第14話爺さん

14.爺さん





8歳の秋の日の朝食。


「皆、聞いてほしい。明日から父さんが帰ってくる。滞在は3日程らしい」


朝食を食べていると父さんがそんな事を言い出した。

爺さん、名前はバルザ。現ブルーリング男爵家の当主、たしか60歳だったはずである。


性格は小さい事は気にしない大きな男だ。

ただのガサツなジジイだな。


(そうか、爺さんが帰ってくるなら指輪を見せてもらおう。一回、見たかったんだよな)


オレは爺さんに、家名でもある精霊の王に貰った青い指輪を、見せてくれる様に頼むつもりだ。


「分かったわ、アナタ」


そうして朝食の時間が過ぎていった。

クララが母さんにご飯を食べさせてもらってる……かわいい。




次の日の昼寝の後-----------




「奥様、アルドぼっちゃま、エルファスぼっちゃま、アシェラ様、ご当主様がお帰りになりました。お出迎えをお願いします」


ローランドの言葉にオレ達は直ぐに玄関へと向かった。

玄関に着くと、既に父さんが先に立っており、その後ろに並ぶ。


玄関の外で物音がするが暫く待っていると、直に扉が開き爺さんが入ってきた。


「出迎えごくろう。今帰ったぞ」


60を過ぎただろうに、大きな声で爺さんが言い放つ。


「お帰りなさい。父さん」

「お帰りなさいませ、お父様。お変わり無い様で」


まずは一番最初に、父さんと母さんが前に出て挨拶をする。


「ヨシュア、ラフィーナ、留守の間、苦労をかけた。ひき続き頼む」

「了解しました。父さん」

「承りました。お父様」


次はオレ達の番だ。オレ、エルの順番で前に出る。


「アルド、エルファス。また、大きくなったな。しっかりと励め」

「はい、お爺様」

「はい、お爺さま」


オレ達が戻ると母さんがクララを抱いて前に出る。


「クララは2歳になったか?」

「はい、春に2歳になりました」


「そうか、そのまま元気に育ててくれ」

「承りました。お父様」


クララを抱いて母さんが元の位置に戻る。

抱かれてるクララ……かわいい。


「改めて。みなの元気な顔を見れて嬉しい。ただいま」

「お帰りなさい、父さん」

「お帰りなさいませ。お父様」

「お帰りなさい、お爺様」

「お帰りなさい。お爺さま」


ここまでがいつもの挨拶だ。当主の爺さんが1人1人に声を掛ける。

面倒だと思うが貴族としての体面の話で、大事なことらしい……


「父さん疲れたでしょう。自室へ行かれますか?」

「いや、居間で孫達の顔を見たい。ここ半年の事も聞きたいしな」


「分かりました。ローランド居間に用意を」

「分かりました。ヨシュア様」


皆で居間に向かう。


「よいしょ、流石に疲れた」

「父さん、お疲れ様です」

「お父様、屋敷に居られる間はゆっくりと羽を伸ばしてください」


「言葉に甘えてゆっくりさせてもらおう」


爺さんが不意にオレの方を見てくる。

オレは指輪を見たいのだ、タイミングを探す……


「アルドとエルファスも元気なようだな。子供は元気なのが一番だ」


そう言ってガハハと笑っている。


「それとアルド。あのリバーシは良いな。お前が考えたと聞いたが本当か?」

「はい。僕が考えた遊戯です」


(お、この流れで褒美に指輪を見せてもらえるかも……)


