第138話雑事

138.雑事




オレは今、爺さんと父さんが居るであろう執務室の前である。


先程、エル、アシェラ、マールに話した商売の件を、爺さんと父さんにも概要だけだが話そうと思う。

頭の中で話を整理しノックをする。


「アルドです。お話をさせて貰いたいと思い伺いました」


少しの間の後、爺さんの声が聞こえてきた。


「入れ……」

「失礼します」


入ると爺さんと父さんが難しい顔をしてこちらを見ている


「アルド。何か用か?」

「はい。少々長くなりそうですがよろしいですか?」


「話せ……」

「はい。実は……」


オレはこれから独立して独自の通貨を作るにしても相手の通貨は必要であるし、独立までの間もかなりの資金が必要である事を話した。


「それでどうするつもりだ?」

「はい。魔道具を……」


魔道具を作り販売する。販売は外に出しても良いが制作は独立した後も安定した財源になる為、ブルーリング家として制作から入って行きたい事を話す。


「魔道具の制作か……」

「はい。既にいくつか試作をローザに頼んでいます」


「最初は良いが直ぐに真似をされるのでは無いか?」

「そこは魔法陣をブラックボックス化しようと思います」


「ぶらっくぼっくす?」

「はい。開けれない箱の中に入れて見れなくしてしまうのです」


「壊すつもりなら開けられるだろう」

「壊した場合は魔法陣が自動で消える様にするつもりです」


「そんな事が可能なのか?」

「完全ではありませんが一応は試作してあります」


「……」

「……」


「ハァ、分かった。セーリエを付ける……相談してやってくれ」

「ありがとうございます」


「只、あまりやりすぎるなよ。使徒の件は絶対にバレる訳にはいかん」

「分かっています。最初は屋敷の中で細々とやるだけですから大丈夫です」


「信用してるぞ……」


全然、信用して無さそうな顔で爺さんが話す。

爺さんの執務室をお暇してローザの元へと移動する。いつの間にか後ろにはアシェラが付いて来ているのはご愛敬。


「ローザ、いるか?アルドだ」


ローザの部屋をノックして声をかけた。


「はい。少々お待ちください」


ローザの声がして扉が開く。

ローザの足は踵まで修復されており、ゆっくりではあるが普通に歩くには問題が無い程度にはなっている。


オレとアシェラは部屋に入れて貰い椅子に座った。


「足の具合はどうだ?」

「はい。問題ありません。踵まで修復してもらってからは歩く事が出来てとても楽になりました」


ローザは心の底から嬉しいのだろう。自分の足を一度だけ撫で飛び切りの笑顔で話す。


「そうか。それは良かった」

「はい。ありがとうございます」


オレは一通りのやり取りを終え魔道具の件を話しだした。


「今日、来たのはいくつかあるんだが、まずは給湯器の魔道具を売りに出そうと思うんだ」

「正直、売れるのでしょうか?」


「売りに出す時には風呂とセットになると思う。まずはダンヒル宰相邸とサンドラ伯爵邸だな」

「風呂とセット……」


「まずはモデルルームとしてブルーリング家の風呂を正式に建てないとな」

「もでるるーむ?ですか……」


「ああ、なので今日、明日の話では無いんだが魔道具作りが本格化していくので心の準備をして欲しいんだ」

「分かりました」


「足もそれまでには完全に治さないとな」

「ありがとうございます」


「じゃあ、また来るがブラックボックスの研究と給湯器の仕上げを中心に進めて欲しい」

「分かりました」


必要最低限だけ伝えローザの元をお暇させて貰う。


次は母さんの所かな。王都に戻って2日。迷宮探索は何時から始めるのか聞かないと。

いつも通り母さんは居間でクララ、ファリステア、ユーリ、アンナ先生達と一緒にお茶を飲んでいた。


「母様、少しお話をしたいのですがよろしいですか?」

「なぁに?」


「はい。迷宮探索なんですが何時頃から始めるつもりですか?」

「そんなの私が知ってる訳ないじゃない」


「え?だって……」

「私は”監督”よ。細々した事はリーダーがやるって言ったのはアルでしょ」


言った……確かに言った……タイムスリップ出来るならオレは過去の自分を殴ってやりたい。


「私は迷宮探索での目標を”踏破”に変えたわ。後の調整はナーガとやって頂戴」

「分かりました……」


とてもスッキリしない気持ちで母さんの前から退席する。


ナーガさんとジョーに話さないといけない……

今日は朝からアシェラとデートをした後、あちこち根回しをしていたので今は夕方だ。


明日にしようか迷ったが先延ばしをして状況が良くなった事が無いオレは、いやいやながら冒険者ギルドに向かう事に決めた

最速で向かう為に壁走りで屋根に上る。そこから冒険者ギルドへ真っ直ぐに駆け抜けた。隣にはアシェラも一緒だ。


流石に空を駆けるといつもの半分の時間で冒険者ギルドへと辿り着いた。

ギルドの中へ入ると冒険者がこちらをチラっと見てくる。


いつもはオレが入ってくると一斉に静かになるのだが、ギルドは五月蠅い程の喧騒のままだ。

