第131話開放

131.開放



虹色に輝く大岩へゆっくりと歩きだす。

エルとアシェラは大岩だけで無く周りへの警戒も欠かさない。


オレは指輪へ魔力を通しアオを呼び出した。


「アルド。自分の都合で呼び出したり返したり良いご身分だね!」


アオは少しご立腹の様だ。


「すまない。後で謝罪ならいくらでもするから”主”の交代の方法を教えてくれ」


アオは呼び出された場所がいきなりマナスポットとは思わなかったらしく、いつもの悪態は成りを潜めて話しだした。


「これは……君たちは優秀だったんだね……」

「そんな事は良いから早くしてくれると助かる」


「分かった。おkだ。任せてくれ」


アオは短い前足を器用に動かしながら話だす。


「アルド。主の”証”を出して。それ、君の短剣で良い。魔力を込めて突き刺してくれ」

「魔力を……すぐに刺して良いのか?」


「ちょっと待ってくれ。エルファス、アシェラ。アルドが”証”を壊すと主が不在の状態になる。その瞬間が一番危ないんだ。護衛をしっかり頼むよ」


エルとアシェラが真剣な顔で1つ頷いた。

周りには敵は見えないが一応、保険のつもりで100メード程の範囲ソナーを打つ。


すぐ近くに魔物の反応があった……この反応は恐らくファウルモール。以前、依頼を受けた時に地下から奇襲を受け驚かされた事がある。

この魔物はひたすら地下で獲物を待ち続け足音に反応して襲い掛かかってくるのだ。


「アオ。マナスポットの下にファウルモールがいる。襲いかかってこない所を見るとマナスポットを狙っているみたいだ」

「本当かい?危なかったね。すぐに倒しちゃってよ」


「分かった」


オレは少し離れた草むらに移動する。草むらには1メード程の穴が開いていてファウルモールが掘ったであろうトンネルの出口がここに繋がっている。

範囲ソナーでは正確な地形は分かり難いが今回の様に1メードもあるトンネルは流石に関知できた。


「エル、アシェラ、この穴に水を突っ込むぞ」

「水ですか?」


「ああ。蝉の幼虫やモグラは水攻めで追い込むのが相場だ」

「良く分かりませんが水を入れれば良いんですね?」


「そうだ」


オレ達3人は穴に向かって水を注ぎこんだ。

時間にして10分程だろうか。大岩の横の地面が崩れ2メード程のファウルモ-ルが顔を出す。


オレは予め、ファウルモールが苦しくなって大穴の辺りから顔を出すとエル、アシェラに伝えておいた。

誰が一番に見つけるか、正にリアルモグラ叩きを実演していたのだ。


ここは流石と言うべきか格闘とあって身軽なアシェラが半歩早かった。

ファウルモールが顔を出した瞬間に魔法拳を地面に叩き込む。


地面にはクレータが出来、その中心から血が滲み出てくる。哀れファウルモールは鼻だけ残して土の中でお亡くなりになった様だ。

もう何もいないとは思うがファウルモールの絶命も確認する為に再度100メード程の範囲ソナーを打つ。


マナスポットを開放すれば魔力が回復するとは言え、今は少しでも魔力を節約したい。

なるべく狭い範囲のソナーを使ったが魔物の反応は無い。


「半径100メードには魔物の反応は無い」


アオは宙に浮いて一つ頷いた。


「アルド、マナスポットの傍で”証”を短剣で刺してくれ。魔力を込めてね」

「分かった」


オレはマナスポットの横まで移動し”証”であるエンペラーの”人差し指”を水筒の小物入れから取り出す。

そのまま大岩に”人差し指”を当て魔力を込めた短剣で突き刺した。


”証”である”人差し指”は短剣で刺した場所から灰になって崩れていく……

ほんの数秒で”証”だった”人差し指”は風に舞って消えてしまった。


少し呆けて短剣を見ているとマナスポットである大岩から虹色の光が徐々に弱まっていく……

10秒もするとそこら辺にある岩と見分けがつかなくなってしまった。


「アルド。早く指輪を当てて契約をしてくれ」

「分かった」


アオに促されて大岩を右手で触ると今度は大岩が青色に輝き出した。その瞬間マナスポットの雰囲気が一変する。


懐かしくて暖かい……



これは屋敷の地下の指輪を見た時と同じ感覚だ。

屋敷では”畏れ”を感じたエルだったが今は気持ち良さそうに眼を細めている。


対してアシェラは指輪の時と同じ感想の様で眉間に皺を寄せて耐えていた。


「アシェラ、終わったみたいだ。少し離れよう」

「うん……」


10メード程、離れるとやっと”畏れ”を感じなくなるらしくアシェラの顔に安堵の色が浮かぶ。

改めてマナスポットを見るとアオが先程から微動だにせず大岩の上で丸まっていた。





アオが何をしているのか……ブルーリングに帰って良いのか……声をかけてもアオの反応は無い。

30分程だろうか。いい加減ブルーリングに帰ろうと思い出した頃アオが動き出した。


「アルド、エルファス、ここのマナスポットは”魔力変化”みたいだ。当たりだったね」


もうアオの言う事の意味が分からないのはいい加減、慣れてきた。

オレは溜息を一つ吐いてアオへと話しだす。


「アオ、”魔力変化”がどうしたって?何が当たりなんだ?」


アオはあからさまにバカにした顔で返してくる。


「やっぱりアルドだね。少しでも賢くなる様に教えてあげるから良く聞きなよ」


こいつ……やっぱり殴っていいかな?精霊王の分体とか言ってたけどいつかキレそうだ……


