第331話ダカートの風 part1

331.ダカートの風 part1






金欠で崖っぷちまで追い込まれたオレ達4人は、これから潜る『狂虫の迷宮』の探索を絶対に成功させなければならない。

失敗した場合は期間無制限で野宿が確定するため、全員の気合いが半端ないほど高まっている状態だ。


早速、オレ達はキキとククを半分、質種(しちぐさ)として宿に預け、3泊4日の迷宮探索へと向かっていく。


「キキとクク大丈夫だよな?」

「きっと今の僕達と一緒にいるよりは幸せですよ。ちゃんとご飯を食べられますから。それに宿の女将さんも10日間は流したりせず、預かってくれるって言ってたじゃないですか」


「そうだな……よし、ハチを狩り尽くすぞ!」


メロウの言葉に全員が頷いて、迷宮を目指すのだった。






迷宮探索と言っても、今回は迷宮主を倒すつもりは全く無い。単純に金稼ぎであるため、なんとギルドで2台も人力車を借りてきているのだ。

隊列は前衛1後衛1の2人パーティとして進み、残りの2人は臨機応変に1輪車を停めて戦闘に参加していく事になる。


本当は荷物が一杯になったらどこかに置いておきたいのだが、長い時間 物を放置しておくと迷宮に飲まれてしまうため持って歩くしか手が無いのだ。

前衛役だが、最初はオレが努めてみて問題が無さそうなら、ラヴィとメロウとも交代するつもりでいる。


カズイは純粋な魔法使いでありハチの羽を落とすキーマンのため、荷運びのローテーションからは外す予定だ。

こうしてカナリスの街を出て陽が落ちそうになった頃、目的地である狂虫の迷宮が見えてきた。


この狂虫の迷宮は街道から草原へ500メードほど入った場所にあり、眼の良い者であれば街道から目視でも見える場所にある。

手軽に来れる事から、カナリス、ザージバル両方の中堅冒険者がやってくる人気スポットでもあった。


「アルド……これは……」


カズイは戸惑いながら言葉を吐いた。何故なら狂虫の迷宮の前には、少なくとも4つのパーティが野営をしていたからだ。


「手軽とは聞いていたんですが、こんなに人がいるとは……完全に想定外です」


取り敢えずオレ達も空いている場所に腰を据え、野営の準備を進めていく。

そんなオレ達を他のパーティは珍しそうな目で見つめ、その中の1人が人好きのする顔で声をかけてきた。


「おい、お前等、見ない顔だな? カナリスから来たのか?」

「あ、はい、そうです。カナリスの冒険者ギルドで、この迷宮の事を聞いてきました」


「そうか。狙いはやっぱり3階層のハチか?」

「そうです。皆さんもですか?」


「まあな。マッドビーはパーティに魔法使いがいれば美味しい獲物だからな」


周りのパーティを見渡すと、男の言う通り1つのパーティに最低1人は魔法使いがいるようだ。


「そっちの兄ちゃんが魔法使いだよな?」


男はカズイを値踏みするような眼で見つめている。


「まぁ、そうですね。僕も少しだけ魔法を使いますが」

