石にジョーは躱したが意識がオレに向いていた様でかなりギリギリだったように見えた。
ジョーが体勢を崩す…ウィンドウルフは体勢を崩したジョーが狙い目と判断した様で、更に攻撃を加える。
何度目かの攻撃を躱した時にジョーは転びそうになってしまう。なんとか大剣を地面に付き転倒だけは避けた。
しかし、ウィンドウルフも必死だ。ジョーへと必殺の一撃を加える。
肉に歯がめり込む音が響く…
オレはジョーがウィンドウルフ如きに後れを取るとは想像もしなかった。
しかしウィンドウルフの牙はジョーに届く……届いてしまったのだ!!
ジョーは先程大剣を地面に付き踏ん張って体を支えた……そう、お爺さんが杖を突くように。
その姿はウィンドウルフにお尻を突き出す様な恰好であった。
ウィンドウルフはジョーの尻に必殺の一撃を決めたのだ!!
迷宮にジョーの絶叫が響き渡る。ウィンドウルフはと言うと前足を折り、ジョーの尻にぶら下がっていた…ぷっ
「アルド!助けろ!!コイツを取ってくれ!」
オレは短剣を抜きウィンドウルフの眉間に投擲する。万が一ジョーに向かった場合は引っ張る魔力で手元に戻す用意も忘れない。
狙い通りに短剣はウィンドウルフの眉間に吸い込まれて行った。
ウィンドウルフは完全に絶命しているがジョーの尻を放そうとはしない。
しょうがない…オレはウィンドウルフの口を強引に開かせてジョーの尻から取ってやる…ぷぷっ
ジョーは痛かったのだろう。いきなりズボンを脱ぎ、パンツを降ろして自分の尻を見ようとしている。
無表情のナーガさんが何も言わず事務的にジョーの尻に手を当て回復魔法を使いだす。
回復魔法が発動すると、ジョーの尻から4つの牙の痕が消えていく。
ナーガさんはさっきの付与魔法もそうだが回復役としても有能だ。
それに引き換え……Eランクのウィンドウルフに尻を噛まれFランク冒険者に助けを求めるCランク冒険者。
オレはジト目でジョーを見る。ジト目でガン見する!
「な、なんだ…今のはちょっと…」
ジョーが小さくなって行く。
「アル。イジメないの。ジョグナ君、もう一回やってみて。良いわね?」
「は、はい、ラフィーナさん!」
母さんはオレ以外には比較的優しい。ジョーにもう一度チャンスを与える様だ。
流石にウィンドウルフ1匹に梃子摺る様ではルイスやネロの方がマシになってしまう。
ナーガさんが付与魔法をかけ直そうとする。しかし、ジョーは眼に決意を滲ませ付与魔法を辞退した。流石にジョーにもプライドがあるのだろう。
再び、ジョーを先頭に5分程歩く。
獣臭とかなりの数が動めく音が微かに聞こえる。
「ナーガさん。やっぱり付与を頂いていいですか?」
ジョーが前言を撤回してナーガさんへ付与魔法を頼む。ナーガさんはプライドに流されず冷静な判断を下したジョーに笑みを浮かべて付与魔法をかけた。
「では…いきます!」
ジョーが身体強化をかけウィンドウルフの群れへと走り出す。
近づく事でウィンドウルフの群れの全体が分かる。
ウィンドウルフは全部で13匹もいた。
オレが短剣取り出してジョーの救援に向かうのをナーガさんが止めてくる。
抗議の眼を向けるとナーガさんの横に立っていた母さんが話しだす。
「ジョグナ君が救援を求めたの?」
「あの数はジョーには無理です!」
「無理かどうかは見ていれば分かるわ。アルはちょっと冒険者を舐め過ぎているわね」
オレが舐めている?この前返り討ちにした冒険者はBだった。母さんもAになる寸前だったと聞いている。
それならCランクのジョーではこの数のウィンドウルフは無理だろ…それともオレは何かを見落としているのだろうか…
オレの自問自答の間にジョーがウィンドウルフに切り込んでいく。
Eランクと言え13匹だ。後ろに回られてすぐに立ち行かなくなるに違いない。
