第15話アシェラの誕生日

15.アシェラの誕生日





8歳の10月のある日。


「「「「アシェラ。誕生日おめでとー」」」」


皆からの祝福の声が響く。


「ありがとうございます。ボクなんかのために本当にありがとうございます」


皆からの祝福の言葉に、アシェラは満面の笑みを浮かべている。


「アシェラ、おめでとう。今日から10歳ね、魔力変化の修行を始めるわよ。一層、励みなさい」

「はい、お師匠。一層励みます」


「あちぇら おめでと」

「クララちゃん、ありがとう」


クララがアシェラを祝福してる……かわいい。


「アシェラ、おめでとう。これからもアルやエルの良き友人でいてほしい。なんなら伴侶でも僕はかまわないけどね」

「ヨシュア様、ありがとうございます。今は…良き…友人で……まだ……ぼそぼそ」


アシェラは頬を赤く染めて、何やらぼそぼそと話している。

最後はオレ達からだ。


「アシェラ、おめでとう」

「アシェラ姉、おめでとう」

「2人共ありがとう、今日から魔力変化を覚える。先に行く!」


自分だけ魔力変化を覚えるので、ニチャと悪い顔をしている。


(くそぉ、オレも魔力変化覚えたい。魔法書、読んでもそこらは書いてないしなぁ)


どうやら事故などが起こらないように、意図的に魔力操作や魔力変化は隠されているらしい。


(悪人や子供が覚えても碌な事にならないしな……そこは師弟制度になっているんだろうな)


しょうがないとは理解しながらも、やはり魔力変化は覚えたい。


「母さん、やっぱり魔力変化……ダメ?」

「……うーん、初歩の初歩だけなら?」


「マジ?良いの?!本当に?!」

「本当に初歩の初歩よ?それでは魔法は使えないわよ。それでも良い?」


「良いです、良いです!やったーー!」

「そこまで喜ぶ程の事は教えないけど……」


どんな心境の変化か、母さんは魔力変化の初歩を教えてくれるらしい。




昼食後-------------------




オレ達に昼寝の時間はだいぶ前に無くなっていた。今はクララだけがお昼寝だ。


「さて、今日は魔力変化を教えるわよ。しっかり聞いてね」

「はい、お師匠」

「はい、母様」

「はい、母さま」


どういう心境の変化か、母さんは魔力操作の基礎を教えてくれる。

魔力変化は現象の本質を理解する程、深く簡単に変化出来るらしい。


「手順を説明するわよ。まず瞑想に入って頂戴。そしたら、魔力を動かすのではなく魔力を固い石のようにしたり、粘土のようにしたり性質を変えてみて」


まずはそこまでと早速、修行に入る。

ちなみに最初は普通のやり方という事で魔力共鳴は禁止された。


早速、瞑想に入る。

母さんに言われたように魔力を固くしてみる。

……

………

魔力操作の時のようで、全く手応えがない。

もしかしてオレは初めての事は苦手なのだろうか?そんな気さえしてくる。


瞑想を止め、ゆっくりと目を開けると……母さんの顔があった。


「うわ!」

「うわって何よ。失礼ね」


母さんがオレの顔を、覗き込んでる所だったようだ。


「アル、こんなにすぐに目を開けて。真面目にやらないなら教えないわよ」

「真面目にやってます。手応えが無いだけで……」


オレを見ながら、母さんが露骨に溜息を吐いた。


「ハァ……アル、魔力共鳴は一種のズルなの。皆、今のアナタのように悩みながら覚えていくの」


母さんの言う事は尤もだ。

確かに皆、悩みながら覚えていく……オレはちょっと贅沢になっていたのかもしれない。


「アル、魔力変化を覚えるのに魔力共鳴は禁止よ。アナタの為にならないと判断したわ」

「うぐ、、分かりました……」


オレは魔力変化の初歩を覚えるまで魔力共鳴を禁止されてしまった。

一度、自分の頬を叩く。よし!気合十分。オレは魔力変化の修行を再開する。



瞑想の中で魔力を固める……どうやって?

いろいろ試してみるが上手くいかない。

魔力を圧縮してみる……濃くなったけど固くはならない。

試す……

試す……

試す……

もしかして発想の転換が必要なのか?