「ほう、魔法も使える斥候か。兄ちゃん、優秀だな」


どうやらオレの腰の短剣を見て、斥候だと勘違いしたらしい。


「ええ……まぁ……」

「パーガス、ほでほどにしなさい。少し首を突っ込み過ぎよ」

「なんだよ、ウィズ。世間話をしてただけだろうが」


「アンタは馴れ馴れしすぎるのよ。ほら見なさい。この子達に警戒されてるじゃない」

「は? オレはカナリスギルドの先輩としてだな……後輩に色々と教えてやってるだけだろ」


「野営地での知らない人の怖さはアンタも良く知ってるでしょ。声をかけるにしても、もう少しやり方があるでしょうが!」

「はぁ? カナリスでオレより面倒見の良いヤツはいないぞ。お前こそキーキー言って怖がられてるんじゃないのか?」


どうやら聞こえてくる話によると、2人共カナリスの冒険者ギルドの先輩のようだ。

パーガスと呼ばれる戦士とウィズと呼ばれる魔法使い、それに焚火の前で我関せずを貫いている斥候と戦士の4人でパーティを組んでいるのだろう。


「おい、お前等のランクは幾つだ?」


我関せずを貫いていた戦士の男が、いきなり口を開いて冒険者ランクを聞いてきた。


「あ、最近、登録したのでまだGです」


他のパーティも一斉にオレ達を見つめてくる中、再びパーガスが会話に入ってくる。


「はぁ? Gランクだと? お前等、それで迷宮に潜るつもりなのか?」

「あ、ティリシアではですよ。フォスタークでも冒険者をしてましたから」


「ふぅ、ビックリさせるな。なるほど、そう言う事か。それでフォスタークではランクは何だったんだ?」

「……Eです」


「「「「大して変わらねぇじゃねえか(ないじゃないの)!」」」」


流石パーティだ。各々の雰囲気は違うが、息はピッタリだと感心してしまったのは秘密である。






それから夕飯を一緒に摂りながらパーガス達と話をした所、彼等はカナリスのBランク冒険者だそうだ。

戦士のパーガスとザザイ、斥候のスーイ、それに魔法使いのウィズの4人でパーティを組んでおり、パーティ名は『ダカートの風』。


4人の年齢はバラバラだが、同郷のダカート村からカナリスへ出てきた所で、馴染みの顔同士パーティを組んだのが始まりなのだとか。

今回はカナリスの街にいると交流会に参加しろと周りがウルサイので、ノンビリとハチ狩りで小銭を稼ぎに来ているそうだ。


そんな彼等にラヴィが交流会に選手として出場する事を話してみた。


「嬢ちゃん、本当に交流会に出るのか?」

「ああ、私がどれぐらい強くなったのか知りたくてな。今回はパーティメンバーに無理を言って出させてもらうつもりだ」


「でも嬢ちゃん、Gランクだよな?」

「!私は本当はシルバーら………………………」

「あー!あー!そうですね!!でもラヴィさんの実力はCの上位くらいはあると思いますよ!!」


こいつは何を言おうとするんだ!アルジャナの事を話せば、面倒な事になるのは分かり切っているのに!


