第330話カナリスの街 part3

330.カナリスの街 part3






受付嬢から説明を受け終わりラヴィ達の下まで行くと、不思議な事に2人は男達から姉御と呼ばれ、もてはやされていた……


「アルド……これ、どうなってるの?」

「僕にもどうなっているのか、意味が分かりません」


オレはカズイと顔を見合わせて、苦笑いを浮かべるしか出来ない。

そんな中でも男達はオレ達の存在を忘れたかのようにラヴィ達へ話しかけている。


「実はお2人の強さを見込んでお願いしたい事があるんです」

「お願い? 金は持ってないぞ」


「いえいえ、上手く行けば逆にお礼をお支払い出来るかと……」

「ほぅ、面白そうだな……話だけなら聞いてやっても良いぞ」


「はい、実は………………」


男達の一番後ろで話を聞いていたのだが、どうやらこのカナリス領は隣のザージバル領と浅からぬ因縁があるらしい。

その理由とは、100年以上 昔の話であるが、2つの領はザージバル辺境伯領と言われる1つの領であったとか。


辺境伯領は数あるティリシアの領地の中でも最大を誇り、一時は皇帝でさえザージバル辺境伯には配慮せざるを得なかったと言う。

しかし、チカラがあればそれを疎む者や妬む者が出てくる……そしてチカラを持つ者も、持つ故に傲慢になっていく。


結果、政治的に嵌められる事となってしまったのは、必然であったのであろう。

この争いの余波はティリシア全土に広がり、一時は4つの皇家の内3つが敵となって、ザージバル辺境伯領を滅ぼさんと兵が挙兵する寸前までいったのだとか。


それを最後の皇家が仲裁する形でザージバル辺境伯領を2つに分け、1つをザージバル伯爵領、1つをカナリス伯爵領として、チカラの集中を領地の分割と言う方法で処理したのだそうだ。

こうして4皇家の地位も盤石となり、他の領主も溜飲を下げ、辺境伯領をめぐる一連の騒動は収束したのだった。


表向きは全てが終わった形にはなっている……しかし2つの領に大きな禍根が残ってしまったのはしょうがない事なのだろう。

カナリス領の民は『古い事をいつまでも』とやっかみ、ザージバル領の民は『ザージバルの精神を忘れた軟弱者』とバカにする。


お互いの領主は『これ以上の揉め事はもう沢山』と呆れ、話し合いにより穏便に自体を収束する方法を考えた。

それは毎年 田植えや稲刈りが無く、比較的 暇な夏祭りの時期に、お互いの代表を戦わせる事でガス抜きをする事であった。


ルールは気絶するか参ったと言うまで、体を欠損させたり殺したりした場合は罪に問うと言う、要は緩い模擬戦である。

当然ではあるが騎士や魔法師団は正規兵であり参加出来ない事から、選手は必然的に冒険者の中から選ばれる事となった。


勝ったからと言って何かがある訳では無い。しかも領が2つに分かれて既に100年は経っており、2つの領民にとって今では夏祭りの出し物程度の価値しかなくなっている。

それでも冒険者からすればプライドの問題が大きく、何よりも簡単に負けよう物ならOBから口うるさく言われてしまうのだ。


しかも、ここ数年カナリスは負け続けており、更に今年は流れの冒険者の『リベンジャー』がザージバル側として参加すると言う。

対戦方法は5対5の勝ち抜き戦で行われる以上、個のチカラよりも、チームワークや作戦なども重要となる。


そしてカナリス側のメンバーはAランク2人が既に参加を表明しているが、Bランクは2人がケガで4人は依頼のために不参加を表明している。

こうなるとCランクにお鉢が回って来るわけではある。しかし、現状のCランクでは戦力として如何にも頼りない。


そんな時に運よくラヴィの右ストレートが振るわれ、『これは!』と思われたのだとか。

実は先ほどラヴィに殴られた男は、このギルドのCランク筆頭であるヨコザであった。


ヨコザはCランクの中ではベテランであり、今回のメンバーには当然の如く選ばれている。

ラヴィに殴られてもピンピンしているのは流石ではあるものの、やはり単純に戦闘力として考えると厳しいと言わざるを得ない


「お願いだ。ラヴィの姉御、オレ達と一緒に交流会に参加してくれ!」

「私は構わないが……」


ラヴィはオレとカズイを探しているのか辺りをキョロキョロと見回すが、あいにくオレ達は人だかりの一番後ろである。

結局、オレ達を見つけられずにヨコザとの話を再開した。


「ラヴィの姉御ならBランクでも通用するはずだ。成功報酬にはなっちまうが、活躍によっては大銀貨5枚を払えると思う!」


大銀貨5枚か……おおよそ5万円って所だなぁ。まぁ、夏祭りの余興ではこの程度になるのはしょうがないのだろう。

もしかしてBランクが全員揃って不参加なのは、この辺りが原因なんじゃないのか?


