第33話遠征 part3
33.遠征 part3
遠征3日目。
オレ達は母さん、オレ、エル、アシェラの4人で魔物を狩っていた。
どうなってるかと言うと、オレが一番槍でやり過ぎた日の夜に、母さんがライラ隊長に呼ばれたのだ。
「ラフィーナ、お呼びにより参上しました」
「入れ」
「失礼します」
私がライラ隊長の天幕に入ると、隊長は私服で椅子に座っており、バツが悪そうに話し出す。
「まあ座って、楽にしてくれ」
「はい……」
「まず昼間の事を詫びたい。すまなかった」
「いえ、頭を上げてください」
「アルド君への言葉は、第3部隊長としても大人としても許されない言葉だと思う。重ねてすまなかった」
「いえ、アルドは気にしていませんし、私も気にしていません」
「そう言って貰えると助かる」
「いえ……」
2人に少しの沈黙が訪れたが、ピリついた嫌な空気ではなく、お互いに苦労を分かりあった大人の沈黙であった。
「さて、明日からの事だが本当に見学して終わるのか?」
「そのつもりですが……」
「うーん……」
「何か問題でも?」
「いや、私から言う事でもないんだが……」
「聞かせて貰っていいですか?」
「では……」
ライラ隊長は私より少し先輩だが、魔法師団の小隊長、遠征軍の部隊長を兼任するほどの猛者である。
そんな人が何を言うのか……私は純粋に興味を持った。
「アルド君があれだけの戦闘力を、どうやって身に付けたのかは知らない」
「はい」
「だが、あの年であの能力、血のにじむような努力があったのだけは確かだろう」
「……」
「人はチカラを試したくなる生き物だ。それが血のにじむ努力をして得た物なら尚更……」
「はい……」
「それを無理に“心配だ”という理由だけで抑えつければ、隠れてチカラを使い出すんじゃないか?」
「それは……」
「オマエもお師匠の目を盗んで冒険者になったんだろ?」
「それは……そうです」
「その時の気持ちを思い出せば、自ずと答えは出るんじゃないか?」
「……」
「知らない場所で危険を冒すよりは、見える場所での危険の方が安心できると私は思う」
「……」
「子供もいない私が言っても説得力がないが、巣立ちの時は人それぞれなんだろう」
「そうかも……しれませんね……」
「スマンな、年を取ると説教臭くなっていけない」
「いえ、そんな」
「そんな訳だ。明日からの行動は任せる。予定通り見学でも。戦闘に参加するでも好きにしてくれ。ただし正規軍には組み込めないから戦闘をするなら自分達でやってもらう」
「はい」
「明日の朝、返事を聞かせてくれ」
「はい。分かりました」
ライラ隊長の言う事は尤もだ。自分自身も覚えた魔法を試したくて冒険者になったのだから……
溜息を吐きながら天幕に戻ると、アル、エル、アシェラは疲れからかぐっすりと眠っていた。
(ライラ隊長の言う事は正しい。この子達には戦うチカラも意思もある、でも……)
ラフィーナは理屈と感情の間で悩み続けていた。
次の日の朝-------------
「ふぁぁー、おはよう、皆」
「「「おはようございます」」」
結局、考えが纏まらずに、眠ったのは外が薄っすらと明るくなってからだ。
いつもの通り、流される事になるのを感じていた。
「ラフィーナ、昨日の答え聞かせてちょうだい」
「隊長……」
「その様子じゃ答えが出なかったみたいね」
「はい……」
「じゃあ他の隊に付いて行くんじゃなくて、自分達で散歩でもしていればいい」
「散歩ですか」
「戦闘をさせるのが怖いんだろ?」
「はい……」
「なら、森の歩き方から、敵から身を隠す方法、素材の採取の仕方、教える事は色々とあるだろ」
「なるほど」
「役に立たないかもしれないが、ボーっと突っ立ってるよりは良いと思う」
「分かりました」
「まあ、ゴブリン程度なら戦闘訓練だと思えば丁度かもね」
「……」
「頑張ってみる事ね」
「はい、隊長」
こうしてオレ達は当初の予定とは違い、森でのサバイバル術を習う事になった。
「アシェラ、あれが野生のアポの実よ」
「おー」
「赤いヤツは食べ頃よ」
「取ってくる」
アシェラは結局、壁走りは出来るようには、ならなかった。ただし空間蹴りはオレ達よりも上手いぐらいに使いこなす。
今も軽快に空間を蹴って空を駆け、熟した実を4つ取ったと思うと、そのまま落ちて来る。
地上にぶつかる寸前に速度を落として、舞う様に地面に降り立った。
「はい」
アシェラは空間蹴りの妙技も気にせず、魔法で冷やしたアポの実を配って行く。
オレは冷えたアポの実を受け取るとお礼を返し、そのまま齧りついた。
「美味い!」
オレの言葉を聞いて、エルも嬉しそうに齧りつく。
「本当だ。美味しいです……」
オレとエルの姿を見て母さんとアシェラも一緒になって齧り出した。
「母様、貴族の夫人がそんな食べ方して良いんですか?」
「ん?何言ってるのよ。誰がこんな所で取り繕うのよ。好きに食べたら良いわ」
アナタ、一応ブルーリング家の第一夫人なんですけど……
この姿は流石に父さんには見せられないな、と肩を竦めた。
さて、次は何があるのか、と森をゆっくりと進んでいく。
魔の森と言われるだけあって魔物にもかなりの頻度で遭遇する。
「しー!静かに……」
母さんの言葉にオレ達は緊張に包まれた……覗き込むと大きな緑色の狼が5匹ほど固まっている。
「ウィンドウルフよ。10匹以下で群れを作って風魔法を使ってくるわ」
「戦うんですか?」
「バカ言いなさい!ゆっくり下がるわよ」
ちょうど風下にいたために、見つからずに逃げる事ができた。
念の為に母さんに聞いてみる。
「さっきのウィンドウルフは強いんですか?」
「あなた達なら問題無く倒せると思うわ」
「なんで逃げたんですか?」
「ハァ……」
露骨に溜息を吐かれた……解せぬ。
「アル、私達は4人、これは良いわね?」
「はい」
「ウィンドウルフは見えるだけで5匹いたわ。もう2~3匹いてもおかしくない」
「はい」
「ウィンドウルフを一気に殲滅できるなら問題ないけど、時間をかけると違う魔物を呼び込むわ」
「そうなんですか……」
「基本、1人か2人で殲滅できる規模以上は逃げるに限るわ」
「予備戦力を50%は確保するって事ですか……」
「まあ、そうね」
「質問です」
「なあに?」
「母様なら1人で殲滅できたんじゃないですか?」
「出来たわね」
「じゃあ!」
「私の修行じゃないでしょ。私に頼る考えがそもそもダメなの。私はいないものと考えなさい」
「なるほど、分かりました」
母さんの言う事は尤もだ。しかし、もう1つ聞きたい事がある。
「因みに……」
「どうしたの?」
「僕1人でも、殲滅出来たんじゃないですか?」
「まぁ、たぶん出来たわね」
「じゃあ!」
「さあ、進みましょう!」
「え?殲滅出来たんですよね?」
「男が過ぎた事、いつまでもグチグチ言わないの!」
「解せぬ……」
こうしてオレ達は躱せる魔物は躱して、向かってくる魔物は殲滅していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます