第113話迷宮探索 part1
113.迷宮探索 part1
お試しではあるが紛う事なき迷宮探索である。このワクワクを誰かに伝えたい。
”爪牙の迷宮”に入ると思ったよりも特別な感じは無い。
少し拍子抜けしてナーガさんに聞いてみた。
「探索魔法が迷宮でも使えるか試したいのですが…」
「問題があるの?」
「少し。相手に魔法使いがいるとこちらの方向がバレます。実際にワイバーンは探索魔法に反応して襲ってきました」
「そう…であれば逆に1階層で使いましょう。1階はウィンドウルフしか出ないはずだから」
「分かりました」
そう返事を返してオレは範囲ソナーを使う。
(むっ。おかしい…こんな反応は初めてだ)
オレの顔色が悪いのを見てナーガさんが聞いてきた。
「何か問題でもありましたか?」
「いえ、、、少し反応がおかしくて…」
「反応がおかしい?」
「はい、迷宮の壁の中が全く分かりません。普通は土の中でも少しは様子が分かるんです」
「あぁ。アルド君、迷宮の壁は壊せないの」
「え?」
「厳密に言うと上辺は壊せるわ。でも5センドも掘るとどんな魔法や武器を使おうと壊せなくなるの」
「そんな性質が…」
「当然、魔力も通らないわ」
「そういう事ですか…1000メードを調べるつもりで範囲ソナーを打ったのですが、分かったのは精々50メードでした」
「そう、効果が著しく落ちるのね」
「はい。元々、魔力消費が高いので頻繁には使えない魔法だったのですが…迷宮では使えない魔法になっちゃいました」
「そうでも無いわ。要は使い所よ。50メード先が分かるのは場面によっては生死を分かつわ」
「使い所ですか…分かりました。これからは局所ソナーで探索する様にしますね」
アシェラ以外の全員がオレの言葉に食いついた。
「アル。局所ソナーって何?私、聞いて無いんだけど」
「そりゃ言ってませんから」
「何で言わないのよ!」
「え?言う必要が無かったからですが…」
「アルのくせに生意気!オムツを替えたのは私なのよ!」
お、おま!今、それを出すか!それにオムツはメイドが替えていた!氷結さんに替えて貰った事なんて1~2回だ!!
しかし、ヘソを曲げられると困るので正直に話す。
「か、母様。範囲ソナーは魔力消費が大きいので方向と距離を絞ったソナーを開発しました。それを局所ソナーと名付けた訳です」
「他には?」
「ほ、他ですか…」
氷結さんがジト目で見つめて来る。
「まだ開発中なんですが”バーニア”と言う物を…」
「見せて」
「まだ開発中で…」
「それでも良いから見せて」
ここは迷宮の中だと言うのに全く緊張感が無い。この温度差は何なのかナーガは1人、コメカミを揉んでいる。
アルドが開発中と言っていた”バーニア”
スライム捕獲に行った時に行った水上歩行…アルドは”魔力消費が大きすぎる。使うなら一瞬”
空間蹴りとセットで使う事になるだろう技術は足の裏では無く”背中””両肩”で空間蹴りを使う事で技術の完成を見る。
”背中””肩”で推進……正にアニメの戦闘メカの挙動だ。背中から推進剤を噴射し、肩からの噴射で体勢を替えず平行移動する
元々、急所を一撃離脱で攻撃するスタイルのアルドには、これ以上無い程の技術であった。
早速使ってみるが修行中と言う事でまともな加速も瞬間の発動も出来ない。
しかしラフィーナはアルドのやりたい事を正確に見抜いていた。
ラフィーナは思う……空間蹴り、魔法、魔力武器、魔力盾、リアクティブアーマー、ソナー各種、そこに加えて今回の”バーニア”だ。
普通の魔法使いと同程度しか無い魔力量。ラフィーナはアルドの限界を感じ始めていた。
「分かったわ」
ラフィーナは”バーニア”がどういった技術かを正確に理解して言葉を吐いた。
それを踏まえてラフィーナはアルドに聞かなければならない……
「アル…魔力は大丈夫なの?」
一番、聞かれたく無かった事なのだろうアルドは苦い顔をしてラフィーナの質問を返した。
「僕の魔力量ではどれだけ魔力変化の効率を上げても正直、キツイです……全部の技術を僕の魔力で賄うのは無理な様です……」
全員が眼を見開き驚愕の表情でアルドを見つめる。
どんな時でも飄々としているアルドの泣き言に近い告白を聞いて全員が言葉を無くしていた……魔力量。稀代の天才がそんな事で限界を決められてしまうのか…
そんな暗い雰囲気を当の本人のアルドが”まるで気にしていない”っとばかりに話だした。
「最近、魔道具作りを習っているんですよ。全部を自前の魔力で賄う必要なんて無いので魔道具で出来る事は魔道具で行うつもりです。最近、空間蹴りの魔道具を作ったのですが………」
全員が…あぁ、こいつが簡単に折れる訳が無いよなぁ。心配して損したなぁ っとドブ川の腐った魚の眼で虚空を見つめるのだった。
