第13話ケイドロ

13.ケイドロ





7歳のもうすぐ誕生日という、ある春の日。


「今日は闇の日だ。ケイドロをやるぞ」


オレは朝食の席で叫んだ。


「兄さま、分かりました」

「今日こそアルドに負けない、ボクの本気を見せる」


オレ達の楽しそうな姿を見て、父さんと母さんは苦笑いを浮かべていた。

その横でクララはキャッキャッと笑ってる……かわいい。



オレ達は朝食後の休憩を取ってから、演習場へと向かった。

直に演習場に到着すると早速、ケイサツとドロボウに分かれる。


エル、アシェラ対オレ。いつものチーム分けだ。

色々な組み合わせを試したが、この分け方が一番バランスが良い。


「よーし!じゃあ最初はオレがドロボウで良いな?範囲は演習場の中、身体強化あり、ケイサツは10秒数えるんだぞー」

「良いですよ、兄さま」

「アルドには負けない」


お互いに声をかけて始まると同時に瞬時に、身体強化を発動する。


「じゃあ、スターート!」


なるべく距離を取るために、オレはエルやアシェラと逆の方向に走りだす。


「1,2,3,4,5,6,7,8,9,10、アシェラ姉、いくよ」

「了解、エルファス」


お互いの顔を見て、2人は弾けたように走りだした。


「アシェラ姉は右から!ボクは左からいく」

「了解」


ここで2人は2手に分かれるようだ……。


(オレもただ捕まるつもりは無いんだよね。っと)


オレは演習場の隅に置いてある物置の上に飛びあがる。

物置はゆうに3mはある建物だ。この跳躍は身体強化をして、初めて出来る芸当だろう。


「あの高さはボクたちでは無理。エルファス合流。ボクに肩を貸して」

「了解。アシェラ姉」


オレは物置の上を走り、2人がその下を並走している。

エルがアシェラの前に出ていく。するとアシェラはエルの肩に足をかけて、大きく跳び上がった。


「アルド、覚悟」


アシェラがオレの上から降ってくる。


「甘い」


オレはすかさず逆に方向を変え走りだす。

アシェラは着地と同時に、弾けたように追いかけてくる。





単純な速さはアシェラ、アルド、エルファスの順であり、細かな動作ではエルファス、アルド、アシェラの順、全体のバランスと瞬発力はアルドが一番と3竦みのような関係だった。





(このままだとアシェラに追いつかれるな、あの木偶人形地帯で巻いてやる)


オレは木偶人形の頭に飛び乗ったかと思うと、頭から頭へ飛んでいく。

アシェラは一時はオレに追いつきかけたが、ここにきてジワリジワリと離されだした。

オレが安心した瞬間、横からヌルッと手が出てくる……エルだ。


(これはマズイか……)