これはオレの勘だが、世間体があって逃げられないAランクと、選ばれる事が名誉だと思えるCランクがメインになっての催しの気がする……

こうして、ラヴィはヨコザに押し切られる格好で『交流会』の選手になったのであった。


メロウが頼まれなかったのは、獣人族であるのが問題のようだ。ヨコザも流石に他種族まで巻き込み出すと、収拾がつかなくなると思ったのだろう。


「あ、アルド、カズイ……さっきの絡んできたオッサンから、ちょっと頼まれ事をされたんだが……」


オレ達が一部始終を見ていた事に気付かなかったラヴィは、言い難そうに交流会の選手になった件を話し出した。

カズイは少し呆れた顔で言葉を返す。


「アルドと一緒に全部見てたよ。それでラヴィはどうしたいの?嫌なら今から僕達が断ってきてあげるよ」

「いや……出たい……ベージェを出て2年。正直、実力差があり過ぎて、アルドとの模擬戦では一体自分がどれぐらい強くなったのか分からないんだ。今回の件は良い機会だと思う。自分でどこまでやれるか確かめたい!」


カズイだけじゃない。オレもメロウもラヴィの真っ直ぐな眼に快く頷いたのであった。






受付嬢に紹介してもらった砂漠のオアシス亭で宿を取り、オレとカズイの部屋に集まってこれからの事を相談する事になった。


「やっとここまで来れました。ティリシアの次はグレートフェンリルに向かうつもりですが、今の僕達はスカンピンです。纏まったお金が貯まるまで、このカナリスの街で暫く路銀を稼ごうと思います」

「そうだね。カナリスの門番の話だと、グレートフェンリルならティリシアのお金を両替してくれるみたいだしね」


「ええ、足りない物資の補充と多少の資金……ただGランクの僕達では依頼を受けても稼げるお金はしれてます。そこで迷宮に潜ろうと思うんですが、皆さんの意見はどうでしょうか?」

「だからさっき受付嬢に迷宮の情報を聞いていたのか……」


「はい。カナリス領には『狂虫の迷宮』と呼ばれる迷宮があるそうです。分かっている事は全部で9階層。迷宮主はクレイジークィーンアントと呼ばれるクレイジーアントの女王だと想定されています。なんでも7階層から下はクレイジーアントが、他の魔物も襲ってしまうらしく実質クレイジーアントの巣になっているのだとか……」

「他の魔物も襲うんだ……本当にクレイジーだね……」


「ですね。クレイジーアントは同種以外を見るとどんな相手にも襲い掛かるらしく、過去には竜種にも襲い掛かったとか……勿論、返り討ちにあって巣ごと燃やされたらしいですが」

「うわぁ……竜種に襲い掛かるとか……」


「はい。なので当然ですが、7階層から下になんて絶対に行きませんよ? 僕達が狙うのは3階層に出るマッドビーと言うハチの魔物です。こいつの毒は回復薬の材料になるらしいので、毒腺を持って行けば幾つでも買い取ってくれるそうです。凄く儲かるわけでは無いですが、確実に利益が出るかと思います」

「こっちにはそんな魔物がいるんだねぇ。因みにどれぐらいの強さなの?」


「うーん。僕もさっきの受付嬢に聞いただけですが、羽を落とせるなら雑魚同然だそうです」

「羽を狙うの?」


「素早い魔物らしくて、武器での攻撃だと相当な速さが必要みたいですね。その代わり風の魔法には殆ど反応しないみたいです。要はカズイさんと僕の魔法次第って事になるかと」

「……責任重大だね」


気おくれしているカズイに軽く肩を竦め、ラヴィに向き直って話しかける。


「それとラヴィさん、申し訳ないですが、迷宮では大剣じゃない方が良いかもしれません。大剣は振るのにどうしても場所を取りますし、小回りが利かないので」

「そうか……分かった。迷宮では予備武器の片手剣で戦おう」


「はい。僕は短剣二刀と魔法、カズイさんは魔法、メロウさんは片手剣と盾、これで戦ってみて、問題があればまたその時に考えましょう」

「分かったよ」「ふふふ……交流会に迷宮探索。楽しくなってきた!」「ハチは流石に食べたく無いな……でもハチの子なら……」


メロウさん、ハチの子は珍味らしいですが、アナタはどこに向かっているんですか?

気を取り直して……これでカナリスの街での大まかな予定が決まった事になる。移動に片道1日、迷宮探索も3階層であれば2日も潜れば荷物が溢れるかもしれない。


早速、明日から迷宮に潜る準備を始めて、完了次第 迷宮に挑戦してみようと思う。

因みにラヴィの交流会は1ヶ月後らしいので、その前後は休息に充てて皆でラヴィの応援をする予定である。






迷宮探索の準備を始めて3日が経った。

途中で薬草採取やウィンドウルフを討伐して小銭を稼いだが、とうとう恐れていた事態が……そう、路銀が底をついてしまったのである。


「皆さん、おはようございます。今日から迷宮で狩りをする予定ですが、その前に話しておかないといけない事があります……」

「……」「何か問題でもあるのか?」「アルド、お腹が空いたぞ」


「とうとう路銀が底をつきました。迷宮探索に失敗したら、僕達は野宿生活になります……」

「しょうがないよね……」「嘘だろ……」「野宿は良いがご飯は食べれるよな?」


オレはメロウに向かって小さく首を振った。


「ご飯は1日1食。黒パンと干し肉のみになるかと……」


メロウはムンクの叫びのような顔で驚きを表現している。


「そ、それはダメだ!絶対に迷宮探索は成功させるぞ!」

「僕も失敗しないつもりではありますが、迷宮はなにがあるか分かりません。安全マージンだけはしっかり取っていくので、念の為に野宿の覚悟だけはしておいて下さい……」


こうしてオレ達は背水の陣で、迷宮探索へと向かっていくのだった。




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