第51話王都散策

51.王都散策





王都に着いた次の日の朝食での事。


「お爺様、1人で王都の散策に行っても良いですか?」

「……」


「……」

「ヨシュアからは聞いておったが……」


オレは期待を込めた眼で爺さんを見つめる。


「そんなに見つめてもダメだぞ?」

「どうしてもですか?」


「ダメだ」

「何故ですか、お爺様!」


「護衛も無しに街を散策するなど、許すわけが無いだろ」

「では武装すれば行っても良いですか?」


そこで爺さんが悪い顔になって提案してきた。


「それなら護衛の中で一番強い者を倒せれば許可しよう」

「本当ですか!それでお願いします!」


オレは眼を輝かせて提案に同意する。


一方、エルとマールは“それは悪手だ”と言わんばかりに頭を振っている。

朝食の後、オレは完全装備で屋敷の庭に移動した。


庭にはノエルが片手剣と盾を装備し、青い顔で立っている。

装備は練習用の木剣だ。


「お爺様、ノエルを倒せば良いのですか?」

「そうだ、倒せればだがの」


「分かりました」


オレはノエルに向き合い尋ねる。


「ノエル、魔法はアリにするか?」

「無しに決まってる!」


「そうか、他に何かあるか?」

「あるぞ!まず、相手を殺さない事!それから、致死性の攻撃は禁止だ! 次は、急所を狙うな! あとは……」


「も、もう良いか…?」

「あ、ああ。くれぐれも致死性の攻撃は止めろよ!」


「わ、分かった……」

「参ったって言ったら、終わりだからな!直ぐに攻撃は止めるんだぞ!」


「うん……」

「じゃあ、もうちょっと離れろ!もっとだ!」


オレ、50メードぐらい離れたんだけど……なんか騎士達の話し声が聞こえる。


「隊長、独身で死ぬのか…‥」 「あれって血濡れの修羅だろ?無いわー」 「アレとやるぐらいなら、オレ騎士辞めるわ……」 「隊長が死んだら、次の隊長は……」 「アレと戦うなら1個小隊は要るだろうに……」


何か色々と聞こえてくる……1個変なのがあったけど、オレ泣いて良いかな?

ノエルとお互いに、違う意味で涙目になりながら向かい合う。


「始め!」


爺さんの声が庭に響いた。





模擬戦が始まり10分程経った頃、ノエルは何度目かの有効打を貰った。


「参りました……」


とうとうノエルが負けを認める。オレの勝ちだ。

オレは爺さんに向かって話し出した。


「では約束通り王都の散策に行ってきますね」

「ま、待て……」


「約束通り、ノエルを倒しましたよ?」

「ぐぐぐ、、、護衛無しは流石に……」


「分かりました。それならノエルを連れて行けばいいですか?」

「おお、それなら大丈夫だ」


騎士達がボソボソと話している。


「アレって護衛の意味あるのか?」 「何かあっても、空に逃げれば良いんじゃね?」 「まあ散歩と思えば悪い話じゃないか……」


もう、アイツラは無視だ、無視!


「ノエルいくぞ!」

「分かった」


オレはノエルを護衛に王都を散策するのだ!

