第137話デート

137.デート




アシェラの腕を治療した次の日。

朝食の後、エルとマールは改まった様子で母さんに話があると言い出した。恐らくは婚約の話だと察した母さんは詳しい話を聞く為にエルとマールを自分の寝室へ招くようだ。


ここにいる全員もどんな話かは凡そ察している。しかし、こんな大事な話をハブにされるのは……爺さんはしょうがないにしても、父さんの落ち込みようは見ていて気の毒な程だった。

途中で存在を思い出したのか、暫くして母さんから呼ばれた父さんは嬉しそうに寝室へ歩いていく。それで良いのかパパン……


マールが正式に婚約者になるのはタブとの話もあるので、まだ先だろうが屋敷の中でのマールの扱いはエルの婚約者へと変わるだろう。

オレはアシェラと話し邪魔にならないように屋敷の外へと出かける事にした。


考えてみれば王都に来て、2人で街に出かけた事はない。アシェラに行きたい所はあるか?と聞くと小物が欲しい。と言われた。

早速、セーリエに小物が売っている場所を聞くと馬車を出すと言われたが、やんわりと断り完全武装で出かける事にする。


この恰好も嫌いでは無いがデートに鎧とか……アシェラの町娘姿とかも見たい!

小物を見た後はアシェラに似合う服を買いに行く事を心に誓った。




閑話休題--------




オレは今、雑貨屋でアシェラと一緒に小物を見ている。小物と言っても陶器のカップから服のボタン、果ては髪留めまで色々な物が雑多に置いてあった。

この世界の雑貨屋はどうやら1品限りの売り尽くしの様だ。この髪留めも今を逃せば手に入れるのは不可能なのだろう。


「アシェラ、気に入った物はあるか?」

「うーん。特に無いかも」


「そうか。ゆっくり見よう」

「うん」


オレは現代日本で学習している!女性の買い物を決して急かしてはいけないと!

同じ様な服を違う店で何枚も見せられ襟の形が……色がちょっと薄い……生地の厚みが……買う気が無いのかと思い、聞いてみると激怒された。


普段のおっとりした感じからは想像できない態度に思わず敬語で謝った程だ。

それからオレは女性と買い物に行く時は決して急かさない、嫌がらない、文句を言わない、を心掛けている。


アシェラはと言うと何度も同じ物を見て最終的には何も買わない。事に決めた。

ここは不用品を買わないアシェラの金銭感覚を褒めようと思う。例えオレがプレゼントしたいと思っていても、だ。


次にオレの野望を叶える為に服屋へと移動した。雑貨屋で町娘が良く使う服屋を聞いておいたオレ、グッジョブ!

服屋にはアシェラと同じくらいの女の子が数人いた。女の子達は可愛らしい恰好で服を選んでいる。


「アシェラ、欲しい服があったら言ってくれ」


オレの一言に女の子達は振り返った。オレの鎧姿を舐める様に見てアシェラのローブ姿に溜息を吐いた。

ひそひそと声が聞こえる。

”あの娘、可愛くない?””うんうん、なんでローブなんだろ。勿体ない””一緒の男の子って弟?”