「陛下も楽しんでおられてなぁ、礼を仰っていたぞ」

「ありがとうございます」


「何かほしい物でもあるか?」


心の中で織〇裕二の真似をして“キターーーーー”と叫んでいた。


「指輪がみたいです!」


「指輪?」

「はい、家名にもなってる指輪が見たいです」


「指輪か……」

「ダメですか?」


「見せるのに問題は無いが……うーん、ヨシュアどう思う?」

「そうですね。ちょっと早いとは思いますが害があるわけでもないですから……問題ないかと」


「そうだな、良いだろう。指輪を見せてやる」

「ありがとうございます」


オレは心の中でガッツポーズを取っていた。


「お爺さま。僕も指輪を見たいです」


エルが突然、会話に入ってきた。


「エルファスもか、問題ないぞ。どうせならアシェラも見るか?」

「ボクが見てもいいんですか?」


「見るのに特には問題ない。では見たい者は明日の朝食後に見に行くとするか」

「ありがとうございます。お爺さま」

「ありがとうございます。ご当主様」


こうして明日の朝食後に爺さん、オレ、エル、アシェラで指輪を見に行く事に決まった。




次の日の朝食後---------------




朝食が終わり爺さんが話しだした。


「さて、指輪を見にいくぞ!」

「「「はい」」」


オレ達3人は元気に返事をし、爺さんと一緒に移動していく。


指輪は以前に予想通り地下にあるようだ。

爺さんは父さんから鍵を受けとり、地下室への扉を開ける。


「怖いなら引き返しても良いんだぞ」


爺さんは薄っすらと笑いながらこちらを見て、揶揄うように話してきた。


「僕は大丈夫です」

「僕も大丈夫です……」

「ボクも大丈夫です」


それぞれ返事をし、爺さんについて地下へと潜っていく。

地下室は思ったよりも明るかった。


壁に灯りのランタンが一定間隔に掛けてあり、階段や廊下を照らしている。

照明のスイッチは入口にあるようで爺さんが入るとすぐに明るくなった。


ゆっくり階段を下りていく。

雰囲気は3流のホラーだ。


そうこうしていると、階段は終わり廊下が伸びている。

廊下は人が3人は並べる幅になっており、地下と言っても物置の様な感じではない。


階段も廊下も作りはしっかりしており、地下の祭壇に向かう道と言うのがしっくりくる。

廊下の突き当りに豪華な扉がある。


地下の祭壇と言うのは正解の様だ。

爺さんはこちらを振り向き、尋ねてきた。


「本当に良いんだな?」

「「「はい」」」


「扉を開けるが、出たければ好きに部屋を出るといい……この辺りで待っていれば帰りに拾ってやる」

「「「分かりました」」」


「では開けるぞ……」


爺さんはゆっくりと扉を開けた。

扉の奥から、何か強大な気配を感じる。


オレは部屋の奥をのぞき込む……あった指輪だ……青い指輪だ……何故だか指輪から目が離せない……懐かしいような……暖かいような……

オレは夢遊病者のように拙い足取りで、指輪へフラフラと近づいていく。


「アルド!」


不意に肩を掴まれ、思わず振り返った。

そこには爺さんが険しい顔をして、オレの肩を掴んでいる。


(何だ?オレはいつの間に爺さんの前に出た?)


戸惑うオレを見て爺さんは一言呟いた。


「戻るぞ……」


オレは爺さんと一緒に踵を返し、直ぐに部屋を出ていく。

廊下に出るとエルとアシェラが、青い顔でうずくまっていた。


「2人共大丈夫か?」

「ボクは大丈夫……」

「はい、大丈夫です……兄さまは?」


「オレも大丈夫だ」


そんな会話をしていると爺さんが扉に鍵をかけ終わる。


「戻るぞ、付いて来い」

「「「はい」」」


行きと同じように、爺さんの後ろを付いていく。



居間に戻りエルとアシェラに指輪について聞いてみた。


2人は指輪を見た瞬間に畏れを感じたらしい。

恐怖ではなく、何か強大な物の気配を感じて部屋に入れなかった。


逆にオレの事も聞かれたが、嘘は吐かず本当の事を話す。

指輪を見た瞬間、懐かしいような暖かいような感じがした事を隠さずに話した。


オレの話す内容を聞き、爺さんと父さんがお互いの顔を見ながら渋い顔を浮かべている。


「分かった。今日の事を誰かに話すな。これはここにいる全員への言葉だ」

「分かりました。父さん」

「待ってください。私は納得できません。アルに何があるのでしょうか?ヨシュア、アナタも何か知っているんでしょ?」


「ラフィーナ、その件は後で話す、父さん良いですね?」

「好きにしろ」


「ラフィーナ後で話すよ」

「分かったわ、必ずよ……」


大人達で話が進み口を出せる雰囲気ではない……オレは当事者なのに……


(たぶんダメだろうが後で一応は聞いてみるか……)


こうして指輪の鑑賞会は終わった。

しかし、オレに指輪に関して何かあるのでは?と疑惑ができてしまう。


次の日、爺さん、父さん、母さん全員に聞いてみたが、何も教えてはもらえなかった。

母さんに泣きそうになりながら抱きしめられたので、余計に不安が大きくなったのは秘密だ。


こうして爺さんは予定通り3日間の滞在で王都へ帰っていく。

爺さんが王都へ戻る挨拶時に、オレが15歳になったら もう一度 指輪の部屋に行く、と告げられた。


その時の爺さんの目には不安がありありと浮かんでいたので、あまり良い話ではなさそうだ。



どうやらオレは15歳で指輪に関して何かがあるらしい。


折角、転生したんだ。早死にしたくはない……

それまでに少しでも指輪に関する情報を集めて、自分の修行をしておこうと思う。




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