第50話王都

50.王都






王都への移動、最終日の朝。


「よし、行こうか!」


オレの声に皆が呆れた顔を向けてくるが、どうやら出発はしてくれるらしい。


「じゃあ、オレが先頭で行くぞ」


そんな呆れた顔にオレは屈したりしない!強引に馬へ1人で乗り、ブリガンダインも着て完全武装で乗ってやった。


「アルド様、あまり先行しないように」

「分かった」


隊長であるノエルの言う事をきかないと、馬を取り上げられかねない。言われたように隊列を組んでいく。

ここで疑問に思うだろう。何故オレが1人で馬に乗っているか……それはズバリ、暇だったからである。


遡る事数日前。オレと馬は相性が良かったのか、馬を習い始めて3日目には何とか1人で馬に乗れるようになっていた。

しかし、貴族服で馬に乗っているとすれ違う商人や旅人に驚かれてしまったのだ。


酷い時など冒険者の1団に指を刺されて笑われてしまった。思わずコンデンスレイを撃ち込みたくなってしまったのは秘密である。

そんな事もあり、ノエルから騎乗するなら鎧を着ろと叱られて、ブリガンダインを引っ張り出したと言うわけだ。


「ノエル、王都には何時頃に到着するのか分かるか?」

「そうですね、夕方には到着したいと思ってます」


「そうか。分かった」


この数日間で馬にも懐かれており、休憩の時間になると殆どの馬がオレに寄って来る。決して魔法で水を出しているので、水道だと思われているわけでは無い。

そんな気の抜けたノンビリとした旅も、遠くに土埃が起こっている馬車と馬の一団が見えた時には、俄かに騒然とし出した。


「ノエル、あれは何だ?」

「……恐らく戦闘です。総員、止まれ!」


「助けに行かないのか?」

「アルド様、我々には戦闘員が4人しかいません。引き返すべきです」


「見殺すのか?」

「必要とあらば……」


「……そうか、じゃあ偵察してくる。ノエルはエル達の護衛をして待っていてくれ」


それだけ告げると、オレは馬を駆って土埃へと向かっていく。

さて魔物か人か……勝てそうになければ可哀そうだが見捨てさせてもらう。


徐々に馬車の状態が見えてくる……どうやら魔物に襲われているようだ。

箱馬車が2台、騎兵が2騎。足元には馬が4頭と人が何人か倒れているのが見える。


魔物は恐らくオークだ。ここから見えるだけで5匹はいる。

オーク。体長は2メードほどで非常に強い膂力を持つと言われている。性別は雄しかおらず、他種族の雌を使って繁殖を行うファンタジーの定番の魔物だ。


いけるのか? 倍の10匹としても、あの程度の動きなら倒せそうだが……威力偵察で、まずは1匹だけ倒してみるか。その時ソナーで敵の地力を見る。

方針を決め、敵の100メード手前で空間蹴りを使い空へ駆け出していった。


オレは空を駆けながら、短剣二刀を抜きどれから殺るか狙いを絞っていく。丁度 騎士と鍔迫り合いをし、こちらに背を向けるオークがいる……あれが良い。空間蹴りの勢いのまま、後頭部を狙って短剣を突き入れる。