確かに2歳年下だが最後のはオレのガラスのハートが傷付いたぞ……

オレはアシェラへ向かって少し大き目の声で話しかける。


「”婚約者”のオレがプレゼントするから好きな服を選んでくれ」


勿論、”婚約者”の部分を強調して話した。

どうもアシェラは普段あまり服を買わない様でどの服が良いか分からないみたいだ。


アシェラが少し困っている……

オレは店員にアシェラに似合う服を何着かお願いした。


「どの様な物がよろしいでしょうか?」

「可愛らしく見える物と少し大人びて見える物、普段使いの物を1~2着ずつ欲しい」


「そ、それですとかなりの料金になりますが……」

「ああ。大丈夫。これは前金だ」


オレは両替しておいた白金貨を1枚、店主へ渡す。

店主は眼を輝かせて受け取った。


「では、こちらへどうぞ」


アシェラが女の店員に奥へと連れられて行く。どうやら採寸をする様だ。


「お客様。オーダー品も喜んで頂けると思うのですが……」

「分かった。それも頼む」


「ありがとうございます。お洋服はいかがいたしましょうか」

「着ている物以外はブルーリング邸へ運んで欲しい」


「ブルーリング……リバーシのですね」

「そうだ。”アシェラの荷物”と言ってくれ」


「畏まりました」

「残金は今、払っても後日でもどちらでも良いがどうする?」


「オーダー品の値段がありますので後日、頂けると助かります」

「分かった。では執事のセーリエを訪ねて欲しい」


「はい。畏まりました」


オレ達を遠目に見ていた女の子達だったが、オレが貴族だと言うのが聞こえた様で逃げる様に店を後にした。

ここは貴族が来る様な店では無いのだろう。逆に街の中を歩くにはここで服を買うのが良さそうだ。


店主にオレに似合いそうな物も2~3着お願いする。オレ自身はあまり服に興味も無いので全てお任せだ。




1時間後---------




採寸され色々な服を試着させられたアシェラがゲッソリしている。


「疲れたか?」

「ちょっと……」


今のアシェラは可愛らし青を基調とした服にコートを羽織って、どこから見ても可愛らしい町娘だ。

オレも鎧を脱いで普通の平民の服を着ている。ただし右脛と左腿にはナイフを装備済だが。


オレの脱いだ鎧を箱に入れて貰い、残りの荷物はブルーリング邸に運んで貰う。

色々と無理を言ったのでチップを多めに渡して店を出た。


オレが箱を持っている以外は普通のカップルに見えるのだろう。

貴族の服や鎧姿の時には無い、街に馴染む感じを楽しみながらゆっくりと歩いて行く。


「アシェラ、行きたい所はあるか?」

「うーん、特に無い」


「そうか。じゃあ、防具屋に寄っても良いか?」

「防具?うん。行こう」


アシェラは服屋に行く時よりも防具屋に行く時の方が楽しそうだ。

途中、露店で買い食いをしながら防具屋へと歩いて行く。


防具屋へ着いて中に入ると相変わらず不愛想なオッサンが店番をしていた。


「オッサン、久しぶりだ」

「おう。ワイバーンの小僧か。元気にやってたか?」


「ああ。今日は少し防具の改造を頼みに来た」

「改造だと?」


「ああ、この鎧を……」


オレはワイバーンレザーアーマーの背中と両肩にバーニア用の仕掛けを頼む。

魔力を通し易い様にミスリルも仕込んで欲しい。


オッサンに実際の空間蹴りも見せて未熟なバーニアも見せる。


「………と、こんな感じで背中と両肩にミスリルで魔力を通し易くした仕掛けを作って欲しいんだ」

「それは良いがミスリルを使うならかなり高くなるぞ」


「幾らになる?」

「そうだなぁ……神銀貨1枚と白金貨5枚でどうだ?」


「分かった」


オレは懐から神銀貨と白金貨を出してオッサンに渡した。


「即金かよ……」

「オッサンもその方が助かるだろ?」


「まあ。そりゃ、そうなんだが……」


オレとオッサンの話をアシェラは興味深そうに聞いている。


「因みにその娘は誰なんだ?」

「ああ、オレの婚約者のアシェラだ」

「アシェラです。よろしく」


「ああ、ワイバーン小僧の防具を作ってる。ボーグだ。よろしく頼む」

「オッサンそんな名前だったのか」


「あ?お前が聞かないから意地でも自分から言わなかったんだよ」

「そうなのか。オレはアルドだ。よろしく、ボーグ」


「知ってるよ。血濡れの修羅殿」

「おま、その通り名は……」


「カッカッカッ。冗談だ。改めてよろしく頼む。アルド」


オレは肩を竦めて返した。

暫くオッサン改めボーグと話してオレ達は防具屋をお暇した。鎧の改造は最速で取り掛かってくれるそうだ。