屋敷の門をくぐって外に出た所で、ノエルに聞いてみる。


「そういえばオマエは王都に詳しいのか?」

「自慢じゃないが、まったく分からん」


「確かに自慢にはならんな」

「どこか行きたい所でもあるのか?」


「一度、冒険者ギルドに行ってみたい」

「ギルドか……」


「何かあるのか?」

「いや、アルド様だと絶対トラブルになるだろうと……」


「大丈夫だって。それとオレの事はアルドって呼び捨てにしてくれ。様付けじゃ狙ってくれって、言ってるようなもんだろ」

「分かった。アルド」


「さて、ギルドはどこにあるのか……誰かに聞いてみるか」


何人もの通行人にギルドまでの道を聞きながら、何とかギルドへ到着した。

王都のギルドは思ったよりも大きく、3階建てで敷地もかなりの物がある。


「1階は受付と酒場が併設されてるのか。テンプレ通りだな」

「てんぷれ?」


「何でも無い。よし、入るぞ!」

「分かった……」


ゆっくりと冒険者ギルドの扉を開ける……

受付には人は並んでおらず、酒場にちらほらと人がいるだけだった。


「ついでに冒険者登録もしていくか」

「勝手な事をして、怒られても知らんぞ……」


「大丈夫だって。ノエルは心配性だな」

「全く……」


オレは受付嬢に冒険者登録をお願いしてみる。


「すみません、冒険者登録をしたいんですが」

「君は幾つなの?」


「12歳です」

「じゃあ、もう少し大きくなってから出直してきてくれるかしら」


「12歳じゃ登録出来ないんですか?」

「そうじゃないけど、君のような子が命を落とすのは私が嫌なのよ」


「それなら大丈夫。ちゃんと鍛えてますから」

「そう言って毎年、帰らない子がいるの。悪い事は言わないから、大きくなってからにしなさい」


「オレは大丈夫ですから登録してください」

「しつこいわね。私が受付をしている間は絶対にダメよ」


善意から言ってるのだろうが正直、非常に面倒臭い。

確かに子供が魔物に殺されるのを、黙って見てられないのは分かるが。


「ナーガさん、どうした?」

「あ、ジョグナさん、この子が冒険者登録をしたいって聞かなくて」


ジョグナと言われた男が、首を突っ込んでくる。


「坊主、ナーガさんは優しさで言ってるんだ。大人しく帰った方が良いぞ」

「ハァ……善意なのは分かってる。だけどオレは大丈夫だ。無理はしない」


「坊主、皆そう言って帰らないんだ。諦めて帰れ。どの道ナーガさんが良いと言わないと登録なんか出来ないんだからな」

「何でだ?」


「ナーガさんは今は受付をしてる、が本来はサブギルドマスターだぞ」

「サブギルドマスター?こんな若い姉ちゃんが?」


「おいおい言葉には気を付けろよ……ナーガさんの耳を見てみろ、エルフだよ。見た目通りと思うなよ」

「まじか!エルフ!初めて見た」


「オマエ……度胸だけは認めてやるよ」

「流石、王都だな。最初からエルフが見れるとは」


「じゃあ、とっとと帰れよ」

「それは話が違う。登録はしてもらう」


「もう、面倒だな……ナーガさん、ちょっとお灸を据えてやるが良いよな?」

「私は何も見ていませんから」


「だ、そうだ。坊主、ちょっと揉んでやるよ」


相手もそうなんだろうが、オレもちょっとムカついていた。


「ノエル、ちょっと離れていろ」

「やっぱり、こうなった……私はもう知らんぞ……」


ジョグナとオレがギルドのちょうど広くなった場所で向かい合う。

周りはケンカに慣れているのか、騒ぎ出す者や賭けをする者まで現れた。


「坊主が1分持つかどうかだ!1口銅貨1枚からだぞ!」


賭けの胴元が大声で叫んでいる。


「おっちゃん、オレが勝つのは幾らだ?」

「は?賭けになるわけ無いだろ」


胴元の言葉にギルドは笑いに包まれた。


「金貨1枚だ」

「何?」


「オレが勝つ方に金貨1枚」

「正気か?坊主……」


「ホラよ」


オレは胴元に金貨を1枚投げてやる。

改めてジョグナと向かい合うと、オレが1.5メード、ジョグナは1.8メード、正に大人と子供の身長差だ。


「坊主、舐めた真似してくれるな……流石のオレもカチンときたぜ……」

「そうか?この機会に小遣いを増やしたいんだよ」


「分かった、軽く撫でてやろうと思ったがヤメだ。キツめの教育が必要だな」

「……」


ジョグナの殺気に反応して、オレは瞬時に身体強化をかける。

ジョグナが右の拳でオレの顔面に殴りかかってきた……体重の乗った良い突きだ。


しかし、遅過ぎる……アシェラは、この何倍も速い。

オレは左の手の平で相手の拳を右へ逸らす。ジョグナの体が右に流れていく。そこに右の拳を相手の鳩尾に突き入れてやった。




ドスっと鈍い音が辺りに響き渡る。


ジョグナは膝を突き、そのまま前屈みに倒れ、意識を失った。




酒場に静寂が訪れる。

誰も今の光景が信じられずにいた。


誰もが眼を見開き、言葉を忘れたかのようだ。

オレは倒れたジョグナに回復魔法をかけて隅に寝かしてやる。


「おっちゃん、幾らになった?」

「へ?」


「だから、幾らになったんだ?」

「あ、10対0だから倍だ……ほらよ……」


「ありがとな、おっちゃん」

「あ、ああ……」


オレは改めて受付嬢の前に移動して、冒険者登録をお願いした。


「これで冒険者登録してくれますよね」

「え?あ、はい……」


「じゃあ、お願いします」

「わ、分かりました……」


「……」

「先程はすみませんでした……」


「オレを心配してくれたんですよね?」

「それは、そうですが……」


「善意なのは分かってますから、大丈夫です」

「ありがとうございます……」


「それより冒険者登録をお願いします」

「は、はい。ではこの紙に記入を」


「はい、名前はアルド。年齢は12歳。特技は短剣っと。出来た」


オレは書けた紙をナーガさんに渡す。


「冒険者ギルドのシステムを説明しますか?」

「はい、聞きます」


「ではご説明いたします」

「はい」


「まず、冒険者の方には依頼を受けて頂きます。依頼はそこのボードに貼ってありますので受ける依頼用紙を剥がして受付まで持ってきてください。それで依頼の受付完了となります」