しかし一向にジョーが窮地に陥る事は無く、むしろウィンドウルフの数が徐々に減って行くのだ。
ジョーの動きを観察すると、絶えず迷宮の壁を背にする様に動いている。
ウィンドウルフに数がいても2~3匹しか攻撃する事が出来ない。
ジョーの立ち回りに依って実質ウィンドウルフ2~3匹を5~6セット相手にしているのと同じだ。
オレは素直に感心していた。ここ最近は集団戦の立ち回りを修行していたが、個でも立ち回りでこうも違うとは。
母さんが”冒険者を舐めている”と言った意味が理解できた。
戦闘も終盤だ。ウィンドウルフも残り2匹になる。
ジョーは大剣を背に仕舞い、腰の片手剣を抜く…盾は持っていないが綺麗な騎士剣術だ。
あっと言う間にウィンドウルフ2匹を倒しこちらに戻ってくる。
「どうでしたか?」
ジョーはリーダーであるナーガさんへと問うた。
ナーガさんは笑みを浮かべ答える。
「文句ありません。素晴らしい立ち回りと剣の腕です」
ジョーはナーガさんの答えに安堵した様子を浮かべた。
「アルドやアシェラよりはだいぶ地味だったんじゃないですか?」
「この2人を基準にしたら誰もいなくなりますよ」
「それもそうか」
ジョーの汚名返上は上手くいった…しかしオレは思う。いつかジョーは”汚名挽回”してくれる…っと。
さて、次はナーガさんか母さんか。
「本来は後衛の私達がソロでの戦闘能力を披露する事はありません」
それはそうだろう。後衛がソロで戦うときには前衛が全滅している時なのだから。
「しかし、今回は”転移罠”を踏むのですから後衛にもソロ能力が必要だと判断しました」
そう言うとナーガさんがパーティの先頭へと歩いて行く。
「ですので私からお見せしようと思います」
ナーガさんが先頭を歩きだして10分程だろうか。ウィンドウルフの姿が見える。
ここから見える数は5匹以上だ。
ナーガさんは懐から親指程の小瓶を3つ取り出した。小瓶を1つ軽く握り締め親指でウィンドウルフへと飛ばす。指弾と呼ばれる技術だ。
小瓶はウィンドウルフへ命中すると爆発を起こす。直撃を受けた個体は当然として周りにいたウィンドウルフにも少なくないダメージを与えた。
1体は即死、2体は瀕死、残りは3体。どうやらウィンドウルフは6体だった様だ。
ナーガさんは無詠唱で風魔法を発動し、ウィンドウルフを攻撃していく。
すぐに動ける個体は2体にまで減らす事に成功する。
ベテランの冒険者らしく気をぬいたりしない。注意深く立ち回り2つ目の小瓶を指弾で投擲した。
小瓶が胴体に当たり中の液体がウィンドウルフを襲う。
液体がかかった場所からは煙が立ち昇りウィンドウルフがのたうち回る
1分もしない内にウィンドウルフはピクリとも動かない躯へと変わっていた。
残りは1匹。ナーガさんが最後の1匹へ視線を移すとウィンドウルフは脱兎の様に逃げていく。
ナーガさんは戦闘が終わった後も気を抜かず辺りを警戒している。
敵が完全にいなくなったのを確認して、やっと言葉を発してくれた。
「どうでしょうか?皆さんのお眼鏡にかなったでしょうか?」
すぐに皆からの返事が返ってくる。
「ナーガさんがこんなに強かったなんて知りませんでした」
「流石Bランクだ。オレでは勝てねぇな…」
オレとジョーの心からの感想だ。母さんはナーガさんの強さを知っていた様で笑みを浮かべて頷いている。
アシェラだけがナーガさんが持っている小瓶を凝視していた。
”エルフの秘薬”エルフが独自の魔法体系を持っている。と言われる所以だ。
門外不出で製法はエルフの一部のみが知っている。
「それが”エルフの秘薬”ですか…」
オレはナーガさんに聞いてみるとナーガさんは苦笑いを浮かべて答えだす。