魔力変化って言葉から考えてみる……

変化……

魔力自体を固く……

最近、修行している短剣。その刃の様に……

刃、鉄だよな……

鉄の刃を想像してみる……


どれだけやっていたのだろう、気が付いたら魔力が短剣の刃のようになっていた。


(出来た。これすごいぞ。短剣の刃を魔力の刃で覆って長さを自由に変えられる)


ゆっくりと瞑想を解いていく。

オレが眼を開けると母さん、エル、アシェラがこちらを見つめていた。


「アル、出来たみたいね」

「はい、母様」


「じゃあ、これで3人共魔力変化の初歩を覚えた事になるわね。ここからの修行はアシェラだけよ。明日からの修行はアシェラに小部屋を用意するからそこで教える事にするわ」


今までずっと一緒にやってきたが、明日からはアシェラと別の部屋での修行となる。

まるで学生の頃、先輩が卒業していく様な一抹の寂しさを感じてしまった。


まぁ、何にせよオレは魔力変化の初歩を覚えたのだ。

魔法はまだ使えないが、魔力の刃を作ったり壁走りや空間蹴りの練習をしても良いだろう。


オレはオレが考える“カッコイイ戦闘”を目指してゆっくりだが確実に進んでいこうと思う。




次の日の朝食後-----------------




オレは最近、演習場でベレットから短剣を習っている。

ベレットの修行は基本的に型と組手の反復練習だ。


型と言っても日本の空手や合気道のような、俗に言う演舞とは全く違う。

例えば“短剣を突く”という動作には、何通りかの決まった動きがある。


自分の体勢により違いはあるが“突く”という動作は刃が上か横か下かの違いぐらいで大きな違いはない。

ベレットの型は“突く”“薙ぐ”等の基本の動作を型として反復し、後は組手がメインだ。


組手の後は“こうした方が良い”“なぜこう動いたか”などの考察を話し合った。

はっきり言おう、ムチャクチャ分かり易い。


当然の事だが、体格から膂力、身体強化の練度、全てが違う相手に同じ動きで対処出来る訳がないのだ。

基本の動きは反復で覚え、後は組手で試行錯誤していく。


これは正しく実戦を想定した戦場の剣だ。オレは自分の腕前がメキメキと上達するのを実感していた。

以前から気になっていた事を、修行の後に聞いてみる。


「ベレット、二刀流ってどう思う?」

「二刀……そうですねぇ、二刀を使いこなせるのであれば、最高の攻撃手段であるとは思います」


「そうだよな」

「ただし、人間の目は2つで判断力にも限界はあります。二刀を使いこなすのは万人には難しいかと……」


「そうだよな……」

「はい……」


「……」

「……」


「ベレット……やってみてダメなら諦める。一度、二刀に挑戦しようと思う」

「アルド様ならもしかしたら……と思います。実戦の前の試行錯誤は修行です。思った事を存分に試すべきかと」


「ありがとう。ベレット」

「手加減はしません。その中でアルド様自身で判断してください」


「分かった。感謝する」

「勿体ないです」


オレはその日から手探りで、二刀での修行を始める事となった。




その日の昼食後-------------




この時間は本来、魔力操作の修行だ。

しかしオレは魔力操作の修行はしないで、短剣の刃を魔力の刃で覆う魔力変化の修行をしていた。


(悪いがエルに魔力操作の修行をしてもらって、最後に魔力共鳴で成果を貰う。オレが覚えた分の魔力変化はエルも覚えるからwin-winの関係だ)


魔力操作も大切なのは分かっているが、今は魔力変化を修行し、より実戦的な能力を鍛えたい。


まだまだ修行が必要だが、これで二刀の短剣を使い、刃の長さを変えるメドもついた……

後は、壁走りと空間蹴りを覚えたい……


これも魔力変化で何とかなると思うんだが……

もし壁走りと空間蹴りが出来たら短剣の修行の時に立体機動での動きが可能になる。


くぅぅーーー、夢がひろがりんぐ。

全部出来るようになったら、次はショート転移だな。


雑魚は立体機動と短剣で殲滅し、ボスはショート転移と立体機動で翻弄する。最後には魔力を纏った短剣を大剣に変化させてトドメを刺す。

ロマンだねぇ……


そこまで行ったらオレ自分に惚れるわ……マジで

そして、それでも勝てない相手には……


本気出す、とばかりに極大魔法を食らわせる。

決めセリフは“オレに魔法を使わせるとは……”


むっはぁぁーーーーー。

中二病まっしぐら!だがそれがいい!


そんな妄想を浮かべながら、夜は更けていった。




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