エルとアシェラ2人に挟まれる形になり、流石に追い込まれつつあった。

またもやエルから伸びた手に、オレは前転をして躱しそのまま地上へ降りて走り出した。


今度は後ろから手が伸びる……アシェラだ。

反転しスライディングで躱しながら、アシェラの横をすり抜ける。


しかし、眼の前にはエルが立っていた。流石にこれはどうしようもない。オレは両手を上げ降参の意思を示した。

3人共、汗を滝の様に流しながら、持参の水筒から浴びる様に水を飲む。


「くそー、捕まっちゃったよ。この前は物置の上は安全地帯だったのに」

「アシェラ姉と2人で物置の上に跳ぶ方法を考えました」

「ボクとエルファスの頭脳の勝利、ぶい」


「どこが頭脳だよ。めちゃくちゃ強引な脳筋戦法じゃねえか」

「ボクたちは2人の身体強化を組み合わせた技、アルドの方が脳筋(笑)」


「脳筋の後に(笑)はつけないで、お願い」

「わかった、今度からアルド(笑)にする」


「名前に付ける方がタチ悪いわ」

「アルドはわがまま」


休憩しながら笑い合い、たわいない話で盛り上がる。

そんなオレ達を見ていたのだろうか、そこに騎士らしき2人がやってきた。


「ぼっちゃん、嬢ちゃん、オレ達も仲間にいれてくれないか?」

「ガル、もうちょっとその言葉遣いはなんとかならないの?すみませんアルド様、エルファス様、アシェラ様」


「ガルにベレットか。いいよ、一緒にやろう。それとオレは畏まられるのは好きじゃないんだ好きに呼んでくれ」


「流石だぜ。じゃあアル坊、エル坊、アシェラ嬢でどうだ?」

「それで良いよ、ガル」


「私は流石にアルド様、エルファス様、アシェラ様と……」

「ベレットは固いなぁ。まあ好きに呼んでくれ」


「じゃあボクはアルド(笑)で」

「もう、それは良いから」


この2人はガルとベレット、アシェラの父親のハルヴァの部下だ。騎士団 第2小隊の切り込み係ガル、衛生兵ベレットと呼ばれている。

2人は身体強化をもっと極めたいらしく毎日、修行していたオレに声をかけて来たのが始まりだ。


「じゃあオレ達3人とガル、ベレットのチームでやるか」

「いや、それはハンデがありすぎじゃないか?」


「そうか?丁度だと思ったんだが……じゃあガルの身体強化に制限をかけるか?」

「違う。オレ達2人じゃお前ら3人に敵わないって意味だ」


「むう じゃあベレット、エル、アシェラ対オレ、ガルでどうだ?」

「オレは丁度だと思うがどうだ?」


「ボクは良いと思う」

「僕も良いと思います」

「私も大丈夫です」


「じゃあ決まりだな。オレ、ガルがドロボウでベレット、エル、アシェラがケイサツな。ケイサツは10秒数えるんだぞ」

「分かった」


「じゃあスタート」


「1.2.3.4.5.6.7.8.9.10。行くよ、アシェラ姉、ベレット」

「了解、エルファス」

「了解です、エルファス様」



それから途中でチームを何度か組み替えながら、ケイドロを続けていく。


「あー、キッツ。騎士団の訓練よりキツイぞこれ…」

「た、確かに……ハアハア……アルド様達は……ハアハア……平気……なのですか?」


「今日はちょっとキツイな!」

「確かに……ちょっとキツイですね」

「ちょっとキツイ」



「これで、ちょっとかよ…どうなってるんだよ、領主様の屋敷は」

「た、確かに……」


「そうだ。ガル、ベレット、武術って教えられる?」

「オレは騎士剣術なら多少は教えられるが……」

「私は騎士剣術は苦手で……短剣なら得意なのですが」


「短剣!良い……短剣二刀流で立体機動とか……夢が広がりんぐ」

「また、アルドがおかしな事言ってる」

「兄さま、りったいきどうとは何ですか?」


「引力と斥力か……電磁力、磁石が一番想像しやすいなぁ。魔力変化で再現できれば、壁走りや空間蹴りはできそうだ……二刀流を組み込んで……スタイリッシュ戦闘に!」


「こうなったアルドはしばらく帰ってこない。ボクはちょっと休憩する」

「兄さま……僕もアシェラ姉と休憩します」

「そうだな、腹も減ってきたし休憩するか」

「そうですね。休む事も大事な事です」


アルドがまだ旅立っている間


「しかし、このケイドロってのは良く考えられてるなぁ」

「そうですね。ケイサツ側は制圧に必要な連携、瞬間的な判断を鍛えられ、ドロボウ側は見つかった場合の逃走経路の判断、捕まった場合も捕虜の管理と人的配置……」


日本での子供の遊びが、異世界では高度な軍事練習になるらしい……



暫くすると、アルドが自分の世界の旅から帰ってきた。


「ベレット。短剣を教えてほしい」

「帰ったと思ったら、いきなりこれ。アルドはもっと空気を読むべき」

「兄さま、また母さんに叱られますよ」

「アルド様、教えるのは良いんですがヨシュア様やラフィーナ様に許可を貰わないと……」


「やっぱりそうか。母様に許可をもらってくるから明日からお願いしても良いか?」

「いや、明日からと言うと騎士団の任務が……」


「そこも含めて母様に頼んでみる」

「諦めなベレット。アル坊は本気だぜ」

「わ、分かりました。許可がもらえるのであれば……」




その日の夕飯。




「母様。お願いがあります」


母さんはクララにご飯を食べさせてから、こちらを向く。

食べてるクララ……かわいい。


「またお願い?最近、多い気がするんだけど」

「実は騎士団のベレットから短剣を習いたいのです」


「短剣?剣じゃなくて?何で?」

「カッコイイからです」


「は?何て?」

「カッコイイからです」


……


……


……


「あー、ちょっと待ってて……ヨシュア、ちょっとこっちに……」


母さんは父さんを連れて廊下に出てしまった。





廊下でのラフィーナとヨシュアの会話。


「私、前から思ってた事があるの」

「奇遇だね。実は僕も、もしかしてって思ってた事があるんだ」


「もしかしてアルってバカなのかしら?」

「僕のラフィ、僕も同じ事を考えていたよ」


「ハア。8歳だし、そろそろ武術も許可しようと思ってたんだけど……短剣……ハァ……」

「考えようによっては、魔法使いなら護身用に短剣術ってのもありだね。カッコイイのインパクトがありすぎて冷静に判断できなかったけど……」


「確かに魔法使いで短剣術は相性が良いのか……」

「そもそも魔法使いは鎧を着ないからね」


2人がそそくさと戻ってくる。


「あー、アル。短剣を習うのを許可するわ」

「母様、ありがとうございます」


「エルファス、ボクは廊下に出てからの2人の会話がすごく想像できる」

「アシェラ姉、奇遇ですね。僕もです」



そうしてオレは短剣を習える事になった。

しかしベレットの業務の邪魔にならない様にって事で、朝食後から昼食前までの間。つまり、いつも通りという事だ。


これで短剣を習って次は二刀流を……そんな事を考えていた。





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