「そうです。ただ私の様な郷を出た者には、中々売って貰え無い物ですけどね」
「ナーガさんは作れないのですか?」
「秘薬を作る事が出来るのは極一部、しかも1人に付き1種類しかレシピを知らされないんです」
「1人に1種類…」
「万が一、攫われたり、逃げられても秘薬の秘密が暴かれるのは1種類だけですから…」
「徹底してるんですね…」
「昔の種族間の争いのせいだと聞いています」
「随分と昔の話ですね…」
「そうですね。そんな閉鎖的な所がどうにも耐えられなくて…郷を抜け出して来ちゃいました」
そう言ってお道化るナーガさんはとても可愛らしかった。
アシェラにお尻を抓られたのは愛されてる勲章だと思おう。
最後は母さんの番だ。オレは”氷結の魔女”の実力は嫌と言う程に知っている。
今だに魔法戦では勝った事が無い。母さんの戦闘は何と言うか上手いのだ。
ここで?と言うタイミングで必ず撃ち込んでくる。
久しぶりの”氷結の魔女”の戦いを見せて貰おう。
母さんが先頭で10分程歩くとウィンドウルフの群れを発見した。
その数は最大の15匹。明るい場所で数をしっかり数えられる。
「母様。流石に魔法使いには数が多くないですか?」
「問題無いわ」
「こんな所で無理しなくても僕は母様の強さを知っています」
「アルは私がウィンドウルフ程度で苦戦すると思っているの?」
「そうは思いませんが…」
「なら良いじゃない。そこで見てて」
もう言葉はいらない。とばかりに会話を終わらせられる。
母さんの周りに風の魔法…ウィンドバレット(魔物用)が10個展開された。
10個!オレは最大で8個なのに…流石は”氷結の魔女”だ。と心から感心する。
驚いているオレを横目で見てニチャっと悪い顔をしたと思ったら…
さらに5個のウィンドバレットが現れる。
全部で15個…鳥肌が立った。どれだけ魔力操作を磨き上げれば、この高見へと至れるのか……
母さんはドヤ顔でオレを一瞥してから無造作にウィンドバレットを撃ち込んだ。
ウィンドバレット(魔物用)はウィンドウルフ程度であれば貫通して、後ろのウィンドウルフも倒せてしまう魔法である。
それを15発掃射……血煙と土埃が立ち登り一時的にウィンドウルフの様子が分からない。
暫くすると視界が開けてくる…そこにはウィンドウルフの残骸が残るだけで脅威と呼べる敵は1匹も残っていなかった。
ナーガさんが驚きすぎてフリーズしている。オレとアシェラは警戒していたが母さんが、ここまで成長してるとは想像出来なかった様だ。
「ナーガ!」
「え?ウィンドうるf…ちょっと待って…えぇぇ…」
ナーガさんのフリーズは解けたが、メダ〇ニ中らしい。
少しの時間が経ちナーガさんが復活した。
「ラフィーナ!さっきの魔法は何よ。あんなの使えなかったじゃない!」
「アルドの魔法よ」
ナーガさんがオレと母さんを何度か見比べて、大きな溜息を吐く。
「ハァァ……、アルド君に魔法を習ったのね」
「そうよ。このウィンドバレットは凄く使い易いの。魔力も食わないしね」
ナーガさんがコメカミを揉んで何かを考えている。
暫くそのままの時間が過ぎて行く。どうやらナーガさんは突っ込む事を諦めた様で何もなかったかの様に話し出した。
「個の戦闘力は良いわね。次はこの陣形での戦闘を試しましょう。倒すのが目的じゃないから魔法は禁止にしましょうか」
”氷結さん”は不満そうだが、こうでも言わないと”氷結さん”がウィンドバレットを撃つだけになってしまう。
これで個の実力は大まかに把握出来た。次はパーティの連携だ。大剣はルイスで慣れているので邪魔にはならないと思うが…少しワクワクする。
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