第139話商売

139.商売




ナーガさんとジョーに爪牙の迷宮の参加を聞きに行った次の日


朝食を終えると昨日の約束通りアシェラへ魔力盾とバーニアを教えていた。

改めて思うがアシェラは天才だ。魔力が見えるからだろうが教えている事より常に1歩先を行く。


魔力盾なんてエルと2人であーでも無いこーでも無いっと悩みながら作ったのに、アシェラにかかれば1~2時間で発動自体は問題無く出来るようになってしまった。

この調子だとオレ自身の練度がまだまだのバーニアはすぐに抜かれてしまいそうで怖い。


オレが戦慄しながら見ているとアシェラはボソッと呟いた。


「アルドは眼を離すとすぐに先へ行く。追い掛けるのが大変」


アシェラの本音なのだろうか……オレから見ればアシェラに付いて行くので精一杯な所が沢山あるのだが……

そんなこんなで今日は午前中を修行に当てる事にした。




昼食後-----------




ナーガさんに昨日のジョーの返事を報告してこれからの計画を相談したい。

氷結さんは本当に何もしないつもりの様で、我関せず。を決め込んでいる。


アシェラにギルドへ付いてくるか?と聞くと今日は魔力盾とバーニアの練習をするらしい。

あまり熱心にやられるとオレが置いて行かれるので出来ればゆっくりしてて欲しいのだが……


今日も鎧が無いので平民の服にナイフ2本を装備してギルドへ向かう。

流石に急ぎで無い時に禁止されている空間蹴りを使いはしない。


今日はゆっくりと周りに同化しながらギルドへと向かおうと思う。

いつもは鎧姿で声をかけ難かったんだろう。露店の店主から"アポの実が甘い”だとか”パンが焼きたて”だとかで沢山の声をかけられた。


通り慣れた道の違う顔を見れた事で少しワクワクしながらギルドへの道を歩いて行くと、直にギルドへ到着して中へと入る。


昼一番と言う事でギルドには人がまばらにいる程度だ。

今日は珍しく絡まれる事無くナーガさんの元までたどり着けた。


「こんにちは。ナーガさん」

「こんにちは。アルド君」


まずはいつもの様に挨拶からだ。

軽く挨拶を交わしてから昨日のジョーの可否を話す。


「ナーガさん、ジョーは不参加だそうです」

「そうですか。残念ではありますがしょうがないですね」


「はい。それで具体的に攻略の日程を決めたいと思うのですが……」

「そうですね。では……3日後ではどうですか?」


「3日後……それは本格的な攻略を3日後から始めるって事ですか?」

「そうです。この前のお試しで各々の実力は把握できましたからジョグナさんとエルファス君の交代程度ならそのまま進めても問題ないと思います」


「分かりました。ただ準備が出来るか全員に確認してから返事をさせてください」

「はい。お願いしますね」


ナーガさんから3日後を指定されてしまった。思ったよりも早いスケジュールに驚きながら急いで準備を進めて行く。

まずはボーグの所へ行ってワイバーンレザーアーマーの改造の進捗を聞かないと。


オレは早速、防具屋へと向かう。

防具屋へ向かう途中に先日、雪の中で出会った商人を見つけた。


どうやら何か商品を買い付けたのか箱馬車へ沢山の木箱を積んでいる。

オレは商人に近づいて行き声をかけた。


「大変そうだな。手伝おうか?」


商人はいきなり声をかけられて驚きながら振り返る。

少し考えた後、思い出したのか笑顔で話しかけてきた。


「おお。先日はありがとうございました」

「大した事はしていない。気にしないでくれ」


「いえ、アルド様に助けて頂かなければ納期に間に合わずに罰金を払う所でした」

「間に合って良かったな」


「はい。それとお屋敷の方にも顔を出させて頂きました。セーリエ様とお話をして定期的にムーニを購入して頂ける事になり、アルド様には何と感謝して良いか」

「そうか。こっちも助かる。在庫が切れそうだったんだ」


「在庫ですか?ムーニをそんなに沢山、何に使われるのですか?」