その際にソナーはしっかりと打たせてもらった。


ソナーによると魔力は殆ど無し。膂力は噂通り非常に強い。ゴブリンなど比べ物にならないほどである。

しかしオレからすれば舐めプをしなければどうと言う事もない魔物だ。


オレはこの瞬間 オークを殲滅する事に決めた。

近づいてみて分かった事ではあるが、騎士が数人倒れて動く様子が無い。マズイ、早く回復を……


少しでも早く倒すため、申し訳ないが騎士を囮に使わせてもらう。

騎士と戦っているオークの背後を取り後頭部へ短剣を突き入れていく。


途中で騎士もオレに気付き、意識的に囮になってくれる。

順調にオークを減らし、最終的に8匹を倒した所で残りのオークは逃げだしていった。


「助かった、名前を教えてくれ」

「そんな事より、怪我人の回復を!」


「回復薬が底をついている……この隊には回復魔法使いもいないんだ……」

「オレが簡単な回復魔法を使える」


「本当か?」

「重傷なヤツから見る、どいつだ?」


「こっちだ、頼む」

「分かった」


それから3人の騎士を順番に回復したが、1人は既に事切れていた。

この世界では亡くなった者は、遺髪を取り装備を脱がせるとその場で埋葬していくのだそうだ。


そうしているとノエル達が馬に乗ってやってくる。

周りの騎士が警戒するが、オレの仲間だと説明すると礼を尽くして迎えてくれた。


「本当に助かった。一時はダメかと覚悟したよ」

「今回は運が良かった」


「そう言ってもらえると助かる」


オレが助けた騎士と話してると、ノエルが額に青筋を立てて馬を寄せてくる。


「アルド様、どういうつもりだ!」

「あー、すまん……助けられると思ったんだ」


「アナタは自分の立場が分かっているのか!」

「……スミマセン」


オレがノエルに怒られていると、ゆっくりと箱馬車の扉が開いていく。


「アルド様?」


急に名を呼ばれて相手の顔を振り返るが誰か分からない……しかし、どこかで会った気はするんだが。


「はい、アルドです」


オレが名乗ると、少女はいきなりオレに抱き着いてきた。

知らない少女にいきなり抱き着かれるとか……いきなり浮気案件じゃないですか!引き剝がそうと肩を掴むと酷く震えているのが分かる。


考えてみればオレと変わらないような年の女の子が、魔物に襲われて怖くないはずが無いのだ。

オレは少女の背中をポンポンと叩き“もう大丈夫だよ”と声をかけていく。


「アルド様……怖かった……もう、ダメかと……」

「あー、大変だったね。もう大丈夫だ……それと、この体勢は色々とマズイんじゃないかと……」


「あ、す、すみません。私ったら……」


自分が何をしているのか気が付いてくれた少女は、顔を真っ赤にして大急ぎで離れてくれた。

改めて顔を見る……やはりどこかで会った筈なのだが思い出せない。


オレが思い出せないでいると後ろから声がかかった。


「お久しぶりです、オリビア様。お変わりないようで」

「あ、エルファス様もいらしたのですね。こちらこそ、お久しぶりです」


エルの知り合いなのか?混乱してきた。


「アルド様、オリビア様です。10歳の誕生日に来て頂いた。初めてのダンスも踊られましたよ」


オレの様子を見て、マールがオレの後ろから小さな声で教えてくれる。


「あ!あの時の女の子か!」


マールの言うように10歳の誕生日でダンスを一緒に踊った少女がいた。確か“学園でも仲良くしてくれ”と言っていた気がする。

思い出したオレはつい大声を出してしまった。


オレの大声に後ろでマールが頭を押さえている。


「アルド様、お忘れでしたか?」


オリビアは悲しそうな顔でこちらを見つめてきた。


「す、すまない。オークとの戦闘で気が動転していたので……申し訳ない」

「いいえ……こんな魔物と戦えばそうなるのもしょうがありません。改めて助けて頂き ありがとうございました」


「それは問題ないです。只、あまり長い間ここにいるのはマズイ。血の匂いで他の魔物を呼んでしまうかも……」

「ひっ、ほ、本当ですか……」


「ああ、急いでここを離れましょう」

「分かりました」



しかし、オリビアは泣きそうな顔でこちらを見つめてくる。

きっと怖いのだろう。


「護衛の方……」

「何でしょうか?」


「オリビア様が怖がっています。もし宜しければ我々と同行しませんか?」

「願ってもない!是非、お願いします」


「宜しければ、こちらの馬車に同席されますか?同性のマールも乗っているので安心です」

「姫様、いかがでしょうか?」

「私はアルド様の馬車に乗りたいです……」


「あー、私は馬に乗っているので、馬車にはエルファスとマールだけになります」

「残念ですが分かりました。是非、同席させてください」


「はい、では皆さん。そのように準備をお願いします」


オレの声に騎士、メイドが慌ただしく動き出す。

少しの間だが魔物が来ないように警戒すると共に、オークは火魔法で焼いておいた。


余談だがオークを焼いたら豚肉を焼いた匂いがして、お腹が減ってきたのは秘密だ。






オリビアを助けてから王都までは、特に事件も無く平穏に過ごす事ができた。

王都の門には商人や旅人が行列を作っている。


これに並ぶと思うと、流石に気が滅入ってくる……

そう思っていると行列を無視し、オレ達の馬車は隣の大扉の前まで進んでいく。


(大扉の前とか……貴族は並ばなくて良いのか?)


と心の中で喜んでいると門番が出てきて、護衛の騎士と話をしだした。

門番の1人が馬車の中を一礼して覗いた後、馬に乗るオレを指さして護衛と話し出した。


最終的にサンドラの騎士とノエルが何かを見せると、門番は大きく頷き大扉を開けていく。

ここからは王都の中になる。流石に王都の中では危険は無いだろうとサンドラ一行とは別れる事となった。


その際、オリビアから“諦めません”と宣言されてしまった……何の事?

オリビア嬢もオレ達と同じように学園に通うらしく、10日後には また会う事になる。


これから3年もあるのだし、仲良くしてほしいものだ。

そんなイベントもこなし、何とか王都のブルーリング邸に到着すると、爺さんが出迎えてくれた。


久しぶりに会えた爺さんには悪いが、とても疲れてしまったので、用意されていた自室に籠らせてもらう。

やっと王都にたどり着く事が出来た。あと10日程で学園が始まるが、制服はあるのか?分からん……まずは準備をしないとだな。








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