「ふむ。そこまで言うんだ。いっちょ、オレが稽古を付けてやるか」


そう言ってパーガスは立ち上がり、自分の片手剣に布を巻いていく。


「嬢ちゃんはそのままで良いぜ。どうせ当たらないだろうからな」


少しバカにしたパーガスの口調に、ラヴィの額には青筋を浮かび上がってくる。


「いいや、私も布を巻いておこう。怪我をさせてしまうからな」


2人はお互いに煽り合って、気持ちの悪い笑顔のまま剣を構えだした。

ラヴィは大剣を中段で構え、パーガスは右手に片手剣、左手に盾の騎士剣術である。


この2人を放っておくと、話がどんどん拗れて行く未来しか見えない。


「はぁ……もぅ、分かりましたよ。じゃあ、僕が審判をします。怪我をしそうな時は割って入りますからね? 良いですか?」

「分かった!」「いつでも良いぜ!」


「じゃあ、構えて下さい。行きますよ……始め!」


オレの合図と同時に、ラヴィが弾けたようにパーガスへと向かっていく。

勢いのままの突きを、パーガスは間一髪 左手の盾で受け流した。


パーガスは驚いた顔でラヴィを見つめ、その一瞬の隙を付いて更にラヴィが連続で大剣を振るっていく。


「Bランクはこの程度かぁ!? あぁ? どうした、口だけ男が!!」


獰猛な笑顔で格上を煽り散らかしているのは、我がパーティメンバーのラヴィさんである……

あまりにも生き生きした様子に、少し修行でストレスを溜めすぎちゃった? と心配になってしまうほどだ。


このバーサクモードは別にして……ラヴィはこの2年間、毎日オレの下で身体強化と大剣の修行を続けてきた。

元々、カズイ達は、ベージェの街でも有望な若手と評されていたパーティである。


オレの修行に加えて、更に実地での戦闘を繰り返してきたのだ。Bランクとは言え、一方的にやられるほど柔な鍛え方はしていない。


「どうだぁ!」


パーガスはラヴィの渾身の振り下ろしに、片手剣と盾 両方を使って何とか耐えてみせた。


「……悪かった。EだかGだかって聞いたからな。正直舐めてたよ。お前は充分に強い……ただな……悪いな、オレはもっと強いんだよ!!」


マズイ!パーガスは本気で渾身の突きを、ラヴィの肩に向かって放とうとしている。

オレは瞬時にウィンドバレット(殺傷型)を2個 発動すると、ラヴィとパーガスの武器を撃ち抜いてやった。


思わぬ方向からのチカラを受け、2人の武器が宙を舞う……武器の転がる音が酷く響く中、オレの少し怒った『終了』の声が響いたのだった。






ラヴィとパーガス、2人を地面に正座させて、オレはお説教の真っ最中である。


「いやね、僕も訓練は真剣にやるべきだと思うんですよ? でも怪我をさせちゃあダメでしょう。ましてや後輩に即死レベルの攻撃とか……突きだと布を巻いた意味なんて無くなっちゃいますよね? ねぇ、パーガスさん」

「いや……ちょっと……熱くなり過ぎたと言うか……」


言い訳をしようとするパーガスを、オレはジッと見つめてやる……いつしか視線に耐え兼ねたパーガスは、崩れ落ちるように謝罪の言葉を吐いた。


「いや、でもオレだけが……あー、えーっと……はい……すみませんでした」


そこに調子に乗ったラヴィが口を挟んでくる。


「うんうん、そうだぞ。やり過ぎは良くないな」


元はと言えば、コイツが必要以上煽り散らかした事が原因なのに!何を被害者ぶっているのかと……小一時間問い詰めたい。


「あー、ラヴィさん、チカラが有り余っているみたいなので、今日から訓練のメニューを倍にしますから。良いですよね?」


「は? 倍って嘘だろ? ちょっ、え? それって私、死ぬんじゃないか?」

「大丈夫ですよ、僕も一緒に同じメニューをこなしますから。ラヴィさんがやりきるまで、ずーーーっと、ずーーーーーっと待ってますから!」


「え? アルドは特別って言うか……え? 嘘? マジ?」


ラヴィは脂汗を滝のように流しながら、蛇に睨まれたカエルのように固まっている。


「パーガスのバカは放っておくとして……君、さっきの魔法、凄かったわね。無詠唱派なんだ」


ウィズがオレを見ながら、興味深そうに話しかけてきた。


「はい。母が魔法使いでAランク冒険者だったので色々と教えてもらったんです」

「へぇ、そうなんだ。お母さんの名前を聞いても良いかな?」


「はい。氷結の魔女と呼ばれていたそうです」

「氷結の魔女……ごめん、聞いた事ないわ。流石に人族の冒険者の名前までは分からないみたい」


「いえ、国を幾つも越えますし、しょうがないですよ」

「そうね。パーガスのバカは別にして、私も君達に興味が沸いてきたわ。良かったら明日の探索、一緒に潜らない? 3階層までの道も教えてあげられるし、万が一実力不足でも私達が守ってあげられるわ」


ウィズの後ろではザザイとスーイ、そしてパーガスも頷いている。

正直、迷宮の地図を買うお金が無かったので、オレとカズイでギルドの地図を必死に暗記しただけなのだ。


これは非常に助かる申し出である。

カズイを見ると首振り人形のように何度も頷いているので、是非にでも受けたいと思う。


「はい。迷惑でないなら是非、お願いします」

「決まりね。明日はよろしくね」


「はい。よろしくお願いします」


こうして明日はBランクパーティであるダカートの風と一緒に、迷宮探索をする事になったのであった。





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