「マナスポットを開放すると、溜まっていた魔力で使徒の能力が少しだけ上がるんだよ」

「能力?お前、さっき魔力変化って言ってたけど……」


「そうさ。魔力変化が少しだけ上手になったはずだ」


オレは早速、短剣を抜いて魔力武器(大剣)に変えてみる。

言われてみれば少しだけ発動が早い気がした。


しかし誤差と言って良い程の違いだった気がする。


「アオ。すこーしだけ違う様な?気がする……」

「そんな物だよ。あくまでオマケだからね」


「そうか。他にはどんな物が上がるんだ?」

「そうだね……大当たりは”身体能力”や”魔力量”かな」


「!!”魔力量”が上がるのか?」

「うん?あぁ、上がるよ。でもアルドは”味覚が鋭くなる”や”毛が早く伸びる”能力を引きそうだけどね」


そんなしょうもない物もあるのか……”魔力変化”は当たりと言った意味が分かった。

それからアオはマナスポット同士を繋いだそうだ。


「ブルーリングに転移出来るのか?」

「転移?転移じゃないよ。繋いだんだ。アルドは本当にバカだなぁ」


「転移とは違うのか?」

「だから繋いだんだって。マナストリームを通って他のマナスポットへ移動するんだよ」


「それは転移じゃないのか?」

「だ・か・ら!繋いだって言ってるだろ!転移は空間に作用する魔法じゃないか。これはマナストリームを通るんだよ」


「分かった様な分からない様な……まあ良いか。これはアシェラも通れるのか?」

「僕が送るんだから誰でも通れるに決まってる」


「オレもアオに送って貰うのか?」

「当たり前だろ。アルドは自力でマナストリームに入れるのかい?」


オレは肩を竦めてみせた。


「エル、アシェラ、帰ろうか?」

「はい、兄さま」

「うん。ちょっと疲れた……」


「そうだな。疲れたな。エル、アシェラ、ありがとな……来てくれて、嬉しかった」

「兄さま、当然じゃないですか」

「ボクはアルドの婚約者なんだから当たり前」


「当たり前……か。そうか。 帰ろうか、ブルーリングへ」

「はい」

「うん」


オレ達はアオに頼みブルーリングのマナスポットへ送って貰う事にした。

ブルーリングのマナスポット即ち屋敷の地下である。


「じゃあ、行くよ」


アオが声をかけてくると大岩へ吸い込まれる様な感覚を感じた。一瞬の様な数時間の様な……ぬるま湯の中を進むような感覚の中、ふっと我に帰る。

意識が覚醒した時、オレ達は屋敷の地下。指輪の前に立っていた。


指輪を前にしたアシェラはやはり”畏れ”を感じる様で大岩と同様に辛そうにしている。

すぐにオレが壊した扉を越えて廊下へと移動した。


「あの距離を一瞬か……」


オレの呟きを聞いたエルが微妙な顔で返してくる。


「そうですね。本当に”使徒”になったんですね……」

「ああ。そうだな。一度、マールも入れて4人で話をしたい」


オレはエルの顔を正面から見つめて話す。


「そうですね。マール……マールにも話さないと……いけませんね……」

「そうだな」


そんなオレとエルの空気をアシェラがぶった切る。


「マールは絶対にエルファスの傍から離れない。賭けても良い!」


アシェラは少し怒りながらエルへとそう言い放った。


「そう……ですね。僕はマールとアシェラ姉の言葉を信じる事にします」

「うん」


少しだけ弛緩した空気が流れる。オレ達は疲れた体で地下室を後にするのだった。





前にアシェラが壊した扉を越えて1階へ出て来たオレ達は、掃除中のメイドと鉢合わせした。

メイドは眼をいっぱいに広げ持っていたバケツを落して驚いている。


「ら、ラフィーナ様!!アルド様が、アルド様がお帰りになりました!」


まだ10代だろうメイドは屋敷中に聞こえる声で叫んだ。

ほんの数十秒後、眼を赤く腫らした母さんがやってきて、オレを見るなり感極まったかの様に抱きしめてくる。


「アル……アル、、どこに、、行ってた・の・よ・・」


最初は普通に抱きしめられていただけだった……しかし、何故か徐々にチカラが強くなっていく……今では熊でも倒せそうなベアハッグに変わっていた。


「か、かあ…さま…い、いだい……です。す、少し緩めて…頂けると……」

「どこに行ってたか話すまでは放さない!」


「え、エンペラーを、、た、倒しに、、行って、き、、まし。、、た……」


一段と圧力が強まった気がする……

これ以上はヤバイ……と思った所でやっと熊の抱擁を解いてくれた。


「もう、無茶をしないで!1人で倒しに行くなんて絶対にダメよ!」

「分かりました……」


母さんはエルとアシェラへ向き直る。


「エル、アシェラ、アルを止めてくれて助かったわ。本当にありがとう」


母さんの言葉にエルとアシェラが微妙な顔をしている。

エルがアイコンタクトで”お前が自分で話せよ!”と言ってきた。


”エルから上手に話してくれよ”と返す。

”フザケルなよ?お前が言わねぇならオレが適当な話を言うぞ!”エルの眼に殺気が……


”すんません、エルさん……自分で話します……”因みにアイコンタクトは適当だ。そう言ってたらおもしろいと思っただけの妄想である。


「母様、実は………」


オレは屋敷を抜け出してからの事を話し出した。




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