オレは首を捻って考えているとアシェラもオレも平民の恰好をしている事に気が付いた。


それならっと受付のナーガさんの元へ向かおうとすると、男が足を出してくる……

しょうがないので回ろうとすると違う男が足を……


こいつら本当に学習能力が無い。殺気を込めた眼で睨んでやるとオレと気が付いたのだろう。椅子から転げ落ち地面に座り込んで後ずさんでいる。

回りも様子がおかしいのに気が付きオレを凝視してくるヤツが何人か……すぐに気が付き小声で”修羅だ……”と聞こえてきた。


もうこの手のイベントはお腹いっぱいなので無視してナーガさんの元へと歩いて行く。


「アルド君、アシェラさん、無事だったのね。おかえりなさい」

「「ただいま。ナーガさん」」


「少し話しても良いですか?」

「立ち入った話?」


「はい……」

「分かったわ。会議室を使いましょう」


そう言ってナーガさんと一緒に奥にある会議室へと移動した。


「いったい、ブルーリングで何があったのかしら?」


ナーガさんの言葉にオレは”使徒”の件だけは秘密にして正直に全てを話した。


「そう、そんな事が……」

「はい。それでちょっと訳があって魔瘴石が必要になりました」


「魔瘴石……」

「母様は爪牙の迷宮を踏破するのが良いと」


「地竜はどうするつもりなの?」

「母さんが言うにはどこの迷宮も主の強さは対して変わらないって言ってまして……」


「それはそうだけど……」

「それでオレ、エル、アシェラ、母さん、は爪牙の迷宮に挑戦するつもりなんですが最初の話とだいぶ変わってしまったので、ナーガさんとジョーに改めて参加の可否を確認しに来ました」


「踏破……」

「はい。どうしても魔瘴石が必要なんです」


「……」

「……」


「どうしても踏破するのよね?」

「はい。そこだけは変更する事はありません」


「はぁ、分かったわ。参加します」

「無理はしなくても……」


「乗りかかった船だもの。気にしないで」

「ありがとうございます」


「ジョグナさんにも聞くの?」

「今から訪ねて確認しようかと」


「ジョグナさんなら”大鷲の縄張り亭”か”ブルーリング邸”にいると思うわ」

「大鷲の縄張り亭か屋敷……確かに最近、ノエルの尻を追いかけているな。ありがとうございます」


アシェラと2人で”大鷲の縄張り亭”へと向かう。店はそれなりに有名な様で道行く人を尋ねればすぐに辿り着いた。

店の中にはジョーが女性と2人で食事を摂っている。


あの野郎、ノエルに粉かけてる癖に……とジョーの前に回ると、なんと女性はノエルだった


「ノエル、あー、スマン。邪魔するつもりは無いんだ」

「ん?アルドにアシェラ様か。良かったら一緒にどうだ?」


ノエルはいつも通りの態度でオレ達を食事に誘ってくる。


「じゃあ……ご一緒させてもらおうか。アシェラ」

「うん。お腹空いた」


オレとアシェラは適当に食事と果実水を頼む。アシェラとノエルが思ったよりも仲が良い。

そう言えば昔、格闘の鍛錬で一緒だったと言っていた事を思い出した。

オレはジョーヘと向き直ると今回のブルーリングの件の報告と、爪牙の迷宮の踏破する件を話し出す。


話す内容はナーガさんへの物と同じ。只、、ジョーはナーガさんとは違い爪牙の迷宮の踏破に難色を示した。


「……って事で魔瘴石がどうしても必要になったんだ。爪牙の迷宮を踏破しようと思う」

「……」


「……」

「……ち、地竜はどうするつもりなんだ?」


「まだ考え中だ。迷宮探索をしてすぐに最下層へ行ける訳でもないしな」

「それはそうだが……」


ジョーがジョッキの中のエールを一気に飲み干し、ウェイトレスにおかわりを頼んだ。


「オレは……」

「……」


「……」

「無理に参加する必要はない。ジョーは不参加で良いな?」


「……」

「気にするな。参加しようがしまいが自由なのが冒険者の特権だろ」


「スマン……」


ジョーは手を握りしめ俯いてしまった。そんなに責任を感じられるとこっちが申し訳なくなってくる。

そこからは極力、明るい話題で話をした。徐々にではあるがジョーも笑顔を見せてくれる。


食事を摂ってオレ達はお暇させてもらった。ノエルはまだジョーと飲んでいく様だ。

思っていたよりノエルの方がジョーを気に入ってるのかもしれない。


途中でアオの報告を聞いてからブルーリングへの帰路を走る。

アオからの定期報告は今日も”問題なし”だった。


これで結局、爪牙の迷宮探索はオレ、エル、アシェラ、母さん、ナーガさんの5人だ。

ジョーが抜けてエルが入る形な訳だ。


エルは左に盾を持っているから前衛の位置はオレが右でエルが左。その程度の変更で済むだろう。



明日にはアシェラにバーニアと魔力盾を教えて、冒険者ギルドでナーガさんと相談だな……っとなんだかんだ言って忙しく動き回る日々に苦笑いを浮かべた。





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