迷宮に入る前に休憩を取ったはずなのに、なぜかアルド以外の満場一致で休憩を取る事になる…何故だ。
休憩して最初の5分は誰も口を開かず身動きすらしないでので心配になったが徐々に普段の皆になっていく。
ナーガさんから再度の説明がある。
「今回は全員の実力を把握する為の、いわばお試しです。まずは個の戦闘力を見せてください」
全員が真面目な顔で頷く。
「では順番にソロで戦闘をして貰います。最初は……そうですね。アルド君お願いできますか?」
「はい」
「次に出会う魔物をソロで倒してください。無理だと判断したら救援要請を。そこら辺の判断も見させて貰います」
「分かりました」
パーティから5メード程、先行して迷宮を進んで行く。
5分ほど歩くと前にウィンドウルフが7匹群れを作っていた。
オレはウィンドウルフに向かって走り出す。
走っている途中で左腕から盾を出し、リアクティブアーマーを仕込む。
オレの出来る全速力でウィンドウルフの群れに吶喊した。
リアクティブアーマーはエルやシレア隊長との(非殺傷型)では無く本気の威力マシマシモードだ
ウィンドウルフにバッシュが炸裂した瞬間、爆発が起こる。
”ドゥン”と重く低い音と共にウィンドウルフ3匹が宙を舞った。
宙を舞うウィンドウルフ3匹は恐らく絶命している。体や首がおかしな方向をむいているからだ。
残り4匹いるはずのウィンドウルフだが立っているのは2匹だけ…恐らく2匹は最初の爆発でバラバラになったのだろう。
立っている2匹も正に”立っている”だけで今にも倒れそうだ。
アルドはと言うとリアクティブアーマーの爆発で後方に吹き飛ばされていた。
しかし、ただ吹き飛ばされるのでは無く土の上をまるでスケートの様に滑っている。
地面をリンクに見立てて大きく弧を描く。そこからウィンドウルフ2匹の後ろに回ったと思った瞬間…首を跳ねた。
アルドが見せた土の上の移動方法。これは以前、湖でアシェラがやって見せた移動方法を自分なりにアレンジした物だった
ウィンドウルフ7匹を瞬殺したと言うのにアルドは不満顔だ
「うーん…この歩法はやっぱり魔力消費が大きすぎる。リアクティブアーマーも本気マシマシモードでは自分が吹き飛ばされるのか…魔法なんだから爆発の方向を指定できたりしないかな…」
ここが迷宮の中だと言う事も忘れ、リアクティブアーマーと歩法の考察を始めだした。
もう誰も突っ込まない…ナーガは何も見なかった。とばかりに話し出す。
「では次はアシェラさんお願いします」
理不尽の次に理不尽を指名するナーガの意図は何処に……
「はい」
今度はアシェラが先頭で歩く。アシェラの次に強いオレが仮のシンガリらしい。
戦闘の考察をしていたら、ナーガさんに背中を叩かれてしまった。1階でも迷宮にいるのだから緊張感を持たねば。
5分程歩くとウィンドウルフ3匹が、少し高台になっている場所からこちらを見下ろしていた。
アシェラは準備万端で待っているが降りてくる気配が無い。
「アシェラさん。あれは変異種かもしれません。注意を」
「分かった」
ナーガさんの声にウィンドウルフをしっかり確認すると真ん中の個体が1周り大きく、色もドス黒い。
アシェラは風の魔法を10個 漂わせ、空間蹴りで吶喊した。
人が跳ぶとはおもわなかった様でウィンドウルフが完全の後手に回っている。
まあ、先手だとしてもアシェラに勝てるとは思えないが……
空間蹴りによりウィンドウルフより高い場所へと移動する。両脇のウィンドウルフへ魔法を2個ずつ撃ち込んだ。
以前より早さも正確さも成長している…
ウィンドウルフ2匹は風の魔法をまともに受け原型を無くして即死した。
真ん中の変異種を残したのは何故なのか。
アシェラは変異種に向かって真っすぐ突っ込んで行く。
変異種は逃げようとするがアシェラの方が圧倒的に速い。
変異種も必死なのだろう。逃げ切れないと悟ってアシェラに特攻をしかけてくる。
わざとなのだろう。アシェラは右手に魔力を纏う。見える様に活性化させた魔力を。その魔力で風の魔法を発動させると、そのまま右手に纏って変異種を殴りつけた。
”ゴパッ”と爆発に似ているがもっと有機的な音が響く。
アシェラに殴られた変異種は”爆発”して迷宮の壁のシミへと変わった。
北斗〇拳……思わず出そうになった言葉を必死に飲み込む。
以前からアシェラの拳のバカげた威力が不思議だったが魔法と拳を融合していたのか……魔法拳。
オレもいつか魔法剣を開発しようと思ってたのに先を越された。
オレに続き、アシェラ。次に指名されたのはジョーだ。
ジョーは一言だけ呟く。
「この2人の後とか……やり難い…」
ジョーよ、悪いとは思うが気楽にやって欲しい。
眉間に皺を寄せるジョーにオレは心の中でエールを送った。
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