第32話遠征 part2

32.遠征 part2




オレはゴブリンの群れに1人で突っ込んでいく。


走りながら、瞬時に身体強化をかけた。

魔力は食うが、安全第一で体の表面にも魔力を纏い念の為に防御も上げておく。


先頭のゴブリンと接触する瞬間、跳び上がりゴブリンの顔面に膝蹴りを食らわしてやる。

どうやら首の骨が折れて即死したようだが、ついでにソナーを打込みゴブリンの体の中を調べさせてもらった。


凡そ成人男性と同じ程度の膂力だ。体が小さい分、もっと弱いかもしれない。

これなら問題なくいける!


着地と同時にゴブリン達の横をすり抜ける……すれ違いざまに首を薙ぐ。

オレの後ろでゴブリンの首が落ちていく。


群れの中へ中へと移動しているので、周りはゴブリンだらけだ。

目の前のゴブリンの胸を突き、隣のゴブリンにはこめかみを突いた。


走りながら、ゴブリンの首、頭、心臓を一突きで倒していく。

直に周りにゴブリンがいなくなる……空間蹴りで空へ移動すると、少し離れた場所にゴブリンの塊が……


すかさず両手に握っている短剣を投擲。

2匹のゴブリンの額から短剣が生え、眼から光が消えたゴブリンはその場で崩れ落ちて行く。


直ぐに引力の魔力で短剣を呼び戻す。クルクルと回りながらオレの手に戻った短剣を握り、再び空を駆け抜ける。

そのまま空中を駆け、足に魔力を纏いながら2匹の頭を踏み潰す。


10匹……


ここからが本気とばかりに、空間蹴りを使い3次元戦闘で蹂躙を始める。

短剣、蹴りでまた3匹を殺し、視界の確保に再び空へ。


少し先に3匹が固まっている……

右手に短剣を持ったまま指だけを敵に向け、ウィンドカッターの魔法を使う。


空気が一瞬、歪んだかと思うと、不可視の刃が3匹のゴブリンの首を落としていた。


17匹……


さらにギアを上げる……

短剣と足技を駆使してさらに4匹を倒す。


21匹……


ふと、敵の最後尾にボスと思われる個体を見つけた。

普通のゴブリンより2周りは大きい……色も赤黒く大剣を持っている。


ボスの隣には護衛だろうか。明らかに雑魚とは違うゴブリンが2匹。

片方はおそらくヒーラー、もう片方は戦士なのか木の大盾を持っていた。


一瞬考えたが所詮はゴブリン……見た目からの圧力も大した事は無い。

オレはボスと2匹のお付きゴブリンに吶喊した。


ボスやお付きはオレが突っ込んでくるとは思わなかったのだろう。

驚いた顔を晒している……バカが。


ボスに接敵する僅かな時間で、短剣から魔力で出来た刃を伸ばし、大剣へと変化させる。

オレは魔力武器(大剣)を振りかぶり……




一閃




ボス、戦士、ヒーラー、3匹のゴブリンを纏めて切り裂いた。


25匹……


ボスがやられた事で残りの雑魚が逃げ始める。

逃げるゴブリンを追い掛けて、短剣を薙ぐ……

魔法を撃つ……

正直、オレは逃げるゴブリンを追いかけて殺すのが面倒になってきていた。


28匹……


適当に殺して回って、最終的に2匹のゴブリンに逃げられてしまう。





ライラの視点-----------




敵と衝突すると思われた瞬間に膝蹴り…


どこの誰が魔物に膝蹴りをするのか。


着地したと思ったらスルスルと群れの中を移動する。


アルドが通った後ではゴブリンが血濡れになり倒れていく。


ある者は首から、ある者は胸から、またある者は頭部から血を流して倒れていく。


ある時は空を駆け短剣を投げる。


ある時は同じく空から不可視の魔法を撃つ。


見ている間もどんどんとスピードが上がっていく。


アルドが通りすぎると血しぶきが上がる……また血しぶきが……


そうこうしてると最後尾にゴブリンジェネラルがいやがった。


あれは流石にマズイ!と思った時には供のゴブリンヒーラー、ゴブリンナイトも纏めて袈裟切りにされた……


一体、自分は何を見せられてるのか意味が分からなかった。





アルドが1人、立っている……


周りに騎士や魔法使いは数えきれない程いたが、誰1人 声はおろか物音1つ立てない。

まるで動けば眼の前の獣に噛み殺される、と言わんばかりだ。


姿は子供のそれだが返り血で真っ赤になり、とても人の子とは思えない。

誰かが呟いた。




修羅……




東方の国にいるという、戦いの中で生まれ、戦いが生き甲斐で、戦いの中で死んでいく鬼……

緊張が高まっていく中、1つの声が響く。


「バカアルド!戻ってくる!」


まだ幼さが残る少女の声だ。


オレは纏っていた魔力を周囲に弾けさせ、返り血を落とすと、そのままアシェラの方に向き直った。顔には子供らしい笑顔を浮かべゆっくりと歩いていく。


「どうだった?オレの一番槍?」


周りの空気を無視し、無邪気に話す。


「アル!アンタ、なんで敵に突っ込むのよ!」

「ライラ隊長が一番得意な方法で攻撃しろと言われたので……」


「バカ!一番得意な魔法を撃てって意味でしょうが!」

「あ、そーゆー意味?」


ラフィーナがアルドの言葉に突っ込むと、周りには“あー、そーゆー事ねー”と納得と呆れが混じった顔が溢れていた。


やっと周囲の緊張が解れてきた頃……1人、緊張の表情を隠さないライラがアルドに語りかけてくる。


「……アルド君、君はいったい何者なんだ?」


平和的に話しかけてはいるが手は腰の杖に、体は半身になって、いつでも戦闘に移れる姿勢を崩していない。


「何者?ただの10歳児ですけど?」

「フザケルな!ただの10歳児がゴブリンの群れを蹂躙できるか!」


「そう言われても……」

「君が実は魔物で、何らかの手段で化けていると言われても私は信じるよ……」


「魔物?人に化ける魔物がいるんですか?」

「……」


「どんな種類なんですか?ここにもいるんですか?」

「……」


「あのー…」

「ハァ、、、、もう良い……」


「……」

「私は疲れた……少し休ませてもらう……」


ライラ隊長はオレに警戒とも呆れとも判らない眼を向けて、馬車の方に行ってしまった……オレのせいなのか?


何とも微妙な空気が漂いだした。


「兄さま、すごかったですね」

「アルドは調子に乗りすぎる」


エルとアシェラがオレの戦闘の感想を話している。


「あれぐらいなら2人でも余裕だろ?」


オレの言葉に周りの騎士や魔法使いが、驚いた顔をして一斉にこちらを振り向いた。


「余裕ではないですが、行けるとは思います」

「ボクならもっと簡単に倒せる」


2人は特に気負った様子も無く自然に話している。

この時から領主の屋敷の事を敬意を持って“修羅の館”と噂される事となった。


ラフィーナが喜んで話し込んでいる3人に声をかける。


「アル、エル、アシェラ、取り敢えず戻るわよ」

「「「はい」」」


4人は食べかけの昼食を摂りに休憩場所に戻っていくのであった。




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