「はい」


「依頼には大きく分けて“討伐”、“採取”、“護衛”があります。討伐は文字通り指定の対象を討伐して貰います。討伐の証明として指定された部位を持ってきてください。採取は薬草等の採取と魔物の部位の採取とあります。基本、採取物さえあればお金で買おうと現地で取ってこようとどちらでもかまいません。護衛は名前の通り対象の護衛です」

「なるほど」


「冒険者のランクにはSからGまであり、最初は皆さんGクラスから始めてもらいます。ギルドへの貢献度や依頼の正確さ等を加味して昇級していきますが、Cクラスからは昇級に試験がありますので気を付けてください」

「試験を受けなかったら?」


「申し訳ありませんがDクラスのままとなります」

「なるほど」


「基本、今のクラスの1つ上の依頼までしか受ける事ができません」

「下はいいの?」


「緊急に受けてほしい場合等がありますので。ただし本人がCクラスでGクラスの依頼を受ける等は、依頼を受ける際に注意をします。それが何度も続くようだとランクの降格等のペナルティが発生します」

「分かった」


「次は依頼の失敗についてです。依頼の失敗にはペナルティとして依頼額の1/4を支払って頂きます。何度も続くようだとこちらも降格になりますのでご注意ください」

「はい」


「後は2点、依頼の中には常時依頼というものがあります。今の常時依頼だとゴブリンの討伐ですね。こちらは依頼用紙を持ってきていただく必要はありません。依頼用紙に書いてある討伐証明部位を持ってきて頂ければ事後であろうと処理いたします」

「なるほど」


「あと1点はCクラスになると強制依頼というものがあります。街の危機等に発動されますが、発動されると冒険者は依頼を断る事ができません。断った場合は冒険者資格の剥奪もありますので注意してください」

「了解です」


「以上がギルドの説明になりますが質問等ありますか?」

「うーん……今は思いつかないかな……」


「気になった時にお聞き下さればお答えします」

「ありがとう」


「では冒険者カードも出来たようですのでお渡しします」


どうやら説明の間にカードの手配をしてくれたようだ、この人出来る人だ。


「おお、これが冒険者カード……」

「今日は何か依頼を受けられますか?」


「今日はこのまま帰ります。また時間がある時に受けにくるので、よろしくお願いします」

「分かりました。私はナーガと申します。これからもよろしくお願いします」


帰ろうと振り返るとさっきのジョグナが立っている。


「あー、何だ、さっきは悪かったな。戦闘も出来ない子供だと思ったんだ」

「こちらこそ申し訳ない。恥をかかせてしまった」


「それは良い。しかし坊主、オマエ強いな」

「オレなんかまだまだ……いつも幼馴染にボコボコにされてる……」


「オマエをボコるやつがいるのかよ!」

「それは、もうボコボコに……」


「そうか……気を付けたいから特徴なんかを教えてくれると助かる」

「銀髪の女の子で14歳。眼がパッチリしてて黙ってれば深窓の令嬢だ」


「もう女の子に声かけられねえよ!何だ、その男の心をブチ折りにくるトラップは!」

「本当に……」


「因みに、その子は知り合いなんだよな?」

「あ、はい、婚約者です」


「……オマエ……ドMか?」

「……もっかいやるか」


「すまん。悪かった」

「いや、良い……」


「……」

「……」


「オレはジョグナだ。仲が良いヤツにはジョーやジョーさんって呼ばれてる。Cランクだ」

「オレはアルド。只のアルドだ。G?ランクだ」


「知ってるよ」

「そりゃそうか」


「そこら辺のヤツに聞いてくれれば居場所は分かると思う。お詫びと言っちゃなんだが冒険者のイロハを教えてやるよ。腕っぷしだけじゃすぐに死んじまうからな」

「助かる、是非お願いしたい」


「暇な時にでも声をかけてくれ」

「分かった」



今日はジョーとエルフの受付嬢の2人の知り合いができた。

冒険者登録が終わったオレは、そのままギルドを出て屋敷への帰路につく。


「ノエル、今日は楽しかったな」

「それは良かったな……ハァ、オマエと一緒にいると普段の何倍も疲れる……」


ノエルのボヤキを聞きながら屋敷への道を帰っていった。




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