第329話カナリスの街 part2
329.カナリスの街 part2
早速、門番に話しかけると、カナリスの街に入るのには入場税が必要だと言われてしまった。
お金……悲しい事に手持ちには、アルジャナの貨幣が数枚とフォスタークの白金貨が1枚あるだけである。そっと”これしか持っていない”と白金貨を差し出したのだが、流石に門番もフォスタークのお金を知っているはずも無く……
そんな門番とオレ達が困っているのを見かねて、先程の商人が声をかけてくれた。
「半分の価値でよろしければ、両替 致しましょうか?」
最初は半分と聞いて暴利だと思ったが、向こうからすればいつ行くか分からないフォスタークのお金などゴミと変わらない。
改めて商人へ丁寧にお礼を言って、白金貨を半分の価値で両替してもらった。
「本当に何から何までありがとうございました」
「いえいえ。代わりにどこかで商人が困っていたら助けてやってください。その時にグラディス商会のランバに世話になったと言ってもらえればそれで結構ですよ」
「グラディス商会のランバさんですね……覚えました!」
そうしてランバは楽しそうに笑いながらカナリスの街へと入っていった。
「お待たせしました。これで入場税を払えます」
「ああ。しかし、ここまでどうやって来たんだ? グレートフェンリルの金なら両替できたんだぞ?」
「あー、まぁ、少し訳がありまして……」
「まぁ良い。こっちは払う物さえ払って貰えれば文句は無いからな」
そう言って4人と馬2頭分の入場税を払ってから、カナリスの街へと入っていく。
「先ずは冒険者登録をしましょうか。それから宿ですけど……ギルドで安くて綺麗な宿を斡旋してくれる良いんですけど」
「そうだね。そこは聞いてみないと分からないよね」
そうして街ゆく人に場所を聞きつつ、真っ直ぐにギルドへ向かって行くのだった。
いざ向かってみると、冒険者ギルドは思ったよりも近くにあり30分ほどで到着する事ができた。
特に問題も無くギルドに入ると、安心したのも束の間、柄の悪い男達がこちらを興味深そうに見つめてくる。
「アルド……」
「大丈夫ですよ」
カズイは少し怖じ気付いているが、ラヴィとメロウは逆にこちらが値踏みするかのように、男達を見渡している。
そんな中、受付嬢へオレの声が響く……
「冒険者登録をしたいんですが、どうすれば良いですか?」
冒険者登録をお願いした途端、今まで静観していた男達は、オレ達がルーキーだと思ったのかゆっくりと立ち上がり絡んできた。
「おいおい、偉そうに入ってきてルーキーかよ。しかも人族にエルフに獣族。一応は魔族もいるようだが、ドワーフがいれば全種族集合じゃねぇか」
絡んできた男の声に、笑い声があがる……
正直、こういう輩は何か言っても無視しても、絡むのを止めないだろう。まぁ、絡む事自体が目的なのだろうから、当然ではあるのだが……
「気に障ったなら謝ります。僕達は冒険者登録をしに来ただけなので放っておいて下さい」
「おいおい、そりゃねぇだろ。折角、先輩が優しくここの流儀を教えてやろうって言ってるんだ。大人しく聞くのが筋ってもんだろうが……あぁ?」
鬱陶しい……心の中で毒を吐いてから男に向き直ると、何故かラヴィが男の顔面に渾身の右ストレートを叩き込んでいる所だった……え? 何やってるの?
ラヴィは普段から身体強化の修行をしているせいか、男は面白いように吹き飛び、壁にぶち当たったまま倒れて立ち上がってくる様子は無い。
全員が驚きで立ち竦む中、ラヴィが言い放った。
「このケンカ、アルドの一番弟子ラヴィが買った!文句のあるヤツは前に出ろ!」
テーブルに片足を乗せたまま、啖呵を切る姿は非常に凛々しく、まるでジャイ〇ン……いや、ジャンヌダルクのようであった。
ラヴィの姿を見て向かって来る者はいない……確かに今のラヴィはアルジャナであればシルバー上位、フォスタークであればCの上位程度の実力はある。
男を殴りつけた時の流れるような動きに、他の冒険者はラヴィのおおよその実力を見極めたのだろう。
「何だ? 誰も来ないのか?」
暴れ足りないのか、未だに煽り続けるラヴィにカズイが苦言を呈した。
「ラヴィ、もう良いから。やり過ぎるとアルドの修行メニューが酷い事になるよ……」
「ゔっ……ま、まぁ良いだろう。お前等、あまり余所者を舐めるなよ……」
ラヴィ、カズイ、メロウと一緒に受付嬢の下へ歩いていく中、オレは念のために殴られた男へ回復魔法をかけてから受付嬢の下へと向かっていった。
受付嬢は先ほどの乱闘を見て、思いきりラヴィにビビっていた。
先ほどの男は主にオレへ絡んでいて、ラヴィには特に何かを言ったりしたわけでは無い……その状態からいきなりの右ストレートである。
ラヴィは切れやすい若者のように、腫れ物を扱うかの如く対処されていた。
「ぼ、冒険者登録ですか……で、ではこの紙に名前と年と出来る限りの情報を書いて下さい……」
「出来る限りで良いのか?」
「ひっ!で、出来る限りで構いません……なんなら名前と年齢だけで結構です!」
受付嬢は露骨にラヴィを怖がっている。なまじ同性なだけあって、自分にも手加減してくれないだろうと思っているのかもしれない。