やっぱり商人だけあって、さり気なくこちらの情報を聞きにくる。


「それは秘密だ」

「そうですか。失礼いたしました」


「それより荷物を運ぶのを手伝ってやろうか?」

「いえいえ、アルド様にそのような事はさせられません。お気持ちだけで」


「そうか。じゃあ、オレは行く。ムーニの件、頼んだぞ」

「はい。畏まりました」


オレは防具屋への道を進みながら先程の商人との会話を思い出していた。

給湯器を風呂とセットで売るとなると消耗品である石鹸の販売も利益が大きくなりそうだな。体を洗うためのヘチマも欲しい。


しかし、迷宮探索に学園、修行、使徒の仕事、これらをやりながら商売は流石に無理がある。


オレが考えているブルーリング家の商売の構想はこうだ。

オレは魔道具の企画、立案。ローザが開発、試作。そしてセーリエが製造、商品化。最後に営業、販売を外注の商人に頼む。


今回の給湯器に関しては魔道具は試作が終わりそうなので、ここからはセーリエの仕事だ。

風呂場自体を作り、内装や小物を整える。安く簡単に売れる物では無いので最初はダンヒル宰相やサンドラ伯爵へトップダウンの営業をかければ良い。


今までの感触から風呂を使ってさえ貰えれば確実に客になってくれるだろう。

出来れば家族全員を招待し、特に夫人や娘等の女性陣に使って貰えれば尚良い。


爺さんと父さん、セーリエ、ローザを交えて一度、話をしたい。

当然、予算の事もあるし風呂を建てるとなると職人への伝手も必要だろう。


オレは防具屋へと向かいながら心のメモに書き込んだ。


考えながら歩いていると何時の間にか防具屋へと付いていた。

慣れた扉を開けると店には誰もいない。不用心だと思いながら大声でボーグを呼ぶと奥の方から声が聞こえた。


「おーーい!ボーグ!居るのか?」

「おーーアルドか。奥にいるから入ってくれーー」


どうやら奥で作業をしている様だ。入って良いと言うのだから遠慮無しに入らせて貰う。

扉を開けて奥に入ると工房になっていた。色々な種類の皮や布、金属の破片が所狭しと置いてある。


「おう。どうした?」


どうやらボーグはオレの鎧の改造をしていた様でオレのワイバーンレザーアーマーがバラバラに分解されていた。


「実は3日後に爪牙の迷宮へ行きたいんだ。改造がいつ終わるか教えて欲しい」

「随分と急ぎの話だな」


「ああ、オレも今聞いた所なんだ。急がせてスマン」

「まあ、急げば今日中には終わると思うぜ」


「本当か。是非、お願いしたい」

「それは構わんが……」


「なんだ?」

「爪牙の迷宮って言ったよな?」


「ああ、何かあるのか?」

「手に入れられたらで良いんだが……5層より下に出る、ファイアリザードってトカゲの皮が欲しい」


「剥ぎ取りが出来るか分からんが、手に入れられたら持って来る」

「スマンな。あの皮を裏地に使いたい物があってな」


「期待はしないでくれよ」

「ああ、期待して待ってるよ」


オレは肩を竦めて防具屋を後にする。

防具は今日中に改造してくれるのでオレの準備は問題が無くなった。


真っ直ぐ屋敷へ向かい特に問題も無く到着する。早速、エル、アシェラ、母さんの予定を聞いてみると全員が3日後の探索で問題ない。と幸先の良い返事を貰う事ができた。

明日、一番にギルドへ行ってナーガさんに報告するつもりだ。


後は商売の件だがオレとしては面倒な雑事はさっさと済ませて迷宮探索に集中したい。

その足で爺さんと父さんがいるだろう執務室へと向かった。


執務室へ声をかけながらノックをする。


「アルドです。昨日の件で少し時間を頂きたいのですがよろしいでしょうか?」

「……入れ」


執務室の中には爺さんと父さん、セーリエの3人が話していた。


「丁度、セーリエとその話をしていた所だ」

「そうですか。ここにローザも連れて来てもよろしいでしょうか?」


「む。奴隷がこの場に必要なのか?」