完成したらブルーリング家まで届けてくれるらしい。

迷宮探索が控えているので非常に助かる。


そろそろ帰ろうかとブルーリング邸へ向かって歩いているとアシェラが話し出す。


「アルド。ボクにバーニアを教えて欲しい」

「バーニアかぁ。確かに格闘のアシェラと相性が良さそうだな」


「うん。それにアルド達みたいに盾も出したい」

「魔力盾かぁ」


「アルド、教えて?」


上目遣いでお願いしてくるアシェラの破壊力は凄まじかった。


「分かった。帰って時間があったら修行するか。只、色々回るつもりだから明日以降になるかもだ」

「うん。分かった」


「ただ、”バーニア”の改造をするのにローブでは難しいかもな……」

「うん、そうだね……でも”盾”は手甲に仕込めると思う」


「そうだな。今度、ボーグに相談しよう」

「分かった」


「それもまずは修行して使える様になってからだけどな。オレと同じ前腕で良いのかも試してみないと」

「うん」


そんな話をしながらブルーリング邸へと帰る。

屋敷へ帰るとエルとマールが出迎えてくれた。2人は幸せそうに手を繋いでいる。


「エル。上手く行ったみたいだな」

「はい。マールとの婚約を認めて貰えました」


「そうか。改めておめでとう。エル、マール」

「おめでとう。エルファス、マール」

「ありがとうございます。兄さま、アシェラ姉」

「ありがとうございます。アルド、アシェラ」


「後はタブに話をしないといけないな。新しい種族の事も……」

「お父さんはきっと賛成すると思う」


「そうか?タブは案外、強かだぞ」

「お父さんはアルドに心酔してるから、身内に成れるなら喜んでくれるはず」


マールはこんな事を言う。オレに心酔とか……恩は感じてくれたとしても、タブに関してそれは無いはずだ。

4人揃ったついでに前から思っていた事を話したい。


「少し話があるんだ。また屋根の上に行かないか?」


オレの言葉に3人は快く頷いてくれた。

マールをエルが抱いて空間蹴りで屋根の上へと移動する。


まだ雪が残っているが4人共エアコン魔法の使い手だ。暑さ寒さは関係ない。

昨日と同じ様にアシェラ、オレ、エル、マールの順で屋根に座る。


「前から思ってた事なんだが、どうなるにしろオレ達には金が要る。それも国を1つ作る程の金が」

「そうですね……只、そんなお金をどうやって稼げばいいんでしょうか……」


「1つはオレ達の冒険者としての稼ぎだな。あの程度のワイバーン1匹で神銀貨6枚になったんだ。さしあたって地竜なんて幾らになるか……」

「そうですね。ただ国を作るのに神銀貨程度では……」


「確かにそうだ。神銀貨の上の神赤貨や神金貨でも足りないな」

「どうやって稼ぐのですか?」


「商売をしようと思う」

「商売ですか?」


「具体的には魔道具を作ろうと思う」

「魔道具……」


「実はローザには色々と魔道具の試作は頼んであるんだ」

「そうなんですか?」


「ああ。完成した物から売りに出そうと思うんだが……」

「問題が?」


「ああ、製作もブルーリングでやろうと思うんだ」

「魔道具の製作……」


「そこまでやらないと儲けがな……」

「なるほど」


「って事でお爺様や父様に話してくる。最初にお前達に話しておきたかったんだ」


オレはそう言って立ち上がる。3人の顔には驚きと希望が混じっていた。

早速、執務室へと向かおうと思う。


因みに神赤貨はアダマンタイト。神金貨はオリハルコンだそうだ。

神赤貨は神銀貨の10倍で1000万。神金貨は神赤貨の10倍で1億円相当になる。


両方共、指の先程でその価値だ。アダマンタイトやオリハルコンの剣や鎧はいったい幾らになるのか……




まずは給湯器の魔道具だ。だいぶ前に給湯器は完成していたが魔法陣をブラックボックス化するのに手こずっている。

開けると魔法陣が消える様にしたいのだが中々に難しい。


最近、ローザから空気に触れると消えてしまう素材を教えて貰い水に浸して魔法陣を作る事に成功した。

密閉した箱の中に魔法陣を書き、手順を踏まずに開けるとほんの5秒程て消えてしまう。


これをもう少し発展させて売りに出そうかと思っている。

給湯器の次は是非トイレに手を付けたい。洗浄付き便座と水洗トイレ。水洗の部分は分解とかでも構わないが洗浄は絶対に必要だ。



オレはこれらの事を考えながら爺さんと父さんがいる執務室へと向かった。




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