しかしこの状況は如何にもマズイ。オレ達は情報も欲しいし、宿の紹介もしてほしかったりもするのだから。
「ラヴィさん、記入が終わったら併設されている酒場でメロウさんと休憩してきて良いですよ。これで好きな物を食べて待ってて下さい」
小遣い程度のお金を渡すと2人は子供のように喜び、嬉しそうに酒場に移動してウェイトレスにここの名産を聞いている。
「怖がらせてすみませんでした。ラヴィさん……あの女性には何もさせませんから安心して下さい」
「は、はい。ありがとうございます……」
「ではこれで4人分の登録をお願いします」
「はい、預かりますね。では処理をしている間に説明をさせてもらいます。皆さんは冒険者の登録は初めてですか?」
「いえ。ティリシアでは初めてですが、フォスタークで冒険者をしていました」
「やっぱり、そうですか。あの方の動きや態度でルーキーでは無いと思いました」
「ハハハ……態度が大きくてすみません……」
「あ、いえ、そんな事は……コホン、では改めて説明させて頂きます。私自身はフォスタークに行った事はありませんが、ギルドの資料を見るとフォスタークとティリシアではそんなに大きな違いは無いようです。簡単に説明していきますので質問があればその都度、聞いてください」
「はい。分かりました」
「先ず冒険者の登録をして頂くと.…………」
受付嬢の話を要約すると、ティリシアでの冒険者のランクはフォスタークと同じくSABCDEFGであった。
最初はGから始まり、ギルドへの貢献度と依頼の達成率などから徐々にランクが上がっていく。
依頼も討伐、採取、護衛と別れていて、フォスタークと殆ど変わりは無かった。
そんな中でも違いがあったのは緊急事態が起こった場合の強制依頼である。領主が緊急事態を宣言した場合、ランクに関係無く全ての冒険者が参加する義務を負うそうだ。
緊急依頼を許可なく断ったりすれば、まず間違いなくギルドの除名処分となるらしい。
次にティリシアではフォスタークと違い、高ランクに限り拠点とする街を移動する場合には、ギルドへ報告の義務があった。
どうやらフォスタークより魔物の脅威度が高いらしく、いきなり高ランク冒険者がいなくなると街自体の防衛力低下に直結してしまうのだとか……
最悪は領主から『お願い』と言う形で、街からの移動が制限される事もあるそうだ。
「どのランクからが高ランクになるんですか?」
「一般的にはBランクですが、場合によってはCランクも報告してもらう事があるかもしれません」
「なるほど。取り敢えず僕達には関係が無さそうですね」
「そうですね。Cランクになるには試験がありますから。『試験を受けた後には報告の義務がある』と覚えてもらえると助かります」
「分かりました」
他にも討伐証明部位がフォスタークとは違ったりと、細かな部分での違いはあったが誤差の範囲である。
「………………説明は以上になります。最後に質問などはありますか?」
「いえ、大丈夫です……冒険者登録とは関係無いんですが、少し聞きたい事があるんですが良いですか?」
「はい? 私で分かる事ならお答えしますよ?」
「実は僕達はカナリスには来たばかりでして。出来れば安くて綺麗な宿を紹介してもらえませんか?」
「宿ですか……駆け出しの方だと6人部屋だったりしまいますが……」
「いえ、流石に男女1室ずつで2人部屋が良いです」
「それであれば中級冒険者の方と同じぐらいですね。その条件ですと『砂漠のオアシス亭』が料理も美味しいと評判です」
「分かりました。砂漠のオアシス亭ですね」
「直ぐに向かうのならギルドを出て右に歩くと10分ほどです。ギルドに紹介してもらったと言えば、法外な値段は請求されないかと思いますよ」
「はい。早速、向かいます。ありがとうございました」
こうしてカズイと一緒に受付嬢から説明を受け、宿屋の場所も教えてもらった。
早速 移動しようと酒場に目をやると、ラヴィ達は先ほど殴り倒した男と同じテーブルに座り、何やら楽しそうに話をしているではないか……え? どう言う事?
オレ達は驚きながらも、ラヴィ達にゆっくりと近づいて行く……
「いやぁ、ラヴィの姉御のパンチはオーク以上ですよ!」
「そうか? まぁ、私は毎日、鍛えているからな!」
何故かラヴィは殴り倒した男に、自分をノックダウンしたパンチ力をヨイショされていた。
「メロウの姉御もラヴィの姉御と同じぐらい強いんですか?」
「ん? まぁ、私もアルドから修行をつけてもらってるからな。ラヴィより少し弱いくらいだ。そんな事より、その肉美味そうだな……」
「あ……た、食べますか?」
「良いのか? 悪いな」
「い、いえ……オレの昼飯が(ぼそ)」
不思議な事にラヴィとメロウは、男達に囲まれて楽しそうに話しをしていた。
年頃の女性2人に男達が群がる……言葉尻だけを見るといかがわしい物を想像するだろうが、実際はサル山でボスザルに群がる子分……ボスに媚びを売る小悪党達……そんな言葉が浮かんでくる。
オレとカズイは、何とも言えない顔でその様子を見つめるのだった。
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