「奴隷と言う身分では無く、魔道具職人としてのローザがいた方が話が早いと思います」


「……任せる」

「ありがとうございます。直ぐに戻ります」


オレは執務室を出てローザの元へ向かった。

声をかけながらローザの部屋をノックする。


「ローザ。申し訳無いが少し付き合って欲しい」


そう声をかけると扉からローザが顔を出した。爺さん達を待たせる訳にはいかないので屋敷へ向かいながら何の用事かを説明する。

爺さん達の元へ行くと言うと絶対に嫌がると思い、そこだけは内緒だ。


執務室へ到着しノックをする。


「アルドです」

「入れ」


扉を開けて中に入る。ローザもオレの後ろに付いて来ている。


「ローザ、オレのお爺様と父様だ。そこにいるのは執事のセーリエ。挨拶を」

「ご、ご当主様?」


ローザは見るからに動揺しだした。


「取って食ったりしないから大丈夫だ。挨拶を」


縋る様な目でオレを見てくる。


「は、はい。ろ、ローザと申します。ご当主様には多大な配慮を頂いて、いつも感謝しております」

「ここは執務室だ。楽にしろ」


爺さんがローザに言い放ちオレに先程の続きを促してくる。


「アルド。これで揃ったのか?」

「はい。それではこれからのブルーリング家の商売について説明させて頂きます」


机に紙を置き、オレ、ローザ、セーリエの役目を明確にしていく。

今回は給湯器の魔道具、単体では無く”風呂”と言うシステムを売ると言う事を、全員が理解するまで説明した。


「……っと言う事で僕は企画と立案。ローザは魔道具職人として開発と試作。セーリエは実際の製造と商品化をローザにアドバイスを貰って行って欲しい。今回は伝手を使うが物に寄って販売には商人を使うのが良いと思われます」

「なるほど……セーリエ出来るか?」

「やってみないと何とも言えませんが、話としては分かり易く実現性は高いと思います」


「ローザはどうだ?」

「わ、私は言われた事を精一杯やらせて頂きます」

「待って下さい」


オレの声に会話が途絶える。


「確かにローザの身分は奴隷ですが全体の立場としては開発と試作のトップ。製造と商品化のアドバイザーになります。この計画の一番の功労者になるはずです。奴隷としてでは無く責任者として扱って頂きたい。そうで無ければ恐らくは失敗するかと」

「なるほど……ローザ。アルドはこう言うが出来るか?」

「わ、私にそんな大それた事ができるとは思えません……」


「アルド。ローザはこう言っているぞ」

「ローザ。難しく考えるな。もう給湯器はほとんど出来ている。後はセーリエに製造のアドバイスをするだけだ。次の魔道具もやる事は基本変わらない。それでも出来ないか?」

「い、今までと同じ程度の事であれば……」


「ああ、今までやった事を言葉で明確化しただけだ。特別な事をしろとは一言もいって無い」

「分かりました……」


「お爺様。ローザがやってくれるそうです」

「ああ。それとさっきの役割だが……時間がある時だけで良いアルド、お前が自分の眼で全体を確認しろ」


「……分かりました」

「差し当たって風呂を建てる必要があるな。セーリエ、宛てはあるか?」

「はい。商業ギルドに当たって手配いたします。ただ完成はどの様にいたしますか?木造、石造り、大きさ、配置、決める事が沢山あります」


「それについては……」


ここから爺さん、父さん、オレは自分が入りたいと思う風呂。を思い浮かべ仕様を決めていく。

夕食の後もすぐに執務室へと戻り仕様を決めていたのだが途中で氷結さんがやってきた。”女性の目線”と言うパワーワードを使い、オレの希望を悉く潰していく。


オレは血の涙を流しながら最後のサウナだけは何とか死守する事に成功した。



全ての仕様が決まった時には夜も更け屋敷の中は執務室以外は静まり返っていたのだった。





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